ウタとのティータイムの時に、【白い人】が前触れなくやってきた話。
ある日、俺は日課であるウタの夢の領域内で過ごしていた。
「今日は何作る?」
「うーんと、クッキー!」
その日、俺はウタとお菓子作りをしていた。
丸い雛が描かれた可愛らしい黄色のエプロンを着たウタは、ルンルン気分で
材料の準備をしていく。俺もシンプルな白いエプロンを着て手伝っていく。
「どんなタイプにする?」
「なんでもいい感じ」
「そっか…じゃあ、型抜きで作る?」
「いーね」
そんな会話をしながら、俺達は調理をてきぱきと進めていった。
クッキーは、絞り出し、アイスボックス、ドロップの三タイプに限定した。
「アスは、なんの日、ふっ、ふっー♪」
「その歌ってタイトルあるの?」
「ないねー、どっかで聞いたのマネてみました」
ウタは、今日も楽しそうにおかしな歌を口ずさむ。
ウタが寝かせた生地を型抜きで抜いている横で、俺は天板の上にスプーンで
丸めたチョコチップ入りの生地をおいていく。
「たくさんつくって、食べよう!」
「飲み物はどうする?」
「キブン的に、あったかいレモンティーかな」
食器の準備をしていると、第一段目が出来上がった。
漂ってくる甘い匂いに、ウタの顔がゆるゆるになっていく。
「イイにおーい」
「はい、レモンティー」
「わーい」
大皿にクッキーを盛り付け、二人でティータイムを楽しむ事となった。
「おいし~」
サクサクと食欲をそそる音を立て、ウタはクッキーを味わう。
俺は、レモンティーを味わいつつチョコチップ入りのクッキーを口内へ放り込む。
「あのさ、ウタ」
「もごもご…なーに?」
「こんなに大量に作って…食べきれるのか?」
第二段目も焼きあがって、別の大皿に移した。
夢の中とはいえ、山盛りのクッキーを一気に摂取するのは難易度が高すぎる。
別の日に食べるにしても、俺はウタの元へ毎日通っている訳でないため、
必然的にクッキーの大半はウタが食べる事になる。
「うん、だいじょーぶ」
ウタはアイスボックスを咀嚼し終えると、よっと腰かけていた柔らかい
クッションから立ち上がる。
「ちょっと外へ行ってくるね」
「…一人で?」
ウタがほんばこ(仮)から別の場所へ移動するのは…俺以外の誰かがやってきた時。
数年前、【黒い人】と呼ばれる不法侵入者に襲われたため、ウタが外に出る場合は
俺も一緒についていくようになった。
「だいじょうぶ」
けれども…あの日は珍しく、ウタは同行しないでいいと断りを入れてきた。
「今日きたのは、【白い人】だから」
「…【白い人】?」
「【白い人】はね、すごくむずかしい人。
…あの人はスキキライがあるんだ」
多分、ハルさんは接触しない方がいいよ。
ウタは真面目な顔でそう告げると、左手を前へ翳して出入り口を作り上げる。
「【白い人】がかえるまで出てきちゃダメだよ」
「…うん、分かった」
「クッキー、あとでまた食べるから。レモンティーのおかわりもね」
いってきまーすと言って、ウタは外へ出ていった。
俺はウタを見送るものの…彼女が言う【白い人】の事が気になっていた。
(あの時、感じた禍々しい魔力の持ち主は【黒い人】って表現してた。
…となると、ウタが今日会いに行った人は真逆のタイプなのかな?)
どんな人物なんだ…と推理していた時、俺はある事に気付いた。
「あっ…画面が開いてる」
さっき、ウタが開いたモニター画面が空間に残ったままである。
…画面を消さずに、そのまま行ってしまったようだ。
「!…外の様子が見えてる」
その画面には、歩いているウタの姿が映っている。
(こういうのって、見たらいけないんだろうな…普通は)
きょろきょろと辺りを見回して…俺は両目を画面に集中させた。
ウタはトコトコと…裸足で柔らかい土を踏みながら移動していく。
スキップしたり、時に軽くジャンプしたりとマイペースに進んでいる。
その領域は桜の木々が並んでおり、ひらひらと舞い落ちる花弁が
地面に降り積もり、淡い桃色の道を作っていた。
「…懐かしいな」
その風景を見ていると、前世の記憶がちらつく。
かつての俺…『進藤 春斗』も学校へと続く一本道を歩きながら、
その季節事に変化する風物詩を楽しんでいた。
♪♪♪~
ウタが唄を口ずさむ。
いつものおかしな唄とは違う、聞いた事のある歌詞。
「この唄って、あの映画の主題歌じゃ……ッ!?」
唄のタイトルが頭に浮かびかかったその時…ゾクッと戦慄が走った。
暴風に巻き込まれたかの如く、全身の皮膚に衝撃が駆け巡る。
額から汗が滲み出て、小刻みに震える身体を必死に落ち着かせようと、
手元にあったクッションを片手で握りしめた。
『おひさしぶりです!』
ウタはペースを崩さずに笑顔で挨拶している。
…客人である【白い人】に。
…俺が恐怖を感じている原因である、その人物に。
『ミスティリア、息災でなによりです』
【白い人】は、美しい女性だ。
雪原のように白い素肌、緩やかにウェーブがかった銀色の長い髪。
白を基調としたドレスを纏っており、露出が少ないデザインだが、豊かな双丘や
くびれた腰…衣の上からでも分かるほどの抜群のプロポーションである。
そして…彼女の背には、五対十枚の純白の翼が生えている。
「女神族……ッ!」
―――魔神族と対を為す、天敵である種族。
“ 因縁の仲である女神族が…何故、ウタと接触しているんだ? ”
そんな疑問で頭が埋め尽くされ、画面に映し出されるウタと【白い人】の
やり取りから目が離せなかった。
そして…この時、俺は初めてウタの抱える事情を知る事となった。