多重クロスオーバー形式連載 第33話。
ハルさんの1週間の休暇中の物語(7)
※今回の話は、ハルさんと橙色の猫(デリエリ)と薄桃色の子猫(メラスキュラ)がメインの話。
※乙女モードなメラちゃんが出てきます。
※モンデリ要素が有り。
「…ここら辺にしようか」
河原にやってきたハルと猫二匹。
ハルは念のために辺りを見回す。
「よしっ、大丈夫だな…」
【思う存分、話せそうね】
人がいないのを確認すると、改めて腰を屈めて、橙色と薄桃色の猫…に
変身中の幼馴染二人と向き合う。
「まずは…自己紹介から。俺は進藤 ハルと言います」
【メラスキュラよ、よろしく】
【…デリエリだ】
お互いに名乗ると、ハルは小さく頷いてさらに言葉を続ける。
「メラスキュラさん、訊いてもいいですか?」
世間話をしてワンクッション置く手法をするよりも、
本題にすぐに触れる方がいいと思った。
「俺に話したい事とは…何ですか?」
ハルからの率直な問いかけに、メラスキュラは口元を少し上げる。
【貸本屋の噂は以前から聞いていたわ。
貴方がさまざまな異世界の顧客を相手に商売をしている事を…】
如何にも「調べました!」と言わんばかりの口調だ。
そんな彼女を、橙色の猫に変身しているデリエリは呆れた表情を浮かべて横目で見ていた。
(…って、ドロールが言ってたんだよな)
デリエリは知っている。
メラスキュラが得意げに語っている事は、実際は仲間からの報告を参考にしているのだと…。
だが、横槍を入れる無粋な真似はせずに、二人の会話のやり取りに耳を傾ける事にした。
【貴方の噂を聞いていて思ったの。
…「ハル・シンドウはどんな人物なのか?」って。
偶然にも、こうして貴方本人に会える事ができた】
「つまり、俺の事を知りたい…と?」
意外とストレートに質問してきた事に、ハルは内心驚いていた。
こちらの正体に勘付いたのか…それゆえの誘導尋問なのか?
【ねぇ…訊いてもいい?】
メラスキュラが上目遣いで、ハルに情報提供するようにお願いしてきた。
(うーん?…バレている、感じじゃないな)
もし、こちらの正体を既に把握していたら、メラスキュラなら追い詰める手法で
攻めていくはずだ。彼女は、自分が【ヴァイスハルトの子孫】だという認識で
近付いたのだろう。
(あんまり情報を教えたくはないんだけど、なぁ…)
猫の姿で、そんな仕草をされてしまうと断れない。
ハルは昔から猫が好きだ。
動物全般は好きだが、その中でも猫は一際大好きなのだ。
「メラスキュラさんは、いつもその姿なんですか?」
【本当の姿は別にあるわ。でも…この姿はお気に入りのひとつなの】
メラスキュラが、現在どれだけ変身できるのか…は不明だが、
少なくともその発言からバリエーションはあると思われる。
「…話してもいいですが、話せる範囲内で構いませんか?」
ここで隙を見て逃げる事も出来るが、また追いかけてくるか、
どこかで待ち伏せされるかもしれない。
それなら、差支えない程度の情報を公開をする事で相手に
納得してもらった方が追求される危険が減る。
【ええ、それでいいわ】
メラスキュラの許可をもらったので、ハルはまずは…と語り始めた。
「俺は此処の世界の出身ではないです。
此処とは異なる世界で生まれました」
【…親は? 兄弟とかいねえのか?】
すると、デリエリが質問を投げかけてきた。
「いませんね…俺が、物心つく前に両親は他界したみたいですから」
実の父母がどんな人物だったのか…。
まだ幼かったためか、母らしき人が優しく抱擁してくれたり、父らしき人が
自分に何かを語りかけてくれた…おぼろげな記憶がある程度だ。
育ての親から聞いた話だと、自分の容姿は母親に似ているらしい。
「義理の家族に育てられて、一人暮らしをするようになったある日、
異世界の住民と出会いました」
頭に思い浮かべるのは、ハルにとって最愛の人。
彼女との出会いがなければ…ずっと故郷の世界に留まっていただろう。
「その人と仲良くなって…その人以外にも異世界の出身者と面識を持ち、
気がついたら親しい仲間になっていました」
その言葉と共に脳裏をよぎったのは、真紅の長い髪の青年。
親友というよりも、【悪友】に近いその男の突発的な行動に頭を悩ませる事もあったが、
自分の正体を知っても態度を変えなかった。
《それがどうした?
前世の記憶があろうとなかろうと、お前が俺と対立する訳じゃねえからな。
お前が上手く前の自分と折り合いつけてるんだったら、それで問題ねえだろ》
気味悪がる事無く、本音をストレートに言い合える事ができる数少ない人だった。
「それから、彼等がきっかけで外の世界に旅に出るようになりました」
…星の大海にある数多の世界。
…初めて、異世界に足を踏み入れた時の高揚感。
…行く先々での出会いと別れ。
思い返せば、辛く悲しい事件もあったけれど、楽しい事やいい意味で刺激を受けたり、
感動する出来事もあった。たくさんの人々に出会い、時に絆を深め、時に対立し…
今に続く縁を生む事ができた。
【そう…………
なら、旅をしてきたのに今はこの世界に留まっているのはなぜ?】
やや間をおいて、メラスキュラがその質問を投げかけてきた。
「貸本屋を始めたのは…幼い頃からの親友との約束を叶えたかったから。
前にいた世界でも貸本屋をしていました。
定期的に場所を変えながら、継続しているんですよ」
魔神族だった頃も健康体でいれば、長く生きられる身だったが…
現在のハルは、もう実質上エクレシアと同じ体質となっている。
余程の事がない限り、途方もない年月をこれからも生きていくため、
ひとつの世界で貸本屋を経営し続ける事は難しい。
それ故に、一定の期間を過ぎたら別の場所へ移転するようにしている。
そして、これからも…ずっと。
【…似てるのね】
【おい、メラ】
メラスキュラが顔を俯けてぽつりと呟いた。
それに反応したデリエリが眉を顰めて、メラスキュラに「余計な事言うな」という
意味を込めて釘を刺す。
【分かってるわ。でも…】
彼女は声を震わせて、言葉を途中で中断してしまう。
ハルは徐に腰を屈めて、俯く桃色の猫に声をかけた。
「…どうしたんですか?」
【ごめんなさい、ちょっと…昔の事を思い出してしまったの】
メラスキュラはそう答えると顔を上げた。
泣きそうになるのを誤魔化そうと作り笑いをしている。
【気にしなくていいから。こっちの事だ】
デリエリがハッキリした口調で告げた。
詮索するな…と暗に言われた事を察して、ハルは小さく頷いた。
「分かりました、深く聞き出す事はいたしません」
でも…と反対語を口にしたハルは、掌をギュッと握った。
彼の行動にデリエリは反射的に身構え、メラスキュラは小首を傾げる。
―――ポンッ!
数十秒後、再び掌を開くと同時に軽快な音が鳴り、掌の上には紙製の四角い箱が
乗せられていた。何か仕掛けてくると警戒していたデリエリは呆気にとられ、
メラスキュラは目を瞬きさせる。
二人の反応をよそに、ハルがその四角い箱の封を開けていく。
「今にも泣きそうな女の子をただ見ているだけなんて、男として見過ごせませんよ」
ハルはそう言うと、四角い箱を二人の前に差し出した。
そこには…丸や花を模った形、星型の三種類のクッキーがあった。
「手作りですが、甘い物はいかがですか? お嬢様方」
猫の姿で食べられない体質だったら、遠慮なく断ってくださいね…と念の為に付け足す。
デリエリは、クッキーとハルの顔を交互に見比べると…すんすんとクッキーの匂いを嗅ぐ。
恐る恐る一枚だけ齧りついてみた。
【…うまい】
その一言を呟くと、前脚で器用にもう一枚とってメラスキュラの座る地面の前に置いた。
メラスキュラも、その一枚をサクッと小気味いい音を奏でながら味わっていく。
【おいしい…】
「よかった、お口に合ったようですね」
メラスキュラは目を大きく見開いた。
穏やかに笑うハルの姿が…【彼の人】と重なり合ったから。
【本当にそっくりすぎでしょ…もうっ!】
目が潤みそうになるのを堪えながら、メラスキュラはクッキーを食べ進めていく。
一枚食べ終えたデリエリは、前脚で箱の角度を変えてクッキーを地面にばらまいて、
それらを口に入れていく。
ハルは何も言わずに、クッキーを美味しそうに食べる二匹の猫の様子を
微笑ましそうに見つめていた。
(子どもの頃…よく味見してもらってたな)
幼かった頃の二人の姿が脳裏に蘇る。
満面の笑みで作った料理を味見してくれる姿は、年相応の少女そのもので
可愛らしかった。
(メラ、リリ…俺は、君達にまた会える事ができて…本当に嬉しいよ)
追放された挙句、迷惑をかけた自分が彼女達に会う事自体、本来は許されないのだから。
それでも…家族のように共に育ってきた二人の笑った顔が見れて満足感で包まれていく。
【…ッ! あっ…その…】
食べている最中、我に返ったメラスキュラが微かに頬を紅潮させる。
素の面を見られてしまった事が、恥ずかしかったのだろう。
【…お見苦しい所を見せてしまったわね。ごめんなさい】
「いいえ、謝る必要なんてないですよ」
自ずと彼女の桃色の毛並みを撫でていた。
「貴女の心が癒されたなら、クッキーを作った甲斐があります。
それに…『女の子は泣き顔よりも笑顔の方が素敵』じゃないですか」
子どもに言い聞かせるように…その言葉を口にした。
すると、デリエリが大きく目を見開いて口に銜えていたクッキーをぽろっと落とした。
メラスキュラの方は…顔が沸騰したように朱色になっていく。
(あれ…?)
二人がおかしい反応をしている事に、ハルは不思議そうに首を捻る。
【もぉー…(その台詞は反則でしょー! この胸の高鳴りって…
ヴァイス以来じゃない!)】
【………(…こいつ、マジでヴァイスの生まれ変わりじゃねえのか)】
メラスキュラは心を落ち着かせようと必死で、首をぶんぶんと左右に振っている。
そんな彼女の横で、デリエリは半目でハルを凝視している。
あまりにも幼馴染の彼との共通点がありすぎて、真実に近いようで異なる仮説に
辿り着いてしまった。
(リリ…どうしたんだろう?
メラのあの仕草、小さい頃よくやってたなぁ…久々に見た)
二人の心中とは裏腹に、ハルはまた昔の事を思い出しながら呑気に心の中で
ツイートしていた。
「―――ようやく見つけたよ」
ふと聞こえてきた男性の声に、ハルはゆっくりと顔を上げた。
デリエリがハッと後方へ視線を向けると…
【モンスピート…】
「全く…お前といい、メラスキュラといい…うちの女性陣は行動力がありすぎだよ」
スーツ姿の相棒…モンスピートがこちらへ一歩ずつ近づいてきた。
「すまないね、お兄さん…迷惑をかけたようだ」
「いえ、そんな事ありませんよ」
ハルは首を緩慢に振って、問題なかった事を伝えた。
(モンさん…やっぱり来たな)
なんとなく予感はしていた。
デリエリが此処にいる以上、モンスピートが迎えに来るのではないか…と。
育ての親の変わらない姿に、ハルは目を細める。
「ほらほら、二人とも帰還の時間だぞ…って、メラスキュラは話を聞いてないね」
頬を赤くしてぽぉーと放心状態になっている小さな桃色の猫に変身中の仲間を、
モンスピートはすかさず回収する。
【まだ…夜まで時間があるだろ】
デリエリにも同様にしようとした時、彼女が眉を八の字にして「まだ帰りたくない」と
不満を口にする。
「ダメだよ、早く帰らないとあいつらがうるさい。
それに…此処で甘やかしちゃうと、また逃げられたら困るからね」
モンスピートは諭すようにそう言うと、橙色の猫の彼女を優しく抱き上げた。
変身している二人を両の腕に抱えると、モンスピートは改めてハルと向き合う。
「この子達の相手をしてくれてありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
モンスピートが御礼を言って踵を返して去ろうとしたその時、デリエリが慌てたように
口を動かした。
【うまかった…ありがとな】
瞬く間に、モンスピートは遠方へ移動していたが、ハルの耳には彼女の感謝の言葉は
しっかり聴こえていた。遠ざかる彼等の背中を見ながら、ハルは微笑みを浮かべて
手を小さく振った。
【ハルさんの休日(7)】
「ねぇ、デリエリ」
「………」
封印の空間へ戻ってから、モンスピートはかれこれ一時間くらい、
デリエリに声をかけ続けている。
元の姿になったデリエリは、漆黒色の地面に寝転がっていた
…相棒に背を向けて。
「怒ってるのかい?」
「…別に」
そっけない口調で返され、モンスピートはやれやれ…と肩を竦める。
「『もう少し話をしたかった』
…その気持ちは理解できるが、あれ以上の会話はまずいよ」
ヴァイスの子孫に接触して、彼本人から情報を入手できたのは幸いだ。
だが、ヴァイスと重なるところが多々あった事がまずかった。
その所為で、冷静な思考ができなくなっていたメラスキュラが口を滑らせて
こちらの情報を漏らしてしまう可能性があった。
「まだあの調子だし…暫くはかかりそうだ」
モンスピートは視線だけを後ろに向ける。
そこには、未だに夢見心地でうふふ…と口元を緩めているメラスキュラが
座っていた。
「今日のメラスキュラ、おかしいッスねぇー」
「なんか…変なモノでも…食べたか…?」
「あー…メラのヤツ、乙女モードになってやがる」
「乙女モード?」
「話すと長くなっちまうから、パス」
周りのメンバーが、メラスキュラの異変について口々に言い合っている。
その理由を…エスタロッサ辺りは勘付いているかもしれない。
「それに…あの青年がお前達に危害を加えるリスクもあった」
いくら同胞の血が流れる子孫だからとはいえ、魔神族に味方するとは限らない。
ハルが話した情報ですら事実なのかも分からない…信憑性が薄いのだ。
「ケツから言って…それはねえよ」
「仮に【魔神族】だとバレたとしても、彼がお前達を攻撃する意思はなさそうだった、と。
何故そう思うんだ?」
「勘だ」
「勘って…あのねぇ~」
デリエリがきっぱり答えた事に、モンスピートは呆れ顔になる。
すると、デリエリは上半身を起こして彼と目を合わせる。
「あいつのクッキーさ…ヴァイスの作ったのと同じくらい美味かった。
もしかしたら、ヴァイスの生まれ変わりじゃねえかな…」
「…そうだとしても、ヴァイスの意思をそっくり受け継いでいるとは限らないし、
彼はヴァイス自身じゃない」
…そういう考え方はあまり賛同できないよ。
そう告げて、モンスピートは腰を下ろすとデリエリを腕の中に閉じ込める。
「これからは…無闇に進藤 ハルに近づかない方がいい。
深入りすると痛い目に合うかもしれない」
「…過保護だな」
「どうとでも言ってくれ。
冷や冷やさせられるのは、勘弁してほしいからね」
その言葉に、膝に座るデリエリは「ばか」と小さく呟くと、モンスピートの胸に蹲る。
癖のあるオレンジ色の髪を撫でながら、モンスピートは機嫌が直るまでデリエリを
抱きしめて甘えさせる事にした。
【つづく】
※今回で外出編は終了です。
次回は舞台が店に戻って、ある古参客視点の話になります。