ハルさんの回想(18)
少年ハルさんが語る魔神王のノンフィクションの物語と、怪しい人物の噂の話。
※王国心要素とテイルズ要素が見え隠れしています。
魔界には、異界に繋がるとされる扉(ゲート)が存在する。
かつて、魔神王がそこから魔界とは異なる世界へ足を踏み入れ、様々な困難と試練に
直面した末に乗り越えて帰還を果たした。
当時の彼の側近は、戻ってきた主に驚くも歓喜を露わにした。
さらに驚愕したのは…見た事のない未知の種族までもこの地にやってきた事。
―――魔神王は言った。
『この種族は、我の旅路を支えた生き証人達だ』
未知の種族は、魔神王の旅路で幾度となく助けてくれた恩人でもあった。
好奇心と冒険心に溢れるその種族は、一族を引きつれて異世界を渡り歩いていく習性が
あり、魔神王の帰還に伴って、この地に移住する事となった。
つぶらな瞳に、小さな体、触ると癖になってしまう肉球の弾力…
その外見から侮ってはならない。
戦闘には向かないが、彼等の情報収集の凄さやマッピングの正確さ、
変身能力といった、特異な術を身に着けている。
敵に回すと厄介な事この上ないが、味方だと心強い種族である。
―――その種族の名は【猫人族】
現在でも、魔神族と親交がある獣人族である。
*** ***** ***
「…はい、今日はここまで」
「えぇー」
「つづき聞かせてよ~」
「この話、とっても長いから。一気に話すと夜になっちゃうよ」
ブーブーと不服そうな四人の年下の子ども達を、俺は苦笑いして宥める。
今、俺達がいる場所はさっきまで語っていた物語の中でも登場した
【異界に通じる扉】である。
…といっても、禍々しいデザインのでかい扉があったり、次元へ通じる奇妙な渦が
巻いて居たり…とかそんなに大それたものではない。
棒状の長い石の柱が環状に配置されただけ…
分かりやすく言えば、ストーンサークルである。
「そもそも、皆はなんで此処にいるんだ?」
「うちの父ちゃんが言ってたんだ。
『森をこえた先にあるイセキに近づくのはやめとけ。
魔神王様みたいにもどれるほしょーはねえぞ』って」
「みんなの間じゃ有名なんだよ。
ここにたどりついて証明をもってこれたら、すっごく勇敢な人だって
胸を張れるんだ!」
外見年齢が五歳~七歳の人型の男の子二人の証言から、此処は子ども達の間では
度胸試しの名所となっている事が判明した。
「そういうヴァイスのにいちゃんはどうしてここに来たの?」
「たんけん~?」
狐のような耳が生えた半獣人の女の子が、不思議そうに首を傾げる。
俺より少し大きい背丈のゴーレムみたいな異形型の男の子が、のんびりした口調で訊いてきた。
「おつかいだよ」
その日は非番だった。
俺は、義理母から頼まれた薬草と調理用に使う木の実を求めて此処まで足を運んだ。
闇色の森を潜り抜けた先にあるこの遺跡の周辺には、珍しい薬草や艶やかなベリーが
生息している。特にベリーは新鮮で品質も良く、味も美味い。
俺は、時間がある時に此処のベリーを採取して食用にしている。
この日も、前日にベリーが切れた事もあって、おつかいついでに早朝から採取していた。
十分な量を取り終えたので帰宅しようとしたら、遺跡の方が賑わっていたので様子を
見に行ってみると…この子達がいた。
俺も普段は遠目からでしか見ない、この遺跡を間近で見るのは初めてだ。
あの上司が、踏み込んだとされる【異界への通り道】とはどんなものだろう…?
内心、ドキドキしながら探してみたものの…
「けっきょく、なーんにもないじゃん!」
「うん、どこにもトビラなんてなかったねぇー」
そう、何もなかった。
ストーンサークル以外、目立ったもの…隠し扉の類や起動させる仕組みなんかも
見当たらなかった。子ども達同様に、肩透かしを食らった。
「あーあー…つまんないね」
「にいちゃんにゴハンのお肉とられた時みたいな気分だよー」
そんながっかりした子ども達を慰める意味も兼ねて、気分晴らしにおとぎ話を
語ってあげたのだが…思いの外、好評だった。
「つぎの話して!」
「もっともっと!」
せがまれて、五つ目の話を語っていたのだが…このままだと昼の時間になりそうなので、
丁度いい場面でお開きする事にした。ブーイングする子ども達を説得していると、
ある気配が近づいてきた。
「おい、何をしている?」
「あっ……フラさん」
赤色と灰色の下級魔神を一体ずつ引き連れて、フラウドリン…フラさんがこちらへ
やってきた。この辺を巡回するなんて珍しい。
「将軍様だ!」
「しょーぐんだ」
「フラウドリンさま」
「どしたの?」
「仕事中だ、ヴァイス…この状況を説明してくれ」
今までの経緯を報告すると、フラさんははぁーと溜息を吐いて子ども達に目を向けた。
「お前達…此処は一般の民が近づく事は禁止されている場所で、
子どもの遊び場ではない」
「えぇ~」「けちー」
「今は何も起こらんとはいえ、【異界への入り口】が何かの拍子で出現したら
飲みこまれるぞ。そうなれば、二度と魔界へ戻れなくなる」
ほら、早く住処へ帰りなさいと促すフラさん。
子ども達は最初は渋っていたものの、彼の説得を聞き入れて、赤色と灰色に護衛されながら
帰っていった。
「「「「ヴァイス兄ちゃん、またねー」」」」
「気をつけるんだよー」
俺は手を振りながら、子ども達を見送った。
その隣で、フラさんが疲れたと言わんばかりの顔でふぅ~と息をついた。
「まったく…度胸試しの場にするとは。上の方に報告せんといかんな」
「うん、そうだね」
「ヴァイス…お前も人の事は言えんぞ。
いくら興味があるとはいえ、子ども達と危険が孕む場所を探索するのは浅慮な行動だ」
多少の説教を受ける事になってしまった。
けれど、フラさんの言う通りだとじわじわと後悔の念が胸を刺激して…反省した。
「大変申し訳ありませんでした」
「分かったなら構わない」
深々と頭を下げて謝った…俺のその行動に、フラさんは「次から気を付けろよ」と眉を
八の字にして告げた。そして、子ども達の件の報告のために二人で登城する事となった。
「ところで、フラさん。あの遺跡付近はいつから見廻るルートになったの?」
「祭が近いだろ。そのために、巡回のルートを拡大しているんだ」
なるほど…と納得した。
一カ月後に、大規模な祭事が開催される。
その影響で、このところ魔神族と関係のある他種族の往来が増えている。
出席する他種族は、魔神族の隷属関係にあったり、親交のある部族だが、
中に反乱分子が紛れ込むリスクもある。
…怪しい動きをする者はマークする。
魔神族全体(特に上位魔神の戦闘員)が、監視の目を強めている状況だ。
「最近、『怪しい黒ずくめの人物』を見かけたとの情報も出ている。
祭が開催されても常に警戒は怠るなよ」
「はい、了解しました」
「おぉ、そうだ。ヴァイスハルト、メラスキュラ様からお前宛に伝言を
預かっているんだが…」
「メラが……ん?」
フラさんと会話をしている最中、どこからか視線を感じた。
足を止めて周りを見回してみたけれど…人影は見当たらない。
「どうした?」
「…ううん、なんでもない」
気の所為かと思って、俺はフラさんとの会話を再開してそのまま城へ向かった。
この時、城へ行くのをやめてもっと探索していたら…違う結末になっただろうか。
誰も、この時点で思いもしなかったはずだ。
一ヶ月後に、あの遺跡で魔神族を震撼させる【大きな事件】が発生するなんて…。