多重クロスオーバー形式連載 第38話。
前回の続きで、縁が抱える秘密を告白する話。
後半はゲルダさんsideの話になります。
※前半は、縁の回想話となります。
※十戒の一人が変身しています。
※外伝連載を含める当サイトの小説内のエスタロッサは、原作とは大きく
乖離する設定(【エスタロッサ】≠『マエル』)となります。
原作沿いを好まれる方は、お読みになるのは回避する事をお勧めします。
「…3歳の頃でした。私は初めて夢を見ました」
当時、養母である乙女による絵本の語りを聞きながら、うとうとと眠りについた。
縁が目を開くと、見た事のない場所にいた。
…ここはどこだろう?
自分の住む屋敷とは異なる違う家だった。
縁は養母を探そうと歩いていると、誰かの叫び声がした。
女の子が化け物に襲われそうになっていた。
縁は恐ろしいあまり動けないでいた。
女の子は化け物に殺される…一歩手前で難を逃れた。
一人の人物が…その子を助けたのだ。
とても大きな体の男の人だった。
けれども、その人の顔は真っ黒な影に覆われて見えなかった。
でも、女の子が助かって「よかった…」と安堵した縁は意識が遠ざかっていった。
『縁、大丈夫?』
目を開けると、乙女が心配そうに縁を声をかけてきた。
後から聞いた話だと、寝ていた縁は魘されていたそうだ。
怖い夢を見た事を素直に話したら、養母は優しく抱擁して慰めてくれた。
「次に夢を見たのは…5歳の誕生日を迎えた時でした」
視界に映ったのは、どこか懐かしい町の風景だった。
甘い匂いにつられて歩いていると、昔ながらの甘味を取り扱うお店に着いた。
その中に…成長したあの女の子がいた。
女の子はお洒落な着物を身に纏い、白玉団子入りのお汁粉を美味しそうに
味わっていた。
『■■■君は…その子の事、本当に大切に思っているのね』
女の子は優しい声音で、向かい側の席に座る人物に話しかけた。
浅い黄みがかった赤色の髪の青年で、頬の所に薄らと傷跡があった。
『あいつは、もっと自信を持つべきだ。なのに…』
会話のところどころが聞き取りづらかったため、詳細は不明だが…
女の子は青年の悩みを聞いてあげている事は幼い縁にも理解できた。
『◇◇◇、ありがとう。話を聞いてくれて…』
『うふふ、美味しい甘味をご馳走してくれるなら、いつでも相談に乗ってあげる』
二人のその会話の直後に、縁は目を覚ました。
女の子は、友達と仲良く平穏な日常を過ごしていた。
その事に胸がじんわりと温かくなって…気付いたら涙が零れ落ちていた。
「それから、不定期に…私はその女の子の夢を見るようになったんです」
場所はその都度変わり、縁は色んな人の姿やその出来事を…
まるで、テレビのドラマの現場を遠目から見物するように…視聴する事となった。
内容は同じ人が何回か出てきたり、一話きりのゲストのような人々が登場したり…
とパターンがある。
ただひとつだけ、共通点がある。
―――必ず、どの場面にもその女の子がいる事だ。
「その女の子…もしかしたら、私の家族なんじゃないかと思うんです」
「その根拠は?」
「顔が似ているんです。それと…」
「他にも何かあるんですね?」
ハルが聞き返すと、縁は小さく首を縦に振る。
「多分、その人が暮らしていた…いいえ、生きていたのは
この世界ではありません」
「…! そうなると…貴女は異世界から何らかの原因で
この世界に落ちてしまった、と推測しているのか」
はい、と縁は瞼を閉じて顔を少し俯ける。
「夢の中の彼女は…この世界で言えば、百年前位の日本のような国で
生きていたみたいです」
当初、縁は『過去の時間軸から、自分はタイムスリップしたのでは…』と
思っていた。しかし、調べてみて違う事に気付いた。
「夢の中の情報と、こちらの日本で起きた過去の出来事が一致しないところが
あったからです」
「なるほど…だから、此処とは違う歴史を辿っている異世界だという仮説に
辿り着いたんですね」
聞けば、縁は鯉伴の伝手を頼らずに自力でその事実を突き止めたようだ。
彼女の情報収集能力と行動力に、ハルはすごいな…と感興を覚える。
「『自分が何故この世界に来てしまったのか、その原因を突き止めたい』
それが、貴女が当店に勤めたい真の志望動機…という事ですか?」
「はい、その通りです」
祈るように手を握る縁。
その表情は懺悔室で、己の秘密を告白する人のように真摯なものだ。
「この御店には、異世界の書物がたくさんあると伺いました。
その中に…私の故郷の世界の情報があると思ったんです」
「でも、それなら顧客として訪れても普通に閲覧できますよ。
わざわざ、当店のアルバイトにならなくてもいいのでは?」
ハルの指摘に、縁は「やはり、隠せませんね」と微苦笑する。
「父から、進藤様のご活躍を幼い頃からお聞きしていました。
この貸本屋の経営をしている傍ら、世界の壁を越えて人助けをして
いらっしゃると…」
「って…鯉さん、その事も話していたのか」
副業の事は、色んな理由で従業員や常連客の一部を除いて内緒にしている。
まさか、こういう形で…協力者の娘ではあるが…一般人に知られてしまうとは。
面倒くさい事になりそうだ、とハルは軽く溜息を漏らした。
「進藤様は、副業の際は従業員を同行させる事があるとお聞きました。
それで、アルバイトでも実力を認めてもらえたなら、副業の手伝いも
できるのではないかと…狙っていました」
縁は素直に告白してくれた。
彼女は、自分の故郷を探すために副業に携わる事で異世界へ渡ろうとしていたのだ。
「確かに、依頼内容に応じて従業員を連れていく事はあります。
ただ…勘違いしているようなので説明させてもらうと、連れていくのは
俺の信頼している仲間であり、眷族でもある二人だけですよ」
ハルが副業の際に同行させるのは、眷属限定と決めている。
強い要望があっても、実力があろうとも、異世界渡航の経験がない
アルバイトを連れていくなんてとんでもない事だ。
厳しいようだが、これはハッキリ言っておかないといけない。
「貴女の気持ちはお察しいたします。
でも、俺はお世話になっている人のご家族を危険な目に合わせるなんて
真似はできません」
「…そうですか」
ハルから明確に却下されてしまい、縁は残念そうに目を伏せる。
「貴女が夢の事を、鯉さん達に秘密にしているのは
心配させたくないからですか?」
「…はい」
血の繋がりはないが、鯉伴と乙女は縁の事を実の娘のように愛情を注いでくれた。
縁も二人の事を両親として慕っている。
だが、縁は知っている。
過去に、鯉伴と乙女の身に起こった悲劇の事を…。
鯉伴に仕えている従者のひとりが教えてくれた。
二人…特に乙女にとって、縁は思っている以上に心の拠り所となっている。
もしも、縁に何かがあれば…乙女は憔悴してしまう、と従者が断言するくらいだ。
「それでも、このままずっと真実を見つけずに、目を背けている事はできません。
私は自分が何者なのか…
あの夢の中に出てきた人が、今もあの世界で生きているのかどうか
…知りたい」
縁は切実な願いを吐露した。
(自分が何者なのか、知りたい…)
先程から、縁を見ていて既視感を覚えていた。
そして、彼女の言葉を聞いてその答えがハッキリした。
(そうか…彼女は、あの時の『俺』と似ているんだ)
かつて、ヴァイスハルトだった頃…自分の存在意義について悩んでいた。
今振り返れば、ああいう時もあったな…と思い出話として片づけられるが、
当時の自分にとっては重大な問題であった。
自分が生まれた本当の故郷と、意味を知りたい。
でも、今の居場所がなくなる事が怖い。
誰にも秘密を打ち明けられない孤独。
それがどんなに辛い事か…ハルは知っている。
(もし、前世の事を早い段階で打ち明けていたら…変わっていたかな)
こういう時、つい自分の選ばなかった…IFの物語を思い浮かべてしまう。
あの時…違う選択肢を取っていたら、今でも同胞のもとにいられただろうか?
(…考えても無意味だな。俺はもう選択してしまったんだから)
雑念を振り払うように、首を緩慢に振る。
正直に言うと…副業の件を抜きにしても、縁を店で雇う事に躊躇いがある。
通常の業務に関しては覚えて行けばいい。
常連客も余程の事がない限りは、新米の従業員であろうと見守ってくれるだろう。
問題は、突発的にやってくる異世界からの迷い人だ。
常識的な人物ならいいが、人格的に問題があるタイプが迷い込んできた場合…
ハルを含める慣れている従業員がいない時、縁が関わったら危害を加えられる
危険がある。
(でも、縁さんにはまだ選択肢はある)
此処で穏便な形で辞退を促す事は簡単だ。
でも、縁の意思を無視する形で選択を制限する事は…
果たして正しい事なのか?
(いや…決めるのは、彼女自身だ)
ハルは顔を俯けている縁へ視線を戻す。
「副業に関わらなくても…当店の試験を受けますか?」
その問いかけに、縁は顔を上げた。
「今回の事は、当店の情報を一部公開したものとして受け止めてください。
元々、履歴書が届いたら試験の日程をお知らせする予定でした。
もし、辞退したいのであれば…此処で返答してもらえると有難いです」
「受けます!」
縁は大きな声で即答した。
瞳に宿るのは「諦め」の感情ではなく、困難に立ち向かおうとする【闘志】だ。
(うん、いい目をしている)
思っていた以上に、縁は打たれ強いようだ。
よかった…という安堵の気持ちから、ハルは口元に緩く弧を描いた。
「それではこちらにサインをお願いします」
(マスター……大事件です…!)
内心、戦慄のツイートをしているゲルダはそれを表に出さずに
にこやかに新規の顧客に名簿を差し出した。
「はーい」と銀髪の少年は軽く返事すると、さらさらと名簿に
名前を記入した。
―――『Estarossa(エスタロッサ)』
その名前を目にしたゲルダは、目眩がしそうになった。
実際は顔を見た瞬間から、もう予感していた。
(十戒の一人…【慈愛】のエスタロッサ)
魔神王の二番の実子であり、次期魔神王候補の一人であったにも関わらず、
自ら継承権を放棄した変わり者。
そして、ゲルダの恋人であった…【彼】の兄の一人。
(私の記憶にある姿と違うのは…どういう事かしら)
直接会った事はないが、ゲルダは戦場でエスタロッサを何度か目撃した事はある。
しかし、その当時の彼の容姿は二十代の青年であった。
視界に映る姿は十代前半の少年であるが、その身に宿る魔力は間違いなく
あの時と同じ。
経緯は不明だが、封印されている間に変身する術を身に着けた可能性は高そうだ。
「お客様は、どのようにして当店をお知りになりましたか?」
「なか…友達の一人が教えてくれた。
それから興味が増してきて此処に来たんだ」
「そうでしたか…」
その友達とは、間違いなくドロールの事だろう。
当の本人も店内にいるが、エスタロッサが此処に来た事と何か関係があるのだろうか?
「コナン君は、こちらの方と友達なのかしら?」
「ううん。さっき、お店の外で初めて会っていっしょに入ってきただけだよ」
共に来店したコナンにさりげなく質問してみると、コナンは首を横に振って
否定した。うん、なんとなくそうじゃないかと思った…とゲルダの予想は
当たった。
「ゲルダさん。今日、店長さんはいる?」
コナンの口から出た質問に、ゲルダの心臓はキュッとなった。
質問に答えるのは構わない。
問題は…傍にエスタロッサがいる事だ。
「今、別の部屋でお客様と話をしている最中なの。
時間がかかるかもしれないわ」
遭遇する確率を減らすために、ゲルダは頭を働かせて「来客中である」と告げた。
「そうなんだ…どのくらいかかりそう?」
「ごめんなさい、私にも分からないの」
微苦笑してコナンに謝りながらも、ゲルダはエスタロッサの様子を
こっそり観察する。
あちらこちらと店内に視線を巡らせている。
その目は、探求心に満ちた子どものような純粋なものではない。
敵陣内を注意深く探ろうとする間者のような…鋭利な光を宿していた。
「…? ねぇ、エスタロッサお兄ちゃん」
「…ん、なんだ?」
コナンが不思議そうに声をかけると、エスタロッサは愛想よく笑みを浮かべた。
なかなかの演技派だ、とゲルダは感心する。
「僕は二階に行こうと思うんだ。お兄ちゃんはどうするの?」
「あぁ~…そうだな、一階の本棚を見て回ろうかな」
「そう、じゃあ此処でお別れだね」
「おぅ、またな。先に帰ってもいいから、遅くならないようにしろよ」
「うん、ありがとう…(なんか気になる言い方だな…というか、
また会う事前提なのかよ)」
心の中で軽くツッコみを入れつつ、コナンは二階へ向かった。
その姿を見送ると、エスタロッサの視線はゲルダへ移った。
「ご案内をいたしましょうか?」
「いや、自分で回りたいからミニマップだけでいいよ」
そう言って、エスタロッサは置いてあるミニマップの用紙を指先で摘まむと
そのまま奥へ歩を進めていく。
少年の姿が見えなくなるのを見計らい、ゲルダは足早に階段を昇っていった。
【訳ありのアルバイト志願者(2)】
上の階へ急ぐゲルダの様子を…エスタロッサは本棚に隠れて見ていた。
「あの女…吸血鬼族の生き残りか」
店に入ってゲルダを目にした時、エスタロッサは彼女の正体に気付いた。
大昔に戦場で、同様の魔力をたびたび感知した事があったからだ。
さてさてさーて、面白い事になってきた。
どうやら、この店の主は今までのヴァイスハルトの血族以上に
心を引き付ける存在のようだ。
ワクワクしながら、エスタロッサは上へ行こうとした…
「待ちなさい」
だが、ある人物に腕を掴まれてしまって阻止されてしまう。
大いに眉を寄せて、エスタロッサは不満たっぷりな顔をその人物へ向ける。
「なんだよ、ドロール…邪魔すんな」
「お断りいたします」
エスタロッサの文句と漂う殺気に怯む事なく、ドロールは毅然とした態度で
否と返す。
「はーなーせーよー!」
「ダメです。こちらに来てください」
よりにもよって、厄介な奴が来てしまった。
ドロールは盛大に溜息をつくと、ブーたれる仲間を引き摺りながら
人目のつかない場所へ向かった。
【つづく】