Brand new page   作:ねことも

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(1)の続き。
  


第一回 ヴァイス語検定試験(2)

 

「一試験した後のクッキーって格別だよなぁー」

「うん、同感だ」

「?? ヴァイスの作るものはいつでもうめえだろ」

 

試験が終わり、エスタロッサとメリオダスは二度目のお茶の時間を満喫している。

兄弟のしみじみした意見を、デリエリはいまいち理解できていないようだ。

三人がゆっくりと休んでいる間に、ヴァイスは答案の採点をしていた。

 

(うん、二人とも回答欄は全て埋めてるな)

 

初めての言語テストにしては上出来である。

だが、問題は正解か否かだ。

 

(さてと…チェックさせてもらいますか)

 

 

*** ***** ***

 

 

【問題➀】《次の漢字の読み方を、ひらがなで記述しなさい》

 

(1)成長  【正】せいちょう

(2)紳士  【正】しんし

(3)黄金  【正】おうごん

(4)吸血鬼 【正】きゅうけつき

(5)猫   【正】ねこ

 

(6)精神  【正】せいしん

(7)岩   【正】いわ

(8)太陽  【正】たいよう

(9)運命  【正】うんめい

(10)時   【正】とき/じ

 

 

*** ***** ***

 

 

【メリオダスの回答】

 

(1)せいちょう (2)しんし

(3)ききん?  (4)きゅうけつき

(5)ぬこ?   (6)せいしん

(7)いわ    (8)たひ?

(9)うんめい  (10)とき

 

 

(メル…大分、漢字を読めるようになってきたけれど、

まだ分かっていない単語もあるな)

 

 

【エスタロッサの回答】

 

(1)ななが   (2)いとつち

(3)おうかね  (4)すいちおに

(5)なえ    (6)あおかみ

(7)いし    (8)だいひ

(9)はこいのち (10)ひてら

 

 

(うん、なんとなくそんな予感はしてた…)

 

最初の問題で、二人のこれからの勉強方針が定まった気がした。

ヴァイスは、生温かい眼差しをエスタロッサへ向ける。

 

「ヴァイス、どうだった?」

 

視線に気付いたエスタロッサが、嬉しそうに尋ねてきた。

 

「うん、頑張ろうな…エル」

「えっ? なに、どういう意味だよ!?」

「…(どんな答え書いたんだ、こいつ)」

 

ヴァイスの様子から、弟が珍回答を書いたのだと薄々勘付いたメリオダスは、

何も言わずに茶を飲む。騒ぐエスタロッサをスルーして、〇✕を記載すると、

ヴァイスは次の問題の回答へ移った。

 

 

*** ***** ***

 

 

【問題➁】《次の文章で、()の部分と同じ意味を持つ単語を選択肢の中から選びなさい》

 

 

(1)にゃんこのハッピーは、ふしぎな(わんこ)のプルーに出会った。

 

《【選択肢】➀犬 ➁鳥 ➂羊》

 

【正】➀

 

 

(2)えみや君は、セイバーさんと強い(きずな)で結ばれている。

 

《【選択肢】➀かたまり ➁愛情 ➂つながり》

 

【正】➂

 

 

(3)「騎士道大原則ひとーつ!」は、とある騎士の(くちぐせ)である。

 

《【選択肢】➀決まり文句 ➁あだ名 ➂ポーズ》

 

【正】➀

 

 

(4)「ホーッホッホッホ」と笑うあやしげな商人がお客に(しょうひん)を差し上げた。

 

《【選択肢】➀日記 ➁品物 ➂土地》

 

【正】➁

 

 

(5)シライシさんはいざという時のために、たくさんの(どうぐ)をかくし持っている。

 

《【選択肢】➀アイテム ➁武器 ➂コスチューム》

 

【正】➀

 

 

*** ***** ***

 

 

(前世の記憶を参考に、ちょっと遊び心を加えてみたんだよなぁー…)

 

もし、自分と同じ前世の記憶がある人でなおかつこの質問の元ネタを

知っている人がいたら、どんな反応をするだろう?

 

そんな事を思い返しながらも、ヴァイスは幼馴染二人の回答を見ていく。

 

 

【メリオダスの回答】

 

(1)➀ (2)➁ (3)➀

(4)➁ (5)➁

 

【エスタロッサの回答】

 

(1)➀ (2)➁ (3)➀

(4)➁ (5)➂

 

 

(あっ…2番と5番目、二人ともミスしている)

 

同じ個所を正解したり、間違うなんて…どこか二人は似ているところがある。

 

(2番目は…『セイバーさんに思いを寄せている』的な文章だったら、

②が正解だったんだけどな)

 

生前、元ネタとなったゲームの登場人物二人のカップリングが大好きだった

女友達が『グッジョッブ!』とぐっと親指を立てる姿が頭を過った。

 

(5番目の回答…メルらしいといえば、メルらしい。

でも、武器を巧みに操るシライシさんか…)

 

何故だろう…うまく想像できなかった。

武器を扱おうとしたらミスしてしまい、味方の男性と女の子に頭と膝を叩かれる

イメージの方が浮かび上がった。

 

(どちらかと言えば、エルの回答の方がまだありえそうだな…)

 

…さまざまなコスプレをするシライシ氏。

思わず、ぷっと吹き出しそうになった。

もし原作で衣装を使い分ける事で有名だったら、彼の異名もひとつ増えていただろう。

つけるとしたら、『お洒落王』だろうか…。

 

(やばい…ツボにはまる前に、冷静にならないと)

 

にやけそうになるのをこらえながら、ヴァイスは採点を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァイス…おーい、休まないか?」

 

エスタロッサが声をかけるが、気付いていないようだ。

些細な音さえも耳に入らないのか、ヴァイスはずっと作業を進めている。

エスタロッサは、クッキーをサクッと咀嚼しつつもいつになく集中している

幼馴染の姿を落ち着かない様子で見つめる。

 

「なんだ、そんなに点数が気になるのか?」

「それもあるけど…」

 

メリオダスが茶化したように尋ねると、エスタロッサは歯切れが悪そうに言う。

 

「…ヴァイスが俺の知らない誰かになってるんじゃないかって…不安なんだ」

「ん? なんて…言った?」

 

小さく囁いたエスタロッサの声が聞こえづらかったのか、ミルクティーを飲んでいた

デリエリが聞き返した。「なんでもない」とエスタロッサは曖昧に笑って誤魔化した。

そんな彼に、デリエリは眉を顰めて「へんなの…」と呟く。

 

(…そういや、デリエリはまだ知らねえんだな)

 

 

*** ***** ***

 

 

――――【ヴァイスが前世の記憶を所持している】

 

その事実を知っているのは、メリオダスとエスタロッサ…

そして、デリエリとメラスキュラを除いた十戒を含める上層部の限られた者だけだ。

 

ヴァイス自身は、まだその事実を皆に打ち明ける様子はない。

…もしかしたら、恐れているのかもしれない。

魔界とは異なる世界で生きてきた前の自分の記憶を持つ事で、こちらが拒絶する事を…。

 

記憶を蘇らせるきっかけとなった出来事以降、ヴァイスは周囲と一定の距離を取るようになった。

周りはほとんど気付いていないが、赤ん坊の頃からずっと見ていたメリオダスには分かった。

最初に胸に込み上げてきたのは…怒りと苛立ちだった。

 

(なんで、言わないんだ…一緒に育った仲なのに…ッ!)

 

ヴァイスに詰め寄るような行動に至らなかったのは、ゴウセルが助言をしたからだ。

 

 

『あまり責めないでやってくれ。

ヴァイスもヴァイスで…葛藤しているはずだ』

 

 

『前世の記憶保有者は孤独な存在だ』とゴウセルは言った。

記憶を持つがゆえに、生きている今世で異分子となってしまう。

前世の記憶を利用して、巧みに生き抜く者達も中にいるようだが、

そんな器用な事ができる人物は限られている。

 

前世と今世の常識がかけ離れているほど…記憶保有者の精神は不安定になる。

前世の記憶を明かしても許容できる理解者がいれば話は別だが、

周囲から受け入れられないと心に壁を作り、徐々に孤立を深めていく。

 

特に、血縁関係者や親しい者達から拒絶された場合…記憶保有者の精神は

崩壊する可能性が高くなる。

 

『ヴァイスと今後どう付き合っていくのかは、あくまでお前自身が決める事だ』

 

だが、これだけは言わせてもらう…とゴウセルはいつになく真剣な顔で続けた。

 

『メリオダス…感情の赴くままに安易な行動に出るのだけは止めろ。

下手をすれば、お前は大切な幼馴染を失ってしまうぞ』

 

…その覚悟はあるのか?

その言葉を突きつけられ、メリオダスは何も言い返せなかった。

 

(バカだ…俺は。一番苦しんでいるのは、ヴァイスなのに…)

 

もし、一人で激情に駆られてヴァイスに接していたら、取り返しのつかない事態に

なっていた。ゴウセルのおかげで、冷静さを取り戻す事ができたメリオダスは黙考した。

 

仮に、ヴァイスの事情が周りにバレたとしても、受け入れてくれる同胞が

どれだけいるだろうか…。事実を公表して、掌を返してくる者達がいると

想像するだけで胸糞悪くなる。

 

そして、悶々と考え抜いた結果…

 

 

(…ヴァイスが自ら告白するまで待つしかない。

周りがどうであれ、俺だけは味方で居続けてやるんだ)

 

 

例え、ヴァイスが再び前世の誰かの記憶に翻弄される事になっても、

彼を支えてやれる存在になる。

 

それが、メリオダスが最終的に導き出した答えだった。

 

 

 

*** ***** ***

 

 

 

ヴァイス語を学ぶようになったのも、前世の彼の情報を入手する事が目的だ。

同時に、少しでもヴァイスの気持ちを理解していき、彼が無意識に作った心の壁を

壊していけるようにするためでもある。

 

当初、前世の言語を教える事をヴァイスは躊躇っていたが、今は学びたい人物がいれば、

快く指導するようになった。

 

(…ヴァイス語が人気になったのが意外だったけどな)

 

正直、あの言語ほど難しいものはないとメリオダスは常々感じている。

魔神族の固有言語とは違い、三つのタイプの文字を混ぜこんで使用するという点が

厄介なところだ。

 

特に、漢字は強敵だ。

簡単なものなら大体読めるようになったが、逆にひらがなから漢字へ変換させる事は

不得手だ。

 

…ヴァイスが暮らしていた世界はどんな所だろうか。

ややこしい言語や美味な料理の作り方が確立されている事から、発達した文化があった

…とゴウセルは確信しているようだった。

 

メリオダスもまた、好奇心がくすぐられていた。

もしも、ヴァイスにとって自分が本当の意味での理解者になれたら…

 

(その時は、ヴァイスに前世の事をいっぱい話してもらいたいな)

 

そんな淡い期待を抱いているメリオダスを現に戻したのは、玄関の扉を叩く音だった。

  


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