Brand new page   作:ねことも

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【Brand new page】の番外編(5)

※主に『七つの大罪』の登場人物(メリオダス)視点の物語。
※メリオダスの幼少期の描写は、この小説内の想像の産物です。

※この小説では、魔神王は本来の姿とは別の姿へ変身できる設定にしています。
※オリキャラが登場します。

※【説明・注意事項】にも記載しましたが、この連載のエスタロッサは、原作とは大きく乖離する設定となります(エスタロッサ ≠ マエル)。
今回、どういう経緯で【エスタロッサ】が生まれたのかが明らかになります。


原作沿いを好まれる方は、お読みになるのは回避する事をお勧めします。
  


魔神族の王子の回想

 

昔話を語ろうか。

あれは人間の年齢で言えばどのくらいか…

ともかく、俺はまだまだ世の中なんて知らねえ純粋な子どもだった。

 

小せえ子どもは遊ぶ事が大好きだ

…そんな事はどの種族でも共通だろう?

 

だけど、俺の身分は王族であり、魔神王…親父の跡取り息子だ。

学ばなきゃならねえ事がいっぱいあった。

剣や魔法の実技ならまだマシだったが、座学なんて退屈だった。

 

椅子に大人しく座って、世話役のチャンドラーの長ったらしい話を聞くなんて

暇で暇で仕方ねえ。

 

「坊っちゃん! ぼっちゃーん! どこにいるのですかー!?」

 

だから、俺は座学の時間をちょいちょいサボって遊びに出かけた。

最初はチャンドラーの追跡を避けるのに必死だったが、すぐに慣れて難なく

身を隠せるようになった。

 

「あ、メリオダス様」

「おー、カルマディオス。ごくろー」

 

「どこに行かれるんですか?」

「息ぬき」

 

途中で上位魔神達と遭遇しても、挨拶そこそこに素早く移動していく。

俺に「勉強はどうした?」とか訊く奴なんて、そうそういない。

親父か、チャンドラーと同じ側近の奴らぐらいだ。

 

「今日はここにするか…」

 

隠れ場所の中でも一番居心地がよかったのは、城にいくつかあった空き部屋だ。

本来なら使用人が使う部屋だが…結婚を理由に家庭に入る者もいて、部屋が空く事なんて

珍しくなかった。部屋は必要最低限の家具やベッドしかなかったが、俺にとっては

ちょうどいい隠れ場所だった。

 

「ふぅ…自由だぁー」

 

ベッドで寝転がりながら、何気なく声を出してみる。

どうせ…束の間の自由時間だ。

暫くしたら、チャンドラーがやってきて軽々と片手で抱きかかえて連行される。

説教のフルコースの後で、課題を追加されるのが目に見えている。

 

それでも、この時の俺の中に「サボらない」という選択はなかった。

そうしなければ、精神的に限界がきてしまうと幼いながらも分かっていたのだ。

 

 

 

「…さま、メリオダス様」

 

横になってゴロゴロしていると、いつの間にか眠っていた。

名前を呼ばれて、目を開けると…いたのは師ではなく一人の若い女だった。

 

「…だれ?」

 

「お初にお目にかかります、メリオダス様。

本日からこの部屋を使わせて頂く事になりました『クローディア』と申します」

 

新しい住人がいつのまにか、部屋に来ていた。

その人物…クローディアが言うには、番である旦那の都合で城に住む事になったようだ。

水色のウェーブがかった長い髪、幼かった俺から見ても美人で、血生臭い戦いとは

縁がなさそうな優しい雰囲気の人だと思った。

 

(おっきい…)

 

その上、男心を刺激しそうな豊かな双丘の持ち主だった

(誤解しないでほしいが、俺の好みはエリザベスだけだ)。

 

クローディアは、無断で爆睡していた俺を叱る様子もなく、

「まだ眠っていても大丈夫ですよ」と気遣いの言葉を返してくれた。

 

「いーよ…もう目が冴えちまった」

「あらあら」

「これからどうするか…ん?」

 

背伸びしていると、クローディアの後ろに籠がある事に気付いたんだ。

 

「それは…?」

「あぁ、もう一人紹介しなくてはなりませんね」

 

クローディアは手で籠を引き寄せると、俺の視界に入るように籠の中身を見せた。

 

「あっ…」

 

籠の中には小さい赤ん坊がいた。

ふさふさしたした黒みがかった銀髪に、ふっくらした体。

初めて見る赤ん坊に、俺はもっと近くで見ようとベッドから降りて籠に近づいた。

 

「息子の『ヴァイスハルト』です」

「ヴァイス、ハルト…」

「今年の夏に生まれた子です。名前は夫と考えてつけました」

 

クローディアの説明は一応耳に届いていたが、それ以上に俺は赤ん坊…ヴァイスハルトに

目が釘付けだった。そぉーと人差し指で頬を押してみた。

 

「おぉー…」

 

…柔らかかった。

ぷにぷにと何度も頬を触っていると、ヴァイスハルトが薄らと目を開けた。

漆黒色の大きな瞳が、俺を捉えると触れていた指を掴まれた。

 

「ふふ、ヴァイスはメリオダス様の事が気に入ったようです」

「…そうなのか?」

「あの人…夫が同じ事をすると、泣いてしまうんですよ」

 

クローディアの夫は、普段から息子の事を溺愛していてしょっちゅう頬などを

触っているらしい。調子に乗りすぎて、ヴァイスハルトを泣かしてしまい、

その都度クローディアが叱っている事を本人が教えてくれた。

人差し指を掴まれたまま、俺はヴァイスハルトを見つめる。

 

「あー」

 

まだ言葉を喋られない赤子は、俺を見ても怖がらず笑っていた。

それが俺にとって驚きであり、嬉しくもあった。

 

「今日のヴァイスはご機嫌ね。メリオダス様のおかげですね」

「…そうかな」

 

クローディアの言葉に、俺は胸がくすぐったい気分になった。

小さな手で包まれた指は温かくて…気付いたら笑みを零していた。

それから、すぐに迎えに来て連れていかれる間際まで『赤ん坊に夢中になっていた』と

チャンドラーが言っていた。

 

「ヴァイス、またな」

 

それが…俺とヴァイスとの最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

それから俺は座学や修行が終わったら、真っ先にヴァイスがいるあの部屋へ行くようになった。

 

「きたぞー」

「あーい」

「ヴァイスは今日も眠たそうな顔してるなぁ」

 

頬を指で触りながら、俺はヴァイスに話しかける事が多かった。

傍にはクローディアがいて、ヴァイスが泣き出したりするとすぐに対応してくれた。

飯を食べさせたり、おしめを取り替えたり…俺もちょっとだけ手伝う事もあった。

 

「ほーれ、よちよち」

「うーあー」

 

ヴァイスと一緒にいると、不思議と気分が落ち着いた。

辛かったり、苦しい事があったり…心が荒む事が何度かあった。

その度に、あいつがいてくれたおかげで癒されたんだ。

 

「ほーら、たかいたかーい」

「きゃっ、きゃっ」

 

いつの間にか、ヴァイスハルトと過ごす事が日常の一部になっていた。

その事が当たり前だと思うようになっていたある日…

 

「坊っちゃん、このところ配下の嫡子を気にかけておられるようですね」

「…うん、それがどうした?」

 

剣術の指南を受けていた際に、チャンドラーがヴァイスの話題に触れてきた。

もしや「必要以上の接触はやめろ」とか言われるのだろうか、と嫌な予感が

胸をちらついた。

 

「その者は…坊っちゃんの目から見て特別なものを感じましたか?」

 

だが、意外な事にチャンドラーはヴァイスに関連した別の質問を投げかけてきた。

 

「…まだ断言できないけれど、ヴァイスは伸びしろはあると思う」

 

俺はその時点で、素直に思った事を伝えた。

ヴァイスには、何か光る素質があるのは確かだった。

すると、チャンドラーは顎に手を当てて暫く考え込むと…

 

「分かりました。坊っちゃんの意見、参考にさせていただきます」

「さんこうって…?」

「まぁまぁ、その事はさておいて…さぁさぁさぁ~、授業を再開しますぞ!」

 

うまくはぐらかされてしまった。

あの時、チャンドラーが何を考えていたのか?

…その詳細を知るのは、もうちょい先の事。

 

 

*** ***** ***

 

 

それから三日後、ヴァイスに会うために部屋を訪れたら…先客がいた。

 

「メリオダス、か」

「!?……父上…」

 

―――親父だった。

本来とは別の、働き盛りの壮年の男の姿となっていた。

年を重ねた俺自身を連想させる…そんな容姿だった。

 

親父と向き合う形で、クローディアは心配そうな表情を浮かべていた。

俺の視線は、変身しても背が高い親父から…クローディアが見つめる先へ移った。

 

「ヴァイス…」

 

ヴァイスは、親父の腕に抱かれていた。

赤ん坊なのに濃い闇の気に怯えるどころか、欠伸をしてうとうとしていた。

振り返ってみると…ヴァイスはこの頃から肝が据わっていたように思う。

 

「父上…なんでここに?」

 

俺はストレートに疑問を口にした。

 

「側近から、子の自慢話を耳にタコができるくらい聞かされてな。

あやつの誘いに乗って、その自慢の息子がどんな者なのか…見に来たのだ」

 

「申し訳ありません。夫が恐れ多い事を…」

「構わん。あやつとは長年の付き合いだ、慣れている」

 

夫の無礼を謝罪するクローディアに対して、親父は「気にするな」と返した。

この時、俺は親父に軽口を叩ける関係の配下がいた事…さらに、そいつがヴァイスの

父親だという事に二重の驚きを隠せなかった。

 

「実際に、あやつの思惑に乗ったのは正解だった。この者は見込みがある」

「勿体ないお言葉、ありがとうございます」

 

クローディアが深々と頭を下げる。

彼女と親父を交互に見ながら、俺は胸が騒いでいた。

はっきりしない不安が押し寄せてきて…親父が、ヴァイスやクローディアに

無体をしないかとハラハラしていた。

 

親父は、眠ってしまったヴァイスを見つめながら口端を吊り上げた。

 

 

『○○○、◆◇◇……【忍耀】』

 

 

すると、ヴァイスに向かって呪文を唱えるように聞いた事のない言語を囁いた。

どんな発音だったかなんて、もう忘れてしまった。

ただ、最後の『シヨウ』という部分だけが印象に残っていた。

 

…あの時の親父の顔だけは、今でも覚えている。

懐かしい、此処にはいない親しい人と再会できたような…淡い喜びに満ちていた。

思い返してみると…親父はヴァイスではなく、ヴァイスを通して他の「誰か」と

重ねていたのかもしれない。

 

そして、あの単語はその人物の【名前】を指していたんだと思う。

 

 

 

結局、ヴァイスとは遊べないまま親父と共に部屋を後にした。

俺は、親父の隣を歩いていた。

こんな風に親子二人でいるなんて、今までなかった。

何を話せばいいのか分からなくて、暫く無言のまま歩を進めるしかなかった。

 

「メリオダス」

 

沈黙を破ったのは、親父だった。

 

「お前はどうしたい?」

「ヴァイスのこと…?」

 

「お前の回答次第で、今後の方針を検討する。暇つぶしの話し手なら…」

「ちがう!」

 

親父の言葉に、俺は大いに反応してしまった。

 

「ヴァイスはおれの友達だ。ヴァイスは将来、おれに仕える男にするんだ!」

「くくっ…この父を差し置いて、己の配下にしたいか」

 

「おれが先に見つけたんだ、いくら父上でも譲りたくない!」

「そうか、そうか…その心意気や良し。他の者達に奪われんように精進しろ」

 

からかう口調だったが、親父の目は至って本気だった。

幼いながらも俺は察した。

親父は隙あれば、ヴァイスを自分の手元におくつもりだと…。

 

見え隠れする執着に、背筋に冷たいものが走った。

それを顔に出さないように、俺は虚勢を張るのに必死になった。

 

「ところで…」

 

切り替えるように、親父が別の話題を口にした。

 

「メリオダス、随分と下の世代の同胞達の扱い方が上達したようだな」

「まあ、一応」

「先日、他の上位魔神の幼子同士の争いを止めたと聞いたぞ」

 

あれはたまたまだった。

ヴァイスを背負って、散歩していた時に別の子ども達の喧嘩に出くわした。

 

喧嘩している子ども達は兄弟で、些細な事が原因だった。

でかい声で騒がしくて、ヴァイスが泣き出しそうになったから仕方なく仲裁しただけだ。

俺が根気強く言い聞かせたのが功を奏したのか、兄弟は仲直りできた。

 

和解した後の兄弟は喧嘩の時とは打って変わり、仲良く喋りあっていた。

その様子を見ていると、俺は不思議と穏やかな気持ちになれた。

ヴァイスと出会ってから芽生えた感情…それと似ている気がした。

 

「ヴァイスは…弟みたいなもんか」

「なんだ、弟妹がほしいのか?」

 

親父が意外な顔で聞き返してきた。

言われた事が、頭の中で反芻した。

ヴァイス以外に、弟か妹がいたら…想像したらすごく胸が温かくなった。

 

「…うん、いたらいいな」

 

だから、俺はそう答えたんだ。

「そうか」と親父は呟いただけで、それから特に話をする事なく、

俺と親父はそれぞれの部屋に戻った。

 

まさか、あの時の返答を親父が真剣に受け止めていたなんて思いもしなかった。

 

 

 

それから二年後…

 

「どうだ、新しい家族ができた気分は?」

「うわぁー…」

 

血の繋がった弟…エスタロッサが生まれた。

 

 

 

 

【魔神族の王子の回想】

 

 

 

 

「どうして、同じ名前にしたの?」

 

エリザベスは、膝の上に乗せたご機嫌に尻尾を振る子犬と隣にいるメリオダスを

交互に見ると小首を傾げる。

 

女神族と魔神族…本来であれば、敵対関係である二人は種族の枠を超えて心を通わせている。

その日も秘密の場所…【天空演舞場跡】で二人は逢瀬を重ねていた。

 

そこに辿り着く前に、エリザベスは怪我をした子犬を見つけた。

魔力で傷を癒し、懐いてくれる子犬を置いていけずに此処まで連れてきたのだ。

メリオダスに事情を話すと、子犬に名前をつける事になり…彼が『エスタロッサ』にしたいと

提案してきた。

 

「いや…この子犬見てると、エスタロッサと重なっちまってな」

「そんなに似てるの?」

「まあな…」

 

エスタロッサの事は、エリザベスも名前だけは知っていた。

メリオダスのすぐ下の弟で、【十戒】に匹敵するレベルの上位魔神族の戦士。

容姿も髪色を除けば、メリオダスに瓜二つだと…四大天使の一人であるサリエルが言っていた。

 

「エスタロッサは敵には容赦しねえが、気に入った相手にはとことん心を砕く性格なんだ」

 

赤子の頃から、エスタロッサはメリオダスに懐いていた。

いつも兄の後ろをついていき、その姿は子犬を彷彿させた。

 

「今もそうなの?」

「そうだなぁ、特にヴァイスには…」

 

「ヴァイス…?」

「俺の幼馴染で親友。幼い頃から、ずっと傍にいた【家族】でもあるんだ」

 

メリオダスは穏やかな顔で言葉を続ける。

メリオダスの語りから、彼がどれだけ弟二人やその幼馴染の事を大切に思っているのかが

伝わってきて、エリザベスは自ずと口元が緩む。

 

「あのね…私にも親友がいるの」

「ジェラメット以外に?」

「うん、ちょっと変わってるけど…とっても素敵な子なの」

 

想い人が話してくれた分だけ、エリザベスも話題を提供していく。

政治的な駆け引きや、命を懸けた取引に関わるものなんて一切ない

…年頃の男女による楽しい会話だ。

 

こうして、ささやかな甘い時間を二人は過ごしていき、愛を育んでいった。

 

 

 

メリオダスは知らない。

話題に取り上げられた【幼馴染】が存在した事により、本来の歴史にはいなかった

もう一人の『弟』が誕生した事を…。

 

エリザベスはこの時、想像していなかった。

大好きな親友と仲間の四大天使の一人が、【ある人物】の決断によって大きな運命の渦に

巻き込まれてしまう事を…。

 

そして、彼等はもちろん双方の種族が辿っていく歴史の道筋も

…少しずつ変化してきている。

 

その事実に気付く人物が現れるのは…かなり未来の話となる。

 

 

 

【おわり】

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