【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】   作:天城黒猫

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今回は繋ぎ回的な?



第12話

 ──衛宮切嗣は夢を見ていた。

 

 ……青色の美しき古代ギリシャの海の上を悠然と、そして堂々と進む船があった。

 

 その船は、黄金の羊毛を求めギリシャの広大な海と、無数に存在する島々を巡る旅をしていた。このギリシャの、この時代に存在する数々の英雄たちを乗せ、イアソンを船長とし、無数の英雄たちは歌を歌いながら、神を褒め称えながら、酒を飲みながら、舞踏を踊りながら、船を襲う海や島の魔物や蛮族たちを薙ぎ払いながら、海をその帆先を以て二つに切り裂きながら、今この瞬間も船はどこかの島を探しながら進んでいた。

 

 彼らが目指す地の名はコルキス、このギリシャの黒海の最果てに存在する島である。そこに黄金の羊毛があるということは、実に確かなことだった。

 だからこそ、英雄たちを乗せた船は真っすぐとはいかなくとも、ありとあらゆる困難が訪れようともそれらを突破しながら、ただただ海を進んでいた。

 

 例え怪物に襲われようが、例え神々による呪いが降り注ごうが、凶悪な原住民に襲われようが、船は沈むことなく、英雄たちはくじけることなく、ただただ最果てを目指して進み続けていた。

 

 ……人々はその長く、厳しい旅を褒め称えるだろう。栄光の船旅であると感動し、涙を流しもするだろう。

 しかし、しかしだ。──果たして船長イアソンはこの旅を栄光の旅であると思っていたのだろうか? いいや、この船旅を行っている間は、少なくとも栄光と希望と未来を抱いていた。

 

 そも、黄金の羊毛を取りに行くのは、イアソンが王となるためである。その羊毛をペリアス王の元へと献上すれば、王はその玉座をイアソンへと譲るという条件を持ち掛けた。そのため、イアソンは己が王となるために、長く、過酷な船旅を行っているのだ。

 

 さて、もちろんこの旅が困難を極めたことは当然のことだろうし、一つ一つのことをわざわざ話すこともないだろう。

 結局のところ、アルゴー船は最果て(コルキス)へとたどり着き、黄金の羊毛を手に入れたのだ。そのために、イアソンはメディアを妻としたのだが、これもまた今回はあまり関係のない話──

 

 この船旅の結末のみを語るとしよう。

 最終的にイアソンは黄金の羊毛を国へと持ち帰り、ペリアス王へと献上することとなる。しかし、王は己の権力を手放したくないがために、玉座を譲ることは無かった。

 

 その王の行為にイアソンは腹を立てもしたし、絶望もしただろう。なんせ、王となるために行ったあの厳しい船旅の全てが無へと帰したのだから。

 

 しかし、イアソンの不幸はここで終わることは無かった。

 

 彼が羊毛を手にするために、妻としたメディアは、ペリアス王の娘たちに若返りの秘術を授け、その魔術の材料として娘たちにペリアス王を殺害させたのだ。

 ……この行為を以て、王は存在しなくなりイアソンが玉座へと付く、そう考えての行動だったのだろう。しかし、果たして世間や城の従者や貴族がそのようなことを許すはずもなく、イアソン達は犯罪者として追われることとなった。

 

 そこからの逃亡生活は実に惨めなものだった──アルゴー船の長として振る舞っていた時の、輝かしい面影は泥にまみれ、とてもではないが見られたものではなかったし、食事にありつくためには森の獣を狩ったり、あるいは誰かの食べ残しを虫や野良犬のように漁らなければならなかったし、水は泥水を啜っていた。

 惨めな生活を送りながら、時折追手と出会い、そのたびに矢や剣で傷を負い、それでも何とかイアソンは逃げ続けていた。

 

 その最中、共に行動していたメディアは、イアソンの裏切りによって、イアソンの子を殺害して彼の元から去っていった。

 これによって彼が持っていた権力、栄光、美しい妻などありとあらゆるものが失われ、彼は全てを失っていた。

 

 ……そして、最期にたどり着いたのは嘗て栄光の旅を行った彼の相棒、アルゴー船の元だった。

 かつてその船体には黄金の装飾や、優れた職人たちによる見事な彫刻が施され、神々の加護が降り注いでいた。しかし、この時の船にはそんな美しい様子は一切なく、船体は苔むし、あちこちの木々は劣化によってボロボロとなっていた。

 

 逃亡し、追われる前のイアソンならば、何としてでも玉座を手に入れようと、己が王になろうとするために、この栄光の船を用いて、あるいはまた別の手段を用いて、王になるために足掻き続けていただろうか? 

 

 しかし、この時のイアソンは憔悴しきっていた。心は過酷な逃亡生活によって徐々にすり減り、日々を生き抜くだけでも精一杯だった。肉体もまた、その背中には無数の逃げ傷があり、涙を散々と流し続け、枯れはてたその目は光を失っており、その下には真っ黒な隈ができていたし、その筋肉のついた体はすっかりやつれていた。

 昔のイアソンとは似ても似つかない、まさしく亡霊のごとき姿をしていた。

 

 イアソンはアルゴー船へとよじ登り、空を見上げた。この時は夜であり、空には神々が打ち上げた無数の星座が輝いていた。

 そしてイアソンはその星を見ながら、今までのことを振り返っていた。

 

「何故だ?」

 

 とイアソンは憔悴しきった、弱弱しい声で呟いた。

 

「何故だ──どこで失敗した? 分かっている。どこがいけなかったのかなど、私が一番分かっているとも! ……私は、オレは、ただ王になりたかった。ただ、だた、それだけだった! 理想の国を──! 平和で、争いがなくて、皆がオレを褒め称える国が欲しかった! ……そこに君臨したかった! ああ、くそ、くそったれめ……」

 

 イアソンは力なく項垂れた。

 栄光の船旅は最早過去のものでしかなく、玉座に座ることは最早能わず、未来には何が残っているのだろうか──……答えは無い。何も無いのだ。

 せいぜいが、いままでのように逃げ続け、傷つき、泥と血に塗れ、いつ追手が襲い掛かってくるか分からない恐怖と共存しながら、具体的な目的地もなく、しかしてゆっくりと死へと足を進めるのみだろう。

 

 つまるところ、現在のイアソンには英雄としてのプライドも、アルゴノーツの栄光も、財宝も、権力も、その全てを失い、手放し、今彼が持っているものはなにも無く、未来への道もまた、崖へと通じるのみの道だったのだ。彼にはそれが理解できていた。

 ……ならば、ならば。未来が絶望と破滅しかないのなら。この苦しみが続くのならば。ああ、もういっそここで全てを終わらせてしまおう──

 

 故に、イアソンはアルゴー船の船首にロープをかけ、そのロープに首をくくることで、その人生を終わらせようとした。

 

「はは──」

 

 イアソンは力なく笑い、そしてロープに首をかけた。

 権力を得るために海へと旅立ち、メディアとその周囲を騙し、ペリアス王を殺し、己のことを夫として慕うメディアを裏切り──後悔しかなかった。絶望しかなかった。

 イアソンはどうすれば良いのか、どこが悪かったのか、常に考えていた。しかし、人生は一人につき一度きりでしかなく、二度目などは存在しないのだ。故に彼の未来は無い。

 

 ──そして、彼の体がだらりとぶら下がり、窒息する前にアルゴー船の船体がたちまちのうちに崩壊し、その巨体を以てイアソンを押しつぶした。

 ……これはきっと、アルゴー船なりの介錯だったのだろうか? 己の相棒が一瞬の苦痛もなく、死ねるようにその身を以て彼を押しつぶしたのだろうか? ……それともイアソンが限界だったため、アルゴー船もまた同時に限界を迎えただけだったのだろうか? それを知る由はない。

 

 ともかく、かくしてイアソンという一人の男の人生は、栄光も仲間も、権力も、妻も全てを失い、こうして幕を閉じたのだった。

 

 

 

 ──遠坂時臣は現在昏睡状態にある。しかし、それでも完全に意識を失っているというわけでもなく、夢を見ることは何度もあった。

 

 パリスの目の前には、三人の女神が立っており、彼の手には黄金のリンゴが握られていた。

 その黄金の果実は、最も美しき女神へと捧げられるものであり、パリスは三人の女神の内の一人に、そのリンゴを捧げなければならなかった。

 

 ヘラ、アテナ、アフロディーテの三女神たちは、己が選ばれるようにとパリスへと賄賂を贈ることにした。

 ヘラは王としての地位と財宝を。アテナは戦に勝ち続ける力と美貌を与えると言い、アフロディーテはこの時代にて最高の美女であるヘレネをパリスの妻として与えると宣言した。

 

 ……この女神による三択は究極のものである。下手に女神の怒りを買えば、大地は災厄で満ちることになるだろう。常人ならば、答えを出すために悩みつくし、答えの代わりに知恵熱を出して倒れること請け合いだろう。

 

 汝が欲するは地位か? 力か? 美女か? さあ、選べ。さあ、どれが良い。何を求める? そして答えるのだ。その果実を渡すのだ。我らの内、誰が一番美しい? 

 

「では──」

 

 パリスは女神がなぜ美を誘い合っているのか、そんなことはどうでも良かったし、考える頭も無かった。

 金も要らないし、地位も要らない。勝利も、美も良くわからない。けれども、美人なお嫁さんならば欲しい──! ゆえに、パリスがリンゴを差し出した相手は、アフロディーテだった。

 

 それは彼が女神の言葉を耳にしてから、ほんの一瞬で行われた選択だった。

 こうしてパリスは、ヘレネという美女を己の妻として手に入れることに成功した。しかし、ヘレネはすでにメネラオスの妻であり、パリスがメネラオスからヘレネを奪い取るという形となってしまったのだ。

 

 そして己の妻を奪い取られ、怒りに染まったメネラオスはかつてヘレネを己の妻とするために、誘い合った男たちに声をかけ、ヘレネを奪い返すために戦争を行うことにした。これが俗にいうトロイア戦争の開幕となった。

 

 パリスは己の選択が戦争を引き起こしたことを知ると、頭を抱えて見せた。

 毎日沢山の死者が発生し、英雄たちは次々とその命を散らし、大地は血と武器とで覆われ、城や町は攻撃されて崩壊した。己の兄であるヘクトールも、アキレウスを前にその命を散らした。

 そんな様子を見ながらも、パリスはこの戦争に参加し、そして敵側にいるアカイアの大英雄、アキレウスの踵をアポロンの加護を用いて打ち抜いた。

 アカイアが誇る大英雄、アキレウスはパリスの手によって死亡した。しかし、それで膠着状態に陥っていた戦況がひっくり返るわけでもなく、トロイアはあのトロイの木馬による不意打ちによって陥落した。しかし、これはこの場ではどうでも良いだろう。

 

 パリスは頭を抱えるのだ。目の前で死んでゆく人を見つめる度に。己が引き起こした戦争で、人々の命が失われる度に。

 もしも、あの時別の女神を選んでいたのならば、こんな戦争は起きなかったのだろうか──? ……いいや、それは難しいだろう。パリスはトロイアを滅ぼす災厄の子として生まれていたのだから。故にどの女神を選ぼうが、トロイアが滅びるという結末は変わらないだろう。

 けれども、考えずにはいられないのだ。他の女神を選んでいれば、もう少し()()な結果になっていたのかもしれないと! 

 

 ああ、何で僕はいつもこうなんだろうか! よく考えずに行動して、周りに多大な迷惑をもたらしてしまう! 

 

 

 

「……う」

 

 衛宮切嗣は目を覚まし、瓦礫の下からその体を這いあがらせた。

 彼はメディアの魔術によって意識を奪われ──ヘラクレスの存在を維持させるために、己が持つ令呪に細工をされたのだった。そこまで思い出した切嗣は、己の手の甲を見つめた。

 

 そこにはかつては三画あった令呪が二画にまで減っていた。それはヘラクレスの戦闘による影響か、あるいはメディアが令呪一画分の魔力を吸い取ったからなのか、それは分からなかった。

 

「セイバーは……一体どうなった?」

 

 彼は魔力を失い、いまだに完全に覚醒していない意識で回りを見まわした。

 つい先ほどまでいた城は粉々に砕け散り、瓦礫となっていた。これは恐らく敵の攻撃によるものだろう、と切嗣は結論付けた。

 その瓦礫に押しつぶされて死ななかっただけでも、十分幸運だったといえるだろうか。そして、彼は己の妻のことを思い出すと、意識を一気に覚醒させて叫んだ。

 

「アイリ……アイリ! どこにいるんだい!」

 

 アイリスフィールもまた、この城にいたのだ。ならば、彼女も同じく瓦礫の下に埋もれている可能性が高く、衛宮切嗣は力の入らない体で瓦礫を掻き分けた。

 この懸命な捜索は朝日が昇るまで続き、そしてとうとうガレキの下から己の愛しい妻を見つけ出すことに成功した。彼女の体は瓦礫によって少しばかり傷ついてはいたものの、生死に影響を及ぼすほどのものではなかった。アイリスフィールは気絶していたが、死んではいないことが分かると切嗣は彼女の体を抱きしめた。

 

「よかった……」

 

 衛宮切嗣はアイリに手当を施し、状況を整理し始めた。

 セイバーの行方は不明であり、令呪は一画を失い、そして拠点であるアインツベルンの城も、瓦礫へと姿を変化させた。この調子では、城の中にある武器、特に精密機械や銃火器なども掘り出すことは難しいだろうし、仮に掘り出せてもそのほとんどが破損していると見て良いだろう。

 森の中に仕掛けた地雷などの罠は全てが撤去されており、どこに消えたかも不明だった。

 

 現在の切嗣の武装といえば、ポケットに入るような小型の銃と、起源弾を放つためのトンプソン・コンテンダーぐらいだった。

 このような状況で、これから先どうすれば良いのか切嗣は頭を巡らせ続けた。

 

 武器と拠点は失われ、己の相棒である久宇舞弥は行方知れずとなり、妻の意識はなく、己のサーヴァントもどこかへと消えた──正直に言ってしまえば八方塞がりであった。

 それでも切嗣は己の身の安全を守るために、そしてアイリスフィールをゆっくりと休ませることができるような場所へと移動することにした。その場所というのは、彼が万一のために用意していた、今では誰も住まう人の居ない武家屋敷だった。

 

 






次の話は明日(9月16日)投稿します。会社休みだからネ!

このペースでいけば、今月か来月あたりには完結できそうです。

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