ハルさんの回想(22)
少年時代のハルさんが、メリオダスの初料理のえじ……試食をする事になった話。
ちらりと、日本人だった頃の生前の回想もでてきます。
「メリオダス様」
「かしこまらずに、いつものように呼べ」
「メル……これなに?」
人間年齢十二歳の頃、任務から帰還した時の事。
任務の報告をして家に直行しようとしたら…
メリオダスに呼び止められて城の一室に連れてこられた。
俺の視界にまず入ったのは、部屋の中央にあるテーブル。
そこに大皿が置かれていて、その上にゴロゴロと黒紫色のオーラを出す物体が
乗せられていた。
「お前、衣料理…好きだろ」
メリオダスがいった『衣料理』とは【天ぷら】の事を指している。
小麦粉と卵を定期的に仕入れる事ができるようになり、俺がそれらを用いて
天ぷらを作るようになった。
具材は、サツマイモ、きのこ、大葉っぽい食用の葉、南瓜に似た野菜など…
それからデカとりの肉をメインに使用していた。
生前の感覚を取り戻すために、料理回数を増やすのは必然だ。
天ぷらも例外でなく、材料と時間があれば練習していた。
作る頻度が高い事もあって、試作品を味見する過程で…幼馴染達も天ぷらを食べた。
天ぷらは好評であり、さらに十戒や他の同胞の間で瞬く間にその存在は広まっていった。
なお、天ぷらが【衣料理】と呼ばれている理由は、メラスキュラが「衣を着ている
みたい」という発言をしたからだ。『天ぷら』という本来の単語を使うとしても、
どんな意味だと追求される可能性が高いため、【衣料理】の名称で呼ぶ事にした。
「これ、衣料理なの?」
「ああ、衣だろ」
なんとも不気味な色合いの天ぷらだ。
そもそも、これを作った人物は誰なのだろうか?
「…まあ、食べてみろ」
メリオダスはそう言って、衣料理?を勧めてくる。
えぇ~…これ、食べないといけないのか。
「どうした?」
怪しげな天ぷらをジッと見つめている姿が気に入らなかったのか、メリオダスは眉を顰める。
断る選択をしたら、一気に不機嫌になってしまいそうだ。
「いただきまーす」
見た目はアレだが、中身は…という微かな望みに期待して、一個つまんで食べてみた。
「…………(…まずい)」
案の定…いや、予想の範囲を大幅に上回るレベルの味だった。
これ、何の材料を使っているのか?
これ、下処理してないだろう…。
これ、生臭さが残っているよ…。
ゆっくりと咀嚼しながら、俺は怪しい天ぷらの味を確認していく。
どうしよう…問題点しか出てこない。
「どうだ?」
向かい側にいるメリオダスが、味の感想を求めてくる。
「……個性的な味だと思う」
…嘘は言っていない。
甘さと辛さと苦さが混沌している…これは突出した一種の個性である。
おそらく…いや間違いなく、この天ぷらを調理したのは、眼前にいるメリオダスだ。
正直に感想を言って、大惨事になる引き金を引くなんて真似はしない。
「そうか、なら遠慮しなくていい」
「えっ?」
「それ、全部食っていいぞ」
おっふ…
「………うん、ありがとう」
後に引けない状況になってしまった。
天ぷらの残りはあと十四個。
…我慢すれば、いけると思う。
それから、俺は時間をかけて怪しい天ぷらを食べきった。
「はぁ~…うまーい」
その後、俺は帰宅して口直しにデカとりの団子スープを作って、
それを食べながらしみじみと思った。
(うん、よく頑張ったな…俺)
あのまずい料理を完食できた事に自画自賛しつつ、ふとある疑問を抱いた。
なんで、メリオダスは俺に手作りの料理を試食させたのだろうか、と。
(…そもそも、メルが料理するなんてどういう風の吹き回しだろう?)
肉団子と白菜に似た野菜を咀嚼しつつ、その事が気になったが…
あまり深く追及する気にはならなかった。
「ふぅ~、まんぞくまんぞく」
満たされた腹を擦りながら、ベッドに腰を落ち着ける。
さすがに五杯は食べすぎてしまったか…と少々後悔しつつも、
満足の感情が上回ったためよしとしよう。
「おやすみ…」
横になると、身体から疲れが放出される感覚がした。
瞼がゆっくりと下ろし、俺は眠りの世界へ誘われていった。
*** ***** ***
『やっぱ、お前の作る飯はうめーな』
『うん、外食に行くよりこっちの方が断然いい』
向かい側の席に、人間の大人が2人いる。
一人は派手な服装で、夜の繁華街で働いていそうな雰囲気の男性。
もう一人は、上等なスーツを着ていて眼鏡をかけた真面目そうな公務員を連想させる男性。
俺はこの二人の事をよく知っている。
…生前、最も仲が良く、信頼しあっていた親友達だ。
『おおげさだな』
『いや、ハル君の調理技術はプロ並みだ。
もし店を出すなら…僕が全額負担してもいい』
『なら、俺はコネを駆使して店の売り上げに貢献してやるよ、
その代わり、割引してくれよぉ~』
『おいおい…』
二人は隔週一回のペースで、俺の家にやってきて食事をとる。
小学生時代から続いている習慣だ。
それぞれ多忙であるのに、俺の作る料理を食べるために時間を割いてくれる。
『ところでよぉ…ハル。
お前、今勤めている学校の教師、辞めるってホントか?』
『ああ、海外に住む仲間の手伝いをする事になってね
…人手がほしいらしい』
『学校の方にはもう伝えている?』
『校長と教頭には。今、担任しているクラスが卒業するまでの期限付き。
…日本にいるのはあと1年少々だな』
『かぁ~、マジか! お前の飯が食えなくなっちまうなんて
…ありえねえよ!』
『○○君、落ち着きなよ』
『じゃあお前はいいのかぁー? ◇◇』
『残念な気持ちもあるけど…
ハル君の今後を応援してあげるのが親友の役目だろ』
…そう、俺はいずれ教師を辞めて海外に行く予定だったんだ。
それから…俺はどうなったんだろう?
*** ***** ***
「…ス、ヴァイス!」
聞き慣れた声が、俺を現実へ引き戻した。
薄らと目を開けると、エスタロッサが慌てた様子でこちらを見つめていた
「おはよ…ぐふぉっ!?」
朝の挨拶をしようとしたら、いきなり抱きつかれた。
「よかった…ヴァイスが起きて…」
「えっ?」
「だって…お前、一日半も眠ってたんだぞ!」
半泣きしているエスタロッサから告げられたその事実に、俺はぎょっとした。
そんなに眠っていたなんて…
よく周囲を見ると、自分の家ではなく、城の一室にいる事が分かった。
「昨日、城に来ないから心配したガラン爺が迎えに行ったら…」
ガランのじいさんが様子を見に行った時、俺は死んだように眠っていて…
叫んでも、揺さぶっても一向に目覚めなかった。
時折うなされる姿に、これは尋常じゃないと判断したじいさんは
速攻、義理母のもとへ行った。
義理母の能力で命に別状はないと診断され、逐次様子を見ていたようだ。
「身体の調子はどう?」
目覚めてから五分後に、義理母がやってきて診察してくれた。
特に問題ない事を伝えると、義理母は苦笑して「食事の分量は気を付けてね」と
注意してきた。何故か、メリオダスお手製の天ぷらと肉団子スープ五杯を
摂取した事がバレており、内心ヒヤッとした。
今度は、調子に乗って食べすぎないように気を付けよう…と
心の中で反省した。
それから、数時間後にある人物が見舞いに来て驚いてしまうのだが…
それはまた別の話。