【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】 作:天城黒猫
ガレスは放たれた無数の砲弾を恐れる様子は一切見せず、それどころか果敢にもその身一つで立ち向かってみせた。その場から大きく跳躍し、向かってくる砲弾を足場として、海に浮かぶ船の上へと着地した。
「ほう、一筋縄ではいかないようですね」
その絶技を見たバーソロミューは関心しつつ、ガレスの行動を観察し続けた。
自分の船に降りてきた不埒者を殺そうと、一斉に襲い掛かる海賊たちを、ガレスは槍で薙ぎ払うと、次の船へと目掛けて跳躍し、バーソロミューが乗っている旗艦を目指して移動を始めた。その様はまさしく牛若丸の八艘飛びのようであった。
「こちらに向かってくるつもりですか。そう上手くいくとでも?」
バーソロミューは周囲の船に合図を下し、空中を移動するガレスへと砲弾を放った。
流石のガレスといえども、跳躍している間を狙って大砲を周囲から撃たれては、己の元へと向かってきた砲弾全てを回避したり、迎撃したりすることは不可能だった。彼女は数発の砲弾を体に叩きつけられ、爆発を起こして海中へと落下した。
「では、私も行ってきますね」
「は、ハァ!?」
バーソロミューは、彼の突然の宣言に驚くウェイバーを尻目に、海中へと飛び込んだ。
彼は海中を移動するガレスを発見するのに、そう時間はかからなかった。ガレスはその全身に鎧を着こんではいるものの、ものの見事に海中を移動していた。しかし、バーソロミューから見れば、やはりその移動速度は遅く、彼がガレスの元へと追いつくのは、容易だった。
ガレスはこちらへと接近するバーソロミューを目にすると、槍を手にして戦闘態勢へと入った。バーソロミューもまた、右手にカトラスを持って構えた。
ここは海中であり、肉弾戦には非常に不向きな場所ではあるが、もしも戦うとなったら武器の強さや、技量よりも泳ぎの達者なほうが有利となるだろう。そういう意味では、海賊として泳ぎも得意としているバーソロミューのほうが、有利となるのは言うまでもないだろう。それに、ガレスは鎧を身に着けているため、どうしても動きが鈍くなるし、かといって鎧を脱いでもバーソロミューの水泳の前では、逃げることもできないため、己の身を守るために鎧を必要としなければいけなかった。
現に、バーソロミューはそのカトラスでガレスの鎧に、次々と傷をつけていった。この調子ならば、彼女の鎧を破壊するのも時間の問題だろう。
しかし、それよりもバーソロミューは、攻撃よりもガレスの息切れを狙っていた。サーヴァントといえども、活動するのには酸素が必要となる。そのため、この酸素の存在しない海中空間にて、息切れを起こせばその瞬間、窒息して溺れ死ぬのは確実だろう。
そして、とうとうガレスは息切れを起こし始めた。無理もないだろう。突然大砲で叩き落されたため、海中で長時間行動するために、呼吸などの準備はしていなかったし、バーソロミューから攻撃を受ける度に酸素をその口から漏らしていったのだ。
「あ──」
ガレスの意識は遠のき始め、彼女の視界は徐々に暗くなり始めた。こうなれば、彼女が溺れ死ぬまでにはそうそう時間はかからないだろう。バーソロミューはそれを見ると、海面へと浮上を始めた。彼の息もあともう少しで切れ始めるし、ガレスに止めを刺すにも、十分な呼吸を行って確実に彼女を殺せるようにしたかった。
……ガレスの意識は徐々に闇に包まれ始めた。手先は痺れ始め、体が思う様に動かせないようになっていた。
「ああ──」
彼女が思い出すのは、今生における己の主のことだった。ケイネスは騎士道を口にして行動し、己の妻となるべき女性を愛する立派な男だった。それに、ソラウもまたガレスの身を重んじるような言葉を投げかけ、己の婚約者を守るように口にしていた。
……ガレスの忠誠心はアーサー王へと捧げているが、サーヴァントとして召喚されたのならば、召喚したマスターに尽くすのがけじめというものだろう。ケイネスは勝利による誉れを願っており、ガレスはその願いに答えようとして戦っている。
──故に、ここで敗北するわけにはいかなかったのだ。ガレスはほんの一瞬だけ、全身に力を込め、己の体内にある魔力を槍に流し込んだ。その槍はマーリンより授かったものであり、魔力を使用した攻撃を可能としていた。
彼女の魔力は槍へと集い、ガレスはその槍を全力で海面へと目掛けて突き出した。その瞬間、槍の内部にある魔力が爆散し、大量の水を弾いた。
それはガレスがランスロットに憧れ、彼の宝具である『
巨大な爆発が発生し、ガレスにのしかかる大量の水は全て弾け散った。そのため、ガレスは呼吸をするための空気を得ることができた。彼女は肺の中に酸素を大量に取り込むと、近くの船へと跳躍し、甲板に着地した。
「なんと……!」
バーソロミューはまさかこのような芸当を可能とするとは思わず、揺れる波の上で驚いていた。しかし、すぐさま落ち着きを取り戻し、再び己の船へと飛び乗った。
ガレスの乗った船には、もちろんのことバーソロミューの部下である海賊たちが乗っており、彼らが己の船へと上がってきた敵に手を出さない筈もなかった。しかし、やはりガレスという一騎当千の騎士に敵うはずもなく、次々と薙ぎ払われていった。
「ふむ、では皆さん砲撃を」
バーソロミューは、ガレスが乗った船にいる海賊たちが皆やられるのを見ると、周りに命令を下した。ガレスへと目掛けて、周りの船は次々と砲撃をしかけた。360度周囲から放たれる砲撃を、ガレスは盾や槍で防いでいたが、逆に言えばそれしか出来なかった。バーソロミューによって鎧は傷つけられ、砲弾を数発受ければ、流石に砕け散るだろう。
鎧を失った状態で砲撃を受ければ、流石に傷は負うし、最悪致命傷ともなりかねないだろう。故に彼女は次々と行われる砲撃を防ぐ必要があったし、その場から逃げ出そうにも弾幕は非常に厚く脱出できるような隙間はほとんどなかった。これは偏にバーソロミューの指揮による賜物であろう。隙間が発生しないように、次々と砲撃を行わせる彼の指揮は、非常に素晴らしいものだった。
しかし、バーソロミューの攻撃は砲撃のみではなかった。彼はガレスの乗っている船がある程度破壊されはじめ、あともう少しで沈むといった段階になると、二隻の船をガレスの乗っている船を挟み込むように衝突させた。
これによってガレスが乗っている船は粉々に砕け散り、ガレスもまた船の破片に紛れて、二隻の船に押し潰されていたが、彼女は傷つくようなことはなかった。しかし、船に挟まれて身動きを取ることは不可能となっていた。
周りの船は、ガレスへと砲口を向けており、今か今かと砲撃の合図を待っていた。
「では──一斉掃射!」
砲弾は再び閃光となり、ガレスへと襲い掛かった。こうなってはガレスは回避することも、防御をすることもできなかったため、彼女はその砲撃をその身に受けることとなった。
巨大な爆発が発生し、ガレスは衝撃によって海上から港へと吹き飛ばされることとなった。
「う、ぁっ……!」
ガレスは港のコンテナにその身を叩き付けられた。彼女の鎧は粉々に砕け散り、その全身は砲撃による傷を負っていた。
「何をやっている、ランサー! 敗北は許さんぞ」
とケイネスは傷ついたランサーに怒鳴りつけた。彼はランサーが追い詰められているのが気に喰わなかった。触媒を盗み、聖杯戦争に参戦した己の教え子に敗北するなど彼のプライドが許すことはなかった。
「はい、まだやれます……!」
ガレスは傷ついた己の体に喝を飛ばして立ち上がると、盾と槍を構えた。
「このランスロット様から授かった盾があれば、どうということはありません!」
それは正直に言ってしまえば、虚偽ではあった。彼女の鎧は砕け散り、防御手段は盾のみとなった。これでは、次の一斉掃射を防ぐことは難しいだろうし、それが行われた時が己の敗北となるだろう。故に、彼女は次の砲撃が行われる前に、決着を付けようとしていた。
「ほう、立ち上がりますか」
バーソロミューは船の上で不敵に笑いながら呟いた。
「大したタフネス、中々にしぶといですね。ですが、次の砲撃で終わりとなるでしょう……」
バーソロミューは砲撃を行う合図を部下たちに命じようとし、ガレスは再びバーソロミューの元へと突進を始め、その場から駆け出した。
──その瞬間、ケイネスはこの戦いのことも、怒りの感情も全てを忘れ去り、冬木ハイアットホテルのある方角を振り向いた。
「──ッ!」
……ソラウはケイネスへと念話を送っている訳でもないため、ケイネスがソラウの身に危機が迫っているということを感じ取ることは不可能だろう。しかし、それでもこの時のケイネスには、ソラウが危険だという一つの予感、あるいは直観じみた何かがあった。
その原因は不明だ。メディアの魔術によって、工房が襲撃されても警報がケイネスの元へ届くことは無かったから、ケイネスは工房が襲撃されたことなど、知りようは無い。しかし、それでもケイネスはソラウの身に危機が迫っていることを察知したのだ。
そして、ソラウへと念話を送ったり、工房にいる悪霊や使い魔たちを操作しようとしたりした。しかしそれらは全て行うことはできなかった。ソラウの意識は途絶えているため、念話が届こうにも答えがあるはずもなく、悪霊や使い魔たちはメディアやヘラクレスによって、殲滅されているため操作のしようがなかった。
これによって、ケイネスの予感は確実な真実へと切り替わり、彼は一瞬の躊躇いもなく令呪を使用した。
「ランサー! 令呪を以て命じる!
「マスター! 何を──?」
突然のケイネスの命令に、ガレスは驚きの表情と声を上げたが、彼女はすぐにその場から姿を消した。令呪によって、この港から、冬木ハイアットホテルへと転移をしたのだ。
そして、彼女の姿が消失するとともに、ケイネスは僅かな後悔と、大きな焦りを覚えた。後悔は、ウェイバーとの戦いを中断したことによるものだった。そして、焦りの感情はもちろんソラウの身を案じてのことだった。彼は己のプライドと、ソラウを天秤にかけ、ソラウを選択したのだった。
ケイネスはバーソロミューと、ウェイバーを一睨みすると、踵を返してその場から立ち去ることにした。
「……命拾いしたようだな。ウェイバー・ベルベット君。一方的な宣言になるが、急用が入ったため、戦いは中止だ。だが、覚えておくように、決闘はあくまでも中断だ。次に出会ったその時が、君が死ぬときだ」
「──え?」
ウェイバーは突然の出来事に、口を大きく開いて、立ち去るケイネスの背中を茫然と見つめるしかできなかった。
一方、バーソロミューはそんなケイネスの背へと、銃を向けた。
「あのランサーも、どこかに転移してしまったようですし、あのマスターを殺すことは容易いですね」
「ま、待て、ライダー! 何を──! やめろ、ライダー!」
ウェイバーはバーソロミューに掴みかかり、その銃を構えた腕を掴んだ。
バーソロミューは大人しく銃を下すと、ウェイバーに問いかけた。
「マスターがそう望むのならば、やめるとしましょう。良いのですか?」
「……」
ウェイバーは俯いて黙った。彼は、あの教師を確かに殺したいほどに憎んでいたし、実際に決闘で圧勝して殺すようなことも、何度か想像した。しかし、それでもいざ殺すタイミングが訪れると、躊躇いを覚えてしまった。
バーソロミューはウェイバーの肩を叩き、言った。
「まあ良いでしょう。この選択が好と出るかどうかは分かりませんが、後悔することは無いように」
「……ああ」
ウェイバーは頷いた。
ケイネスは急ぎ足で冬木ハイアットホテルを目的地として移動していた。しかし、彼はその足を止めた。なぜならば、彼の目の前には間桐臓硯が立っており、この老人は怪しく、いやらしい笑みを浮かべていたからだ。
「……ご老人、申し訳ないがそこを退いてもらいませんか」
「そう急ぐことは無いだろう。若人よ」
臓硯は笑いながら言った。
「のう、ランサーのマスターよ。少しばかり儂の話にでも付き合ってもらえまいか?」
「お断りします。……今の私は急いでるのです。貴方と話すことは何もない」
ケイネスは注意深く、目の前の老人を観察しながら、警戒を巌にしていた。ケイネスはこの老人の狡猾さを見破っており、警戒せざるを得なかったのだ。少しでも隙を見せれば、そこからたちまちのうちに攻められてしまうだろう。故に、言葉の一つ一つを選び抜き、体の僅かな挙動ですらも非常に慎重にやらなければならなかった。
「まあ、聞くがよい……あのホテルにいる女だがな。あの女の元には儂の蟲がおる。なあに、変なことはしておらんよ。ノミのように小さな蟲だが、毒を持っていてな。儂が命じて針を刺せば、その女は死に至るじゃろう」
「何だと……ッ!」
ケイネスは殺気を抑えながらも、老人を睨み付けた。
「あのキャスター……真名はメディアであろうか? 魔術の実力は凄まじいが、策略、謀略の類は苦手なのか、儂の蟲には一切気が付いておらん。カカカ、のう、ランサーのマスターよ。儂が何を言いたいか分かるであろうよ」
「……」
ケイネスは黙りながら、老人の次の言葉を待っていた。間桐臓硯が行っていることは、脅迫であり、これから何を要求するのか、ケイネスはそれを考えていた。
「雁夜……バーサーカーのマスターじゃな。ヤツがもがき苦しむ有様を見るのは愉快じゃった。感謝したいぐらいじゃ。あれの死にざまは中々に楽しめた。
此度の聖杯戦争は見送るつもりだったが、ふうむ。こうして戦局を見てるとのう、儂にも聖杯を手にする好機があってなあ。こうして老骨に鞭を打って参戦しようと思ってな」
「つまり、私のランサーのマスター権を譲渡しろということですか」
「その通りじゃ。カカカカ! 月並みなセリフじゃが、あの女の命が惜しいのならば、そうするが良い」
ケイネスはどうにかして、間桐臓硯を始末、あるいはこの場から退けようと考えていた。しかし、戦いはすでに終了しており、ソラウを人質に取られては何かをすることもできなかった。
「……」
ケイネスはしばらくの間、思考し、そして己の答えを口にした。
「────」
……中々決着が付かなさすぎる……! ドロー多すぎ……多すぎない? この時点で三日目……!
次回は今週の日曜日(9月29日)に投稿します。