Brand new page   作:ねことも

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多重クロスオーバー形式連載 第35話。

常連客(うみのイルカ)視点で語られる昔の物語。
※イルカ先生視点の過去の回想がメインの話となります。
※オリキャラが登場します。
※今回は話が長くなるため、分割方式になります。

※作中に出てくるイルカ先生の家族描写は、小説内のオリジナル設定です。
※この話で、ハルさんの家庭事情が一部明かされます。
  


第35話【あの夏のSF(すこし不思議)な体験談】(1)

 

うみの イルカが奇妙な体験をしたのは、彼が六歳の頃だ。

忍になるための学校…アカデミーへ通い始めたその年、夏祭りの日に

学校の企画で肝試しを行う事になった。

 

学校のグラウンドから始まり、森を通って目的地のポイントまで行き、

そのまま引き返す…という簡単なルートだった。

 

「よろしくね、イルカくん」

「…うん」

 

二人一組で行動する事になり、イルカはあまり話をした事がない

女子と組む事になった。森の中を通るのは授業で何度か経験したが、

夜の時間帯を歩くのは初めてだった。

 

…幼いイルカは怖かった。

同行者がいるとはいえ、月や星の明かりがあまり届かない闇が延々と続く

森の中を歩くなんて、年齢が一桁台の子どもにとっては魔境に行くのと

同じである。

 

…とはいえ、ワクワクドキドキしながら話しかけてくる女子に対して、

本心を明るみにする真似はしない。

 

 

『イルカ…男っていうのはな、力だけじゃなくて

心も強くならきゃいけないんだ』

 

 

父から常々、男としてちょっとずつでいいから成長していくように

言われていた。

 

…【両親のように強い忍になりたい】

 

当時のイルカにとって、両親は自分が目指す理想の忍の像であり、

目標でもあった。

 

だから、弱音を吐いたりせず、女の子を不安がらせるような事を

言ったりしないと幼いながらも心に決めた。

気力を奮い立たせて、イルカは女子と共に森の奥へ進んでいった。

 

異変が起きたのは、目的地のポイントに着いてアイテムを回収して

戻ろうとした時だった。

 

他の生徒のチームが何やら立ち止まっていた。

 

「おーい」

 

顔見知りだったので声をかけると、男子二人がビクッとしたように

振り返る。

 

「あっ、イルカ…」

「どうしたの?」

「…いや、その…」

 

尋ねると、男子二人は挙動不審に言葉を濁す。

おかしいと感じたイルカが二人に近づこうとしたその時…

 

 

―――ガサッ、ガサガサッ!

 

「い、今のって…」

「うわっ!」「まただ…!?」

 

 

茂みが大きく揺れるのを目にして、イルカはビクッと肩を震わし、

男子二人は明らかに動揺しだした。

 

「なに、あの音…?」

「さっきもあそこから音がしたんだ!」

「やばやばやばやば…」

 

女子の疑問に、男子二人が怯えながら答える。

 

―――“何かがいる”

 

漠然とだが、確かな形容しがたい不安と恐怖がイルカ達の中に芽生える。

それは進行方向を変える事無く、真っ直ぐこちらへ着実に近づいてきた。

逃げたいのに身体を動かす事ができない。

イルカだけでなく、傍にいた女子や男子二人も震えて硬直してしまっている。

 

 

―――ダ~レ~ダ~!

 

「「「うわぁあああ(キャアアア)!」」」

 

 

不気味な声と共に、茂みの中から青白い肌の一つ目のお化けが出現したのだ。

女子と男子二人は恐怖のあまり、大声を出して四方八方へ逃げていった。

イルカはというと…腰を抜かして座り込んでしまった。

 

「あ、ああ…」

「ヨワイ子はオマエかァアアアア」

「う、うぅ…」

 

ジリジリと迫りつつあるお化け。

イルカはじんわりと目頭が熱くなってきた。

至近距離までやってきたお化けは、座り込んでいるイルカを見下ろす。

 

「…なーんてな」

「…えっ?」

 

反射的にギュッと目を瞑ったイルカの耳に、別の声が聞こえた。

目を開けると、お化けはふふふと笑いながら手で印を結び、

ボォンと煙に包まれる。

 

煙が消えると…そこには、違うクラスの教師が立っていた。

 

「せ、先生…!?」

「怖がらせてすまないね。ほら、グラウンドへ行きなさい」

 

後から聞いた話だが…お化け役の教師が数名ほど、それぞれのルートで

スタンバイしていたらしい。イルカは、教師の教えてくれたルートを

移動していき、十五分程度でグラウンドへ着いた。

そこには、先程逃げた男子二人が既に戻っており、ぐったりして

地べたに座っていた。

 

「だいじょうぶ?」

「…そう見えるか?」

 

聞き返されて、イルカは首を左右に振る。

男子二人は勢いよく逃げた後で、他のお化け役の教師と遭遇してしまい、

盛大に叫んだり、追いかけられたりした。

 

その結果、体力をごっそり消耗してしまい、指一本も動かせない

状況のようだ。周りを見ると、他の同級生も順調に帰ってきていた。

感想を語って楽しそうだったり、あまりの怖さに泣いていたり、

眠たそうだったり…と反応が様々であった。

 

「みんな、揃っているか?」

 

あっという間に終了の時刻がきた。

担任が確認のために点呼を取っていく。

 

イルカは名前を名乗ってから、ふと気付いた。

一緒に行動していた女子がまだ帰っていない事に…。

担任もその事に気付き、他の教師と話すや急いで森へ向かう。

 

…胸にざわりと不安が広まっていく。

イルカは自ずと立ち上がっていた。

 

「イルカ…?」

「ごめん、行ってくる」

 

よく話す同級生に、イルカはそう告げると再び森の中へ駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

イルカはまず初めに移動していったルートを通って、女子を探してみた。

 

(…どこにいるんだろう?)

 

先程のお化け役の教師に驚いて、女子は必死に遠ざかろうと走っていった。

その所為で、この面積の広い森の中で迷子になってしまったのだろう。

昼ならまだしも、夜の時間帯は狭くなって全体が見渡せなくなる。

実習を重ねた上のクラスや、プロの忍なら難なく対応できるだろうが…

まだ下級生の子ども達では難しい。

 

「おーい! おーい!」

 

イルカは大声で呼びかける。

肝試しとはいえ、女子のパートナーになっていたのは自分だ。

自分だけ、安全な所でただ待っているだけなんてできなかった。

女子の姿を見つけようと、一生懸命に探索するイルカは気付かなかった。

 

…奥へ奥へと進んでいくにつれて、森の雰囲気が変化した事に。

 

 

 

(…どうしよう、ここどこ?)

 

彼是一時間くらい経過した。

…ミイラ取りがミイラになってしまった。

 

イルカはグスッと涙ぐみながらも、歩を進めていくものの…

女子は一向に見当たらない。

とうとう足が疲れて、その場に座り込んでしまった。

 

「…とうさん、かあさん」

 

両親は心配しているだろうか?

同級生は皆、帰ってしまったのだろうか?

先生達が迎えに来るまで…ずっとこのままここにいた方が

いいのかもしれない。

 

「どうしたの?」

 

ふと、誰かの声が聞こえてきた。

恐怖と不安でいっぱいになっていたイルカは、咄嗟に顔を上げると…

明るい茶色の髪の20代くらいの青年が、いつの間にか目の前に立っていた。

 

「おにいさん…だれ?」

 

「俺は、この先の町に住んでいる者だよ。

君はどうして森の中にいるんだい?」

 

見かけない人だけど、里の住民だろうか…?

気遣いの言葉をかけてくれた目の前の青年に、イルカはえぐえぐと

涙を流しながら理由を話した。

 

「きもだめししてて…みんなで…おれ…まいごになって…」

「『肝試し』か…さっきの女の子もそんな事言ってたな」

 

青年がぼそっと呟いた事に、イルカは「えっ…?」と目を大きく見開く。

 

「まずは此処から離れよう。

夜の森は、獣が徘徊しているから危ない」

 

青年はほんのり笑って、手を差し出した。

イルカはおずおずと自らの手を乗せると、優しく握ってくれた。

 

「俺は進藤 ハルと言います。

君の名前を訊いてもいいですか?」

 

「うみの…イルカ」

「イルカ君、ちょっと歩くけれど…いいかな?」

 

青年…ハルはそう尋ねると、イルカはこくりと頷く。

手を握られ、イルカはハルと一緒に暗い夜の森の道を歩いていった。

イルカの歩幅に合わせて、ハルはゆっくりとした速度で移動していく。

 

「あの…ハルさん」

「ん、なんだい?」

「おれの前に、女の子がいたって…」

 

「ああ、二時間ほど前に同じ森でね。

その子も道に迷ってしまって困っていたよ」

 

 

ハルは貸本屋を営んでおり、そこでは顧客に料理も提供しているため、

森で食料を調達している。

 

今日も奥さんと一緒に森の中を散策していたところ、迷子の女の子を発見した。

混乱していた女の子を落ち着かせて、事情を訊くと「肝試しの最中に走り回って、

気付いたら此処にいた」と答えてくれた。

 

奥さんの提案により、彼女はその子を連れて一足先に自宅へ帰ったようだ。

 

「あの…その子って、たんぽぽ色のかみでみつあみをしていた?」

「そうだったけれど…もしかして、イルカ君はその子と友達なのかな?」

「うん、きもだめしのパートナー」

 

女の子は幸いにも無事だった。

その事にホッとして、イルカは幾分か心に余裕が出てきた。

 

「よかった…」

「彼女の事を探していたんだね」

 

イルカの表情を見て、ハルは彼が女の子を探して道に迷ったのだと察した。

イルカはうん…と首を小さく縦に振ると、正直に経緯を語る。

 

「優しいね、君は」

「…そう、かな?」

 

会ったばかりの人に褒められてヘンな気分だ。

くすぐったくてムズムズする…でも、嫌とは感じない。

 

「あっ、でも…」

「なに?」

「だまって出てきたから…おこられちゃう」

 

今頃、担任や他の教師は自分も捜索対象に含めて探しているに違いない。

勝手な行動をして迷惑をかけてはいけない、と両親からも言われているのに…。

 

「それなら、俺も一緒に同行して話してあげようか」

「えっ…」

 

憂鬱そうに小さく息を吐くイルカに、ハルが笑ってそう提案した。

 

「事情を話せば、先生達からのお説教もマイルドになるかもしれないよ」

「…いいん、ですか?」

 

「ああ、君がよければね」

「あ、ありがとう…ございます!」

 

イルカはパァ…と顔を輝かせてお礼を言った。

それから、目的地へ辿り着くまでの間、ハルと話しながら夜道を進んでいった。

 

最初は心細くて、どうすればいいのか分からなかった。

でも、今は傍にハルがいる。

そのおかげで、暗闇が延々と続く森の中が怖くなくなった。

 

見上げれば、夜空に星が弱い光を放っていた。

徐々に闇の恐ろしさが薄らいで、静かで日常では味わえない清々しさを感じ、

とても不思議な気持ちになった。

 

 

 

「…なっ!」

 

森を抜けた先は…イルカのよく行き来する里ではなかった。

知らない民家や建物が並ぶどこかの町であった。

 

「ここ…このはの里じゃない」

「その件に関しては、後で詳しく話そう」

 

動揺しているイルカに対し、ハルが肩をぽんぽんと叩いて小声で告げた。

夜の時間帯だが、祭りの最中のためか屋台の灯りで町は明るく彩られている。

 

「ハルさん、今日は森で二度目の山菜採りかい?」

 

町中を歩いていると、向かい側から歩いてきた中年の男性が親し気に

ハルに声をかけてきた。

 

「はい。それから薬草の方も…

夜の時間帯にしか見つけらない物もありますから」

 

「いつもハルさんお手製の湿布には世話になってるからなぁー。

こっちは助かってるが、あんまり無茶はしないようにな」

 

話している途中、男性が「ん?」とイルカの存在に目が止まった。

イルカはビクッと肩を震わせ、困惑した顔を浮かべてしまう。

 

「ここらじゃ見かけない子だな」

 

「親戚の子どもです。都に住んでいて、今回この町の祭りに

興味があって両親と一緒に来たんですよ」

 

「そうかそうか、ならゆっくり楽しんでくれ!」

 

ハルがそう説明すると、男性は笑顔で祭りを楽しむように言うと

そのまま去って行った。

 

「さぁ、行こう」

 

イルカは小さく頷くしかなかった。

まだ頭の中は混乱しているが、なんとなく自分の置かれている状況を

認識しつつあった。

 

 

(…どこかの国に来ちゃったんだ)

 

 

幼いイルカは、里の外に出た事はない。

だが、此処は生まれてからずっと育ってきたイルカの故郷とは

異なる別の場所である。

 

つまり、イルカはどういう訳かあの森を通じて里とは異なる

別の国へ辿り着いてしまったのだ。

 

…普通ならあり得ない事だ。

どうして、そんな不可思議な現象が起きてしまったのだろうか?

 

(うぅ~…わかんない)

 

この当時のイルカとっては、明らかにキャパシティオーバーな事だった。

それゆえに、考えても答えを導きだせずに頭からぷしゅーと煙が

出そうになった。

  

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