【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】 作:天城黒猫
あと5話くらいで終わると思います。
聖杯戦争も四日目を迎えることとなった。脱落したサーヴァントといえば、未だバーサーカーのサロメ一人のみではあるが、マスター達はその限りではなかった。
サロメのマスターである間桐雁夜はケイネスに殺されたし、遠坂時臣及び言峰綺礼、そしてマスターではないが久宇舞弥。この三人は陳宮に囚われの身になっている。ガレスの元マスターであったケイネス及びソラウの両名は間桐臓硯の策によって、ガレスの手によって殺害された。
イアソンのマスターである衛宮切嗣は、臓硯に連れ去られたアイリスフィールを探し、その精神を疲弊させていた。
このように、脱落したサーヴァントは未だ一体のみではあるが、マスター達は何名かが死亡したり、ダメージを受けたりとしていた。
各々様々な状態ではあるが、皆一つだけ本能的に確信していることがあった。
すなわち──この四日目から、戦いはより激しいものとなるであろうということを。
ウェイバーもまた、それは例外ではなかった。彼はこれまでにパリス及びガレスと交戦したが、どちらも致命傷を与えるまでには至っておらず、それどころかバーソロミューはガレスの攻撃によって左手を切断されたのだ。顔に付けられた傷は、ウェイバーの治癒によって回復したものの、切断された手まではウェイバーの実力では再生まで至らなかった。
しかし、バーソロミューは自分の手が無くなったことなど気にした様子はなく──正確には、町を歩く人々に己の左手が無いということを悟られないように、うまく隠しながら街を歩いていた。そして、メカクレの人物をナンパしたりと、相変わらずの様子であった。
ウェイバーは、そんなバーソロミューの様子に、いらつきを隠せずにいた。
「オイ、ライダー。オマエなぁ……」
「静かに、マスター……」
とライダーはひっそりとした声で呟いた後、念話でウェイバーに声を掛けた。
「我々を尾行しているものがいます」
「なっ──」
ウェイバーは驚いて、周りを見回そうとした。しかし、バーソロミューはそれを阻止し、言葉を続けた。
「自然体で──そう、そのまま……かなり遠くからこちらを窺っているようです。恐らくはアーチャーでしょうね」
バーソロミューの言葉は果たして正解であった。
パリスは夜が明けると、街中をバーソロミューとそのマスターがうろついている、という連絡を陳宮から受け取るなり、遠坂邸から飛び出してすぐさまバーソロミューの元へと向かった。
ビルの上を怖がりながらも移動しつつ、バーソロミューを確実に仕留められるような状況を待っているのだが、バーソロミューは街中をうろついているため、人目に付くところでは攻撃は出来なかった。
「それにしても──」
パリスはバーソロミューの様子を見ているうちに、己の内側から怒りが込み上げているのを感じていた。……無理もないだろう。今回は冤罪だということを我々は知ってはいるものの、パリスからすればバーソロミューは己のマスターを卑怯にも攫い、その上で堂々と街中に出ては好みの人物を口説いたり、好き勝手に遊んでいるというように映るのだから、怒りを覚えるのも無理もないであろう。
パリスは今すぐにも弓の弦を引きたいのをこらえ、歯を食いしばってバーソロミューを狙撃するべきタイミングを見定め続けた。
「……必ず、助けますから。マスター」
そうしたパリスの内心など、バーソロミューやウェイバーが知る由もない。しかし、彼らからすればパリスは元から敵なのだから、狙われる理由があるということは十分に理解していた。
「オ、オイ。ライダー、どうするんだよ?」
ウェイバーは今この瞬間にも、バーソロミューや己を追跡している人物が居る、という事実に恐怖を隠せず、オドオドとした様子でバーソロミューに念話で問いかけた。
それにバーソロミューは、酒屋の娘に手を振りながら念話で答えた。
「そうですね。真昼間であり、人通りの多いこの場所にいれば攻撃されるようなことは無いでしょうが──ふむ、ここは勝負を挑みますかね。……こうやって遠くから監視されるというのも、少しばかり落ち着かないですから。マスターはそれでよろしいですか?」
「……ああ、そうだな」
ウェイバーは逡巡した後、頷いた。
「こうやって狙われているのが分かっているっていうんなら、対策のしようはいくらでもあるだろ?」
「そうですね。では人目の映らない場所へ移動するとしましょう──」
こうしてウェイバーとバーソロミューの二人は戦場へと移動することを決定した。その道中も、パリスは遠く離れた場所で、バーソロミューを追跡していた。
移動する最中、ウェイバーはバーソロミューに対して問いかけた。
「何か策はあるか?」
「そうですね──宝具を使われると厳しいでしょうが、先ほどマスターが言った通り、やりようはいくらでもありますよ。遠距離攻撃なら、こちらにも砲撃がありますしね。……あちらはこれまで以上に、本気で仕留めにかかるでしょう」
「左手がないだろ。大丈夫か?」
「そうですね。確かに銃やカトラスを握る手が一つ減るというのは、少しばかり不便ですね。実際、ゲームをするときにもコントローラーを片手で持たなければならないので、ギャルゲーの最中にあるミニゲームをプレイするとき、手間取りましたからね」
「オマエなあ。こんな時にまでゲームかよ」
ウェイバーは嘆息し、呆れてみせた。バーソロミューはからからと笑って答えた。
「何かを楽しむことができる時間があるのならば、楽しむことが大事ですよ。もちろん、メリハリは大事ですが……人生、何が起こるのかわからないのです。辛いことも、楽しいこともありますよ? そして、それらは必ずしも自分の求めるべき時に、求める出来事があるという訳ではありません。だからこそ、楽しむことができる時には、楽しむことが……自分が望むことを行える時には、躊躇わずに行動することが大事なのです」
「ライダー……」
ウェイバーは、「それはオマエの経験談か?」と言いかけ、その言葉を飲み込んだ。彼は、バーソロミューの人生というものを知っている。彼がどのようにして、海賊になったのかを知っている。
……バーソロミューは元々は、商船の一員だったところを、海賊の人質となり、それから海賊船の船長としての才を見込まれ、世界最大の海賊船団を率いるにまで至った。……バーソロミューは、果たして自ら望んで海賊となったのか……その選択に後悔はないのか──ウェイバーは気になってはいるものの、それを聞くことはしようとしなかった。
「ここを戦場としましょう。さあ、マスター。私の後ろに」
「あ、ああ」
気が付けば、バーソロミューとウェイバーの二人は目的地へと到着していた。そこは、我々が知るところの、
バーソロミューは右手にカトラスを握り、パリスが立っている遠く離れた建物の屋上目掛けて、その刃先を突き出して叫んだ。
「さあ、かかってきなさい!」
──その声こそ、遠く離れた場所に居るパリスには聞こえなかった。しかし、パリスはバーソロミューがどのようなことを言っているのかは理解した。己を挑発しているのだ。
「……ッ」
バーソロミューの様子を見て、パリスはマスターを救い出したい感情と、バーソロミューに対する怒りとによって今すぐにでも飛び出しそうになるが、どうにか理性によってそれを堪えた。
そうだ。今飛び出してしまっては、彼女の策が無駄となってしまうのだ。いくら深く物事を考えないパリスといえども、策を無駄にするようなことはしない──彼は昨夜のことを思い出していた。
「大丈夫ですよ」
どうやってバーソロミューを倒そうか、と二人で頭を捻っている最中、シャルロット・コルデーは唐突に言い放ったのだ。
彼女は笑顔で言葉を続けた。
「私がいます。私がライダーを倒します」
そうだ。彼女は確かにそういったのだ。であるのならば、彼女の行動を無駄にするようなことをしてはならない。パリスはどのようにしてバーソロミューを倒すのか、と問いかけた。
帰ってきた答えはこうだった。
「それは秘密です、でも、そうですね──私はアサシン。だったら、やることは一つしかありません。あなたは、もし失敗したとき……いえ、私が攻撃した後、いつでも敵を攻撃できるようにしておいてください」
パリスが行うことは、シャルロット・コルデーがバーソロミューに攻撃した後、それが成功しても、失敗しても、いつでも攻撃できるように矢を弦に番え、引き金に指を掛けることのみである。故に、パリスはこうして忍耐強く歯を食いしばりながら、バーソロミューをいつでも攻撃できるように、照準を合わせるのだ。
しかし、そろそろシャルロット・コルデーがその暗殺の御業を見せても良い頃合いだ──パリスから見た彼女は、英霊というには弱く、頼りなさそうに見えた。腕力も、知力も、技術も、英霊たりえる程ではなかった。
英雄というには、あまりにも普通で、どこにでもいる娘のように思えた。……否、実際そうなのだ。そんな彼女が、どのようにしてバーソロミューという大海賊を仕留めるというのか、その方法をパリスは一切聞いていなかった。
というよりは、そのことを問いかけると、彼女はどこか困ったような笑みを浮かべ、そのあといつもの微笑みを浮かべながら「大丈夫ですよ」とか、「任せてください」とかの答えを口にするのみであったのだ。
果たしてシャルロット・コルデーはどのようにして攻撃するのか──
「──え?」
……それは驚きと困惑が入り混じった声であった。誰がその声を発したのかはわからないが、その声が発された理由を説明することは簡単である。
シャルロット・コルデーは、バーソロミュー達の真正面にその姿を堂々と晒したのだ。気配遮断スキルを使っている様子は一切見られず、彼女はゆっくりとその歩みを進め、徐々にバーソロミューへと接近していった。
「……なあ、ライダー。アレって」
ウェイバーは目の前に現れたシャルロット・コルデーの姿を認めると、バーソロミューに問いかけた。
「ええ、サーヴァントですね」
バーソロミューは頷いた。
さて、ここで唐突ではあるが、素人ながらに暗殺というものについて説明させていただくとしよう。
暗殺とは何か、と問われれば人を殺す行為だと答えるしかない。しかし、それは戦場のような場で、堂々と名乗りを挙げて一騎打ちするようなものではなく、日常の中で、唐突に刃をその首に振り下ろすようなことをいうのだ。つまりは、全くの不意打ちで敵を仕留める行為である。
それでは暗殺を行う存在、すなわち暗殺者と呼ばれる彼らは、どのようにして暗殺を行ったのだろうか?
……基本的にはだまし討ち、例えば月明かりの無い闇夜を歩いている中を襲い、例えば一人で歩いているところを複数人で攻撃したり、例えばすれ違いざまに心臓にナイフを突き刺したり、例えば飲食物に毒を仕込んだり、寝ているところを攻撃したり、遥か遠く離れた位置から銃で狙撃したり──例えを挙げればキリながいほどに、暗殺の手法は数多く存在している。
なので、ここは分かりやすい例を挙げるとしよう。
アサシンの語源となった山の翁達である。ハサン・サッバーハと呼ばれた歴代の長達は、それぞれが様々な方法で暗殺を行ってきた。
魔人の腕で心臓を握りつぶす者、内に宿る多数の人格によって様々な難関を潜り抜ける者、毒の口づけで仕留める者もいた。
どの翁たちも皆驚異的な暗殺の御業を手にしていた。しかし、そうした超人然とした彼らでも、暗殺をするときはターゲットの認識の埒外から刃を振り下ろしたものだ。
影に隠れ、あるいは背後から、ターゲットに知覚されないように命を奪う。それが暗殺なのである。
暗殺者とは──敵の不意を打ち、殺す者也。
闇夜で刃を。認識の外から狙撃を。好意を抱かせ警戒心を失わせ。飲食物に毒を仕込み──
しかし、彼女はそうしたことは一切しなかった。ジャン・ポール・マラーを暗殺することを決意し、事前の入念な下調べや、詳細な計画すらもなく、その足でマラーが住まうパリへと向かい──ターゲットへと近づいたのだ。
その際、マラーはシャルロット・コルデーに対して一切の警戒心を持つことは無かった。そして、シャルロット・コルデーはマラーの元へ接近すると、ナイフを彼の心臓へと振り下ろしたのだ。
……結局のところ、マラーは殺される直前、否。殺された後ですらも、シャルロット・コルデーが暗殺者であるということに気が付くことは無かったであろう。
なぜならば、彼女はただ
そこに他人からの警戒は一切存在しなかった。屋敷に入るときも、会話をしているときも、ナイフを振り下ろした時でさえも、シャルロット・コルデーという人間を警戒するものは、誰一人存在しなかった。
つまり、これまで何度もしつこく繰り返しているが、暗殺者というのは認識の埒外から殺す者である。その点において、シャルロット・コルデーは究極の暗殺を行ったと言えるであろう。
故に──シャルロット・コルデーは暗殺者として、英霊となったのだ。
では、そんな彼女の宝具とはどのようなものなのか? それを今からご覧いただこうではないか。
「おはようございます」
とシャルロット・コルデーは笑顔を浮かべ、まるで親しい人間にするかのような挨拶をした。
「ええ、おはようございます。可愛らしいお嬢さん」
とバーソロミューは答え、言葉を続けた。
「こんなところに何の用でしょうか?」
「ええ、一つだけ。ライダー、さんですよね? 合ってますか?」
「合ってますよ。そういうあなたのクラスは何でしょうか?」
「ふふっ、それは内緒です。だって、そうでしょう。聖杯戦争では、サーヴァントのことは隠したほうがいいって聞いていますから」
「それもそうですね」
彼は紳士然とした態度で、淑女に接するのと同じような振る舞いだった。
シャルロット・コルデーは、一歩ずつ、ゆっくりとバーソロミューとウェイバーへと接近していった。それをバーソロミューやウェイバーは何ら不思議に思うことも、警戒することもなかった。
……彼らはシャルロット・コルデーがサーヴァントだということは理解している。しかし、それでもなお警戒することは無いのだ。それは、別段彼らが不用心というわけではない。
シャルロット・コルデーの宝具は既に起動されているのだ。故に、彼らはシャルロット・コルデーという暗殺者を警戒することは到底不可能なのだ。
また一歩。シャルロット・コルデーはバーソロミューへと近づいた。少しだけ強い風が吹くと、彼女は帽子を飛ばされないように手で押さえた。そして風がやむと、またバーソロミューへと歩き始めた。
あと三歩。
彼女はニコリと微笑んだ。
バーソロミューは微笑み返した。ウェイバーは突然現れた彼女に戸惑いを隠せない。
あと二歩。
彼女は握手を求めるかのように手を差し伸べた。
バーソロミューは握手に応じようとして手を差し伸べた。そこに警戒心は一切無かった。
あと一歩。
彼女は──ナイフをバーソロミューの
バーソロミューの体は血を拭きだし、グラリと倒れた。
「ら、いだー……?」
ウェイバーは突如崩れ落ちたバーソロミューを見て、何が起きたのか理解できなかった。
これこそが、シャルロット・コルデーという暗殺者の暗殺なのだ。彼女の宝具──『
警戒心を抱かせることはなく、真正面から、意識外から
バーソロミューの体は地面に倒れ伏し、その瞬間数発の銃声が鳴り響いた。
「あっ──」
シャルロット・コルデーは息を吐くかのような声を漏らし、体にいくつかの銃弾を浴びると、その衝撃で後ろに吹き飛び、鮮血をまき散らしながら倒れた。
「ライダーッ!?」
ウェイバーは、この時初めてバーソロミューが攻撃されたのだ、と理解し叫んだ。
そして、それと同時に遠くからこれを見ていたパリスもまた、シャルロット・コルデーが撃たれたのを見て叫んだ。
「アサシンッ──!」
「……油断、したつもりはなかったのですがね」
バーソロミューは銃を倒れてもなおシャルロット・コルデーへと向けていた。しかし、銃はパリスが放った矢によって、彼の手から打ち落とされた。
バーソロミューは、刺された瞬間、攻撃されたのだと自覚し、倒れる最中最後の力を振り絞ってシャルロット・コルデーへと銃弾を放ったのだ。
ウェイバーはバーソロミューの元へと駆け寄った。
「ライダー! 大丈夫か!」
「いえ……これは無理ですね。見事に霊核を砕かれています。見事にしてやられましたね……油断、したつもりはなかったのですが」
パリスは一気に建物の上からシャルロット・コルデーの元まで移動すると、彼女の体を抱えて叫んだ。彼の顔は真っ青であり、目尻には涙を浮かべていた。
「あ、アサシン! 大丈夫ですか? 死なないで、何で──!」
シャルロット・コルデーは微笑み、答えた。
「泣かないでくださいな。アーチャー。これでいいんです。私は──始めから、こうなるのでしょうから。私は生前、確かに暗殺をしました。正面から入って、あの人の心臓にナイフを突き刺しました……でも、逃げることはできませんでした。そのあとは、すぐに捕まってギロチンにかけられたんです。
暗殺して、処刑される。殺して、殺される。それが私の運命なんです。これは二回目ですね。だから、どうっていうことはないですよ。どうか、あなたのマスターを助けてあげてください。アーチャー」
「あっ──」
シャルロット・コルデーの肉体は、金色の粒子となってパリスの腕から消滅した。つまり、死亡したのだ。
彼女は、シャルロット・コルデーという人間は普通の街娘だ。その度胸や決意、美貌は普通よりもかけ離れていても、普通の人間にすぎないのだ。故に、暗殺をすれば、殺した周りの人物が黙っていない。実際、戦う術も、逃げる術も持たない彼女は、マラーを暗殺した後は、すぐに取り押さえられた。そして、ギロチンによって処刑されたのだ。
──シャルロット・コルデーという暗殺者は、暗殺を行うことはできても、終わった後は、戻れないのだ。
……彼女は、最初からこうして死ぬつもりだった。否、
「──ッ」
パリスは涙を流した。しかし、それでも悲しみを抑え、怒りの感情を沸き上がらせると、バーソロミューへと矢を向けて叫んだ。
「マスターをどこにやったッ! 今すぐ、返してください……! ボクの、ボクたちの、アサシンの……マスターを!」
「……ふむ?」
バーソロミューはきょとんとした顔をしながら、首を傾げた。パリスが何を言っているのか、理解できなかったのだ。当然であろう。バーソロミュー達は、遠坂時臣及び言峰綺礼を誘拐した犯人ではないのだから。
しかし、そんなことを知らないパリスは、バーソロミューのそうした態度を見て、叫んだ。
「とぼけないでください! あの夜、戦いが終わった後、ボクたちのマスターはどこにもいなかった! キャスターが、お前たちが攫ったんだと言っていたんです──! さあ……返してください。どこにいるんですか……っ!」
「な、何を言っているんだよ、オマエ……」
ウェイバーは、パリスの言葉に戸惑いを隠せずに言った。
しかし、バーソロミューはこの状況を分析し、一つの答えを導き出した。
「ふむ──どうやら、罠にかけられたようですね。アーチャー」
「何をッ……」
「私たちは、あなたのマスターを攫ってなどいません。あの晩、私とあなたが戦っているとき、車が次々と突っ込んできたでしょう。あの車は、私たちとは全く関係のないものです。……キャスターがあなたに何を吹き込んだのかは知りませんが、まあ、恐らくは犯人はキャスターの可能性が高いでしょうね。
まんまと騙され、私と潰し合う状況を作り出す。成程、いかにもキャスターらしい手段ではありませんか」
バーソロミューはため息を吐いた。
しかし、彼の言葉を聞いたパリスは、一切を信じられないといった様子だった。それを見たバーソロミューは、言葉を続けた。
「それでも尚信じられないようなら、そうですね。主と海賊としての誇りに誓って言いましょう。私たちは、あなたのマスターのことは知りませんよ」
「────…………そんな」
パリスは虚脱感を覚え、膝をついた。バーソロミューの様子から、彼が言っていることが本当だと理解したのだ。では──シャルロット・コルデーは何のために死んだ? ああ──彼女が命を賭してパリスの力になろうとしたのに、これでは全くの無駄死にではないか! この耐えがたい事実は、パリスという少年が持つ純粋な心をズタズタにして切り裂いた。
唖然とするパリスを他所に、バーソロミューはウェイバーへと言葉を投げかけた。
「ああ……そろそろ限界ですね。お別れです。マスター」
「ライダー! バカを言うなよ……! そうだ、今スグ令呪で何とか……!」
「いえ、無駄ですね。霊核を粉々に破壊されています。いや全く、彼女の手腕は見事でした。……そう悲しそうな顔をしないでください。何事においても言えますが──何かしらの出来事は唐突に訪れるものです。死も同じですよ。まあ、突然大砲で吹き飛ばされた生前よりはマシな死にざまですかね。コレは。
……ああ、そうだ。ワイン、まだ一本残っていたでしょう。アレはあなたに差し上げます。いやはや、我武者羅に足掻く少年を見て、ついつい面倒を見てしまった。ですが、悪くない。ああ、不満があるとすれば、素敵なメカクレ達と遊びたかったですね……アーチャーもあの様子では、マスターに手出しはしないでしょう。はは、ははは! ああ、それではこれでおさらばとしましょう! 私は! バーソロミュー・ロバーツは今、死ぬぞ!」
バーソロミューの肉体は完全に消滅し、ウェイバーはバーソロミューとの魔力のラインが途切れるのを自覚した。
彼は涙を流し、言った。
「……バカ野郎。まだ酒は飲めないっての」
さて、バーソロミューが消滅してから、暫くの間パリスは茫然としていた。しかし──彼は己を騙した相手、すなわち陳宮へとその怒りの矛先を向け始めた。
「キャスター……ッ!」
己のマスターを攫ったのも、キャスターだ。
シャルロット・コルデーを無駄死にさせたのも、キャスターだ。
──許しておけない。己を騙した彼を。マスターを攫った彼を。シャルロット・コルデーを殺した彼を。
「許さない──!」
パリスは己が殺すべき真の敵を見定め、柳洞寺へと駆け出した。