【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】 作:天城黒猫
マテリアルというか、解説というか、そんな感じのヤツもそろそろ作り始めたいですね。
「連続殺人犯の犠牲となった一家から唯一生き残った少年は錯乱状態にあり、現在は警察の保護と共に精神病院に……」
ウェイバー・ベルベットはテレビから流れる朝のニュースを読み上げるアナウンサーの声を、寝起きであまり働いていない頭で聞き流しながら、グレンとマーサに「おはよう」と声をかけた。
リビングの机の上には、マーサが用意した朝食が所せましと並べられており、ウェイバーは自分に与えられた席に座ると、作法に則って食事を始めた。
「──一晩で多数の自動車が盗難され、警察にはいくつもの被害届が提出されており……」
「ウェイバー、今日は何か予定はあるのかい?」
「ん、えっと」
ウェイバーはグレンの質問にぼうっとしながら答えた。
「今日は町をうろつこうかと思う」
「そうか、迷子にならんようにな」
「大丈夫だって」
「タンクローリーが民家に衝突し、爆発を起こしました。……原因は運転手の居眠り運転と思われ、詳しいことは現在調査中です──」
ウェイバーは食事を食べ終えると、アナウンサーの言葉をやはり聞き流しながら家を出た。
……前にも説明したことがあるが、魔術師にとって神秘の隠匿は暗黙の了解にして絶対的なルールである。
それは聖杯戦争も例外ではなく、この戦いによって発生した器物の破損や、巻き込まれた犠牲者などは、サーヴァントや魔術師による仕業としてではなく、何かしらの事故として処理されることが多い。
聖杯戦争の監督役を務める聖堂教会は、聖杯戦争の最中にて発生した魔術的な出来事を隠匿する役目を請け負っている。
最初に発生した戦いからすでに二日目が経過したが、その間に発生した神秘の漏洩の恐れがある出来事は全て教会の手によって処理されている。
例えば、目の前でサーヴァントの召喚を目にした、雨竜龍之介の犠牲者となった家族の子供は、サーヴァントや龍之介が口にしていた詠唱など、魔術に関連する記憶を消去し、ただ雨竜龍之介という殺人鬼の手によって両親が殺され、一人生き延びた子供として処理されている。
サロメとガレスとの戦いによって発生した損害は、サロメが放った魔術や宝具によってアスファルトやその下にある地面が抉れたりしたぐらいであり、水道管の破裂による緊急の工事を行うという体で隠ぺいを行っている。首を失った雁夜の死体は、臓硯の蟲たちが喰らいつくしでもしたのか、教会がその場に移動したときはどこにもなかった。
陳宮が行った、冬木市内の自動車を爆弾として遠坂邸にぶつけるという出来事は、単純に一晩に発生した自動車の大量盗難として処理された。タンクローリーをぶつけて遠坂邸が吹き飛んだことについては、運転手が居眠り運転をしていたために発生した不幸な事故とされた。
また、住宅街にて行われたヘラクレスと、他のサーヴァントたちとの戦闘は、地下にあるガスパイプの爆発として処理された。ヘラクレスの腕力や、パリスの槍、そしてアポロンの熱線などによって道路や民家の塀、街灯などは粉々に破壊されていたが、ケイネスが展開した結界によって騒音や衝撃が漏れることはなかった。
こうした隠匿によって、冬木市に住まう一般市民たちは物騒な出来事が立て続けに発生したという認識でしかなく、夜遅くまで出歩く人々が減ったぐらいしか影響はなかった。
……自動車という足を奪われ、移動手段が無くなった人についてはご愁傷様としか言いようがないだろう。暫く経過すれば、自動車屋も忙しくなるかもしれない。
「ふぅ……」
言峰璃正は眉間の皺を指先で軽く揉むと、ため息を吐いた。
彼は監督役として、夜中の間ずっと神秘の隠匿のために活動をしていたのだ。その肉体は老人のそれとは思えないほどに鍛えてはあるものの、やはり徹夜には少しばかり堪えたようだった。それに、今の彼は己の息子である言峰綺礼と、友人──というよりは、協力をしている遠坂時臣が行方不明となっているという事実が、彼の心に傷を与えていた。
教会は監督役として中立でなければならないのが常ではあるが、今回は遠坂時臣に秘密裏に協力を行っているため、そのルールを破っているのだ。もしもこの事実が外部に漏れたら、ロクでもないことになるのは明らかだろう。
そのため、秘密裏に綺礼と時臣の行方を探さねばならないのだから、その心労はかなりのものだった。
「綺礼、お前は一体どこにいるのだ……?」
霊基盤によれば、現在脱落したサーヴァントは一体、つまりバーサーカーのみであり、他のサーヴァントはまだ消滅していないことから、少なくとも綺礼や時臣はまだ生きている可能性が高いという事実が、言峰璃正の心の支えとなっていた。
「む──?」
言峰璃正は魔術を使った通信機から知らせがあることに気が付き、相手の言葉を耳にした。
その内容は、これからサーヴァント同士の戦いが発生する可能性がある、という旨のものだった。
「何だと!」
彼は思わず叫んでいた。聖杯戦争は基本的には夜中に行われるものであり、このような昼間に行うようなものではないからだ。
続いてその報告の内容を聞いた彼は、次第に落ち着きを取り戻していった。
戦いが行われる場所はコンテナが並べられている港であり、現在その場所を利用する船は無いし、漁船も近づかないだろうし、一般人は立ち入り禁止の場所となっている。精々が見回りの警備員ぐらいのものであり、結界を用意すれば神秘の隠匿はしっかりと行われるからである。
──さてここで、時間を少しばかり巻き戻し、ウェイバーたちの様子を見てみるとしよう。
現在、彼はバーソロミューと共に商店街をうろついていた。
バーソロミューが目に付いたものを面白そうに眺めたり、あるいはウェイバーにねだったりしており、それをウェイバーがうんざりしながら後をついていく形となっているが。
「糸目のお嬢さん、このラム酒を二本貰えませんか? ああ、それともう少し前髪を伸ばしてはいかがでしょうか? 具体的には目が隠れるぐらいに。今も魅力的ですが、そうすれば貴女はより魅力的になること請け合いです」
「冗談の上手い人だねえ、口説いてもサービスはしないよ。毎度あり!」
現在、バーソロミューは酒屋でラム酒を二瓶手に入れ、(代金の支払いはウェイバーだった)瓶の入った紙袋を片手に上機嫌となっていた。
豪快に金を使うならばウェイバーもさすがに文句を言うが、バーソロミューはウェイバーが金欠になるかならないか、その手持ちギリギリを見定めて物を購入しているため、文句を言おうにも中々言えずに、こうして微々たる買い物なら、仕方がなく許すこととなっていた。
「……ライダーはやっぱり、酒が好きなのか?」
やけに上機嫌なバーソロミューに、ウェイバーは問いかけた。
「そうですね。海賊ですから。海賊は皆酒が好きなんですよ。暴れた後は飲んで、略奪した後も飲んで、女を抱いた後も飲んで……とまあ、酒は欠かせませんでしたね。何せ船という閉鎖空間で過ごす上に、お尋ね者ですからね。数少ないストレス解消の方法だった、というのもあるのでしょうが、やはり海賊としての本能が酒を求めるんですよ。
……まあ、飲みすぎないように注意は必要ですが。酔っぱらって乗員を殺害とか、海に落ちるとかそういう事態になったら笑えませんからね」
「ふぅん……そんなにいいモノなのかね。よく分からないな」
「おや、マスターは酒を飲んだことがないのですか?」
「当たり前だろう。ボクはまだ学生だぞ?」
「なるほど、それは残念……是非とも学び舎を卒業した暁には、酒を飲むと良いでしょう。最も、溺れることが無いように注意する必要はありますが」
このようにして、ウェイバーとバーソロミューは、取り留めのない会話をしながら商店街を練り歩いていた。バーソロミューはこの時代ある様々な物を見ては楽しんでいたが、ふと警戒の様子を見せた。そして同時に、ウェイバーも恐怖によって体を震わせた。
というのも、彼らの目の前には、ガレスとそのマスターであるケイネス・エルメロイ・アーチボルトが立っていたからだ。
「ほう、これはこれは」
とケイネスはウェイバーの姿を認めるなり、好戦的な笑みを浮かべて彼を睨みつけた。
その視線はさながら鋭い刃物のような威力を潜めており、全身を視線という刃で貫かれたウェイバーは、恐怖によって全身から汗を流し、顔を歪めてみせた。
「私が手に入れた触媒を盗み取り、あろうことか聖杯戦争に参加しているとは。いやはや……残念だよ。ウェイバー君。君には未来があった。若い君には未来を歩んで欲しかったのだがねぇ」
「──ッ」
ウェイバーは目の前に立っている人物に、ただただ恐怖していた。
元はこの教師と、そしてその周りを見返すためにこの聖杯戦争に参加していたのだ。だが、いざこうしてケイネスという一人の天才の目の前に立つと、己の中にあった自信といえるようなものは砕かれ、蛇に飲み込まれる蛙のように怯えるばかりだった。
だが、その恐怖はバーソロミューが両者の間に立ち入ることによって消滅した。
「ふむ、どうやら知り合いのようですが……私のマスターをこれ以上脅すのはやめてもらいましょうか。ここで事を始めても構わないのですが──いかがでしょうか?」
「……」ケイネスは妨害されたことによって、眉間に皺を寄せた。戦うこと自体は構わないが、このような人通りの多い商店街で戦うようなことは、神秘の漏洩を防ぐために避けたかった。故に、ウェイバーを睨み付けるのをやめ、場所を移動するように促した。
ケイネスが戦いの場として提案したのは、コンテナの並んでいる港だった。
商店街から港まで移動するのには、少しばかり時間を要したが、その間ウェイバーとケイネスは一切言葉を交わすことなく、己のサーヴァントと一言、二言ばかり話すのみだった。
「マスターは彼とはどのような関係で?」
とバーソロミューはウェイバーに問いかけた。
「……ボクの先生だよ。先生がこの聖杯戦争に参加するっていうから、ボクは見返そうとしてここにいるんだ」
「ランサー」
と会話を行うウェイバーとバーソロミューを他所に、ケイネスはランサーに念話で話しかけた。
「あのサーヴァントを容赦なく殺せ。言うまでもないが、躊躇いは不要だ」
「……はい」
ガレスは、己のマスターが怒りを抱えていることに気が付いていたし、相手のサーヴァントのマスターを殺そうとも考えていることにも気が付いていた。しかし、それに否定的な感情を抱くことは無かった。というのも、彼女は騎士であり、この聖杯戦争という戦場に己の意思で参加しているのならば、殺し殺されの覚悟は抱いているからだ。
もちろん、必要以上に痛めつけるようならば止めようと声をかけるし、逆にこちら側が殺されるようならばそれも認めるだろう。
暫く歩き、とうとう港へと到着した。ウェイバーはそこが処刑場のように思えるほどのプレッシャーを抱えていた。
ケイネスは人が寄り付かないようにするための物と、内部の様子が外からは見えないようにするための結界を張り終えると、ウェイバーの前に立った。
「さて、まずは申し開きがあるのならば聞こうではないか、ウェイバー・ベルベット君」
とケイネスはウェイバーに話しかけた。その声は子供をあやすような柔らかいものだったが、目は一切笑っていなかった。
「私の触媒を奪い取るだけではなく、ましてや聖杯戦争に参加しているとはね。これは、あの時私が君のあの下らない論文を破ったことにたいする当てつけかね?」
「……」
ウェイバーは頷いた。ケイネスの言っていることはほとんど事実だったからだ。ケイネスもまた頷くと、言葉を続けた。
しかし、次は明らかな敵意と殺意を抱いた調子で、今にもウェイバーの心臓を鷲掴みにでもしかねないほどに激しい感情の込められた声だった。
「……触媒を盗み取るという行為だけでも大罪だが、挙句の果てにこの戦いに参加するという行為、これは決闘を行うに値する挑発行為だよ。ウェイバー君。
君は魔術師同士の決闘を行ったことは無かったね? よろしい。特別に課外授業を行ってあげるとしよう。魔術師同士が殺しあうということが、どういうことかその体と魂の髄まで叩き込んであげようじゃないか」
「──あッ」
叩き付けられたケイネスの殺意に、ウェイバーは一瞬己の死を錯覚した。
しかし、それを吹き飛ばすようにバーソロミューは、突如大笑いしてみせた。
「ハハハハハッハ! ああ、全くおかしなことを長々と語る!」
突如大笑いしたバーソロミューに、その場にいた者たちはあっけにとられた。ケイネスは静かに問いかけた。
「……何がおかしいのかね?」
「いやはや、聞いてみれば貴方は自分の大切な物を奪われ、そして私のマスターがこの聖杯戦争にその奪った私の触媒を用いて参加しているため、怒っているようですが、私から言わせてもらえばちゃんちゃらおかしいにも程がある!
物を奪われたのならば、奪い返せばいい! コケにされたのならばさっさと殺してしまえばいい! そんな当たり前のことを殺しもせずに、長々と話すとは! 奪われたから怒る? コケにされたから怒る? いはやは、なんともまあ
「──私のマスターをそれ以上嘲笑うのはやめてもらいましょうか」
とガレスはバーソロミューを睨み付けた。
ケイネスは己が馬鹿にされたという事実に怒りを覚え、歯を食いしばりながらバーソロミューを睨み付けた。
「海賊風情がほざくな。貴様の触媒は我がサーヴァントの触媒を用意する際、ついでに取り寄せた物だ。バーソロミュー・ロバーツ! 薄汚い海賊め!」
「ははは、私の真名もお見通しのようだ! さて、マスター、こちらを少しばかり預かって貰えませんか?」
とバーソロミューは紙袋から酒瓶を一本引き抜き、もう一本の酒瓶が入った紙袋をウェイバーに手渡した。
ウェイバーは思わず紙袋を受け取りながらも、顔を青くしながら叫んだ。
「オ、オマエ! 何であんなことを言ったんだよ!?」
「いやぁ、はははは。まあよろしいではありませんか」
バーソロミューはウェイバーの罵倒を主とした言葉を他所に、ランサーの元へと振り向くと、酒瓶のコルクを手で引き抜き、その中にあるラム酒を一気に喉の中に流し込んだ。
「……ふぅ、現代の酒も中々悪くありませんね。では、始めるとしましょうか!」
「──やれ、ランサー」
とケイネスは処刑人のように、冷酷にランサーに命じた。こうしてガレスとバーソロミューとの戦闘が開始された。
バーソロミューは空になった酒瓶をガレスへと投げつけ、それが彼女の目前にまで迫ると、酒瓶を銃で打ち抜いて粉々に砕いた。
「なッ──」
粉砕され、細かい破片となったガラス片は、ガレスの視界へと広がり、彼女の視界の妨げとなった。
そこにバーソロミューが突撃し、カトラスを振るった。そして両者はそのまますれ違い、立ち止まった。
「女性に傷をつけるのはあまり気が進みませんが、まあ仕方がありませんね」
とバーソロミューは呟いた。ガレスの顔を見てみると、そのカトラスの一撃によって頬に一筋の切り傷ができており、そこから血を流していた。
「……女性だからといって、舐めないでもらいたいですね」
しかし、バーソロミューもまた無傷とはいかなかった。ガレスは目の前が見えなくとも、気配を感じ取り、槍の切っ先でバーソロミューの脇腹に一筋の傷を作り上げていた。
さて、戦いはまだ始まったばかりだ。このやり取りは彼らからすれば、ほんの挨拶にすぎず、本格的に刃を交えるのはこれからになるだろう。
次回の更新は来週(9月22日)までに行います。