周囲に闇と静けさが戻ってきた。
ダニーとのエンゲージも終わっている。
右手に持つ神機の黒い異形が、今しがた倒した灰域種を貪っていた。
アルビンに連絡を取ろうとしたが、未だ灰域濃度が高いせいか無線は繋がらない。
ひとしきり喰って満足したのか、黒い異形はすんなりと武器の中へ収まった。
灰域種の素材をゲットできたが、これらにどんな価値があるのかは分からない。
一匹倒しただけじゃ装備を作るには数が足りないだろうし、今後アレと戦う予定もない。
どこかで売り払うか。
ただの黒い小山と化した灰域種は、徐々に形を崩していき、そして弾けるように灰となって宙へ舞った。
体積があっただけに、その量は多い。
それらが闇に溶けて消えていくのを見届け、大きく息を吐いた。
さてと、帰ろうかな。
残り二つだけ残っていた回復薬を使ったが、当然疲れは取れないし、腕輪の調子も良くはならない。
この件で侵食が大きく進んだの確実だが、でも頼むよ、今しばらくもってくれ。
左手で右手首の腕輪を触ると、顔を上げて盾を展開し、帰路に着いた。
ダイブで闇夜を進むが、航路に入りしばらく進んだところでスタミナが尽きて立ち止まる。
息が整うまでは、徒歩で進むことにした。
体を支え地を踏む足と、担ぐ神機がこんなに重く感じられるとは。
でも早く帰らないと。
子どもたちが待っている。
私のシャレにならない判断ミスで無理をさせ、危険で怖い目にあわせてしまった。
明日の予定にも支障が出る。
ちゃんと謝らなきゃ。
いや、その前にお礼を言った方がいいのか。
私の身勝手に協力してくれたのだ。
嬉しかったし、褒めて労わってあげたい。
朦朧とする頭であれこれ考えながら歩く。
……さっきから考えが全くまとまらない。
解けた糸を寄りあわせるように思考をまとめようとするが、集中力が続かない。
そうこうしているうちに、謎植物の光が灯る崩れた建物が見えた。
何だ、後もう少しじゃん!
勇気づけられ、私はダイブを繰り返して廃墟へとたどり着いた。
息を切らしながら崩れた壁を乗り越え、街へと入る。
後もう少し。
と、足音が聞こえた。
「サイカ!」
声を上げて走り寄ってくるのは、アルビンだった。
私に寄り添うように体を支えるアルビンを見、口を開いた。
「奴は倒したから」
「うん、ダニーから聞いた。後で褒めてやってくれ。アイツ、本当に頑張ったから」
「うん。知ってるよ」
私たちは歩き出し、程なくしてテントのある敷地へ辿り着いた。
「サイカ! 大丈夫か!」
私を見るなりビャーネが医療キットを持ってテントから飛び出し、膝をつく私に寄り添った。
「サイカ……!」
テントの中でクロエが私を見るなり口を手で覆う横で、ダニーが横になっていた。
「ダニーは大丈夫なの?」
「疲れて寝ているだけだから。今はあんたの方が酷い。手当しないと」
さらにダニーの横で、助けたAGEが横になっている。
パッと見た限り、容態は落ち着いているように見えた。
ああ、戻ってきた。
戻ってこれた。
生きて帰ることができたのだ。
粗末なテントと人工の明かり。
そして、子どもたちの姿に、私はそれをようやく実感し、その光景に泣きそうになった。
何て儚くて脆くて暖かい、美しい光景か。
嬉しさと同時に湧き上がる痛みと悲しみ。
その正体を、ようやく言語化することができた。
同時に、過去にかいま見たヴェルナーさんの悲しみの理由を知った。
それは、己の罪であり罰だった。
私は汚れている、穢れている。
眩く美しい光の中にあるからこそ見える真っ黒な汚点。
これが罪だ。
犯した罪を自覚できる私には、目の前の大切な存在と、喜びや楽しさを心から共有することはできない。
その傍らに、己のやらかした同情の余地のない所業と、その犠牲になった人々が見えるから。
だが、それでも。
汚れた手であろうとも伸ばさなくてはならない。
触れ合わなくてはならない。
目を合わせて笑わなくてはならない。
それがどれだけの痛みを伴おうとも、目の前の大切な存在を、己の罪の痛みのために拒絶することはできない。
これが罰だ。
ならば、受け入れよう。
私の罪を正しく知った大切な存在が、私を拒絶するかもしれない。
それも受け入れよう。
私は犯した罪の結果を背負い、墓場まで持っていく。
それが、贖いの方法の一つだと思うのだ。
私は神機を地面に置くと、二人を抱き寄せ、クロエと眠っているダニー向かって笑った。
そうだ、最初に言うべき言葉はこれがあった。
私は、その言葉を思いを込めて口に乗せ発した。
「ただいま。戻ったよ、みんな」
「おかえり、サイカ」
それぞれに返ってくるありふれた言葉に、私は胸がいっぱいになり目を閉じた。
◆
回復薬で治療できなかった傷を医療キットで応急処置して、私は三人それぞれにお礼と謝罪をした。
クロエは泣き、ビャーネも目を真っ赤にして私の無茶を怒り、帰ってきてくれたことを喜んでくれた。
アルビンは表情なく頷き、生きて帰ってくれて良かったと、ただ一言告げただけだった。
体力も精神力も限界だった三人を寝かせ、私は一人起きて見張りをすることにした。
ついでに神機の整備をしようと、テントを出て折りたたみの椅子に腰掛ける。
周囲にアラガミの気配はなく、風に砂埃と灰域と紫の光が流れる毎度の光景だ。
ただ先程よりも、謎植物の光が輝きを増しているように見えた。
そう言えば、こんな深夜に外に出る機会は深層でも滅多になかった。
神機を持ち上げる。
テーブルのランタンの灯りに照らされたそれは、先程の戦いで見せた猛々しさも禍々しさもなく、昨日よりもさらに傷が増えボロボロになっていた。
先輩と友人から引き継いだ、思い入れのある神機のあまりの姿に心が痛む。
呑気に思いに浸る暇があるならさっさと整備しろよ。
私は一つ息を吐くと整備を始めた。
一通りの整備を終えテントを覗いてみると、AGEのハンネスさん──私がいない間に一度気付き、子どもたちが名前と所属のミナトを聞いたらしい。ミナト名前は聞いたことがないものだった──がうなされていた。
額を触れば熱がだいぶ上がっている。
彼の灰域耐性がどれほどのものかは不明だが、灰域濃度の高い場所で長時間、灰域種と戦い続けてただで済むわけがない。
恐らくは、私と同じレベルでヤバい事態なのだろうが、今はできることをするしかない。
彼を起こし、汗を拭いて水を飲ませた。
「本当にすまない。ありがとう」
「いいよ。しっかり寝て、少しでも体力を温存して」
彼はようようと頷くと、崩れるように横になり速やかに眠りについた。
テントを出て椅子に腰掛ける。
ここまでかな。
ポツリと思う。
彼も私も、周囲の灰域と己のオラクル細胞との戦いを続けている。
私の手首は小康状態だが、残された時間はあまりないように思えた。
……アローヘッドへ向かうしかない。
ボロボロの大人AGEの処遇は、オーディンの餌直行だろうが、子どもたちには猶予があると信じたい。
とは言え、あのガドリン総督が領主のミナトが、朱の女王の元にいたAGEの子どもに安心できる場を提供できるとはどうしても思えない。
子どもたちが安心して生活できる、心あるミナトへ送ってやりたかった。
先輩や仲間たちの戦いと死に報いてやりたかったのに。
だがこれこそが、私が選択した結果なのだ。
神機と膝を抱え込む。
せめて明日いっぱいは持って欲しい。
あと一日、子どもたちを守らせて欲しかった。
周囲がヒリつくのを感じて、意識が一気にクリアになる。
夢を見ていた、ような気がする。
ウトウトしていたことは自覚していたが、体の欲求には逆らえずに眠ってしまったようだ。
見張りすらまともにできないとは情けない。
当然、夢の内容は覚えていない。
何となく抱えている神機を見るが、昨日と変わらずボロボロで静かなものだった。
周囲が明るくなっていた。
夜明け間近のようだが、灰域がざわつき落ち着かない。
立ち上がろうとしたが、フラつき力が入らなかった。
体が熱く重い。
こりゃ、本格的に熱が出てきたか。
仕方なく神機を杖代わりに立ち上がり、フェンリル本部のある方角を見た。
昨日同様、真っ黒だった。
でも昨日とは明らかに違う雰囲気を感じる。
決戦前のような高揚感と緊迫感。
灰域捕喰作戦が始まるのか。
もうそんなに大勢のAGEが集まったのか。
やはり、AGEの犠牲は免れないのか。
どうにもならない無力感とやるせなさにため息をついた時だった。
「サイカー」
眠そうに目をこすりながらダニーがテントから出てきた。
靴を履き、おぼつかない足取りで私の元へとやってくる。
「ダニー、眠かったら寝てていいんだよ。昨日頑張ってくれたんだし」
しかしダニーはしっかりと首を振ると、私の右手を握った。
「ザワザワする。なんかこわい感じがする。だからおきる」
「わかったよ。眠くなったら寝ようね」
「ねないもん」
「そうですかい」
私に感じられた異変をダニーが感じないはずもなく、私も外にいることから起きだしたのだろう。
手を握ったダニーは顔を上げた。
「サイカの手、あっつい」
「昨日のことで、体の調子がちょっとイマイチでして」
「だいじょぶなの?」
途端に心配そうに顔を歪ませるダニーに、私は笑って頷いた。
「うん。体も元気になろうと頑張っている最中だからね」
「ねなくて平気?」
「うん。後もう少し頑張るから、応援してくれると嬉しいな」
すると、ダニーは力強く頷いた。
「
「キートス」
そして、昨日言うことができなかったお礼と謝罪をダニーに告げた。
ダニーは首を振り、気にしてないと応えた。
「サイカ、こまっている人助けて、がんばってたたかっているの見えたよ。だからぼく、しんぱいしたけど、信じて待ってたよ」
「うん、知ってるよ。捕喰された時、痛い思いをさせて本当にゴメンね」
捕喰された時に聞いた子ども叫び声は、私を心配し感応能力で同調していたダニーのものだった。
私が捕喰された時、その痛みも感じ取ってしまったのだろう。
こんな小さな子に痛い思いをさせてしまって、本当にどうしようもない。
罪悪感が業火のように胸を苛むが、ダニーは首を振った。
「もう平気だよ。いたくないもん。それにね、なかなかったよ」
「凄いじゃん。ダニー、強くなっているんだね」
その笑顔があまりに眩しくて、私は目を細める。
自覚した罪と罰が、暴動寸前のオラクル細胞と共に我が身を責めるが、私は手を離さない。
私の思いを知ることなく、ダニーは笑顔で頷いた。
「ぼくね、もっと強くなって、みんなを守れるようになるね」
「いいね。夢や目標を持って頑張っている
そうして、私たちは再び黒に染るフェンリル本部の方角を見つめた。
しばらくして、灰嵐の一部が消えたのを感じた。
ダニーが首を傾げる。
「……ちょっとだけ消えた?」
「うん。ちょっとだけだね」
各地から集まった灰嵐は、ただ集まっただけでなく、互いに共鳴して勢力を増し押し寄せている。
あの灰嵐に、どれほどのAGEの怒りと恨みと嘆きが込められているのか。
カドリン総督を始めとした、グレイプニルの連中は正しく理解出来ているのだろうか。
被害はさらに拡大し、この地を削る川のごとく血は流れ続ける。
どれだけ言葉を重ねても修復不可能なレベルで。
それすら覚悟の上でやっているのだとしたら、本当に凄いしアラガミとは別のベクトルで恐ろしい人だ。
ダニーが手を離し、私の腰にしがみついた。
「すごくいやな感じがする。こわい」
「大丈夫だよ」
今はまだ。
ダニーの肩を抱いたその時、黒い点が現れたのを感じた。
灰嵐の黒よりも深く冷たく、全てを飲み込み消し潰す絶望の黒。
体が突然重くなり、手首が痛みを訴えた。
これは、灰域濃度が上昇している。
視線を下げれば、ダニーが顔を歪ませていた。
「サイカ、くるしい」
ダニーの様子に、私は怒りを込めて灰嵐を見やった。
「テントに戻ろう」
クロエとハンネスさんの容態も心配だ。
ダニーを抱えてテントへ戻ると、環境の急変にアルビンたちもさすがに起きていた。
「一体何が起きたの?」
「わからない。フェンリル本部で良くないことが起こったんだと思う」
「……やることなすこと、ホントにロクなことしないな」
ため息混じりのアルビンの言葉は、並々ならぬ苛立ちと理性がせめぎ合っているように聞こえた。
「バッカじゃねーの」
寝起きかつ寝不足気味で不機嫌なビャーネは、ストレートに隠すことすらせず言い切った。
潔いくらいの物言いだが、関心はできないしそれどころではない。
「愚痴は後でいくらでも聞くから、クロエとダニーを看てやって」
静かに、だが語気を強めて言うと、二人は不満げな表情を浮かべたが、私がひと睨みした瞬間に行動を開始した。
緊急用の酸素ボンベを取り出すと、ハンネスさんの口元に当てる。
クロエとダニーも使い、これで酸素ボンベも無くなった。
次にクロエが発作を起こしたら、自力で耐えることしかできなくなる。
……本当に、何やってんだか。
思わずため息をつきそうになった時、感覚に引っかかるものを感じた。
ダニーが酸素ボンベを外し、身を乗り出して私に訴える。
「サイカ、アラガミがこっちに来るよ」
「え!?」
声を上げるアルビンとビャーネだが、ダニーが気付くものは当然私も気付く。
灰域が活性化したことで、獰猛になった連中が朝食を求めてやって来たようだ。
息つく暇もありゃしない。
「アルビン、荷物とみんなをお願い。ビャーネはアルビンをサポートしてあげて」
子どもたちはそれぞれに返事をし、私は神機を手にしてテントを出た。
侵食が進んでいる手前、あまり使いたくはないが仕方ない。
神機の朝食がきたと思うことにしよう。
やってくるのはひとまず小型種五匹。
量はあってもカスの類か。
敷地の唯一道路に面している入り口に立つ。
足音が近づいてくる。
この足音はアックスレイダーか。
どうかあのクソ厄介な堕天種ではありませんように!
黒い姿が見えた瞬間、すかさず捕喰してバースト。
ステップ攻撃で敵をなぎ払い続ける。
ここは通さない。
絶対に守ってみせる。
体は絶不調のはずなのに、バーストして戦っている時は元気そのものだ。
侵食が進んでいる証拠だろうが、今はそれでいい。
先のことは後回し。
今は目の前の敵を
第一波は難なくクリアした。
あの灰嵐同様、第二波、第三波がある。
朝っぱらから安飯の食い放題ってか。
「ツェンッピア、サイカ!」
「頑張れハニー! 回復薬はまだ少し残ってるから危なくなったら言えよ!」
背後のテントからの応援の言葉に、神機を掲げて見せた。
ええ、頑張りますとも。
苦しくとも恐ろしくとも、手首の痛みが無視できないほどになっていても、応援を受けた途端に笑顔になれた。
なら行ける。
私は戦える。
神機をしっかり構え、先陣を切って飛び出したオウガテイルを一撃でなぎ払った。
そうして第二波をどうにか撃破し、第三波の襲来に備えようとした時、それは起こった。
決定的な何かが、フェンリル本部から生まれた。
感応能力が伝えてくるのは、白い女の子どもと、見覚えのあるAGEを中心に光の糸が次々と生み出されている光景だった。
灰嵐の黒に負けない彼らが生み出す金色の糸は、束となり織り成され、綾なす布のように広がってこちらに向かって来ていた。
「エンゲージ?」
目の前を金色の粒と、七色に輝く光の欠片がゆっくりと昇っていくのが見える。
同時に、灰域濃度が急激に下がっていくのを感じた。
手首の痛みも引いていき、小康状態へと落ち着いたようだ。
第三波のアラガミたちの気配が沈静化し、廃墟から遠のいていく。
それを見越したかのように、テントの入り口が大きく開き、ダニーとビャーネが飛び出して私の横に並んだ。
テントではアルビンとクロエが驚きの声を上げ、呆然と外の様子を見ている。
あれほど苦しそうにしていたハンネスさんも、遠目から見てもわかるほど嘘のように穏やかな表情で眠っていた。
周囲を見れば廃墟全体が、そして瓦礫の向こうに見える荒れ果てた大地が、同じように光を放って多くの欠片を生み出し、空の彼方へ向かっていく。
不意に周囲がさらに明るくなった。
灰嵐という壁が消え失せ、未だ昇らぬ太陽が、それでもその光を持って大空を優しい色に染めている。
朝なのか、夕方なのか、白夜なのか。
時間の判別のできない、まさに夢のような一時だ。
「何だ、これ」
事の成り行きを見守るしかないビャーネの言葉に、その弟分は首を傾げた。
「……白くて赤くて茶色い子がなんかしたっぽい」
「は? 何だそれ?」
「あとね、おでこにトンガリあった。……アラガミ?」
「知らん。てか、何が何だかさっぱりわからんわ」
「ソリ。ぼくもわかんない」
そして二人は私を見るが、私は肩をすくめた。
「私もわからないよ。まあただ、向こうのゴタゴタは終わったみたいだね」
立ち昇る光の欠片にヴェルナーさんと、深層で過ごしたAGEたちの気配を感じた。
灰嵐となって全てを破壊し尽くし、灰と闇の底へ沈むしかなかった彼らの思いは、少しは慰められたのだろうか。
伝わってくる思いがある。
それは、この地に生きる全ての存在が『生きたい』という思いだった。
知っていた。
あのミナトからベース、そして今ここに至るまでの短い旅を通して、私たちはそれを見て感じてきたのだ。
今更な話だった。
だが、もしかしたらこの出来事で、それに気付く人がいるのかもしれない。
醒めた部分が囁く。
なあ、サイカ・ペニーウォート。
洗脳一歩手前のお節介がなきゃ、こんな簡単な気付きすら得ることもできんとは。
一時は地上の覇権を握っていた生物としては、あまりにお粗末な限りだとは思わねえか。
だが、お節介だろうがお粗末だろうが、これからみんなが生きていくためには必要なことなのだろう。
……多分。
そして、光は徐々に薄れ消えていった。
夢のような時間は終わり、後に残されたのは、日の出前の青とピンクとオレンジの混ざった空と、荒れた大地と、廃墟と残骸と、この地で生きる私たちだった。
「終わりか?」
「おわり?」
そう言って私を見上げる子ども二人に頷く。
「終わりです。お疲れ様でした」
二人は顔を見合わせ、そして再び私を見た。
「お疲れっした!」
「した!」
「はいはい」
「眠いから寝る!」
「ねる!」
「グッナイ、ユオタ」
二人は私に手を振り、あっさりとテントへ戻っていった。
感慨に浸る間もない。
全く、自分に正直なガキ共だ。
「サイカ、俺とクロエも少し寝るよ」
テントから言うアルビンの言葉に、私は頷いた。
「オッケー。しっかり休んでね」
「サイカは寝なくて大丈夫なの?」
心配そうに尋ねるクロエに、私は笑顔で頷いた。
「ありがとう、大丈夫だよ。今日も歩くから、しっかり休んでちょうだいね、マ シュシュット」
「ダコール」
ふざけた私の物言いに呆れた様子で笑い、寝袋に入った。
私は水と私物のバックを取り出し、全員が寝たのを確認して、テントの入口を閉めた。
周囲にアラガミの気配は感じない。
コーヒーを飲もう。
バーナーでお湯を沸かし、インスタントコーヒーを淹れた。
香ばしくどこか甘い香りが、いつもの日常に戻ってきたようでホッとする。
コーヒーを啜っている間に日の出の時間となり、太陽の光がこの地を照らした。
灰域が多少なりとも浄化されたことで、その光と熱が身に染みるように感じる。
見上げる空には、大小の雲がのんびり流れていた。
ベースを脱出して六日目。
いい旅日和になりそうだ。
恐らく今日はその最終日になるだろう。
締めくくりにふさわしい天気だと、寂しくも嬉しく思った。
コーヒーを飲み終わり、口直しに水を飲もうとして気付いた。
雲の流れる青空。
その南の果てから何かが来る。
アラガミではない。
エンジン音を響かせて空を飛ぶアラガミなど見たことも聞いたこともない。
……飛行機か? どこの?
点だったそれは、見る見るうちに形を作っていく。
青空に映える赤い鳥。
アラガミ装甲を纏いながらも、美しい流線型の形をはしっかり保たれ、その翼には四基のプロペラと足のようなものが付いている。
ペニーウォートにいた時、たまに空で見かけた飛行機とは少々異なる姿。
空飛ぶ翼をもつ船、飛行艇だった。
後付け
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字言い回し等、修正がありましたら都度修正します。
こちらでお知らせなどを語っておりますので、よろしければご覧下さい。
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