【Brand new page】の番外編(4)
※『七つの大罪』のある勢力の物語(4)
※ある人物(エリザベスの実母)視点で話が進みます。
※特定の種族(魔神族)に対して、差別的・不快な表現があります。
お読みの際はご注意ください。
※この話は好みが別れる内容となっています。
人によっては不快な気分にさせてしまう可能性があるので、お読みの際はご注意ください。
『生まれ変わったら…今世と同じように自分の好きな生き方をしたい』
かつてのアナタはそう言った。
あの時の台詞は…今でも記憶に刻まれている。
異世界に迷い込み、力を制限され、姿形まで変わらざる負えなかった「私」を
救ってくれたアナタ。
アナタは数奇な運命を背負っていた。
【最初のアナタ】は、どのような存在だったのかは分からない。
けれども、アナタにとって特別なものであった事は傍から見て察していた。
アナタの中では【最初のアナタ】の記憶が、異なる世界で生きた【別のアナタ】の
記憶と共に存在していた。
―――幾度となく転生を重ねてきた『魂』
あの時のアナタは、世界を股にかける『治癒術士』として【14回目】の人生を歩んでいた。
その世界の流れに大きな影響を与えた人物として名を残し、多くの者達に慕われていた。
アナタは【14回目】の生を終える前に、ささやかな希望を口にした。
いずれ、星の大海に数多くある世界のひとつで生まれ変わる
…その時に、自分の願いが叶うように。
アナタが【14回目】の人生に幕を下ろした後、私は元の世界に帰還した。
力を取り戻した私は、内政に取り組んだ。
敵対部族との些細な小競り合いが続く中、体制の見直しや同胞達の育成に力を入れていく。
争いを失くす事、全ての敵を消す事は不可能だ。
それでも、一時的にでも…停滞の時間を生み出す事はできる。
いずれ、この世界に生まれ落ちるだろう【新しいアナタ】が力を開花させるまでの間だけでも
…束の間の平穏を過ごさせてあげたい。
アナタがいなくなった後、あの世界の導き神と取引をした。
アナタが【15回目】に…新しく生まれ変わる場所を、私の故郷である世界にしてもらう事。
世界の変革のために、アナタの手助けをした貢献と多少の知識を対価として。
『これだけは約束してください。
【あの人】がどんな種族になろうとも、かつてと違う人になろうとも…
決して【あの人】の生き方を否定し、心を壊すような所業はしないでほしい』
去り際に、あの世界の導き神がその言葉を送ってきた。
…【忠告】というべきだろうか。
私と彼の者は敵対関係になりうるほど、険悪だったわけではない。
ただ、彼の者とは一定の距離までしか歩み寄れない境界線があった。
世話になった事には感謝の念はあれど、世界の枠を超えてまで心を通わせる気にはなれなかった。
何年…何百年か経過した頃。
とうとう『その時』が訪れた。
複数の色の光の粒子を流しながら、見る者を魅了する美しい輝きを放つ【魂】
そう…紛れもないアナタだった。
【魂】はふわりと舞い散る粉雪の如く浮遊しながら、探索をしていた。
探しているのは…器となる【肉体】を生み出す者。
あの時点で、私が縁結びした同胞の夫婦はいくつもおり…
新しいアナタを生み出すための母体は既に準備していた。
だから…後は、優しくアナタの【魂】を誘うだけだった。
私とした事が迂闊だった。
邪魔をする者の気配に気付かないなんて…。
【魂】を誘導するため…手を差し伸べようとした際に、天空から数条の太い雷が降り注いだ。
アナタは雷撃の威力で、どこかへ飛ばされてしまった。
あれほど、精神がかき乱された出来事はない。
妨害をした者は誰なのかは、判明している。
忌まわしき敵対部族の王であり、世界の異物共の長である…あの男だ。
沸々と湧き上がる負の感情を制御しながら、私はアナタの行方を探した。
アナタを見つけるのに時間がかかってしまった。
幸いな事に、【魂】は同胞の夫婦を次の肉親に選んでいた。
縁結びした一組で、良人の方は城で護衛兵を務めている者だ。
護衛兵の令室は、その時二人目の子を体内に宿しており、案の定「アナタ」だった。
かつての…【14番目】のアナタは血縁者に恵まれなかったと言っていた。
安心しなさい、【15番目】の肉親はまだ見ぬアナタの事を愛している。
今世では、温かい家庭で健やかに育まれる事になるだろう。
順調にいけば、アナタはいずれ私の元に来る事になる。
次代を担う長となる私の娘…エリザベスの側仕えに任命するつもりだ。
―――早くアナタに会いたい。
あの頃の記憶はなくとも、新しいアナタをこの手で抱きしめてあげたい。
もう遥か昔となった…【あの時】に交わした約束を今こそ果たすのだ。
…なんという事だ。
異変に気が付いたのは、アナタが生まれる二月前。
母体にいるアナタが順調に肉体が成長している反面、【魂】の力が弱くなっていた。
―――【魂】の一部が喪失していた。
おそらく、あの男が放った雷撃の所為だろう。
胸を支配するのは、激しい怒りと深い憎悪。
危うく力を暴発させる寸前まで感情が高ぶっていたが、それを抑止できたのは
…アナタのおかげ。
【魂】が七割方を失っていてもなお、アナタの生命の光は消えていなかった。
もとの【魂】が強力だった事もあり、三割の状態でも消滅せずに済んだのだ。
けれども、油断はできない。
不完全な【魂】の影響が、どんな形で影響を及ぼすか分からない。
…腹部を撫でるアナタの実母。
…慎重な手つきで母の腹部を触り、妹の誕生を楽しみに待っているアナタの兄にあたる子ども。
嬉しそうにアナタが生まれ出るのを待ち望む母子の姿に、胸に痛みが生じた。
そして、時が来た。
『現で目覚めず、夢の領域でしか行動できない』という運命を背負い、
この世界の…【15番目】のアナタはこの世に生まれた。
生後間もないアナタと対面した時、私の心は正負の感情が入り乱れていた。
…今世のアナタとようやく出逢えた喜びと幸せ。
…重たいハンデを背負わせてしまった罪悪感と己への怒り。
それでも歓喜の気持ちが上回り、同時に私は新たな決意を固めた。
「この娘の名は『ミスティリア』、これより私が後見人となりましょう」
【15番目】のアナタ…『ミスティリア』
この子の七割の魂を見つけ出し、必ずや完成させてみる。
その間に、夢の領域にいる『ミスティリア』を育てていかねばならない。
手始めに…夢渡りの力を扱える同胞を増やしていこう。
【女神族の長の目論見】
「先日の調査の件ですが…ミスティリアは至って健康で異常はありませんでした」
側近の一人…リュドシエルの報告に耳を傾ける。
ミスティリアは、現と夢の領域の双方で着実に成長している。
現にある肉体と、領域内にいる精神体の姿は顔を除くと異なっている。
特に、髪色は【14番目】の頃のものと同じだ。
時折、笑顔を浮かべる姿に既視感を覚えてしまう。
だが、懸念がいくつかある。
あれは、夢の領域にいるミスティリアの精神と初めて会った時の事。
…人間の年齢で6歳を迎えた頃だった。
『はじめまして、ウタです!』
厄介な事に、ミスティリアの精神体は既に名前を授けられていた。
初めに彼女を発見した配下の者が、慌てて「違いますよ…ミスティリアです!」と
小声で訂正するように促していた。
そんな些細な事すら気にならないほどに、私の中には不安と疑問が渦巻いていた。
この子に名を与えた人物がいる。
それは即ち、ミスティリアの夢の領域内に自由に入り込める能力者がいる事を意味する。
精神体の彼女は、『ウタ』という名の方を真名にしてしまった。
真名を授けた人物はミスティリアの事実上の主であり、彼女はその者の意向を
尊重しなければならない。
…頭が痛くなる案件だ。
幸いなのは、ミスティリアが自らを【女神族】であると自覚しており、
私を一族の長として敬意を払っている事。
コンタクトをとって以降、時間が空いたら彼女に会いに行っている。
幼い娘のエリザベスとの顔合わせも済ませた…二人とも、絆を深めているようだ。
「それから…」
「他に何かあるのですか?」
「ミスティリアの領域内を行き来している侵入者に関して、判明している者達の
一覧をまとめました」
リュドシエルが、先日依頼した仕事の結果を報告した。
「大半は無害な者ですが…一部、闇に属する種族や性格面で問題があるやもしれない
人物が徘徊しておりました」
幼いながらもミスティリアは、自身に危害を加える対象者を察知しているようで、
危険人物は領域内へ入れぬようにしていると言っていた。
しかし、内に強い魔力を秘めているとはいえ、彼女はまだ未熟だ。
それ故に、現時点でミスティリアの力を上回る者であれば、領域内に侵入されてしまうようだ。
『だいじょーぶです!
ぬしさまやエリーちゃんたちがこわくないように、ブラックリストの人は帰してます』
私達に遠慮して、ミスティリアは自力で危険人物を追い返している。
他人に迷惑をかけたくない思いが強いのだ、あの子は。
ただ、別の見方で捉えれば…まだ私達は信用されていない事になる。
「…その問題のある者達を見つけ次第、監視しなさい。
少しでも怪しい動きをすれば…分かりますね?」
「承知しました」
リュドシエルが退室した後、寝台で眠るミスティリアに視線を向ける。
…アナタは、私達に完全に心を許していない。
ほんの些細な事でも、時によって大事に繋がってしまう事もある。
「どうすれば、心を開いてくれるのかしら?」
ミスティリアの薄い金色の髪を指先で撫でながら、私は問いかける。
「願わくば【14番目】のアナタの時のように…」
胸に抱く淡い期待と消えぬ不安。
アナタが味方であり続けるように…
今日も、私は眠るアナタに言霊を送る。
【おわり】