【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】 作:天城黒猫
※起源弾の設定について間違えていたので、文章を修正しました。それに伴い、切嗣の腕が切断されることはありません。(11月30日)
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトという魔術師は天才そのものであり、時計塔においては政治や研究といった分野において、その才を存分に発揮し、若くしてロードという地位にまで登り詰めた、まさしく神童といった評価が相応しいほどの実力を持っている。
そして、その才能は戦闘においても遺憾なく発揮されており、その実力はそこらの魔術師では到底太刀打ちできないだろう。
その証拠として、彼が文字通り片手間で作り出した魔術礼装、
そして、現在ケイネスはその才能を遺憾なく発揮し、衛宮切嗣という一人の男を殺すことに全てを注いでいた。
当然であろう。間桐臓硯の手によってこの状況が作り出されたとはいえども、今切嗣を殺せば、彼のサーヴァントは現世で活動するための魔力を失い、消滅するのだから。切嗣を殺すというのは、ケイネスの妻であるソラウを救い出すことと全くの同義なのである。
それに、彼はケイネスが遠坂時臣と決闘を行っている際、あろうことか横やりを入れて、しかもライフルという非魔術的な武器を用いて、時臣を行動不能に陥らせたのだ。
故に、ケイネスは全身全霊を以て切嗣を殺すべく、戦うのである。
その様子といったら、まるで一匹の手に付けられない凶暴な猛獣が暴れているかのようだった。水銀は鞭や槍、剣など様々な形状へと変化し、切嗣へと襲い掛かった。切嗣が逃げ隠れすれば、辺り一帯にある隠れられそうな木々を切り裂いていった。
現在彼らが戦っている場所についての説明をしていなかったため、失礼ながら今どのような場所なのかをここに書き記すとしよう。
港から少しばかり離れた位置にある、ちょっとした雑木林に囲まれた広場のような場所で、切嗣とケイネスの両名は戦闘を行っている。
切嗣は雑木林の木々を攻撃からの盾、あるいは隠れるための障害物として活用しながら、林の中を走って移動しつつ、ケイネスの隙を伺っていた。
しかし、今の切嗣は反撃を行うようなことは、あまりしなかった──いや、できないのだ。
というのも、主な装備はアインツベルンの城にて保管されており、その城が粉々に砕け散った今、切嗣はまともな装備をしていなかった。
これが万全ならば、トラップを無数に張り巡らせ、火力の高い銃をいくつも放つこともできただろう。しかし、現在の彼の手持ちにあるのは、服の中に隠すことのできる小銃数艇のみだった。
それに、ケイネスの苛烈なる攻撃を前に、切嗣は銃を手に取り、狙いを定めて引き金を引くという行為を行うこともできずに、逃げ続けるだけで精一杯だったのだ。
「虫のように逃げ回るか! 衛宮切嗣!」
ケイネスは吠え立て、切嗣目掛けて水銀による攻撃を行った。彼の足元にまとわりつく水銀は、形状をや槍のように変化させ、切嗣へと向かっていった。その速度たるや、拳銃から放たれた弾丸と同等か、あるいはそれ以上のものだった。
常人ならば避けることはおろか、認識することも難しいその攻撃を、切嗣は素早い動きで回避してみせた。
しかし、それは固有時制御という衛宮家の秘伝である、時間操作の魔術による働きだった。体内の時間を加速させることによって、2倍、3倍もの素早さで動くことが可能となっていた。だが、その魔術を行使した後は、操作した時間とのつじつまを合わせようとする、世界からの修正力によって反動が生じるため、肉体にそれ相応の負荷が発生するという代償が存在する。
そのため、戦闘においては非常に有効だが、易々と行使できるような魔術ではないのだ。しかし、現在の切嗣は、その魔術を連続して使用せざるを得ない状況に置かれていた。
ケイネスの暴風雨の如く激しく、素早い攻撃を前に、切嗣は逃げ続けることしかできなかったのだ。
「──くっ」
切嗣はこの状況に歯噛みした。
装備からして不十分だというのに、この戦場の地形も切嗣にとっては非常に不利だった。雑木林に生えている木々は細く、攻撃から身を守るのには不十分なものだし、隠れるのにもあまり適していない、ほとんど開けた地形であるため、ケイネスの自在に動き、変化する水銀が相手では非常に不利となっている。
それに、切嗣自信も正面戦闘よりは、狙撃や罠などの暗殺という形式による攻撃を得意としているし、ケイネスとの戦闘能力を比べると、切嗣は数段劣っている。
このまま逃げ続けても、いずれ限界が来るだろう。切嗣が逆転できる唯一の手段といえば、トンプソン・コンテンダーから放つ銃弾──彼の骨を削って造り出した起源弾による攻撃ぐらいのものであった。
しかし、そのとっておきを放つにしても、この水銀の猛攻を前にしてどうにか攻撃ができる隙を伺わなければならないのだ。障害物といえば細い木々ぐらいしかなく、身を隠すこともできないこの場所では切嗣が攻撃することができる隙を用意するのは、非常に難しいことだった。
次々と襲い掛かる水銀の刃や鞭を回避し続け、ケイネスへと銃を放つことができるその一瞬が存在しないのだ。
切嗣はどうにかしてその瞬間を生み出そうとしているが、今は逃げ続けるだけで精一杯だった。
「──さあ、そろそろ仕舞いにしようか」
とケイネスは処刑人然とした冷酷な態度で、死刑宣告を行った。
切嗣はその攻撃を、固有時制御による加速で回避を行った。走ったり、木を蹴って飛んだりして、林の中の空間を上手に使い、三次元的な動きを見せていた。
しかし、固有時制御による代償による痛みが、切嗣の肉体を蝕んでおり、その痛みは徐々に凄まじいものとなり、鼓動は激しくなり、汗が大量に流れ始めた。それによって切嗣は一瞬気を取られた。その一瞬が致命的となり、とうとう切嗣は水銀による一閃をその身に受けてしまった。
腹部を切断された切嗣は痛みによって地面に転がった。
ケイネスは地面をのたうち回る切嗣の元へゆっくりと歩み寄ると、冷酷な眼差しで彼を見下ろした。それは戦いはケイネスの勝利で終わり、あとは衛宮切嗣という魔術師の風上にも置けない男を処分する時間となったことを示していた。
「さて、衛宮切嗣よ。死んでもらおう。貴様は我が妻に手を出し、あまつさえ遠坂殿との決闘に銃などという薄汚れたモノで、横やりを入れた! これは断罪だ。これは天誅だ!」
「……」
切嗣はのたうちながらも呼吸を整えようとした。しかし、現在彼の肉体は限界に達していた。心臓の鼓動は血液がはち切れんばかりに波打ち、筋肉はその繊維が千切れ、脳は熱によってその機能を十全に果たすことはできず、一瞬でも気を抜けば彼の意識は闇の中に落ちるほどだった。
しかし、それでも尚彼は意識を懸命に保ち続けていた。それは偏にアイリスフィールの身を案じてのことだった。一刻も早くこの強敵を倒し、アイリスフィールを探し出さなければならないのだ。ここで死ぬわけにはいかないのだ!
「──さあ、死ぬがいい! 魔術師の名を汚す愚か者め!」
ケイネスは
──己の首を跳ね飛ばす刃が迫るのを、切嗣は視界に捉えた。
処刑寸前の衛宮切嗣が抱いた感情は絶望か? あるいは悲観か? はたまた諦観か? ──否、そのどれでもなかった。衛宮切嗣はこの時をずっと待っていたのだ! そう、己が銃を握りしめ、弾丸を放つことのできるこの一瞬を!
衛宮切嗣は刃が己の首元へと降りかかるその刹那の瞬間、今まで幾度も繰り返してきた銃を手に取り、その引き金を引くという行為を機械的に、正確に、素早くやってのけてみせた。
トンプソン・コンテンダーの銃口から、一発の弾丸が放たれた。その弾丸こそが、衛宮切嗣の切り札であり、彼を魔術師殺したらんとする必殺である。
しかし、その行為は意味を成さないのだ。たとえ──
「──ハァ……」
衛宮切嗣は小さな吐息を吐き出した。
それは偏に安堵によるものだった。水銀の刃はまさに紙一重といったところで、切嗣の首元でその動きを停止させていた。つまり、
次の瞬間には、
起源弾──それは衛宮切嗣の骨を削り、作り出した特殊な弾丸である。
衛宮切嗣の持つ起源は『切断』と『結合』であり、魔術師に対してこの弾丸が放たれると、その魔術師が持つ魔術回路は粉々に切断され、そして何の規則性もなく、無茶苦茶な形で結合される──機械で例えるのならば、それぞれの役割を持つコードや電子回路が引きちぎられ、全く別の役割を持つコードと繋ぎなおされるようなものだ。そうなれば、その機械は機能を存分に発揮することができなくなる。
つまり、この弾丸を受けた魔術師の魔術回路は破壊され、その機能を存分に果たすことができなくなるのだ。
衛宮切嗣はこの弾丸を今まで37発放ち、37人の魔術師を全て葬ってきた。まさしく必殺の弾丸なのだ。
「……」
切嗣は地面に倒れ伏し、未だに悶えるケイネスを見下ろした。
こうなってはケイネスは魔術を使用することもできないし、その肉体を十分に動かすこともできなくなるだろう。しかし、まだ彼は生きており、魔術回路が破壊されたといっても、サーヴァントとの契約が途切れたわけでもなかった。
故に、聖杯戦争の参加者としては未だに敗北していないのだ。
しかし、切嗣はケイネスを一瞥するだけであり、手を下すことはなかった。
いつもの冷酷な殺人機械たらんとする切嗣ならば、容赦なくケイネスの脳を撃ちぬいていただろう。しかし、この時の切嗣はアイリスフィールの身を案じ、精神的に疲労していたのだ。故に、彼はケイネスの命を奪うことより、間桐臓硯に連れ去られたアイリスフィールを見つけることを優先したのだ。
「とんでもない足止めをくらった……アイリ、無事でいてくれ!」
切嗣は簡単な傷の手当てを行い、出血を止めると、痛みを訴える肉体に鞭を打ち、その場から立ち去った。
聖杯戦争というのは、何もサーヴァントのみが戦うわけではない。そのマスターである魔術師が戦闘を行うときもあるのだ。
マスターが死ねば、魔術の供給を得て現界しているサーヴァントも消滅する。故に敵のマスターの命を狙うというものは、不自然な行為ではない。
マスターとの戦闘において注意すべきなのは、マスターが不利に陥った際、令呪という絶対命令権を使用し、サーヴァントを転移させることができるという点であろう。いくら実力のある魔術師とはいえども、サーヴァントという、規格外の存在に勝利することはまず不可能である。
この冬木の地に存在する魔術師はなにもサーヴァントのマスターだけではない。舞弥がその良い例だろうか。切嗣と共に敵のマスターを屠ろうとしていたのと同じように、サーヴァントと契約こそしていないものの、暗躍する人物は存在するのだ。
間桐臓硯は暗闇に潜みながら、切嗣とケイネスとの戦闘を観察しており──決着が付くと、その表情に醜悪な笑みを浮かべた。
「衛宮切嗣の勝利か。アレを今殺すか? 否。それは愚策じゃのう。ヤツは未だ余力を残しておる。令呪を使ってサーヴァントを呼ばれたら叶わん。しかし、もう片方の小僧などああなっては赤子の首を捻るより容易いであろうな。ああなってはもはや何もできまい! 両方殺すなど以ての外。他のサーヴァントに対抗できなくなるからのう」
──間桐臓硯は悪辣な存在である。蟲の如く影に潜み、獲物を喰らうその期を刻々と狙っているのだ。
臓硯おじいちゃんは切嗣が令呪を使えない状況に陥っていることを知りません。
次回の更新は来週の日曜日、つまり11月17日です。……更新できなかったら、ポケモンに夢中になっていると思ってくださいな!!