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多重クロスオーバー形式連載 第27話。

ハルさんの1週間の休暇中の物語(2)

※名探偵コナンの登場人物2名がこの話で初登場。
※前回登場した謎の猫の正体がそれとなく判明します。
  


第27話【ハルさんの休日(2)】

 

ハルが向かった先は駅だった。

切符を購入して、改札口にいる駅員に渡す。

駅の中に設置されている時刻表を見ながら、目的地までの便を探す。

 

「あと5分か…」

 

目的地まで行く電車は、もう少しで到着するようだ。

その合間で、自動販売機に硬貨2枚を入れて麦茶のボタンを押した。

 

「ままぁー、アイスかって!」

「もうちょっと我慢しなさい。あとで買ってあげるから…」

 

ベンチで腰を下ろしている母子のやり取りに、ハルは口元を緩める。

麦茶を手に取ると、線路の向こうから電車が走ってきた。

停止した電車の扉が開くや、ハルはすぐに中へ入った。

出入口から、向かい側の端のボックス席に腰を下ろした。

 

近くのボックス席で制服を着た高校生のグループが数人、同じ席に座って喋っている。

少し離れた場所に、先程の母子がいた。

はしゃぐ子どもに「大人しくして」と母親が注意している。

 

…朝早い時間帯で、この駅から電車に乗る人はあまりいない。

自宅通学をしている学生か、買い物等で町へ行く中高年層くらいだろう。

定期的に駅を利用しているため、ハルはそういった情報を知っている。

 

(…今日は、曇りか)

 

窓から空を様子を見ながら、今朝のテレビのニュースを思い出す。

確か…「一日中曇りが続くが、雨は降る確率は少ない」と気象予報士が言っていた。

念の為に、折り畳み傘を大きめのショルダーバッグの“中”に入れておいたので、

雨が降っても問題はない。

 

 

「あ、ネコ」

 

高校生のグループの中にいる女子がそう呟いた。

電車の扉が閉まる直前に、1匹の猫が駆け足で入ってきたからだ。

 

…真っ黒な瞳の橙色の癖のある毛並みの猫。

猫は、きょろきょろと電車内に視線を巡らしているように見える。

 

「うわぁ、リアルで乗車してるの初めて見た!」

「写メ、写メ」

「こっちおいで~」

 

突然の意外な可愛らしい乗客の登場に、高校生達は黄色い声をあげたり、

スマホで猫の画像を撮ったりしている。

しかし、猫はそんな周囲をスルーして素早く座席にひょいっと乗っかった。

ちょうど、ハルと向かい側のボックス席だ。

 

「にゃー」

 

窓から視線を外したハルと目が合うや、猫は挨拶するように鳴いた。

 

「はじめまして」

 

ハルは、真向かいにいる猫に挨拶した。

猫は目を細くして「にゃー」と一鳴きすると、そのまま香箱を作った。

数秒後、扉が完全に閉じて電車が発車した。

移動する電車の中から、ハルは窓に広がる景色を眺める。

 

(…今頃、バイトの2人もきて準備に追われてるだろうな)

 

本来なら、今の時間帯は自分も店の支度をしている頃だ。

日常とは異なり、のんびりした時間を過ごしている事に不思議な気分になる。

 

移り変わる風景を見ていると…ふと視線を感じた。

向かい側に座る猫がじぃ…とこちらを見つめている。

 

「やぁ、君はなんでこの電車に乗ったんだい?」

 

ハルは、試しに猫に質問をしてみた。

 

「俺はね…久しぶりに休みが取れたんだ。

ゆっくりと休日を満喫するために少し遠出する事にしてね」

 

「にゃーん…」

 

「君はお散歩かい? それとも…恋人とデートしにいくのかな?」

「みゃ~」

 

ハルの言葉に、猫は呆れを含んだ微妙な顔で鳴き声をあげる。

『そんな訳ないだろ』とあっさり否定の返事をしたように思えた。

 

「こういう時に、『翻訳こんにゃく』とかあれば便利だろうなぁ」

 

ハルは苦笑しながら、猫と会話できる青猫さんが所持している四次元道具がほしいと思った。

猫は大きく欠伸をして…瞼を閉じて眠りだした。

 

「寝る場所を探してたのかな…」

 

首輪をつけていないので、野良猫だろうか?

…その割に人に慣れている気がする。

 

元々、どこかの家で飼われていたか、飼い主が首輪をさせていない現在進行形で

飼い猫の可能性もありうる。

 

「意外と…電車利用も慣れていたりして」

 

電車を利用して、猫の仲間のもとへ行き来する橙色の猫を想像して思わず口元を緩めてしまう。

それから、ショルダーバックから取り出した文庫本を読みながら時間をつぶした。

 

 

《次は○○です、○○を出ますと次は○○へ停まります》

 

 

30分後、アナウンスが流れてきた。

あと、2駅で目的地に到着する。

ハルは、文庫本の頁を閉じてバックの中にしまい、降りる準備を整えていく。

 

「ばいばい」

 

寝ている猫に小さく手を振ると、ハルは座席から立ち上がり、扉付近へ向かう。

 

 

《ご乗車ありがとうございました。

―――米花町に到着しました》

 

 

流れるアナウンスと共に扉が開く。

ハルは扉を潜り、目的地である米花町の駅のプラットホームへ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「この町に来るの何年ぶりだったっけ…」

 

駅から出てきたハルはそう呟いた。

以前、米花町に訪れたのは…そうだ、2年前辺り。

 

本業とは別の副業の関係でこの町に来たのだ。

その時の事を懐かしく思いながら、ハルは町中を歩いていく。

 

(確か…この辺だったな)

 

道の途中でスマホを使って地図を見ながら、ハルはある場所へ足を進めていく。

 

「お、此処だ」

 

ハルが向かった先は…映画館だった。

 

―――映画館【カミナリ座】

 

米花町の米花シネマ街にある映画館のひとつで、話題の新作映画などを取り扱っている。

この時期は、有名アニメ目当ての子どもや話題の邦画や洋画などを見るために若年層の

客が集まる。

 

現在の時刻は9時35分。

親子連れや10代の若者達がエアコンの効いた映画館のチケット売り場に列をなしていた。

その列に並んで、待つ事15分…チケットを購入してホールへ向かった。

 

 

 

(おー………空いてる、空いてる)

 

そのホールは、多数のお客が売り場にいたにも関わらず閑散としていた。

理由は至って単純。

選んだ映画がマイナーなタイトルだから。

 

(…面白いと思うんだけどな)

 

原作は、一昔前に外国の作家が書いた小説。

内容は…簡単に言えば、とある町の片隅にある喫茶店で繰り広げられる物語。

コメディや恋愛、時折切ない要素も加わって、最後はささやかなハッピーエンドで

締めくくられている。

 

しかし、テレビCMなどの派手な宣伝をしていない事や他のメジャーなタイトルの映画が

表だっているためか、隅で目立たなくなっている。観客は、ハルを含めて5人くらいだ。

 

(でも、これくらいの方がいいか)

 

満員の観客がいる中で有名なタイトルの映画を観るのもいいが、個人的には少人数な

好みの映画を観る事をハルは好む。

 

スクリーンに画像が映し出される…始まった。

冒頭の場面で繰り広げられる、主人公の喫茶店のマスターと常連客の日常的なやり取り。

多少、オリジナル要素を加えたり、省いたりしている箇所もあるが、おおむね原作沿いな

展開で進んでいく。

 

 

『あなたの一番やりたい事は何かしら?』

 

 

喫茶店の常連客の老淑女の台詞。

それを聞いたハルはふわりと思い出した。

…【あの男】の事を。

 

 

*** ***** ***

 

 

『お前のやりてえ事は何だ?』

 

その人物は、美しい男だった。

ルビーを連想させる情熱的な赤い色の長い髪、濃青色の瞳。

あいつは常に自信に満ちており、洒落た服を着こなしていた。

 

『俺のモットーは【命ある限り、人生を楽しめ】だ』

 

己の欲に忠実で、大の酒好きで異性に優しい男だった。

自分のやりたい事をとことんやりつくし、その性格ゆえに人によっては好き嫌いが

ハッキリ別れるタイプだった。

 

(やりすぎた所為で…魔神族と女神族(にだいせいりょく)に敵視されたからな)

 

巨大な勢力に目をつけられても、あいつはどこ吹く風と言わんばかりの態度で立ち向かった。

好戦的かつ売られた喧嘩は買う奴だったから、あいつの存在は両陣営にとって脅威となり、

危険人物のブラックリストに入ってしまった。

ハルも、その男に巻き込まれる形で一族を追放される事となった過去がある。

 

…でも、あいつに対して恨みはない。

時に盛大に闘った事もあるが、それ以上にあいつからたくさんのモノをもらった。

…だからこそ、今の【自分】がいる。

 

 

*** ***** ***

 

 

昔馴染みの事を回想しつつも、映画を最後まで観た。

映画の最後は、小説と同じハッピーエンド。

…原作とは内容が一部変更され、追加された部分がある違いはあったが、

納得のいくもう一つの終わり方だった。

 

「ふぅ~……よかった」

 

じっくりと映画を楽しむ事ができた。

充実感で心が満たされ、ハルの周囲には小さな花がふわふわと飛んでいる。

スクリーンに【fin】と終わりの文字が現れると、ハルは腰を上げた。

 

まばらにいた他の観客も出口へ歩を進めていく。

映画が終わり、他のホールからも観客がぞろぞろと出てきている最中だ。

 

「やっぱ、ジョニー最高!」

「続編あるかなぁ~」

 

「思ってたよりいけてたかな…」

「ちょっと早足過ぎなかったか?」

 

観終わった映画の感想を、語り合う声が聞こえる。

人の波を器用に避けながら、ハルはそのまま出口へ行こうとした。

 

 

「こら、そっち行っちゃダメだって!」

 

 

制服を着た映画館の男性スタッフが、走りながら何かを追いかけていた。

視界にそのモノが映るや、ハルはあっ…と少々驚いた。

 

(さっきの猫だ…)

 

そう、電車内で遭遇したあの猫である。

…珍しい橙色の癖のある毛並みであるため、間違いない。

焦るスタッフを尻目に、猫は目にもとまらぬ速さで駆けていく。

 

「わ、なに!?」

「ネコよ、ネコ」

 

猫は、混雑する観客の間を巧みに潜り抜けていったり…

 

「なぁ、俺らといっしょにあそばな…あだっ!?」

 

また跳躍して、女の子をナンパしている男性の頭を踏み台にして、空中へと跳んでいく。

ちょっとしたハプニングに、人々の目は徐々に猫及び追いかけるスタッフへ集中していく。

中には、携帯やスマホでその様子を撮ろうとする人もいる。

 

「ちょっ、ちょっと…蘭、あの猫、こっちに来るわよ!?」

「園子、そこ代わって!」

 

女子高生2人組の内、黒いロングヘア―の女の子…蘭が猫を見据え、手を構える。

猫は途中で動きを止め、目の前にいる人間を警戒している。

 

…ジッと両者の睨み合いが続く。

ほんの数分の間をおいて、先に動き出したのは…猫の方。

猫は斜め方向へ逃げ出す…かと思いきや、なんと真正面へ駆け出してきた。

 

「はぁっ!」

 

蘭は、素早く突っ切ろうとする猫の動きを先読みしたかの如く動き出した。

両手で掬うように、猫の胴体を掴んで…見事に捕まえた。

 

「ふぅ…」

「やったね!」

 

猫を両手で捕まえたまま安堵の息を漏らす蘭に、友達の女の子…名前は「園子」と

言うらしい…は喜びはしゃぐ。周りにいた他の人々も、彼女のその活躍に歓声を

あげたり、拍手を送り出した。

 

「すみません、お手数おかけいたしました」

「この猫、どうしたんですか?」

「お客様に紛れてこっそり入ってきたみたいで…」

 

スタッフと女の子達の会話から、橙色のあの猫はこっそり映画館内へ忍び込んだようだ。

 

(映画を観たかったとか…なーんて)

 

蘭の腕の中で、ジタバタともがいている猫を見ながら、ハルはふわりと浮かんだ想像に

吹き出しそうになる。

 

「こーら、大人しくしなさい」

「フギャアア―――!!」

「ってうわっ!? すっごい気迫…この猫、反抗心むき出してない?」

 

蘭が宥めようとしても、猫は逃げ出そうと躍起になっているのか、不機嫌な顔で声をあげる。

その姿に、園子は冷や汗を流してビビっているようだ。

 

「すみません、このコをお願いしたいんですけど…」

「はい…っとと…! もう少し落ち着かせないと、まずいですね…」

 

蘭がスタッフに預けようとすると、猫は前脚を振りかぶって抵抗する。

下手をすればまた逃走しかねないため、なかなか手渡せないようだ。

 

(そういえば、あの時……)

 

思い返してみると…電車の中であの猫と接触した時、おかしな事に猫に親近感が湧いた。

猫にしては、珍しい橙色でわさふさとした毛並みに、既視感を覚えた。

 

そう、猫の雰囲気があまりにも似ているのだ。

―――ハルのよく知る『人物』に。

 

 

 

「ねぇ、園子…」

「なあに?」

 

「このコ…もしかして、誰かを探しているんじゃないかな?」

「えぇ~? けど、この猫、首輪してないでしょ」

 

「ずっと前に、雑誌で見た知識なんだけど…飼い主次第で首輪をつけない飼い猫も

いるって書いてあったの」

 

女の子達が話し合っている様子を、離れた場所で見ていたハルはハッとした。

蘭が抱きかかえている猫から力が漂っている。

あれは間違いない…『魔力』だ。

 

(あの魔力……まるで…)

 

その時、猫の視線がこちらを捉えた。

猫は目を大きく見開くや、纏う魔力が強くなった。

 

「ニャアアアア!」

「きゃっ…」

 

パチッと静電気が弾ける音がして、蘭はそれに驚きの声を小さく漏らす。

その隙を突いて、猫はするりと彼女の腕から抜け出してしまった。

 

「しまっ…」

「ちょっ、待ちなさーい!」

「あぁー!」

 

女の子2人とスタッフの声がBGMのように響いた。

猫は大きく跳躍して、ゆっくりと降下していく。

その猫の姿が、ハルの頭の中で一人の女の子の姿と重なり合った。

 

 

(リリ…?)

 

 

数秒後、視界が真っ暗となった。

 

「お客さま、大丈夫ですか!?」

 

スタッフの気遣い声に、ハルは思考の波から現実へと引き戻された。

温かいふさふさした毛の感触が顔に伝わる。

 

「あ~…はい、なんとか…」

 

猫の着地点となったのが、自分の顔だとすぐに分かった。

ハルは両手で猫を顔から引きはがした。

先程とは打って変わり、大人しくなった猫は黒色の目でこちらを見つめてくる。

 

「…さっきぶりだね」

 

姿が異なれど幼馴染みである『彼女』との再会に、ハルは苦笑しながらその言葉を

口にした。

 

 

 

【ハルさんの休日(2)】

 

 

 

「…いないか」

 

一人の男性が、川辺を歩いていた。

赤紫色の髪に、上等なスーツを纏った彼は探していた。

 

「もぅ…勝手に出かけないでほしいね」

 

『彼女』がいなくなったのは前日。

仲間内である議題が白熱してしまい、長時間にわたる会議が行われていた。

 

その時、『彼女』は疲れて眠っていた。

会議が一段落する間際に目覚めて、状況が把握できていない『彼女』に、

男性がその詳細を伝える事となった。

 

『彼女』はふーんと平静にその事を聞きとると、再び眠りだした。

…あまり関心を持たなかったと思ったのだ。

 

 

それが誤りであると分かったのは、男性…モンスピートが眠りから覚めた翌日の事。

 

『散歩しに行くと言うとったぞ』

 

その場にいた仲間…ガランが愛用の武器、ハルバードで素振りをしながら

彼女が残した伝言を教えてくれた。

 

また、猫のようにふらりとどこかに出かけてしまったのか…

モンスピートはやれやれ…と溜息を吐きつつも、相棒を迎えに行く事にした。

最近、『彼女』が好んでいく所は知っていたのでどの世界にいるのかは特定できた。

 

問題は、その世界のどこにいるのか…である。

どうやら、『彼女』はウツセミの能力を使って人型ではない別の何かに

変身しているためか、普段よりも魔力が抑えられている。

そのため、モンスピートは微かな魔力を辿りながら、シラミつぶしに

探している状況だ。

 

「…ん?」

 

その刹那、急激に上昇した魔力をモンスピートは感知した。

間違いない…『彼女』の魔力だ。

すぐに空気に同化するように薄らいでしまったが、どこから放出されたか

場所は判明した。

 

「南東の方角か…」

 

やれやれ、世話がかかる…と言いつつも、モンスピートは背中から闇色の翼を出した。

地を蹴り、澄み切った空へ上昇していく。

 

「頼むから、あんまり移動しないでくれよ」

 

モンスピートは勢いをつけて飛んでいく。

おそらく、小柄な動物…猫に変身しているだろう相棒のいる場所へ急ぎ向かった。

 

 

 

【つづく】

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