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多重クロスオーバー形式連載 第28話。

ハルさんの1週間の休暇中の物語(3)

※作中に、シリアス、死ネタを含む内容があります。
 読む際にはご注意ください。

※名探偵コナンの登場人物が1人再登場、2人初登場しています。
  


第28話【ハルさんの休日(3)】

 

「ふぅ~…」

 

大勢の人に紛れる形で、ハルは映画館の外へ出た。

多少離れた道の脇のところに立ち止まり、一息つく。

 

「にゃー」

「あっ…ついてきたのか」

 

つい十数分前に、映画館内でちょっとした騒動を起こした張本人…橙色の猫が

小走りで近づいてきた。

顔面にびたーんと張り付かれたとはいえ、“その事は気にしていない”のである。

違う意味で気にしているのは事実だが…。

 

 

(少量だけど、身体から魔力が滲み出ている

…うん、間違いなく『彼女』だ)

 

 

困惑の感情を表に出さずに、ハルは屈んで猫の『彼女』と視線を合わせる。

 

「俺はこの町を回るつもりなんだ…君はどうするんだい?」

 

『彼女』が何をしたいのか…?

遠回しに探りを入れようと質問してみた。

 

「……にゃー」

 

『彼女』はジッとハルを見つめながら、一鳴きするとちょこちょことハルを通り過ぎて

前方の道を進んでいった。

 

「うーん…気晴らしだったとか?」

 

昔の自分と顔が似ているから、少々絡んでみたのかもしれない。

それにしても…どうして、『彼女』は猫になっているのか?

その辺の謎は、当の本人が姿をくらましてしまっているため、未解決となってしまった。

 

(それに今更、素性をバラしても…問題が起きるだけだ)

 

切迫した状況だったとはいえ、幼い頃から共に育ってきた同胞達よりも、

愛する人を選んでしまった過去は変えられない。

今の自分が「ヴァイスハルト」であった事が分かっても、『彼女』を含める

同胞達が受け入れるはずがない。

 

仮に、正体が明るみになったとしても…

 

(せめて…怒りや恨みの対象は『俺』だけにしてほしいな)

 

負の感情の矛先を無関係な人にまで向けてほしくない。

貸本屋の常連客やこの世界の人々に迷惑をかけたくないし、同胞に罪を犯してほしくない。

 

…我ながら自分勝手で我儘な願望だ。

 

 

(…もしもの時の事も考えておこうか)

 

少々、感傷的な気分に苛まれたが…気を取り直して町の周辺を散策する事にした。

徒歩で一時間ほど回ってみた。

 

全体的に変わっていない印象を受けたが、いくつか馴染みの場所がなくなっていた。

以前、数回ほど足を運んだ事のあるイタリアン料理の店が、若者向けのスイーツ店に

入れ替わっていた。その事実に、なんとも切ない気分になってしまう。

 

「あの店のアマトリチャーナ、美味かったのに…残念だ」

 

もうすぐ正午。

この町に行くと決めた時から、あの店のパスタを食べようと計画していたのに…。

お腹の虫がぐぅと小さく鳴った。

 

「昼に甘い物だけというのも…」

 

女性客が多いスイーツ店の中に、単独で入店するのに抵抗はさほどない。

ハル自身も、甘味は大好きである。

しかし、主食を抜きにしてデザートを先に食べるのは避けたい。

 

「うーん、悩むなぁ~」

 

「何に?」

 

その時、耳元に声が聞こえてきた。

…聞き覚えのある懐かしい声音。

くるりと後ろを振り返るが、誰もいない。

 

さらに、視線をゆっくり下ろしてみたら…

 

「にゃーん」

 

橙色の猫…『彼女』がそこにいた。

もう遠くまで行ったと思っていたため、目を微かに見開いてしまった。

 

「…どうして此処に?」

 

思わず、屈んで『彼女』と視線を合わせる形で問いかけた。

今の『彼女』は猫のはずなのに、さっき…ハルが見ていないのを狙ってか…

簡潔な言葉を口にしていた。つまり、猫の状態でも人語を話せるのだ。

 

「もしかして…君は人の言葉を話せるのかな?」

 

思い切って、ストレートに尋ねてみたが…

 

「にゃー」

 

やはり、そう簡単には尻尾を出さないようだ。

 

「なーんて、物語じゃあるまいし…気の所為か」

 

敢えて、気が付かないフリをする。

「じゃあね」と『彼女』の頭を軽く撫でると、ハルは徐に立ち上がって踵を返す。

 

「さーて、根気強く探そうか」

 

他で食事ができる場所がないか、あちこちと探索していく。

三メートル先に個人経営のラーメン屋があった…ちらりと窓ガラスを覗いてみる。

 

「満席か…」

 

多少余裕をもって食事をしたいため、この店はパスしよう。

 

 

 

次に見つけたのは、カレーライスの専門店。

自動扉の斜め前に立てかけられている大きめのメニューが掲載された看板を

ジッと観察する。

 

「サイドメニュー、季節限定のものも含めるとかなりあるな…」

 

個人的にカレーは中辛の味つけが好みである。

肉はどれでもいけるが、今日の気分は鶏肉。

…トッピングは福神漬けにしよう。

 

頭の中でメニューも決めた。

迷う事無く入ろうとしたが…

 

「んんっ…? 誰もいない」

 

自動扉の向こうは無人だ。

看板へ再び視線を戻してよく見れば、『毎週月曜日は定休日』が掲載されていた。

ガクッと肩を落としつつも、次を探す事にした。

 

 

 

一時間後…ハルは、公園のベンチで腰を下ろしていた。

 

「結局、どこもいっぱいだった…」

 

それから、何軒か飲食店を見つけたものの、どこも満席で入れなかった。

この時間帯は、会社勤めのサラリーマンやOLなどがお昼休みで食事を取るため、

最寄りの店に集中してしまうから…仕方ないとも言える。

 

「どーしようか…」

 

つい先程、購入したペットボトルの緑茶を開封して飲む。

思い切ってコンビニで食事を買おうかと立ち寄ってみたものの、

軽食や弁当、パンコーナーは品がほぼなかった。

…飲料水だけ買って現在に至る。

 

「喉は潤えど…腹はあまり満たされず、と」

 

うーん…とハルは微妙な顔でお腹を軽く叩く。

この近辺の飲食店は無理なら…もう少し範囲を広げていこうか。

 

「もうちょっと我慢しよう」

 

ハルは、立ち上がると公園からさほど遠くないバス停へ足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

ハルの様子を離れた距離から、橙色の猫…デリエリは観察していた。

 

【ハル・シンドウ】という青年の情報は、ある程度知っていた。

…幼馴染であったヴァイスハルトの血族。

…貸本屋を営んでおり、世界を渡り歩く術を持ち合わせている。

 

前日に、その青年の事で仲間内で長時間の超会議が開かれたようだが、

デリエリはぐっすりと眠っていたために参加していなかった。

相方の男…モンスピートが、目覚めたデリエリに事の経緯を教えてくれたため、

大体の事情を頭で理解した。

 

けれども、その時のデリエリはヴァイスハルトの血脈に対してあまり興味が

湧かなかった。

 

幼馴染の子孫は、故郷とは違う世界で何名か確認されており、話題に上がった

【ハル】もその内の一人というだけの事。

…ハルは、あくまでヴァイスハルトの子孫であって本人ではないのだから。

 

 

『お前のように、そういう割り切りができる者達ばかりじゃないんだよ』

 

 

モンスピートの言葉が、頭の中で反芻する。

モンスピートも、デリエリと同じで幼馴染とその血脈の事を区別しているようだ。

 

 

『頭で事実が分かってても、感情がそれを拒んでしまう。

そういう思いをした事…あるだろ?』

 

 

…その通りだと素直に感じた。

聖戦の最中、宿敵である女神族の上位種の策略で姉を含めるたくさんの同胞達が

囚われてしまい、殺されかけた事件があった。

デリエリはあの時の事を思い出すと、抱いた怒りや憎しみと言った負の感情が

未だに燻る事がある。

 

エスタロッサやメラスキュラが、ヴァイスハルトとの繋がりに固執しているのも

…それに似たものなのか。

 

そう考えると、安易に批判する気にはなれなくなった。

 

 

(実際、あたしも…そうだった)

 

彼の姿を目にしたのは、この町から大分離れた早朝の河原だった。

初めて彼を見た瞬間、『彼女』は時が止まったかと思う位に硬直した。

…何故なら、ハルがあまりにも幼馴染であった人物に瓜二つだったから。

ほのかに漂う魔力も微かに違いはあれど、ヴァイスハルトの特質を受け継いでいた。

 

(あいつの事が気になって尾行してる

…結局、あたしも人の事言えねえじゃねえか)

 

デリエリにとって、ヴァイスハルトは年の近い兄のような親友だった。

異世界でのあの不幸な出来事さえなければ、生まれ故郷である魔界に戻って、

契約したあのエクレシアと正式に番になれたはずなのに…。

心にちくりと棘が刺さったような痛みが生じる。

 

(何考えてんだ、あたしは…。

ヴァイスはもう戻ってこないのに…あいつは……ッ)

 

脳裏に過ったのは、親友が異世界の天界に属する執行人の手で魂を抜き取られた場面だった。

 

あの映像を目にして、暫くの間デリエリは何もする気力が湧かなかった。

自ずとモンスピートの胸に顔を預けていた。

周りにいる仲間が怒号を放ったり、号泣するのを瞳に映して、嵐が到来するかのように

感情が溢れだし、目から涙が零れ落ちていた。

 

 

『我々だけでもヴァイスの事を弔ってやろう。ずっと記憶に留めておこう

…あいつとの思い出を…』

 

 

泣きじゃくる自分を抱きしめながら、モンスピートがそう告げた。

 

忘れるつもりはない。

忘れるなんてあり得ない。

そんな事すれば、再び彼を失ってしまうからだ。

 

(ヴァイスはあの時、どんな顔してた…?)

 

今だから冷静に思い返せる。

刑を執行された時、ヴァイスハルトがどんな表情を浮かべていたのか…?

しっかり見ていたはずなのに…その時の彼の顔が靄にかかっていて思い出せない。

 

(あっ…やべぇ!)

 

あれこれと回想に耽っている間に、ハルは移動していた。

まだ目と鼻の先にいる距離なので、間合いをとって追いかけても十分ついていける。

そっと移動しようとしたその時…

 

「デリエリ」

 

不意に名を呼ばれ、ハッと斜め前に視線を向けると、スーツを纏った男性

…モンスピートが立っていた。

 

「…ようやく見つけたよ。

散歩はいいけれど、『単独行動は程々にしろ』とこの間、ゼルドリスから

注意されただろう…」

 

動かそうとしていた前脚を止めたデリエリに、モンスピートは屈んで彼女に

手を差し伸べる。

 

「まずは、猫から元にもど…」

 

モンスピートが言いかけたその時、デリエリは彼を横切ってスピードを出して

駆け出した。

 

「悪い、モンスピート!」

 

そう言い残して走り去った相方に、モンスピートは目を瞬きさせつつも、

冷静さを失う事無くゆっくりと立ち上がる。

 

「やれやれ、久々だね。あいつがあんなに慌てるなんて…」

 

理由はどうであれ、一人で行動させるには危うい。

モンスピートは髭を指先で撫でながら、早歩き(常人から見れば、神速の域)で

彼女の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

バスに乗って街中を移動する事にした。

奥の座席に腰を下ろし、窓から景色を眺める。

 

部活動の帰りなのか、制服を着た中学生のグループが喋りながら歩いていたり、

営業中だろうサラリーマンがハンカチで汗を拭いてベンチで一休みしている。

 

(…平和だなぁ)

 

この世界の日常の一コマを目にするたびに、ハルはそう思う。

星の大海にある異世界の中には、危険と隣り合わせの生活を過ごす民も少なくない。

狂暴な魔物に襲われたり、部族間の争いに巻き込まれるリスクがほとんどなく、

朝・昼・夜と飲食を取れる生活を送れる事。

 

それがどれだけ贅沢で、幸せな事なのか…。

此処で暮らす人々の何割が、実感しているだろう?

 

(まあ、そこは世界毎の基準や人々の価値観次第で変わってくるけど…)

 

そんな事を考えていると、次のバス停の名称が読み上げられた。

 

(…一旦、降りようか)

 

あまり聞きなれない名称のバス停で降りると、ハルはそこから徒歩で再び移動を

開始した。歩きだして五分経たない内に、ある建物に目が留まった。

 

(おっ…喫茶店がある)

 

三階建てのビルだ。

二階は、窓に表示されている文字から…探偵事務所のようだ。

その真下の一階に喫茶店があった。

 

―――【喫茶店ポアロ】

 

彼の有名な推理小説に登場する主人公の名前と同じだ。

推理小説を愛読するファンの心を擽りそうな店名である。

 

近づいて窓を覗いてみると…二人の従業員らしき男女の姿を確認した。

営業しているようで、客はいないようだ。

 

(…うん、此処にしよう)

 

この時点で、もう午後二時を三分過ぎている。

これ以上、他の飲食店を探していたら夕食の時間帯に差し掛かってしまう気がした。

よし、とハルは軽く気合を入れるとその喫茶店の扉を開いた。

 

 

「「いらっしゃいませ」」

 

 

男性と女性の従業員二人が同時に挨拶してくれた。

店の奥の席が空いているので、ハルはそこに座る。

 

「ご注文が決まりましたら、お呼びください」

 

男性の従業員…色黒の肌で顔立ちの整っている20代位の青年…が笑顔で

氷入りの水の入ったガラス杯を置いた。

はい、と相槌を打って設置されているメニュー表を開いてみると…

 

(品数が多い…)

 

小さな喫茶店であるのに、メニューが意外と充実している事に驚いた。

 

「すみません、『サンドイッチ』と『ナポリタン』をお願いします」

「はい、かしこまりました」

 

どれにしようか、と思案して五分。

空腹感が増していた事もあって、無性に炭水化物がほしくなっていた事もあり、

思い切って二つ単品で注文した。

 

メニュー二品がくるまで時間をつぶそうか、とハルはスマホをカバンから取り出した。

画面を見ると、メールが三件きていた。

 

(二件はゲルダさんから。もう一件は…あ、『あの人』からだ)

 

ゲルダからのメールは仕事関係のものだと思い、先に知り合いである

『あの人』からのメールを開いた。

 

(あぁ……もうそんな時期か)

 

その内容を見て、ハルは寂しそうな笑みを浮かべる。

毎年、この季節が訪れる頃に彼は『あの人』を含める関係者と【あるところ】を

訪れる事にしている。

 

そこは…ハルにとって、この世界で親しくなった友が眠る場所でもある。

「今年は、どんな花を持っていこうか」と考えていると、かぐわしい匂いが

近づいてきた。

 

 

「お待たせしました。『サンドイッチ』と『ナポリタン』です」

 

 

男性従業員が、テーブルにことりとその二品を置いた。

ハムとレタスとシンプルな具を挟んだサンドイッチ、そして湯気がたつナポリタン。

待ってました…と内心呟きつつ、ハルはまずサンドイッチを一切れかぶりついた。

 

(おぉー…うまい!)

 

パンのほのかな甘みとともにシャキシャキのレタスとハムの旨みが絶妙だ。

特に、パンに塗られているソースがいい。

マヨネーズと…隠し味に味噌を加えているようだ。

一切れを平らげて、並行するようにナポリタンの方も食べる。

 

(うんうん、この懐かしさを感じる味…)

 

アルデンテよりも柔らかめに茹でた麺。

たまねぎとトマトをベースにした深みのある味わいのソース。

パスタの専門店では味わえない、喫茶店ならではの特別感のあるこの味が、

ハルは大好きなのだ。

 

(…この店にしてよかった)

 

昼餉を求めてたくさんの店を回り、時間を消費してしまったが…

此処の料理を食べた事でその甲斐があったと思えた。

料理の味はもちろん、従業員の接客マナーや店の雰囲気もいい。

 

この店、時間がある時にまた来ようか…と、ハルはホクホク顔で

ガラス杯を手に取った。

 

 

 

 

【ハルさんの休日(3)】

 

 

 

 

「じゃあ行ってきます。

安室さん…ちょっと時間かかっちゃいますからお願いします」

 

「はい、梓さんも気を付けてくださいね」

 

カウンターの方で従業員二人のやり取りが耳に入った。

材料が足りなくなったのか、女性従業員…「梓」という名前らしい…が買い出しに行くようだ。

男性従業員…安室が目を細めて柔らかい笑みで裏口から出ていく彼女を見送る。

その直後、入り口のベルの音がちりんちりんと鳴り響いた。

 

「いらっしゃいませ」

「すみませーん。ランチセットいいですか?」

「今日は一人だけかい?」

 

おや、珍しいと安室が親し気に話しかけているそのお客は小学生低学年くらいの少年だ。

 

「おじさんは、仕事でちょっと電話してて…って、えっ…?」

 

その少年も、常連客なのだろうか…慣れた感じで安室に事情を話していた最中、

こちらへ視線が向かうや、ギョッとした顔となった。

口直しに水を飲んでいたハルも「あっ…」と思わず声を漏らしてしまう。

 

「コナン君、知り合いの人かい?」

 

安室が、不思議そうに彼に問いかける。

 

「う、うん…そうなんだ」

 

多少の動揺が顔に露わになっているものの、少年は笑みを取り繕い、

安室の質問に対してそう答えた。

 

ハルも、正直驚きを隠せなかった。

何故なら、その小さなお客こそ自分の経営する貸本屋に二回も訪れた人物

…江戸川コナンであったからだ。

 

(これって、何かの前触れなのか…?)

 

そう感じてしまう程の再会する人の率の高さに、ハルは冷や汗を流して

苦笑せずにはいられなかった。

 

 

 

【つづく】

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