明るくなった廊下を歩いてエントランスへ出ると、既にアルビンとビャーネ、そしてカールさん達が待っていた。
「フオメンタ。いよいよ出発ですね」
ヴィリさんが笑顔で言い、私は頷く。
「フオメンタ。ここの方々には本当にお世話になりました」
「いえいえ、ハンネスの代わりに恩返しをしたまでですから。
既に、ダスティミラーへの連絡は済ませています。向こうも貴方の救難信号を受信次第、医療チームを向かわせるよう手筈を整えているとのこと。そこに着くまでが大変でしょうが、くれぐれもお気をつけて」
そして、オーナーの顔をしたカールさんが一歩前に進み出た。
「一つ情報を。今朝方、ダスティミラーから手に入れた情報では、灰域捕喰作戦は中止になったとのことだ」
「え?!」
驚く私たちに構うことなく、彼は話を続けた。
「理由は定かではないが、作戦の肝であるオーディンに致命的なトラブルが発生したらしい。再開するか凍結するかは不明だが、ひとまず事態は収束したと見ていいだろう。
だが、君たちが通過する旧ペニーウォート領の治安がかなり悪化しているとのことだ」
「領内を統治するミナトがなくなった上に、今回の一件で、かの総督が敷いた枷も少々緩んでいるのでしょう。違法船が商船を襲撃する事件が多発しているそうです」
ヴィリさんの補足に、カールさんの表情が厳しいものになった。
「君たちには直接関係はないだろうが、襲撃に巻き込まれる可能性はないとは言えない。君たちを害するものは、アラガミや灰域だけではないということだ。道中は十分に気をつけてくれ」
「わかりました。お気遣い、ありがとうございます」
山越えの後も、気を抜けないってことか。
だが、灰域捕喰作戦が中止になったという情報は、間違いなく朗報だろう。
これで、グレイプニルに怯えて道を進むことはなくなったのだ。
そして思う。
クロエの提案を飲み、あの廃墟の避難所で過ごしていたら、私たちはどうなっていたのだろうか。
考えようとして止めた。
今は目の前のことに集中し、反省も含めて旅を終えてから考えよう。
と、緑の向こうから声がした。
「ああ、良かった。間に合ったようですね」
その声に、ダニーは即座に私の背に隠れ、横に立っているアルビンの体が強ばるのを感じた。
木陰から出てきたのは、車椅子に乗ったニナさんと丸っこい中年男性、そしてオリガさんやイーリスさんといった、私たちと面識のある人々だった。
「フオメンタ。皆さん」
「フオメンタ。ニナさん、起きて大丈夫ですか」
「すみません。お止めしたんですが、どうしてもと仰って」
気遣うヴィリさんに、丸っこい人が面目なさそうに言うのを、ニナさんは笑って受けた。
「だって、部屋に篭って外部の人と直接のやり取りが少ないんですもの。しかも深層からのお客様でしょう。一言だけでも、ご挨拶をと思いましてね」
ニナさんは車椅子を操作し、私たちの方を向いた。
「あら、可愛らしいお客様たちですこと。初めまして。私はニナ。オーナーの祖母です」
「そぼ」
ダニーがぽつりと言うと、ニナさんは笑みを深くした。
「ええ、オーナーのお婆ちゃんですよ、可愛らしい貴方」
声をかけられ、私の服をつかみながらコソコソと隠れるダニーに視線を向ける。
「ダニー、ご挨拶は? できるでしょ」
背を軽く押して促すと、ダニーはこっそりと体を半分出した。
「……
「ちゃんと挨拶ができるなんて、ダニエルさんは偉いですねえ」
せっかく褒めてくれたが、ダニーはすぐさま私の背中に隠れてしまった。
初めての人ということもあるが、周囲に人が多いこと、ダニーが嫌う白い人達がいることで、人見知りスキルが強く発動しているようだった。
ビャーネ、クロエと続けて挨拶をし、私とアルビンも改めて自己紹介をした。
「深層から歩いてここまで旅をしてきたなんて、本当に凄いこと。ゆっくりして頂きたいところですけど、事情がおありの様ですしね」
「また荷物を取りに伺いますので、その時に改めてお礼をさせて下さい」
「ええ、ええ。ぜひまた、遊びにいらしてね」
その時、隣にいたアルビンが口を開いた。
「あ、あの、俺」
すると、ニナさんは首を振り、目を細めてアルビンを見た。
「焦らずに。大丈夫ですよ」
「……はい」
アルビンは目線を落として頷いた。
そしてニナさんは、私の腕に触れた。
「サイカさん、子どもたちのこと頼みましたよ」
「はい」
「貴方の旅は、これからが本番です。大変でしょうけど、しっかりね」
腕に触れるニナさんの手に力がこもった。
これからが本番?
今日は旅の最終日にして体調は絶不調。
私の真価を試される時、ということだろうか。
疑問に思ってニナさんを見たが、真意をうかがうことは出来ない。
しかし、彼女は湖のような穏やかな視線は、確実に私の何かを見通しているように思えた。
普通の人間で感応能力もないだろうに、ホント凄いし怖い人だよ。
私はその気持ちを隠して頷き、笑顔を作った。
「はい。ニナさんも、どうかお元気で」
そして、一人一人に挨拶をして回った。
頑張って。
しっかりな。
また会おうね。
目を見て握手をし、励ますように肩を叩かれる。
そんなやりとりに既視感があった。
朱の女王の拠点を脱出する時と同じだった。
だが拠点と明らかに違うことは、人とGEがいること。
そして、このミナトはこれから先も在り続け、再会の希望があるということだった。
もちろん、確実なんてものはこの世界にはそうそうないが、そう信じさせる人の営みがここにはあった。
「そろそろ時間だ。格納庫にキケたちが待っている。山の麓まで彼らに送らせよう」
そう言ってカールさんは、私たちをエレベーターへと案内する。
ボタンを操作すると、程なくしてエレベーターのドアが開いた。
「ではまたな。幸運を」
「はい。ありがとうございました。またお会いしましょう」
しっかりと握手をし、私と子どもたちはエレベーターに乗り込んだ
「
カールさんの後ろでニナさんが笑顔で手を振った。
すると、ダニーが私に隠れながら小さく手を振った。
「キートス、モイモイ」
こうしてお世話になった人々の姿を見届けたのを見計らったように、エレベーターの扉は閉まった。
「また来たいね」
「そうだね。みんなでまた来ようね」
クロエの言葉に、私とみんなは頷いた。
エレベーターが格納庫のある階に止まり扉が開くと、鉄と油の臭いが鼻につく。
広々とした空間は柱が一本も見当たらない。
網の目のように鋼材で組まれた天井は、等間隔に照明が設置され、フロア全体を照らしている。
そして、昨日の飛行艇と何台かの大小様々な形の車、そして船が置かれており、緑の多いエントランスと比べて、極めて人工的な印象を強く与えた。
これが格納庫か。
ビャーネにとっては宝物庫のように見えるのかもしれない。
「フオメンタ! さあこっちに来てくれ」
手を挙げて呼んだのは、キケさんだった。
その横に、神機のケースを持ったフィリップさんと、同じく神機のケースを二つ持ったユーシュエンさんもいて、彼らの後ろには私達を乗せる車が控えていた。
「おっちゃんたち、グッモーニン!」
「モイ」
小走りでキケさんたちの元へ向かうビャーネの後ろを、ダニーがくっついていく。
「二ーザオ。お前たちは今日も変わらず元気っすな」
「にーざお?」
「私の故郷の言葉でおはようって意味っす」
説明するユーシュエンさんにビャーネは深く頷き、一拍遅れてダニーも頷いた。
「なるほど。二ーザオ!」
「にーざお!」
「そうっす」
「二ーザオ!」
「にーざお!」
「二ーザオ!」
「にーざお!」
「一回で十分っすよ」
オリガさんの時といい今といい、ユーシュエンさんは、クールと言うよりは淡白な性格らしい。
その間に、私は車を観察する。
一言で言えば、とても身軽だった。
最低限のアラガミ装甲に、天井部分と側面にはカバーがかかり、十人ほどが乗れる大きさだ。
無駄な装飾は一切なく、窓はビニール製。
しかも濡れた布で拭いたと思しき跡が残っている。
隣で私の服を掴んでいるクロエのテンションが、だだ下がりしているのを感じた。
可愛げも洒落っ気もなく、あまりの実用的な姿にガッカリしているのだろう。
「こんな装備で大丈夫なの?」
アルビンが尋ねると、フィリップさんは明るく笑った。
「ああ、問題ない。この周辺は灰域濃度もアラガミの出現頻度も低い。ここにいる全員、灰域への耐性もある。数時間程度のドライブならこれで十分さ」
「ふーん」
「さすがに冬は装甲車を使うけどな。さ、後ろのドアから乗ってくれ。出発するぞ」
車のエンジンがかかり、私たちは車の後ろへ回り込むと、ユーシュエンさんがドアを開けてくれた。
内部も外見同様、無駄な装飾が一切ない必要最低限のものだった。
子どもたちを先に乗せ、私、ユーシュエンさんの順で車内に入る。
最後にフィリップさんが助手席に乗り込んだ。
「よし。トーヴェ、いつでも行けるぞ」
≪了解。一番ゲートを解放します≫
「トーべだ」
車内の無線から聞こえたトーヴェさんの声に、ダニーが反応した。
フィリップさんいわく、トーヴェさんはこのミナトのオペレーターの一人らしい。
≪今日の天気は、北西の風、風速一メートル、一日を通して晴れ。最高気温は十八度。灰域濃度は順応範囲内。ミナト周辺に脅威となるアラガミ反応はありません。皆さん、お気をつけて行ってらっしゃいませ≫
「いってきまーす!」
「トーべ、モイモイ」
≪ナハダーン!≫
車は動き出した。
格納庫の端にあった巨大なエレベーターに入りさらに上昇。
ドアが開かれた先のトンネルに入る。
誘導灯が照らす緩やかな上り坂を速度を落とすことなく進み、真っ白に輝く出口が見えた。
思わず目を細める。
そして、一日ぶりに外へ出た。
ビニール製の窓の向こうに、侵食されて燃えているような石や岩、草花の少ない大地が見える。
ああ、現実に戻ってきた。
安堵と落胆が混ざった複雑な気持ち。
まるで、夢から覚めたような感覚だ。
「さて、これから一時間ほどのドライブとなる。麓につくまで気楽に過ごしてくれ」
子どもたちは外の景色を楽しみ、私は薬が効いているおかげで多少の余裕があり、GEの男三人と雑談をして過ごした。
彼らの故郷もここから遠方にあり、厄災以降帰れなくなっているそうだ。
キケさんは航空機で本部へ物資を運ぶ途中で、フィリップさんはカイスラに物資を運んだその休憩中に、そしてユーシュエンさんは、学者だった両親に連れられてカイスラに来ていた時に被災したという。
「ここに来たのは厄災が起こった年で、私は当時いたいけな九歳。両親は厄災で死んで、バタバタしている間に整備士になって、外へ出る必要があったからGEになったっす」
「AGEじゃないんだね」
「私は体質的に、AGEになれる素質がなかったっすから」
彼は生まれ育った故郷と同じくらいの年数を、あのミナトで過ごしたのだ。
「だからぶっちゃけ、あそこが私の故郷でもいいんすけど、さすがに両親は、故郷へ帰してあげたいとは思っているっすよ」
「まあ、一度は戻りたいよな」
「情報が入ってこないから、余計に気になるってのもある。俺らが生きている間に、何とかなるんかねー」
三人はそれぞれに言うのを、故郷を知らない私は感慨深く聞いていた。
アルビンとクロエの故郷もどうなっているのだろう。
今までは、二人とも目の前のことに必死で思いを馳せる暇もなかったろうが、余裕が出来たら、故郷のことを思い返す時がくるのだろうか。
キケさんたち同様、一度は戻りたいと思うだろうか。
……まあ、思うだろうな。
その時、私は側にいるのだろうか。
側にいたとしたら、何ができるだろうか。
「そーいや、ポップでサイケなAGEちゃんはどうよ?」
「遠回しに派手言うのやめろ。……私は今まさに向かっていますよ」
「ん?」
私は唇の両端を釣り上げた。
「ペニーウォート。あそこが私の故郷みたいなものでして」
「ああ、そうか。あんたのファミリーネームはそうだったな」
神妙な雰囲気になるフィリップさんとユーシュエンさんとは違い、キケさんの態度は変わらずお気楽なものだった。
「これからあんたが登る山の頂上な、ペニーウォート領が一望できるんだよ。今日は天気もいいし、よく見えると思うぜ」
「よくご存知ですね」
「数年前に腕輪のご機嫌が斜めになったことがあってな、精密検査でダスティミラーに行ったことがあったんだ」
オリガさんがそんな話をしていたな。
視線を感じて目線を動かすと、ビャーネが窓の方を向きつつ、チラチラとこちらを見ている。
さっきから、道理で静かなわけだ。
「あそこはいい噂は全く聞かなかったけど、山頂からの景色だけは抜群に綺麗だった」
「そうですか。それは楽しみです」
「ああ、今日もきっといい景色だ」
そこまで推されると、期待値が上がってしまう。
その時、体調が良ければいいのだが。
息を吐いて目線を上げると、珍しく真面目な表情のビャーネと目があった。
いつにない様子に、私は首を傾げる。
「何? トイレ?」
「えっ?! マジかよ小僧」
「見ての通りこの車には便所はねーっすよ。あ、空いた容器にするっすか? これとかこれとか」
「ちげーし! 何でもねーから!」
そう言ってそっぽを向いてしまった。
そういや一昨日、コイツと故郷の話をしていたっけ。
まだ気にしてたんか、らしくない。
少し眠くなってきた。
一言断り、私は椅子に深く座って目を閉じる。
車から伝わる振動を感じながら、私は眠りに落ちた。
◆
この地は、山が少ないそうだ。
山らしい山は北部にあり、一番高い山でも千五百メートル以下だという。
これから登る山は、元々は鉱山だったらしいが、標高自体は低く高低差も緩やか、そして灰域とこの地特有の気候から、背の高い雑草も少なく、歩き回るのも容易。
そして、鉱山の跡地ということもあり、道もある程度は整備されているとのことだった。
「なんで、子どもでも比較的登りやすいと思うんだわ。アラガミと灰域さえなきゃ、ハイキングにはうってつけなのにな。おまけに、旅の要であるきんきらAGEちゃんは体調絶不調ときた。だから、この山越えには、キミたち四人の協力が必須不可欠だと強く言っておこう」
元気に返事をする年少組、気負うことなく普通に返事をするアルビン、私の服を掴んで目を逸らしながらもしっかり頷くクロエと、反応は様々だ。
「よーし! いい返事だ。じゃあ昨日のブリーフィングでも説明したが、改めてルートの確認をしよう」
麓に到着し、車を降りた私たちは、ボンネットに広げられた地図を見ながら、キケさんから説明を受けていた。
子どもたちが集中して聞いている横で、私もしっかりと聞こうとするが、言葉が次々と右から左へと抜けていく。
頭がぼんやりする。
薬の影響か、熱が出ているせいか。
それでも安全に関わることだからと、いつも以上に意識を集中して話を聞き続けた。
今回私たちが進むルートは、アローヘッド、ダスティミラー、ペニーウォートの領土に囲まれた湖を回り込むルートだ。
山間の道を進む最短にしてわかりやすく、体への負担の少ないルートとのことだった。
「山を越えたら、航路に沿って歩けば問題なく目的地にたどり着ける。ダスティミラーの領内に入る前に丘陵地帯があって、AGEちゃんにとってはそこが最後の難所になるだろうが、ここまできたらもう頑張るしかねーな」
アルビンがキケさんを見上げた。
「ダスティミラーに入ったって何かわかる情報はあるんですか?」
「看板なりなんなりあるはずっすけど、なかったらビーコンを見ればいいっす」
「ビーコン?」
「そう。ダスティミラーの領内は恐らく最新規格のものを使用しているはずっす。多分お前なら一目でわかると思うっすよ」
ユーシュエンさんがビャーネに言う横で、フィリップさんが肩を竦めた。
「あそこのミナト、色々チートだからなー」
「何で、そんなチートなミナトが中立なの? アローヘッドより凄くね? トップに立てなくね?」
「旗振り役が面倒臭いからじゃないっすかね。責任背負うと何かと不自由だし、失敗したら真っ先に非難の的になるし」
あっさり答えるユーシュエンさんに、フィリップさんが呆れた視線を向ける。
「お前な、身も蓋もなさすぎ」
「さすがにこれは意地悪すぎる見方だが、俺たちのミナト同様、向こうにもちゃんとした理由があるんだろうよ」
キケさんは、歯をむき出してニヤリと笑った。
「それにチートだからこそ、AGEちゃんを助けることもできるんだ。そこは大いに利用してやれ」
子どもたちに言いながら地図を折りたたみ、私に手渡した。
そして、ユーシュエンさんから神機の入ったケースを受け取る。
「出し入れ面倒っすけど、これなら子どもでも運べるっす。置き忘れと盗みに気を付けて」
「ありがとう」
「あと、これもどうぞ」
そう言って渡したのはグリップの付いた鉄の杖だった。
「本当は二本らしいっすけど、神機持つから一本で。体の負担、軽くなるそうっすよ。向こうに着いたら廃棄して大丈夫っす」
杖は思いのほか軽かった。
強度の不安はあるが、一回の山歩きなら十分だろう。
何か至れり尽くせりだな。
「本当にありがとう。でも、どうしてここまでしてくれるの?」
すると、三人のGEたちの雰囲気が変わった。
明るい日差しが雲に遮られたような、そんな印象だった。
三人は目線を互いに送り、そしてキケさんは静かな表情で言った。
「……俺たちは、ハンネスを見捨てて逃げたGEなんだよ」
キケさんは言う。
オリガさんの言っていた職員って、この人たちだったのか。
キケさんを隊長に、フィリップさんとユーシュエンさん、そして他のGEたちとハンネスさんは湖の調査に行き、その向こう岸で例の灰域種と接触した。
全員で逃げるつもりだったが、灰域種はしつこく、日没も迫り灰域濃度も跳ね上がって逃げるのも困難になった。
その時、ハンネスさんは気付いた。
灰域種の狙いは
ハンネスさんは自分を置いて逃げるように言い、自分はもちろん、他のGEたちを守るため、キケさんは断腸の思いでハンネスさんを置いて逃げたのだった。
「逃げ帰った俺たちを、イーリスは責めもせずに気丈に振舞ってくれたけど、陰で嘆いたに違いねえさ。相手は灰域種、おまけに一人だ。当然、他の連中も自責の念にかられてな。明日は他のAGEを連れて助けに行こう、せめて神機と腕輪だけでも回収しようってな」
そしてあの光の事件が起こった。
灰域濃度が大幅に下がり、飛行艇で向こう岸を渡ったところ、驚くべきことがわかった。
死んだと思われたハンネスさんの生体反応があったのだ。
大慌てで生体反応のある場所へ向かった先に、私達と、ボロボロだが生きているハンネスさんがいたのだった。
「だから、あんたたちは俺たちの恩人でもあるんだ。俺は覚悟を決めていたからいいさ。それが隊長ってもんだからな。でも、他の連中はそうはいかねえ」
「俺はアイツとダチなんだ。オッサンの判断が皆を生かすためとは分かっていても、キツかったぜ」
フィリップさんは整った顔を辛そうに歪め、それでも笑った。
キケさんは真面目な表情で私たちを見た。
「俺がハンネスを見捨てた事実は変わらない。そして、あんたがどんな思いでハンネスを助けたかは知らない。だが、俺たちは確かに救われた。生きているアイツに直接、お礼と謝罪をできる機会を得られたんだからな。……本当にありがとう、サイカ・ペニーウォート。そして勇気ある子どもたち」
私と子どもたちは、何とも言えず黙って彼らを見つめる。
子どもたちを危機に陥れた私の間違った判断に、確かに救われた人がいた。
それは奇跡で、再現性はない。
だからもし、次があったら切り捨て……本当に切り捨てられるのだろうか。
だが、今はそれを考える時ではない。
彼らの恩を受け取り、私たちは先へと進むのだ。
だから頷き、キケさんに手を伸ばした。
「ハンネスさんが元気になられること願っています。皆さんもどうかお元気で」
「ああ、気を付けて行ってこい」
そうして三人と握手をし、子どもたちもそれぞれに別れの挨拶を交わす。
私はマスクとゴーグルをつけ、同じように装備した子どもたちの方を向いた。
「じゃあ、みんな行こうか」
子どもたちは元気に返事をし、私たちはは緩やかな上り坂を歩き出す。
ここから先はペニーウォート領になるが、特にそれを示すものは無い。
あっさりとペニーウォート領に入り、しばらく歩いて振り向けば、キケさんたちが手を振っていた。
それを見たビャーネがマスクを外し、調子に乗った笑顔を浮かべた。
「おーい! オレたちがいなくても寂しくて泣くなよー!」
「なくなよー」
ビャーネの言葉に、同じくマスクをとったダニーが続いた。
「うるせー小僧ども! いいから前向いて歩け!」
「へいへーい」
キケさんが笑いながら怒鳴って言い返し、ビャーネとダニーは笑ってマスクをつけ、手を振った。
こうしてキケさんたちに見送られ、再び五人での旅が始まったのだった。
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