Brand new page   作:ねことも

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【Brand new page】の番外編(6)

※第7.5話のハルさんの回想における、別の人物(ペロニア)視点の話。

※作中で描かれている魔神族内の決まり事や動向などは、あくまでこの小説内の
想像の産物です。

※この小説では、魔神王は本来の姿とは別の姿へ変身できる設定にしています。
※【黒の六騎士】の三名が登場しています。
※カルマディオスの口調や性格は、筆者のイメージが多大に含まれています。

※【説明・注意事項】にも記載しましたが、この連載のエスタロッサは、
原作とは大きく乖離する設定となります(エスタロッサ ≠ マエル)。


※話が長くなるため、前編と後編に分けています。
  


左遷宣告の舞台裏(前編)

  

その日、城は緊張に包まれていた。

ペロニアはその空気に圧倒されそうになるが、『記録係』という立場から

気を失わないように努めていた。

 

(あぁー…このピリピリしたのなんとかしてほしいでし)

 

肌を刺激するのは、周囲にいる上位種の魔神族達が放つ気圧。

同じく上位種であるものの、戦闘はどちらかといえば不向きで研究関係に

携わっているペロニアにとってはかなりきつい。

 

(…今年はいつになく数が多いでし)

 

城の一角に、多数の上位魔神族が集まっていた。

このところ、敵部族の襲撃がないため暇を持て余しているからか、

または今回の『舞台』に立つ者達に興味があるのか。

 

どちらにせよ、その主役となる人物達にとっては憂鬱なものだろう。

今日、この場で行われるのは上層部から指名された人物の新しい配属先を

決める一種の会合である。

 

 

けれども、ペロニアは知っている。

いや…ほとんどの魔神族は、この会合の本当の趣旨を理解している。

それぞれ固有の魔力を生かした新しい仕事場へ異動させられる…というのは

建前で、実際は【左遷】宣告のようなものだ。

 

上位魔神の中でも大した力を持たない者、戦や今いる現場で成果を出さない者などが

対象となるこの一種の儀式は、魔神王から異動先を通達される。

 

対象者にとっては、恐怖の時間である。

処刑されるわけではないが、事実上の左遷扱いである事から同胞から

同情や嘲りの眼差しを受けたり、「格下」扱いされてしまう。

 

一族の長から直々に働く場所を指名されるため、断る事も抵抗する事もできない。

…ある種の【地獄】と言える。

 

 

「今年は三人だってよ」

「その内の一人、うちの所のヤツだ」

「オレが所属しているところのもいるぜ…」

 

「もう一人は誰だっけ?」

「それにしても…選ばれちまうとはな」

 

 

ヒソヒソ声…ではなく、そこらの井戸端会議をする婦人の如き、

安定の聞こえやすい音量で話し合っている外野の者達。

 

幹部クラスの者がまだ来ていないためか、遠慮なく声を出しているようだ。

小柄なペロニアは宙に浮いてすいすいと準備を整えつつも、チャームポイントの

ひとつである耳を澄ませて会話を聞き取っている。

 

(対象者が誰なのか、バレバレでしよぉー)

 

喋っている人物とその内容から、今回の左遷の対象者がどこの部隊の者か

…丸分かりである。

 

今回の左遷される人数は三人で、話題に出ていた二人はペロニアも見た事がある人物だ。

双方とも浅い感じの面識だが、可もなく不可もなく…無難なレベルの戦闘員である。

 

性格面はというと…一人はよく言えば【慎重派】で、悪く言えば【臆病な】きらいがある。

もう一人は向上心(野心)はあるが、突発的なアクシデントには弱い。付け加えると

調子に乗りやすい傾向がある。

 

「それにしても…三人目の可哀想な人はだれなんでしかねぇー」

「俺だよ」

「でしっ!?」

 

突如、背後から声をかけられ、ペロニアはビクッと身体を震わせた。

恐る恐る後ろを振り向くと…そこには、黒みがかった銀髪の男性が立っていた。

 

「あれっ、ヴァイス様?…」

「久しぶり、ペロちゃん」

 

よっと右手を上げて、ペロニアに挨拶をしてきた男性。

その人の事は、ペロニアはよーく知っている。

 

「いえいえ、ヴァイス様…こちらこそ御無沙汰しておりますでし!」

 

「うん、随分と外回りをしていたからね。

城も…暫く来てない内に変わったな」

 

質素な外套を纏い、その人は周囲を見回す。

ペロニアが彼…ヴァイスハルトと最後に会ったのは二年前だった。

 

「あにょー、さっき言ってた事でしけど…」

 

「遠方にいる時に、青魔神から呼び出しの手紙をもらったんだ。

ほら、魔神王様直々のサインまで書かれているよ」

 

ぺらりと指先で摘まんだその手紙を見せてくれた。

ペロニアは一度内容にさぁーと目を通して、コロコロと太い指先で両目を擦り、

今度はゆっくりと記載されている文章を見る。

 

最後に書かれている長のサインも、独特の筆跡からみて間違いなかった。

 

 

「…信じられないでし。

ヴァイス様…何かやってしまったんでしか?」

 

 

ヴァイスハルトは魔神族の中でも変わったタイプの青年だが、実力はある。

戦場に出れば、一人で敵部族の一中隊を瞬く間に戦闘不能にさせるレベルの主。

【十戒】を含める他の同胞とも広い交友関係があり、行方知れずであるかつては

次期王の最有力候補だったメリオダスの側近の一人として名を連ねていたくらいだ。

 

現在は単独で任務を行う事が多く、定期的にブリタニアに留まって

調査をしていると聞いている。

 

ただ、ペロニアの記憶が正しければ…

ヴァイスハルトは不祥事や事件を起こす問題対象ではなかったはず…。

 

「うーん、思い当たる節はあるようなないような…」

「えぇ~! どっち…どっちでしか!?」

 

「まぁ、それはさておいて…用事をぱぱっと済ませてくるよ」

 

そう言うと、ヴァイスハルトは同じ対象者二人がいる中央付近へと

歩を進めていく。

 

(気の所為でしか…な、何か起きそうな気がするでし…)

 

参加している他の同胞と軽く雑談しているヴァイスハルトを見ながら、

ペロニアは胸にざわざわと落ち着かない気持ちが広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、幹部クラスの上位魔神族達が次々とやってきた。

声の波が次第に落ち着き、いよいよ会合が開く時間が迫っていた。

 

(うわぁ~…ドキドキしてきたでし)

 

戦であれ会合であれ…本番前と言うのは緊張してしまう。

所定の位置に浮遊しつつ、ペロニアは幹部クラスの面々がいる方を見た。

魔神王直属の近衛部隊【十戒】を含め、実力派の部隊が揃うのは何年ぶりだろうか。

ペロニアの視線は、さらに後方にいる人物達に向いてしまう。

 

(ゼルドリス様と…あぁー! エスタロッサ様がいるでしーv)

 

ゼルドリスとエスタロッサ…長の息子達だ。

三男のゼルドリスは長男のメリオダスと同じく次期王候補の一人であり、

実の父から魔力を借り受け、使いこなす程の実力の主。

 

次男のエスタロッサは、不在である長男の代わりに【慈愛】の戒禁を

引き継いだ現在の十戒の中心人物である。

 

定期的な行事にほぼ出席しているゼルドリスに対して、

エスタロッサはあまり参加しない。

 

そういった事に興味が薄いのか、単に面倒くさいのかは不明だが…

エスタロッサが珍しくいるという事は、この会合にそれだけ

注目しているのだろう。

 

(はぁー、フェロモンむんむんでし…目の保養、目のホヨウ~v)

 

つい前までは可愛らしい美少年の姿であったが、すっかり端正な顔立ちの

青年へと成長した。人間年齢で言えば、二十代辺りだろう。

 

万人とは一線を画した強者であるのは勿論、触れると侵食してしまいそうな

闇を纏っている。その圧倒的な存在感と共に、黄土色の軍服からちらりと

見える鍛え抜かれた肉体美…危険な香りを放つ、色気のある男の魅力が

自ずと伝わってくる。

 

そんな彼は、上位種の年頃の娘や妙齢の女性の間で人気が高い

…ペロニアもその一人だ。

 

(えへへ、間近でみれるなんて……ッ!)

 

テンションが高くなっていたペロニアの背筋がゾクッと寒くなる。

彼女だけでなく、この場にいる上位種全体に戦慄が走る。

 

 

『皆の者、此度はよくぞ集まってくれた』

 

 

空間が裂け、漆黒色の渦が巻き始める。

そこから低い声が響き渡るや、最上位魔神を筆頭に片膝をつき、

忠誠の姿勢を取る。ペロニアも慌てて首を垂れる。

 

 

渦は大きさを増していき、そこから巨大な闇が出現し、

それは徐々に人型を形成していき、壮年の男性の姿となった。

全魔神族の頂点に立つ一柱…【魔神王】だ。

 

禍々しくも、周囲を傅かせる覇気の主は全体を見渡すと再び口を開いた。

 

「では、始めよう…」

 

魔神王からのその言葉を合図に、会合が始まった。

まずは、各部隊の進捗状況などの報告から。

それから、部隊毎のまとめ役が問題点などを討論していき、

改善点を導き出したり、今後の方針についてまとめていく。

 

記録係という役目は大変だ。

誰がどんな発言をしたのか…会話の流れなどの内容を分かりやすく

明確に記述しなければならない。

 

ペロニアは耳を澄ませ、羽筆を必死に動かして文章を書き綴っていく。

 

 

「さて、この会にて選出された者達についてだが…」

 

 

とうとうメインのイベントに移った。

ペロニアはごくっと唾を飲み込む。

対象者の行き先は、魔神王自らが左遷先の場所を告げるのが

慣例となっている。

 

(どうなるでし、どうなるでしか…)

 

ペロニアは、ハラハラドキドキしながら三人の運命が決まる場面を

しかと目に映そうとする。

 

「これから三つの選択を告げる。その中から任意で選べ」

 

(な…なんと三択!?)

 

…新しい試みなのだろうか?

ペロニア同様に、他の同胞達も困惑を露わにしている。

そんな周囲の様子を気にする事無く、魔神王はその選択肢の内容を

提示した。

 

 

一つ目は、外界に赴いて他種族達に混ざり、その動向を調査して

定期的に報告係となる事。

 

主に下級魔神や魔力の低い上位種が役目であり、花形とも言える職種から

遠ざかってしまう。そのため、今まで戦場で活動していた者からすれば、

不満のある任務先である。

 

 

二つ目は、近衛部隊【十戒】の補佐役になる事。

この選択肢には耳を疑った。

その役目は、ペロニアの知る限りでは魔神将軍であるフラウドリンが担っており、

補佐役とはいえ、平の雑兵から見れば高い地位に位置している。

 

実質的に将来を約束されるようなものであり、左遷とは言えないのではないか…?

 

(…んんん? でも、よーく考えると…)

 

首を捻っていたペロニアははっと気付いた。

【十戒】のサポート役になるのは名誉である半面、負担も倍増してしまう。

 

さらに、現在の【十戒】の面々はマイルドに言うと個性が強い。

彼等のサポート役をするのは、並大抵の事ではない…

下手をすれば、ぽっきりと心が折れるリスクがある。

そう考えると、左遷先に指定されても不思議ではない気がしてきた。

 

 

そして、三つ目は…ブリタニアにある数少ない領地を管理する事。

 

(…!? そ、その領地って…ましゃか…!)

 

魔神王が指定した領地とは、他種族との戦で勝ち取った森林地帯だ。

だが、そこは本来なら地上から溢れ出ているはずの魔力が微量な区域であり、

戦場で魔力を消費しても回復スポットにもならない。

 

件の領地に同胞が何度か足を踏み入れた事はあるが、食べられる果実がなく、

毒のある植物も多い事からそこに住むのは難しいという報告が出ている。

 

敵対している他種族でさえも、その場所を嫌厭しているようで

足を踏み入れないくらいだ。

 

 

 

ペロニアは察した。

 

(これ…絶対に荒れるでし…ッ!)

 

三番目の内容が出た瞬間、左遷対象者のうち二人は明らかに顔を顰め、

他の同胞達の間からも動揺が走った。

 

そうなると…左遷対象者は三番目の選択を高確率で避けようとするはずだ。

しかし、同じ選択を重複出来る訳ではないため、選択をめぐって争いが

起きる可能性がある。

 

選択を告げられた三名に、ペロニアは自ずと視線が向かった。

 

 

「…一つ目の任を承ります」

 

 

一人目は一番目を選んだ。

 

(ある意味、妥当な判断でしね)

 

慎重な性格の彼は、十戒の補佐をするには些か力不足な面がある。

本人もその事を自覚しているから、外界調査を選択したのだろう。

 

 

「二つ目の任を是非お願いします!」

 

 

間髪入れずに、二人目は大きな声で二番目を選んだ。

ぎらぎらと野望を宿した目で、十戒の補佐役を選んだ男。

 

(あの人、どのくらい持つでしかねぇー)

 

おそらく、十戒のうち一人か多くても二人程度の補佐をする事に

なるだろうが…彼はどのくらい耐えられるだろうか?

 

見立てでは半年程度だろう。

ペロニアがあれこれと心の中で絶賛ツイートしていると、

最後の一人に目が向いた。

 

 

(ヴァイス様は…どれを選ぶんでし?)

 

 

三人目…ヴァイスハルトは感情を表に出す事なく、平静な表情を

浮かべていた。ペロニアや既に意思を伝えた二人の対象者を含めて、

周囲の目が集中する。

 

突き刺さる多数の視線を諸ともせず、ヴァイスハルトは口を開いた。

 

 

「―――三つ目の任を謹んで承ります」

 

  

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