Brand new page   作:ねことも

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多重クロスオーバー形式連載 第37話。
前回の続きと、その後…とある人物がハルさんのもとを訪れる話。

※今回から通常の業務に戻ります。

※新しいキャラが登場します。

※あるキャラがさらりと再登場しています。

※十戒の一人が変身しています。

※外伝連載を含める当サイトの小説内のエスタロッサは、原作とは大きく乖離する設定
(【エスタロッサ】≠『マエル』)となります。
原作沿いを好まれる方は、お読みになるのは回避する事をお勧めします。
  


第37話【訳ありのアルバイト志願者(1)】

 

「依頼はな…俺の娘の事だ」

 

「ああ、前に見せてもらった写真に映っていたお子さんの事だね。

元気かい?」

 

「この間、17になった。気立ての良い別嬪な娘に育ったよ」

 

鯉伴には妻が二人いる。

故郷の世界にも家業を継いだ息子が一人いるが、つい最近…と言っても十七年前…に

娘ができた。正確に言うと【養女】であるが…。

 

 

「今でも忘れられねえ。乙女がすげえ顔して戻ってきた時の事を…」

 

 

◇◇◇ ◆◇◆◇◆ ◇◇◇

 

 

事の発端は鯉伴の妻…山吹 乙女だった。

ある日、乙女が散歩からの帰り道で、人がほとんどいない公園から微かな声を耳にした。

恐る恐るその声の方へ向かうと、赤子が助けを求めるように泣いていた。

しかも、その赤子は血塗れで上等そうな大人用の衣装を被せられていたのだ。

 

あまりにもショッキングな光景に、普通の一般人なら絶句して困惑するか、

警察を呼ぶに違いない。

 

しかし、乙女はというと…

 

 

『いけない、早く治さないと…』

 

 

赤子を衣装と共に抱き上げて、急いで駆けだしたのだ。

そんな姿を通行人に見られたら、一発で通報されてしまう。

だが、当時の時間帯は陽が落ちた夜の時間帯だった事。

さらに、乙女が彼女にしか分からない特殊なルートを通った事もあり、

速やかにその世界にある住居へ向かう事ができたのだ。

 

当時、昼寝を延長して夕寝していた鯉伴は、必死の形相で駆けこんできた妻と

見知らぬ血塗れの赤子に度胆を抜かれた。

幸い、赤子は喉を傷めている事以外は目立った負傷はしていなかった。

 

鯉伴は母親から受け継ぎ、オーブとなって以降はさらに強化された癒しの力で

赤子の喉を癒した。

 

 

『鯉伴さん、この子を家で育ててもよろしいでしょうか?』

 

 

それから、赤子が放置されていた現場に落ちていた物を回収したり、

伝手を頼って赤子に関する調査をしたものの…

全く手掛かりが掴めずに「どうしたものか」と悩んでいた鯉伴に、

赤子をあやしていた乙女がそう懇願した。

 

ある事情で、生前二人の間には子どもができなかった。

その所為で、乙女に辛い思いをさせた挙句、悲劇の連鎖を生み出してしまった。

オーブとなって再び共に暮らすようになり、あの頃のように幸せな日々を

取り戻しつつある。

 

そんな中、訳アリの赤子が自分達夫婦の前にやってきた。

 

 

『…そうだな』

 

 

乙女が愛おしそうに見つめているその子に、鯉伴も悪いものを感じなかった。

この子がいれば、家がもっと賑やかであたたかくなる…そんな予感がした。

 

こうして、鯉伴と乙女はその赤子を養子として迎え入れた。

性別が女の子で、名前は「縁(ゆかり)」と名付けた。

 

…この子が、自分達と家族としての縁を結んでくれた事への感謝。

 

…この子が、これから成長していく過程でたくさんのいい縁に恵まれて

幸せになれるように。

 

そういう思いを込めて、その名前を授けた。

 

 

◇◇◇ ◆◇◆◇◆ ◇◇◇

 

 

「色々あったが、大きな病や怪我はせずに大きくなったよ。

けどな…ひとつだけ厄介なもんもできた」

 

「ん、どんな?」

「外見も内面も美人に育っちまったから、周りの野郎共がうるさい」

 

渋い表情で理由を語る鯉伴に、ハルはははっと笑う。

 

「でも、気持ちは分かるな。俺もそういう経験したから」

 

ハルは、此処にはいない娘達の事を思い出す。

ついこの間まで子どもだったのに、気付いたら相手を見つけて嫁いでいってしまった。

結婚式の花嫁姿を目にした時の感動と寂しさは…今でも覚えているくらいだ。

 

「おっと、前置きが長くなったな。

すまんが、縁を此処でアルバイトで雇ってもらえねえか?」

 

「えっ…? うちで?」

「ああ、これは俺自身と縁本人からの希望でもある」

 

告げられた依頼内容に、ハルはえぇ~?…と意外そうな表情を浮かべる。

 

「…雇うにしても、一度面接をしてもらう必要があるけれど、大丈夫かい?」

「構わねえ」

「それと…詳しく理由を聞かせてもらえるかな?」

 

鯉伴が娘を【双月文庫】の店員として雇用してもらうように頼んできた事情とは…?

そして、娘である縁本人が店のアルバイトとして働きたい目的とは何か?

ハルの問いかけに、鯉伴はふぅ…と軽く息を吐いて口を開いた。

 

 

「ちょいとややこしい話になるが…聞いてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

(今週、履歴書ともうひとつの用事に関する資料を送る…って

鯉さんが言ってたな)

 

約一週間前の事を思い出しながら、ハルは一階のカウンターで本のリストを

まとめていた。

 

縁の面接に関しては、今週辺りに履歴書を郵便で送ってくれる事となった。

それと別件も頼まれたのだが…その詳細が記載された資料も後日こちらへ

届く予定である。

 

「いらっしゃいませ」

「ハルさん、こんにちは」

 

長い連休も終わり、ハルは通常の業務に戻った。

常連客の方は変わりなく、店に通ってくれている。

ハルが不在にしていた一週間の出来事は、ゲルダやセッタ、常連客の太公望から聞いた。

常連客の一人が他の顧客から強くリクエストされて、昔話を語る面白い展開があったらしい。

 

 

『すみません。話の流れからハルさんの事を話してしまいました』

 

 

三日前に、その語り部であったイルカが事情を語った上で謝罪してきた。

いずれ何らかの形で、家族の件は誰かに話すかもしれないと思っていたので、

特に問題ないと伝えておいた。

 

(…今日も来ているな)

 

本日は木曜日…ドロールがいつも通りやってきた。

グロキシニアは同行しておらず、単独のようだ。

 

「いらっしゃいませ」

「…失礼いたします」

 

いつものように挨拶をすると、ドロールも挨拶を返して二階へ向かった。

 

(今のところは変わった点はなし、と)

 

彼は相変わらず、ハル自身に積極的に話しかける様子はない。

静かに探りを入れているのか…それとも、ただこちら側がアクションをするのを

待っている?

 

(こういう時は…余計な動きをしないに限る)

 

様子見を継続していくか、とハルが脳内で結論を出したその時…

 

 

  カラン、カラーン

 

 

呼び鈴が鳴り響いたので、自ずと入り口の扉へ視線を向けた。

 

「いらっしゃいませ…」

 

挨拶しながら視界に入った人物に、ハルは目を微かに瞬きさせる。

 

「すみません。オーナーの進藤様はいらっしゃいますか?」

 

訪れた人物は、長い黒髪と藤色の瞳が特徴的な女子だ。

学生鞄を両手で持ち、この辺りの学校では見かけないブレザーの制服を着ている。

 

「はい、私ですが…」

「お初にお目にかかります。私、山吹 縁と申します」

 

なんと…!

ハルは内心驚いた。

よもや、履歴書より前に面接の対象者がやってくるとは思いもしなかった。

 

「貴女が縁さんですね。鯉さんからお話は聞いています」

「はい。父がいつもお世話になっております」

 

礼儀正しく、縁は頭を下げる。

言動や何気ない仕草が上品で、傍から見ても良家の御令嬢という雰囲気を醸し出している。

 

「ところで、何故こちらに来たんですか?」

 

「突然の訪問、申し訳ございません。

父からこちらを預かり、届けに参りました」

 

縁は持っていた鞄から大きな茶封筒を取り出すと、両手でそれをハルへ渡した。

なるほど…別件は一般的な方法では渡せない内容みたいだ。

わざわざ身内に持たせたのは、無事に届けられるだけの実力が娘にあるから…だろうか?

 

(深読みすべきか否か…)

 

「あの~…進藤様」

 

思考している最中、縁が話しかけてきた。

おっと、これはいけない。

推察は後回しにしよう。

 

「すみません、なんでしょう?」

「お店の…本を見てもいいですか?」

 

縁からの申し出に、ハルは微笑して「いいですよ」と了承した。

 

「よければ、各フロアを案内しましょうか?」

「はい、よろしくお願いいたします!」

 

店内を見渡す縁は瞳をキラキラと輝かせながら、好奇心を隠せないでいるようだ。

そういうところが微笑ましいな…とハルは思いつつ、一階のフロアの説明をしていく。

 

「マスター、お客様ですか?」

 

ちょうど、階段からゲルダが降りてきた。

 

「ああ、フロアを案内する事になったから此処を頼むよ」

「かしこまりました」

 

受付をゲルダに任せて、ハルは縁を連れて二階へ向かった。

 

 

 

(見かけない人ね。【表】から来たみたいだけれど…)

 

新規の顧客だろうか…と思いながら、ゲルダは受付の椅子に腰かける。

先程、二階の窓から外を眺めたら曇り空だった。

 

(雨は降るかしら…)

 

雨は嫌いではないが、特段に好きという訳ではない。

庭の水やりをせずに済むのは有難いと思うものの、あまり続くと厄介だ。

 

(あらっ…?)

 

仕事の事をあれこれ考えていたその時、店の外にいる気配を感知した。

常連客の誰かだろうか…いや、違う。

 

(ひとり、いえ…二人?)

 

ゲルダは目を細めながら気配を探ると、どうやら二人いる。

一人は以前、この店にやってきた事のある少年のようだ。

もう一人は――――

 

(…ッ! この魔力…まさか…)

 

ゲルダは目を大きく見開き、椅子を倒す勢いで立ち上がった。

ごくっと喉を鳴らすと、慎重な足取りで玄関の方へ行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、少年は此処の常連?」

「う、ううん…来たのは二回だけ」

 

「へぇ~、そうなんだ。…で、店長とはあった事あるんだな」

「うん、あるけれど…」

 

コナンは冷や汗を流しながら、質問に答えていた。

貸本屋【双月文庫】の店長であるハルと再会したのはつい先日の事。

まだ先の話だが、店の宿泊施設を利用する事はもうハル本人に宣言している。

 

此処に足を運んだのは、気になる事ができたからだ。

店長がいたら直接、もしいない場合は店員の誰かに訊くつもりで、

店の門の前までやってきた。

 

だが、予想外の事が起きた。

…そこに先客がいたのだ。年齢は13か14歳くらい。

紺色のパーカーと青系のジーンズを着ている、銀色の髪に翡翠色の瞳の外国人の男子だ。

 

常連客だろうか、と試しに声をかけてみたのがまずかった。

男子はこの貸本屋に興味があるみたいだ。

そのため、店に行った経験のあるコナンにあれやこれやと質問を投げかけてきた。

 

(流暢な日本語を話せているし、日本に住んでいるのかな…この子)

 

「…なるほど。少年は、この店や店長の事はそこまで知らないのか」

「うん。そうなんだ…(少年って、いやいやあんたも同じだろう)」

 

男子の言葉に、内心ツッコみを入れるコナン。

 

「そういうお兄ちゃんは、なんでお店に来たの?」

「えっ、気になるからだよ」

 

今度はコナンが逆に問いかけるが、男子はあっさりと答えてくれた。

 

「気になるって…」

「うん…やっぱ、店に入ろう。少年はどうする?」

「えっ、うん…入るよ」

 

なんだろう…この男子は。

コナンは困惑を顔に露わする。

さっきから、この男子のペースに巻き込まれている気がする。

 

「あっ、そういや名前言ってなかった」

 

男子は、コナンに視線を戻すとこう言った。

 

「俺はエスタロッサ。少年は…名前を訊いてもいいか?」

「江戸川 コナンです」

 

「コナンだな。よーし、じゃあ行こうぜ。相棒」

「あ、ちょっと待って…(おいおい、【相棒】って…会って間がないんですけど)」

 

前言撤回。

実質、振り回されている。

コナンは顔を引きつかせながら、エスタロッサと共に店の門を通った。

 

 

 

 

【訳ありのアルバイト志願者(1)】

 

 

 

 

「…以上となります」

「説明してくださり、ありがとうございました」

 

全てのフロアの説明を終えると、縁は御礼を言った。

 

「縁さんは、本が大好きなんですね」

「はい。小さい頃から読書が趣味でしたから…」

 

会話をしていても、縁が本当に本好きな事が分かる。

若者が敬遠しがちな政治や難しい専門的なジャンルの知識もあり、

ハルがさりげなく振った話題についていけている。

歴史…特に近代の日本史が得意らしく、大河ドラマは毎年見ているそうだ。

 

「そういえば、縁さんはうちでアルバイトをしたいそうですね」

「はい。履歴書は昨日郵送したのですが、届きましたでしょうか?」

 

「いえ、まだ。

昨日投函となると…今日の午後に届くはずだから大丈夫でしょう」

 

そう告げると、縁はほっと安堵の息を漏らした。

 

「大体の事は、鯉さんから聞きました」

「…えっ?」

 

「縁さんがうちで働きたい理由を、そして、貴女が何かに悩んでいる事も…」

 

ハルが言った事に、縁は驚きの表情を浮かべる。

どうやら、彼女は養父がとうに諸事情を説明していた事を知らされていなかったようだ。

 

「父様、なんで…」

 

「鯉さんは、貴女の事を凄く心配していた。

だから、貴女を此処で働かせるために…

表向きの志望動機だけでは、俺が納得しないと思ったんだろう」

 

動揺する縁に、ハルは真面目な表情でさらにこう続けた。

 

「もし許可をもらえるなら、教えてくれますか?

縁さんが抱えている悩みについて…聞かせてください」

 

ハルの要望に、縁は少々逡巡するが…意を決したように口を開いた。

 

 

「お願いがあります。

今から言う事は…できれば、父と母には内緒にして頂けますか?」

 

「もちろん。貴女の意志を尊重します」

「…ありがとうございます」

 

 

そして、縁は語り始めた。

両親にもまだ打ち明けていない…ある秘密について。

 

 

 

【つづく】




※少しネタバレすると、縁さんはオリキャラではありません。

※次回以降は、不定期の投稿となります。
時間がかかると思いますが、ご了承頂けると幸いです。
  
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