【Brand new page】の番外編(6)
ハルさんの回想(【少年時代】メリオダス、初めての料理)の裏話。
メリオダスが、初めて料理をした経緯が描かれています。
※女神族のエリザベスは、幼馴染のおかげで料理スキルが少しずつアップしている設定です。
※外伝連載を含める当サイトの小説内のエスタロッサは、原作とは大きく乖離する設定
(【エスタロッサ】≠『マエル』)となります。
※メリオダスの料理下手の理由に、オリジナル要素が加わっています。
※作中で、ハルさんが話題にしている文献の内容は、別作品(漫画)の出来事を
参考にしています。
※作中で描かれている魔神族と女神族の食事情は、小説内のオリジナル設定です。
その日、メリオダスは上機嫌だった。
思いを寄せている女神族のエリザベス…彼女との十七回目の逢瀬の日だ。
約束の場所である【天空演舞場跡】に、一足先に行って待っていた。
「メリオダス、お待たせ」
エリザベスは約束の時間通りにやってきた。
笑顔で手を振る思い人は、今日も輝いて見える。
ただ一点だけ普段と異なり、両手にバスケットを持っていた。
「それは…?」
「ふふ、あのね…メリオダスのためにお菓子を持ってきたの」
なんと、エリザベスが菓子を作ってきてくれた。
思いがけないサプライズに、メリオダスは頬が緩んでしまう。
「すげーな。エリザベス…料理できるのか」
「うん…でも、まだまだ初心者なの。
これはね…いっぱい練習して、今までで一番上手に作れた物なんだけど…
食べてくれる?」
エリザベスは微苦笑して、素直にカミングアウトした。
「ああ、もちろん!」
メリオダスは、自分のために思い人が手作りの菓子を持ってきてくれた事が凄く
嬉しかった。例え、味がどうであろうともその事実だけでお腹が膨れるくらいに
…ほくほく気分だった。
「はい、どうぞ召し上がれ」
バスケットの蓋を開けると、そこには黄色とつぶつぶが混ざった茶色の二色のクッキーが
入っていた。エリザベスが言うには、プレーン味とチョコレートの粒を混ぜたココア味らしい。
早速、プレーン味を一口齧ってみると…
「…うまい!」
サクサクした触感で、甘みと共にバターと卵の味が口の中に広がる。
もうひとつのココア味は、少し苦みがあるが…
チョコレートの粒の甘味がマッチしてプレーンとは異なる旨味がある。
「女神族の間では、こういう菓子が主流なのか?」
「ええ、そうなの!」
エリザベスが言うには…
女神族の間で、クッキーを含めた菓子が普及するようになったのは二十年前
…と意外と最近の事らしい。
以前、話題に取り上げていた仲のいい幼馴染が四大天使を通じて広めていった。
さまざまな種類の茶と共に、それらは順調に浸透していき、その影響で【午後のティータイム】と
いう日常の習慣ができた。今では、庶民の女神族さえもその時間帯に甘い物とフレーバーティーを
楽しむようになったとの事だ。
メリオダスはへぇー…と相槌を打ちながら、興味津々に耳を傾ける。
「魔神族では、どういう食べ物が人気なの?」
「うーん…今、流行ってるのは【衣料理】だな」
「ころも…料理?」
「肉を真っ白い液体につけて油で揚げる料理で、俺の親友が考えたんだ」
アツアツですげー美味いんだ…と少々自慢げに語ると、エリザベスは目を輝かせる。
「そんなに美味しいのね…私も食べてみたいな」
思い人のその言葉に、メリオダスは大いに反応した。
(エリザベス…衣料理、食いたいのか)
それから、二人の時間を満喫してから別れた後、黒い翼を羽ばたかせながら
メリオダスは考えていた。
(食わせてやりたいな…衣料理)
あの料理を初めて食べた時は感動した。
親友…ヴァイスが作る物はどれも絶品が、中でも衣料理はメリオダスにとって
かなり衝撃だった。
肉や芋、野菜を白くべたっとした液体につけて油で揚げるだけで、あんなに
美味くなるなんて…目から鱗が落ちた。
メリオダスだけでなく、他の上位魔神の間でもそれは爆発的な人気となった。
今では、ワインのお供として絶大なポジションにいる料理である。
(ヴァイスは……そういや、いないんだった)
初めは、ヴァイスに作ってもらおうと考えていた。
だが、城に戻るや彼が二日前からブリタニアへ調査に出向いている事を思い出した。
予定では、今日の内に戻ってくるらしいが…いつになるか分からない。
(いや…わざわざ、待たなくてもいいんじゃないか?)
この時、メリオダスの頭に閃光が走る。
(エリザベスは、自分で菓子を作ったんだし…
それなら、俺も手作りで返すのが礼儀だろ)
メリオダスはうんうん頷きながら、城の廊下を歩いていく。
途中で、十戒のゴウセルに話しかけられたが…
思案していたためにスルーしてしまった。
『ふむ、随分と深く考え事をしているようだ』
「…難しそうな表情でしたね。何かあったんでしょうか」
彼と同行していた補佐役のフラウドリンが心配そうに、次期王候補の
後ろ姿を眺める。
『フラウドリン、今日はメリオダスのもとへ近づかない方がいい』
「えっ…それはどういう事ですか?」
『どうやら、不慣れな修行をするようだ
…邪魔をしたら悪いからな』
自身の能力で、メリオダスがこの後何をしようとしているのか…を
ゴウセルは読み取った。だから、部下に敢えて警告しておいた。
「不慣れな修行…大変そうですね」
『個人的に、あちらのスキルはなさそうだと思うがな』
「はい?」
『いや、なんでもない』
ふふふっと面白そうに口元に弧を描く上司に、フラウドリンは疑問符を浮かべる。
そして…ゴウセルの推測はその日の内に見事に的中する事となる。
エスタロッサは軽やかな足取りで、厨房へ向かっていた。
城の厨房は、主に料理人か幼馴染しか使わない場所だ。
魔神族の間で、【料理人】という職種が台頭し始めたは五十前の話。
それまでは、魔神族の一般的な食事は生肉とワインが主流だった。
他は塩で味付けたシンプルなスープと、新鮮な果実を食べるくらいだ。
そのスタイルに変化をもたらしたのが、幼馴染のヴァイスであった。
同胞や魔神族と懇意な他の種族と交渉して、調理器具や道具を制作してもらい、
さまざまな料理を生み出していった。
それまでは、諸事情で退役した者や非戦闘員の雇用枠という目立たない位置にいた
料理人は今では人気の職種になっている。
それだけ、昨今の魔界の料理事情は変動かつ進化していっているのだ
…ヴァイスのおかげで。
話が戻り、エスタロッサが厨房に足を運んだのは個人的な理由からだ。
その日は任務がなかったため、エスタロッサは暇を持て余していた。
鍛錬したり、自室で寝たりする気分ではなかった。
(そうだ、折角だし…練習しよう!)
遡る事…一年と数ヶ月前。
ヴァイスが体調を崩して寝ている時に、温かい物を食べさせようとして、
エスタロッサは生まれて初めて料理を作った。
魔界ではすっかりと定着した牛系の魔物の乳を使ったシチューだ。
ヴァイスが調理するところを何度も見てきたのでそれなりに自信があった。
出来上がったシチューを見て、なんとか形になったな…と満足していた。
見物していたメラスキュラが盛大に顔を引きつかせて、デリエリが「味見したくない」と
ぶんぶんと勢いよく顔を横に振った事を些細に思うくらいに…。
初めてのシチューをヴァイスは食べてくれた。
完食するまで、味がどうなのかドキドキしながら待っていたのだが…
『……………………作ってくれた事は嬉しいよ、ありがとう。
……でも、ごめん。まずい』
食べ終わった彼の感想に、エスタロッサはショックを受けた。
余談だが、後ろで見守っていたメラスキュラは「あー、やっぱりね」と
うんうん頷いていた。デリエリの方は、シチューを試しに一舐めして
「うぇ~…」と渋い顔を浮かべていた。
そして、ヴァイス本人は眉を顰めて糸目になっていた。
エスタロッサは気付いた。
…料理は思っていた以上に難しい物なのだと。
何より、ヴァイスに「まずい」と即答された事が悔しくてたまらなかった。
そして、決意した。
いっぱい練習して、ヴァイスに「美味い」と言わせてやるのだ!
そんなこんなで、エスタロッサは時間ができたら厨房でこっそりと料理をしている。
時折、扉からこちらをちらちらと観察している幼馴染の少女二人がいたり…
幼い弟が目をパチクリさせながら「あにじゃ、それなに?」と料理を触ろうとして、
世話係のキューザックが猛ダッシュでやってきて、弟を抱きかかえるや去って行ったり…
「実験でもしているの?」と微妙な顔でモンスピートが尋ねてくる事があったり…
何かと賑わいがある事が多い。
勿論、ヴァイスのアドバイスを受けて自分で味見するようにもなった。
少しずつだが、食べられる味が増えている…気がする。
(今日は何にチャレンジしようか…)
二週間前は、竜の肉が取れたのでステーキを作った(表面が焦げて炭っぽい見た目になった)。
できれば、今日は肉を使わない料理の練習をしたい。
そういえば…今朝、料理人見習いが卵をたくさん運んでいたのを思い出す。
(そうだ、オムレツにしよう!)
作るべきメニューが定まった。
エスタロッサは厨房の扉の前へ立ち、扉を開けたのだが…
「えっ…?」
「なんだ、エルか。今使用中だぞ」
視界に入った先客に、エスタロッサはぱたんっと扉を閉めてしまった。
(なんで、メル兄がいるんだ?)
兄であるメリオダスが厨房に立っている。
あり得ない光景に、エスタロッサは混乱している。
恐る恐る扉をもう一度少しずつ開けて、隙間から中を覗き込む。
「どの材料で作ろうか…」
ブツブツと呟く兄の姿に、エスタロッサは訝し気に目を細める。
「やっぱ、肉だよな」
(…メル兄、まさか…料理するの?)
エスタロッサの胸に不安が芽生える。
料理が簡単にできるものではない事を、エスタロッサは否応にも経験した身だ。
…メリオダスは何を作るつもりなのか?
隙間越しに兄の様子を観察していると…
「白いアレ、どこだ?」
ガサゴソと何かを探している。
「おい、エル」
「あっ…なに?」
「白いアレ、知らないか?
ほら、ヴァイスがいつも衣料理作る時に使うヤツ」
メリオダスの言葉を聞いて、エスタロッサはあーと何の事か察した。
「小麦粉?」
「そう、それ! アレどこにあるか分かるか?」
「小麦粉はこの袋だよ」
調理場に入るや、エスタロッサはすぐに頑丈な紙製の袋を指さした。
「おー、これだったか。サンキュー」
「メル兄、衣料理作るの?」
「あー、まあそんな感じだな。作って食べさたいんだ」
メリオダスはそう言った事に、エスタロッサは「ん?」と首を捻る。
「誰に?」
「…ヴァイスに」
いつも世話になっているからな、と言うと、メリオダスは調理器具を出していく。
「さてさてさーて、まずは材料を切るか」
(メル兄、料理した事あったっけ…?)
料理専用のナイフを持って意気込む兄を見ながら、エスタロッサは記憶を辿る。
兄は、調理場にたびたび足を運んでいた。
…だが、記憶を辿る限りでは兄本人が料理をした事はない。
ヴァイスが料理をしている傍らで見物したり、こっそり味見しているだけだった。
(人の事言えねえけど…)
「よし、終わり」
(って、早っ!)
包丁を持ったかと思いきや、軽く一振りしただけで、デカ鳥の肉を切り分けた。
万人が見れば、まな板に乗っていた大きなブロック肉が数秒で一口大にカットされたように
見えてしまう…そのくらいの早さだった。
「次は…そういや、ヴァイスは肉に何か仕込んでたな」
「うーん、塩だったかな…」
エスタロッサは、まだ衣料理に挑戦した事がない。
また、ヴァイスによる衣料理の調理過程を一回しか見た事がない。
…要するに、作り方は分からなかった。
「基本は、やっぱ塩だな!」
メリオダスはそう言うと、塩が入っている袋を探し始める。
「肉にまぶして…」
メリだオスは一口大の肉に豪快に袋に入っていた白い調味料をドバっとかけた。
「メル兄、それ砂糖だよ!」
袋の中身が違う事に気付き、エスタロッサは慌てたように言うと、メリオダスは
げっ…とたじろいだ。
「…まあ、甘みも必要だろ」
「えぇ~…?」
「じゃあ、次こそ塩だ」
そう言うと、袋から塩を肉に目掛けてドバっとかけた。
「そんなにたくさんかけていいのかな…」
「これくらいしないと味が出ないだろ。
えっと…肉に味を染み込ませないとな」
塩と砂糖を馴染ませようと、メリオダスは掌で肉をゴロゴロと転がしていく。
肉はもう真っ白になっており、雪を転がしているように見えてしまう。
「さらに衣を作るとして…小麦粉をべたっとさせるには…」
「水じゃない?」
「お、そっか」
メリオダスは小麦粉に水をさぁーとかけていく。
小麦粉は水分を吸収していくが…あまりにも水が多すぎたのかべたべたになってしまった。
「…なんか思っていたのと違う」
「あれ~? 別の材料も必要なのかな…」
メリオダスとエスタロッサは背景に疑問符をたくさん浮かべながら、作業を続けていく。
「魚醤入れてみるか」
「変な色になったけど…」
「じゃあ、緩和するためにミルク」
「うーん? なんか違うような…」
「ワインを追加」
「それ、ガラン爺がとっておいた大事なやつじゃ…」
「安心しろ。別のやつにすり替えておいた」
「アクセントがいるか?
薬草と刺激のある香辛料を入れてみよう」
「どんどん衣から外れていっている気がする…」
「ついでに卵も投入」
「多くない?」
思考錯誤しながら約二十分。
どうにか出来上がったのは、不気味な色をした液体だった。
「………泥沼みたいだ」
「…つけてみるか」
メリオダスは肉にその液体を纏わせると、用意していた油に入れようとした。
「温度高すぎない!? 滅茶苦茶沸騰しているよ!!」
「エル、危ないから離れてろ」
マグマの如く勢いのある油の中へ肉をポイポイポイッと放り投げていく。
途中で油が飛び散り、エスタロッサは器用に避けていく。
「あとは揚がるまで待つ」
「…匂いがきつい」
油の中に入れられた肉は順調?に揚がっている。
だが、流れ出す匂いは…ヴァイスが作る際の香ばしいものとは真逆だ。
胃を負の意味で刺激して、食欲を減退させていく。
エスタロッサは嫌な予感がした。
これは、食べられる代物になるのか…と。
「エスタロッサ、此処におったか…ぬぅ!?」
「あ、ガラン爺…」
扉を開けて、ガランが顔だけ出してきた。
強烈な匂いを嗅いで顔を顰めるものの、エスタロッサに対して続けて言った。
「エスタロッサ、任務が入ったぞ」
「え、今から…」
「エル、行ってこい。あとは仕上げるだけだ」
メリオダスに行くように促され、エスタロッサは料理状況が気になるものの、
仕方なく出動する事にした。
「メリオダスは、調理場で何作っとるんじゃ?」
「一応、食べられる物」
「なんと、あの匂いでか!?
てっきり毒薬の一種かと思うたぞ」
驚いた表情のガランの言葉に、エスタロッサは思わず頷きそうになった。
(メル兄、あれ味見するんだよな…腹壊さないかな)
出来上がった衣料理?を一口食べて、苦い顔をするメリオダスの姿が頭の中に
よぎる。
しかし、任務から帰ってきたエスタロッサを待ち構えていたのは…
想像以上の、大いに後悔してしまう状況であった。