限界灰域のデトリタス   作:小栗チカ

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幕間 1

記憶に存在する先輩たちは、実に個性豊かだった。

明るくて強くて皆を引っ張ってきた人。

綺麗で優しくて子供の扱いが上手かった人。

賢くて物事を教えるのが上手かった人。

みんなの調停役として気配りが上手かった人。

牢に入れられ、過ごした時期は違えど、彼らには共通点があった。

彼らはみんな、記憶をなくした私を邪険にすることなく、仲間として受け入れてくれた大人だったということだ。

この環境が、今の私を形作っている大切な要素であることは疑いようがない。

 

私と同い年くらいで、同じ時に牢に入れられた友人と共に、そんな先輩たちに守られて、あのミナトで過ごしていた。

当時から、私を見る看守の視線は怖くて、身の毛がよだつ程に気持ち悪かったけど、必ず先輩たちが守ってくれた。

私たちは、そんな先輩たちに憧れていた。

特に一番年上の男の先輩と、彼を支えていた女の先輩は、子供心にも強くて、カッコ良くて、綺麗に見えた。

戦闘訓練の休憩の時、友人たちと先輩の話で盛り上がった。

話の締めは、いつかあんなふうになりたいね、だった。

 

でも、私たちは程なくして知った。

命令違反をした先輩が、懲罰室で散々暴力を振るわれていたこと。

皆が寝静まった夜、女の先輩が声もなく泣いていたことを。

早く大人になりたい。

早く強い大人になって、先輩たちを助けたい、守りたい。

寝て起きたら、強い大人になっていればいいのにと、友人は悔しそうに言っていたが、現実の私たちは守られる子どものままだった。

私たちを守り続けた先輩たちは、体と心を壊しながら一人、また一人と力尽き、牢へ戻ってくる先輩は誰もいなくなった。

それでも生き続けた私たちだが、リーダーになっていた男の友人が死に、ついに私たちが矢面に立つ時がやってきた。

 

「私たちでみんなを守るの」

 

男の友人の死を告げた彼女は、血の気の引いた真っ白な顔で言った。

私たちが守らなかったら、仲間や子供たちを守る人は誰もいない。

だから、大人になってみんなを守るの。

一人じゃ無理だけど、私たち二人ならきっと大丈夫。

不安はあった。

私は男の扱いはそこそこに得意だが、子どもは彼女ほど好きではないし、扱いもそれほど得意とは思わなかったから。

だが、彼女と一緒なら、きっと先輩たちのような大人になれる。

そう信じ、私は彼女と約束を交わしたのだ。

二人で大人になろう。

みんなを守ろう、と。

戦闘が得意だった彼女は、憧れていた先輩の神機を引き継いで、灰域でアラガミと果敢に戦い、私は友人を含めた子どもたちを性的な暴力から守り、待遇改善のために、今までより熱心に看守たちの相手をするようになった。

昼夜問わず看守たちの相手、たまに戦場で小銭稼ぎ、隙間時間は子どもたちの面倒を見たり、データベースを使った勉強をしたりと、我ながら随分と頑張っていた。

下衆な看守や大人の相手を積極的にする私を、友人は何度も何度も止めたけど、戦うより下衆な人やGEの相手の方がはるかに適正はあったし、待遇面での効果はあったと思う。

 

「私は大丈夫だよ。戦うよりこっちの方が得意だもん。適材適所。得意な分野でみんなを守ろう」

 

友人が諌める度に私が笑って言うと、彼女は何かを我慢するように口を真横に引き締め、しっかりと頷いた。

そんな私たちの努力を嘲笑うかのように、仲間や子どもたちが消えていく中で、それでも頑張ってこれたのは友人がいたからだ。

だが、戦いを得意とし、ミナトで一目置かれるほどの目覚ましい活躍をしていた彼女も、体が決して強いわけではなかった。

その上に粗悪な偏食因子を打たれ、体調が著しく悪い中で出撃した彼女は、ついに戦場で倒れた。

 

「ゴメンね、サイカ。あんた一人に任せることになっちゃって。でも、もう無理みたい」

 

彼女は泣きながら謝り、私の手を握った。

 

「悔しいよ。生きたい。あんたやアルビンたちと一緒に生きたいよ」

 

無念と共に子どもたちを私に託し、彼女は青い空の下で散った。

あれから数年経った現在、私は先輩と彼女が使っていた神機を担ぎ、紆余曲折がいきすぎて、子どもたちと限界灰域を旅するはめとなっている。

明らかに、かつて憧れた先輩たちより年上になった今の私は、先輩たちのような大人になれているのだろうか。

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