Brand new page   作:ねことも

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多重クロスオーバー形式連載 第31話。

ハルさんの1週間の休暇中の物語(5)
※今回の話は、モンデリがメインです。
※謎の薄桃色の子猫が初登場しています(正体はモンデリの同胞)。
※最後のところで、名探偵コナンのキャラ二名が再登場しています。
  


第31話【ハルさんの休日(5)】

 

喫茶店【ポアロ】から出たハルは、最寄りのバス停まで歩いた。

時刻表の看板の前で、スマホの未読だったメールを確認してみると…

 

「…!」

 

ゲルダからの二通のメール。

そこには、本日の訪問客にドロールが来た事、彼だけでなくもう一人、グロキシニアも

一緒にいる事が書かれていた。

 

「迂闊だった、まさか月曜日に来るとは…」

 

ドロールが普段訪れるのは木曜日と土曜日だ。

週二回が定番になりつつあったため、それ以外でやってくるとは思わなかった。

 

(グロキシニアも…復活していたんだな)

 

かつて、封印の空間で見た彼の者の姿が頭の中によぎる。

 

…腰まである艶やかな赤い髪。

…背中に伸びる揚羽蝶を連想させる大きな羽。

…女子と見間違う中性的な顔立ち。

 

その身に強い魔力を宿し、神樹から授かった霊槍【バスキアス】を自由自在に操る

彼もまた、ハルの親しい友であった。

 

 

実は、密かに予感はしていた。

もしも、他の十戒も目覚めていたら…ドロールが連れてくる人物はグロキシニアだろうと。

 

――――『巨人族』と【妖精族】

 

種族の違いはあれど、彼等は十戒になる以前の…【光の聖痕(スティグマ)】を

牽引していた時代から仲がよかった。他のメンバーを連れてくるよりも、

付き合いが長い信頼できる戦友を連れていきたいのが自然の流れだろう。

 

(あまり二人を意識せずにお客様として対応する事。

もし、どちらかが怪しい動きをした場合は知らせるように、と…)

 

ハルは利き手の指を動かし、返信を送った。

ドロールとグロキシニアは、自分に会おうとしているのか

…それとも、別の目的があるのか。

 

無理をしない程度に、二人の動きを注視するように指示した。

数分でゲルダから『了解しました』という簡潔な返信がきた。

読み終えると、ハルはスマホをバックにしまった。

 

(もし、対応が難しいようなら…一度帰ろうか)

 

次の連絡がきた場合、内容次第で帰宅を早めよう。

そう思案していた時…足元に何かが接触する感覚がした。

 

「…ん?」

 

視線を下ろすと、足元に猫が身体をすりすりと寄せていた。

 

「にゃーん!」

 

橙色の猫…『彼女』ではなかった。

色が全体的に薄桃でところどころ帯状に黒の毛が混ざっており…

『彼女』よりも小柄だ。

 

ソマリみたいなタイプに変身していた『彼女』とは異なり、この小さな猫は

マンチルカンに似ており、毛がふさふわで長めである。

 

(うーん、もしや…)

 

ハルはぎこちない笑みを浮かべてしまう。

この子猫からも魔力が漂っている。

…しかも、その魔力がハルのよーく知っている人物と同じものなのだ。

 

「今日は猫とよく会うなぁ(再会のオンパレードだよ、おい…)」

 

さてどうしよう…と悩むハルの心をスルーするように、薄桃色の子猫は離れる

気配がない。そ~と足を動かして、猫から距離を置こうと歩いていくが…

子猫はついてくる。

 

(…仕方ない、隙を見て撒こう)

 

ちょこちょこと後を追いかけてくる子猫と距離を置きつつ、ハルは移動を再開した。

 

 

*** ***** ***

 

 

迎えに来たモンスピートから逃走する形で、デリエリは姿が消えたハルの

探索をしていた。

 

途中で、買い物帰りの母子にもふもふされたり、デート中のカップルと思われる

高校生の男女に写メを取られるハプニングがあったり、肉屋の気のいい店主から

肉の切れ端をご馳走してもらったりして、体力を回復させながらあちらこちらを

廻っていった。

 

(あいつは…どこにいる?)

 

魔力を頼りに探しているが、感知できるのは…遠方にいるドロールとグロキシニア。

それから、反対の方角から疾走してくる相方のモンスピートだけだ。

 

肝心のハルの魔力が…何かが原因で感じ取れない。

その事にやきもきしつつ、モンスピートの追跡を振り切って移動していく。

 

(…いねえな)

 

…探し始めて大分時間が経過した。

ハルの姿は見当たらず、捜査に行き詰っていた。

 

(はぁ~…だりぃー)

 

脚の疲労を癒すために、デリエリは適当な場所で一休みする事にした。

表の通りは陽が当たって地面が熱いため、日陰になる…路地裏に入り込んだ。

幾分か暑さが和らぎ、地べたに座っても問題なさそうだったので、思いっきり

脚を伸ばす。

 

(モンスピートの魔力も遠のいてる。この姿でよかった…)

 

本来の姿だと自身の宿る魔力の所為で、気配感知に長けている者にとっては

いい目印になってしまう。

猫の姿であれば、解放しない限りは魔力を必要最低限に抑えられる。

 

(ケツから言って…眠い)

 

だんだん眠気が込み上げてきた。

…昼寝をして英気を養おうか。

デリエリは瞼を閉じて、一時的に眠りの世界へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

《リリ、起きなよ…どうしたの?》

 

夢の中で、デリエリは過去にいた。

正確には、夢路で過去の出来事を再体験していた。

自分が、メラスキュラやエスタロッサもチビで…ヴァイスハルトがいた、平和だった頃。

 

…あの日はいつもより寒かった。

任務のあれこれでモンスピートと喧嘩して、城を飛び出して…実家に行っても

姉が出かけていて…むしゃくしゃした気持ちを発散できずに途方に暮れた。

 

気付けば、ヴァイスの家にいた。

彼もおらず、寒さを和らげるために布に包まってふて寝してしまったのだ。

 

それからヴァイスが帰ってきて…起こしてくれた。

勝手に入り込んだ事を怒らず、ヴァイスは機嫌が下降気味だった自分に事情を

訊いてきた。

 

《リリは辛抱強いね》

 

感情を曝け出して不満を口から吐き出した。

…ヴァイスは不快に思わずに、ずっと自分の言葉を受け止めてくれた。

次第に、溜めに溜め込んだ負の感情がすぅーと空気に溶けるように消えていって…

涙を流していた。

 

《モンさんが、リリの事を嫌いになるなんてありえないよ》

 

《会いに行く自信がつくまで此処を仮宿にして構わないから》

 

ヴァイスは優しくそう言って、温かいスープを御馳走してくれた。

 

(あいつはいつでも…あたしらの傍にいた)

 

戦で傷ついたり、心が疲弊している時…ヴァイスは自分達を支えてくれた。

成長してからも、ある事が原因で一族を追放されてからも…遠く離れた場所から、

こちらの身を案じていた。

 

(ヴァイス、なんで死んじまったんだよ…)

 

戦の中で、同胞が命を散らす場面は何度かあった。

いつ、自分だって同じように躯になるかもしれない状況で、それが当たり前だと

思っていた。それでも…家族や親しい人には消えてほしくなかった。

 

(ヴァイス…あたしは…)

 

《リリ…》

 

過去のヴァイスに名前を呼ばれたその刹那、デリエリの視界が真っ白になっていく。

 

「デリエリ」

 

徐々に鮮明になってきた視界に再び映ったのは…モンスピートであった。

 

「こんなところで寝て…下手をすると脱水症になるぞ」

 

そう言うと、モンスピートは猫の姿のデリエリを両手で慎重に抱き上げる。

 

「さっきから逃げているけど、何か理由があるのかい?」

「……いたんだ」

「誰が?」

 

「…ヴァイスの血族」

 

か細い声で答えたデリエリに、モンスピートは目を微かに見開く。

 

「接触したのか?」

「…した」

 

デリエリは先程とは打って変わったように、抵抗する事無くモンスピートに

抱きかかえられたまま大人しくしている。

 

「…あいつに似てる、似すぎてるんだ…顔も…魔力も…」

「そうかい。でもね、デリエリ…」

 

「分かってるよ! あいつは子孫で…

あたしらの知ってるヴァイスハルトとは違うって!!」

 

諭そうとした相方に噛みつくように、デリエリは怒鳴り声をあげる。

 

「…それでも、ヴァイスが生き返ったみたいで…ッ」

 

デリエリはそれ以上言葉を紡げなかった。

過去に対する悲しみ、親友と子孫を同一視してしまう自分への嫌悪感…

そういった感情がごちゃまぜになって胸を締め付ける所為だ。

 

「『あの時』はどうしようもなかったんだ。

…後悔しても、時は戻らない」

 

小刻みに震える彼女の背中をぽんぽんと軽く叩きながら、モンスピートは語りを続ける。

 

 

「ヴァイスも覚悟していたはずだよ…我々の制止を振り切った時点で。

だが、戦士として、一人の男として…あいつは自分の選んだ道を

後悔してなかったのは間違いない」

 

「…なんで…そう思うんだよ…」

「極刑を受ける寸前のヴァイスの顔、覚えているかい?」

 

 

モンスピートが口にした内容に、デリエリは顔をあげた。

 

「ヴァイスは―――」

 

相方からの言われた事に、デリエリは耳を疑った。

 

「…ウソだろ」

 

「本当だ。この目で確かに見たんだ…

お前に偽りを言うなんてありえないよ」

 

返ってきた言葉に、デリエリは反応しない。

告げられた事実に動揺しているようだ…

信じられない気持ちが勝っているのか、瞼をギュッと閉じている。

 

「ねぇ、デリエリ…どこかで休もう。

今のお前は気分の入れ替えが必要だ」

 

デリエリの背中を撫でながら、モンスピートは落ち着いた声で場所を移動しようと促す。

 

「手始めに元に戻りなよ。その姿も可愛らしいけど……ん?」

 

猫から人型に戻るように説得している最中、モンスピートはある魔力を感知した。

 

「えぇー…ちょっと、この魔力って」

 

顔に現れるくらい、モンスピートは困惑した。

東の方角…三メートル先に二つの魔力がある。

その内の一つが…非常に馴染みのある人物のものなのだ。

 

「まったく、あの会議の後で取り決めしたのに意味がないじゃないか……っと!?」

 

モンスピートが呆れ顔でこぼしていたその時、抱きかかえていたデリエリがするりと

脱出して、タッと地面に着地した。

 

「行ってくる!」

 

魔力を感知した事で気力を取り戻したデリエリは、その場所へ一目散に駆けていく。

 

「ちょっ、デリエリ…!

ハァ~…もぅ、なんでうちの女性陣は行動派が多いのかねぇ」

 

やれやれと肩を竦めながらも、モンスピートはデリエリの後ろ姿を心配そうに

見つめていた。

 

 

 

【ハルさんの休日(5)】

 

 

 

「ねぇ、蘭。今度の休みって空いてる?」

「うーん、今のところ予定はないかな」

 

毛利蘭は、親友の鈴木園子と遊びに出かけていた。

まず、映画館で好きな映画の新シリーズを公開初日で観に行った。

鑑賞後、ファーストフード店で食事を済ませると、ショッピングをしたり、

人気のスイーツ店に行ったりと…年頃の女子高校生らしい休日を満喫していた。

 

時刻は午後四時二十分。

そろそろお開きにしようか…という流れになり、お互いにスケジュールを

話し合っている時だった。

 

「夕食、何にしよう…」

「この季節だし、カレーとかにしたら?」

「一昨日、それだったんだ…さすがに同じのが被ってくるとまずいかなぁ」

 

談話していた蘭は、ふと前方からやってくる小さな存在が目に映った。

…橙色の猫だ。蘭はその猫に見覚えがあった。

午前中に、映画館でちょっとした騒動を起こした張本人…ならぬ張本猫だったからだ。

猫はこちらに目を向ける事無く、物凄い速さで通り過ぎていった。

 

「ちょっとー、あの猫って…」

「うん…映画館にいた仔だよね」

 

園子も猫の存在に気付いて、蘭と顔を見合わせる。

 

「…やけに急いでたけど、どこに行ったんだろうね?」

 

園子が何気ない疑問を口にして、蘭は不思議とあの猫に親近感を覚えた。

 

(…まるで、誰かを探してるみたい)

 

蘭の脳裏に、幼馴染の男子で…特別な人である『彼』の姿が浮かび上がる。

あの猫も大事な人を探しているのだろうか…?

 

「失礼、お嬢さん達」

 

蘭の意識を現に戻したのは、通りすがりの男性の声だった。

 

「はい…なんですか?」

 

「この辺で、猫を見かけなかったかい?

小さくてオレンジ色の珍しい毛並みの女の子なんだけど…」

 

赤紫色の髪に、眼鏡をかけたスーツ姿の男性。

外国人だが流暢な日本語を話す彼の質問に、蘭はあっ…と思わず声を漏らした。

 

「あの、その猫…さっき通り過ぎましたよ」

「どちらの方に行ったか、分かるかね?」

「私達と反対方向に真っ直ぐ走ってたから…あっちかしら」

 

園子がその方角へ指さすと、男性は「ありがとう」と会釈して去って行った。

 

「なーんか、飼い主っぽいわね…」

 

中年だけど、ナイスミドルな人だったわね…と園子が個人的な感想を言う傍ら、

蘭は「あれ?」と首を傾げる。

 

(あの人…もうあんなところにいる)

 

男性は早歩きで移動していた。

少し目を離している間に、早歩きで姿が小さく見える場所まで行けるのだろうか…?

 

「どしたの?」

「…ううん。なんでもない」

 

疑問が芽生えたものの、蘭はそれを深く追及しようとは思わなかった。

無意識に、奇妙な世界への入口を回避していた事を彼女は知らない。

 

 

 

【つづく】

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