【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】   作:天城黒猫

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エイプリルフールなので投稿。


第25話

 我々は衛宮切嗣と共にイアソンがいるスイートルームへと向かう最中、陳宮と言峰綺礼が行動を共にし、イアソンが居る部屋から登場したのを見ている筈だ。

 何故彼らが行動を共にし、イアソンの元へと向かったのか、そしてイアソンが口にした戦いの決着について、今から説明しなければならないだろう。

 時を少しばかり巻き戻し、場所は柳洞寺の一室へと移動するとしよう。その部屋には体を拘束された者が二名、即ち言峰綺礼及び、久宇舞弥の二名及び、唯一拘束されていない人物であり、この二人を拘束し、この部屋に拉致監禁した張本人である陳宮がいた。

 

 二人は気絶していたが、陳宮は言峰綺礼のみ意識を目覚めさせた。

 言峰綺礼は、己が従えているサーヴァント、シャルロット・コルデーのパスが消えているのに気が付き、彼女は消滅したのだと理解した。

 目覚めた言峰綺礼は陳宮を警戒し、睨み付けた。そして、次にこの部屋には元々三人が閉じ込められていたが、今その三人目の姿がどこにも居ないということに気が付くなり、彼は陳宮にそのことを問いかけた。

 

「私の師──遠坂時臣をどこにやった?」

 

 その問いかけに、陳宮は何の感情も持たずに、義務的に答えた。

 

「ああ、彼なら死にましたよ。私の宝具を発動させるための糧となって。必要な犠牲というものです。ああ、ついでにアーチャーも同時に消滅しましたよ」

 

「何……!? 貴様!」

 

 言峰綺礼は己の魔術の師である遠坂時臣が陳宮の手によって殺されたと聞き、怒りを覚え突っかかるように叫んだ。しかし、陳宮は言葉を続けた。

 

「おや? 何故そのような態度を取るのです?」

 

「何を言っている──キャスター! 私の師を殺したのだろう? ならば、怒りを覚えるのは当然というものだ!」

 

「そうですか。いやはや、おかしいですね。怒りを覚えると? 成程、態度は確かにそうですが──私には、あなたが()()()()()()()()()()()のですが」

 

「な、にを言っている──」

 

 言峰綺礼は陳宮の言葉を否定しようにも、何故だか上手い言葉が思い浮かばなかった。それどころか、確信とか、図星とかをつかれたかのように思えてならなかった。

 彼は心の中で自問自答を繰り返した。彼の心の中では、このような議論が繰り広げられているのだ。

 

 “師を殺されたのならば怒るべきだ”“だというのに、喜びを覚えているだと? ”“他者の死に喜びを覚えるなど、あってはならないことだ! ”“それは──嫌悪すべき感情だ”

 

「そのような感情、私は持ち合わせてはいない」

 

「さて、どうでしょうね?」

 

 陳宮はほくそ笑んだ。己の思う様に、言峰綺礼を操作することができているからである。そして、更に言葉を続けた。

 

「ああ、そうそう。あなたの父親も死んだようですよ。もっとも、手を下したのは私ではなく、別の人物──間桐臓硯と言いましたかね? その魔術師が、あなたの父親を殺したようです。私の使い魔は、その一場面をしっかりと見ていましたから、間違いありません」

 

「何だと──!」

 

 言峰綺礼は続けて告げられた父親の死に、驚愕した。遠坂時臣、そして言峰璃正の死は、彼に大きな動揺を与えることとなった。彼の心臓は激しく鼓動し、その心音を大きくしていった。肉体は体温を上昇させ、火照り始めた。

 

「馬鹿な……我が父が死んだだと? それも間桐臓硯に殺されただと?」

 

 ありえない、と否定しようとしたが、キャスターは嘘を言っている様子ではなかった。言峰璃正という人物は戦闘においては決して弱くはない。だが、成程相手が間桐臓硯という老獪な魔術師ならば、抵抗できずに殺されるのも頷けるだろう。

 

「ええ、その通り。私は街中に放った使い魔(からくり)を通じて見ていましたから。いやはや、あの時は驚きましたよ。まあ、敵が鮮明になってよかったというべきでしょうか」

 

「……」

 

 言峰綺礼は沈黙するばかりであった。己の師と、父とが殺されたということを立て続けに聞かされ、彼の内心には怒りという感情が──

 

「おや、怒ることはないのですね?」

 

「何を言っている──」

 

 言峰綺礼は陳宮の言葉に反論しようとした。しかし、陳宮は笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「普通、身内を殺されたのならば怒りを覚えるはずでしょうが、あなたは違う。仮に怒るようなことをしても、それは形だけのものに過ぎないでしょう。なぜなら──あなたは()()()()()()()()()()()()()

 

「違う──馬鹿な!」

 

 言峰綺礼は額に汗を流し、大声で叫んだ。

 

「そんな感情を覚えるなど、あってはならないことだ! 私が、そのような感情を抱くなど……世迷言も程々にしておけ!」

 

 言峰綺礼という男は、無感動な人物といえるだろう。どのような事を成す際にも、そこには情熱といったようなもの──感動と呼ばれるような感情は一切存在しないのだ。代行者として、義務を淡々と執行するのみの存在。それが言峰綺礼という人間なのだ。そして、言峰綺礼本人もそれを良しとしていた。

 ……そう思っていた。しかし、今陳宮の言葉によって、その認識は酷く揺るいでいた。

 

「否定することは無いでしょう──あなたは確かに喜びを覚えている。素直になりなさい。己を偽るのをやめなさい。

 あなたは、今喜びを覚えている! 怒りを覚えることも、哀しみを覚えることもない。しかし、唯一喜びという感情のみが、あなたの中で生じているのです」

 

「──っ」

 

 陳宮の言葉は、言峰綺礼にとってはまさしく図星そのものであった。彼は常に己に対して迷いを抱いていた。その答えを長年追い求め、そしてその答えを自覚こそしていたが、その答えそのものは、聖職者である彼にとっては忌むべき内容であった。故に、彼は己を偽り、そしてその解答を封印してきたのだ。しかし、陳宮の言葉によってその封印はほどけることとなった。

 ──なるほど、確かに言峰綺礼は歓喜で満たされていた。しかし、それは教会の代行者である言峰綺礼にとっては忌むべき感情でしかなかった。

 ありえないのだ。あってははならないのだ! 己が──人の死、苦しみ、不幸に歓喜を覚えるなど! 

 ああ、だが、だが! 己の内心は、確かに歓喜そのもので満たされていた──

 

「認めなさい。認めてしまいなさい。あなたは、喜びを得ている」

 

「違う! 違う! 私は──!」

 

 陳宮は口の端を僅かに吊り上げた。ここまで、彼の思惑通りに()()が進んでいるからだ。

 

「あなたは喜んでいる──そう、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、に──」

 

 ……陳宮は、言峰綺礼の内面を理解していた。即ち、言峰綺礼という男は人の不幸に愉悦を見出すという性質を、見透かしていた。そして、言峰綺礼がそのことを自覚しておらず、迷いを覚えているということもまた、理解していた。

 そのうえで陳宮は言峰綺礼が持つ迷いを、正解とは違った方向へと誘導し、洗脳しようとしているのだ。こうした手法は、戦国の乱世を駆け抜けた呂布軍の軍師として、荒くれ者の彼らをまとめ上げていた彼にとっては造作もないことであった。

 だからこそ、陳宮は言峰綺礼を己にとって都合の良い手駒とすべく、苦悩する言峰綺礼へと言葉を続けた。

 

「聞けば、あなたは教会の代行者なる者だという。異端を払い、この聖杯戦争を監督する役割を持つ者──でしたか。ならば、今あなたが喜びを覚えるというのも当然でしょう。なぜならば、あなたは己の役割を遂行できるのですから」

 

「な──」

 

 陳宮は戸惑う言峰綺礼に思考する暇を与えずに、口を開いた。陳宮の持つ言葉は、言峰綺礼の脳へと浸透し、彼の思考を陳宮の思うがままに誘導し、縛り付けていった。

 

「アーチャーのマスターは確かに私が殺しましたが──まあ、アレは戦争においては必要な犠牲です。あなたが憎しみ、倒すべきは間桐臓硯なる魔術師。彼はサーヴァントを令呪で操り、無辜の市民を日夜殺しまわっています。さて、ここであなたが手を下すべきは、間桐臓硯その人です。あなたの父を殺し、聖杯戦争とは何の関係もない人間を、必要以上に虐殺している者を倒すのです。そうすれば、あなたも納得がいくでしょう」

 

「──……それが、私の喜びだと?」

 

 言峰綺礼の言葉に陳宮は微笑みを浮かべながら、優しく頷いた。

 

「その通り。あなたは、己の使命の奴隷にすぎないのです。そう、代行者という使命を果たせるということに、あなたは喜びを得るのです」

 

「……」

 

「想像してみなさい。代行者として、間桐臓硯を捌き、倒した後の様子を、光景を──」

 

 言峰綺礼は脳裏に、その様子を自然と浮かべた。即ち、己の刃の元に倒れ、屈辱と苦悶との表情を浮かべ、倒れ伏する間桐臓硯の様子を──

 そうして、言峰綺礼はいつの間にか口の端を吊り上げ、ほくそ笑んでいた。気が付けば手の甲にジクリとした焼けるような痛みが走り、シャルロット・コルデーが消滅したことによって一時は消えた令呪が、再び出現していた。

 

「認めなさい。そして、契約を」

 

「ああ──」

 

 陳宮によって与えられた回答は、偽りである。しかし、言峰綺礼は陳宮の巧みな言葉によって、ついぞそれを自覚することなく、己という存在を間桐臓硯なる者を裁くべき装置とした。

 ──そこに迷いはなかった。同時に違和感を覚えもしたが、それを邪念として振り払い、ここに言峰綺礼と陳宮は主従の契約を結ぶこととなった。

 

「よろしい、では私の策をこれより話しましょう」

 

 

 

 さて、こうして言峰綺礼と陳宮とは契約を結ぶこととなった。それでは、次は時間と場所とを進め冬木ハイアットホテルへと移動するとしよう。

 契約を結んだ二名は、陳宮の提案により、イアソンの元へと向かうことにした。陳宮からすれば、イアソンは今聖杯戦争においてその姿を戦いの場に現すことは一度しかなく、戦闘は全て彼が召喚したヘラクレスが担当しているため、人格や実力など、すべてにおいて謎の多いサーヴァントであったのだ。

 ……この時点で残されたサーヴァントは僅か3騎のみであり、陳宮は大局を見ることにした。故に、無謀であろうとも、イアソンの陣地へと入り込み、イアソンというサーヴァントを見極めようとしたのだ。

 

『対話をしたい、だと? 断る。私は聖杯戦争にも、その結末にも興味はない。お前たちで勝手にやっていろ! ああ、私を殺しに来たというのならば、無論返り討ちにするがな!』

 

 陳宮はイアソンが閉じこもっている冬木ハイアットホテルへと向かい、メディアが敷設した結界へと入るギリギリの所に立ち止まり、イアソンとの対話を望んだ。しかし、帰ってきた答えは突き放すような言葉であった。

 しかし、それでも陳宮はなおも諦めずに言葉を続けた。

 

「聖杯戦争に興味がない? それは結構。ですが、聖杯を手にし願望を実現しようとするものがいる限り、この戦いから逃れることは不可能でしょう。そこにいても、敵はいつかやってくるでしょう。その点についてはどうなされるのです?」

 

『愚問だな。確かにその通りだろう、敵はいずれやってくるだろう。だが、返り討ちだ! ヘラクレスが返り討ちにする。残りの敵であるお前もここで始末してやろうか? そういえば、お前は城を爆破したヤツだったな。おかげであの城よりも貧相なところで過ごすことになってしまった!』

 

「その点については謝罪を──あなたは、聖杯に何を願うつもりなのですか?」

 

『願い、だと?』

 

 イアソンは眉をひそめた。そして、答えた。

 

『そんなものはない。少なくとも、聖杯で叶えるような願いはない。いいか、私の経験上、そんなモノに願ってもロクなことはない!』

 

「ならば、どうするというのです。聖杯戦争が終わったのならば、あなたはどうなさるのです?」

 

『……さてな』

 

 イアソンはそっぽを向いた。彼は叶えたい願望こそは存在していたものの、どうにも聖杯というものを使って願いを叶える気にはなれなかった。それでも尚、彼は夢を見続けるのだ。一度死しても、こうしてサーヴァントとして召喚され──聖杯など、願いなど下らないと口にし、内心でもそう思っていても、夢を見続けているのだ。

 国を。平和な国を。国民が皆イアソンを王として褒め称える、争いも貧富の差も飢餓もない、平和な国を夢見ている──願望器である聖杯ならば、なるほどその願いを叶えるのは可能だろう。聖杯を手にしたのならば──しかし、その願いを口にすることはないだろう。

 ならば、どうするというのか。勝者となり、最後の一騎のサーヴァントとなるのならば、どうするというのか。この時代に受肉し、惰眠を貪るのも良いだろう。飽食をするのも良いだろう。人々の上に立つのも良いだろう。しかし、どうにもそのような気にはなれなかった。

 

「おかしな話ですね。聖杯に捧げる願いがあるのですから、こうして聖杯戦争に呼び出されたというのに」

 

『……何が言いたい?』

 

 イアソンは怒気の籠った声で、陳宮に問いかけた。もし、陳宮が答えを誤ったのならば、イアソンはすぐさまヘラクレスに陳宮の始末を命じるであろう。そうした覇気といったようなものを感じ取りながらも、陳宮は涼しい顔で答えた。

 

「不快にさせたのならば謝罪を。残ったサーヴァントは3騎のみ。聖杯戦争も終わりへと向かっているでしょう。我々はこれより、ランサー及びそのマスターを討ちに行きます。そこで一つ頼みがあります。──もしも、我々が敗北したのならば、その時はあなた方にランサーとそのマスターを討ち取っていただきたい」

 

『何だと?』

 

 恭しく頭を下げる陳宮にイアソンは眉をひそめた。その言葉は、彼からすれば全くの予想外のものであったからだ。

 陳宮は言葉を続けた。

 

「現在のランサーのマスターは、前マスターから令呪を奪い、ランサーを強制的に従えています。それも、この街の住民達を強制的に殺害させ、意思を狂気に堕とすというやり方で。私はどうにも、それを無視することができないのですよ。それはこのマスタ-も同じこと」

 

 陳宮は顔を上げ、情熱の籠った目で遠くを見つめた。呂布奉先、あるいは彼のような猛将ともとに、軍師としてもう一度大地を駆ける──それこそが、陳宮の願い。だが、此度の聖杯戦争では呂布奉先と出会うことも能わず。聖杯に再開を願うことも可能だが、それは蜃気楼の如き夢と断じていた。

 彼は話すことは全て話し終えたし、イアソンがどのような人物なのかも、この短い会話の中でそれなりに理解することもできた。故に──陳宮はイアソンに次の言葉を告げた。

 

「あなたは、善き人物だ。だからこそ──私は懇願するのです」

 

『……──聖杯は、諦めるのか?』

 

「そうですね──否と答えましょう。聖杯を手にできるというのならば、叶えたい願いは存在します。ですが、それを捨て置いてでも、今回は戦わなければならないのです」

 

『……もしも、ランサーとの戦いでお前が勝利したのなら、どうするというのだ?』

 

「その時は、全力を以てあなた方と戦いましょう。呂布奉先の配下、陳宮公台、呂布軍の一員として」

 

 陳宮は狂暴で、攻撃的な意思が潜んでいる笑みを浮かべて見せた。その鋭い眼光には、例え強大な敵であろうとも、打ち倒さんとする覚悟が宿っていた。

 そこに、これから行うであろうランサーとの戦いで、己が敗北するであろうというような思考は一切なかった。

 

『……勝手にしろ!』

 

 

 

 ──イアソンと陳宮との間では、こうしたやりとりが行われていた。イアソンは彼の言葉を聞き、どのように思ったのか、それを説明したい所ではあるが、生憎と今は陳宮の様子を見なければならない。故に、イアソンについては申し訳ないが、後回しにさせていただこう。

 今、我々が注目すべきはこれより行われる陳宮と言峰綺礼、そして、ガレスと間桐臓硯との戦いなのだ。

 

 太陽が沈み、空には無数の星々が浮かんでいた。時刻は夜、場所は冬木大橋。その橋のちょうど真ん中に言峰綺礼は一人目を閉じて立っていた。

 そして、カツン、という杖がコンクリートの床を叩く音が鳴ると、言峰綺礼は目を開いた。彼の目に映ったのは、間桐臓硯とそのサーヴァント、ガレスであった。

 

「──言峰綺礼、よもやあやつからこのような傑物が生まれようとはな。しかし、随分と剣呑よなぁ。世間話をしようという雰囲気ではないのう」

 

「間桐臓硯、一つ確認させてもらおう。──我が父を殺したというのは、真か?」

 

 言峰綺礼は目を細め、間桐臓硯を睨み付けた。間桐臓硯は、笑いながら答えた。

 

「カカカ。その通りよ。ああ、実に間抜けな死に方であったのぅ。儂に警戒する素振りもなく、何が起きたのか分からずに倒れたときの間抜け面は、滑稽であった」

 

「外道め。ああ、いいだろう……!」

 

 言峰綺礼は怒りに歯を食いしばり、己の武器である黒鍵を手にした。今すぐにでも目の前に居る間桐臓硯をズタズタに切り裂きたい衝動に駆られたが、理性によってあらかじめ陳宮から告げられた策を実行することとなった。

 

「令呪を以て策を実行する──『キャスター、私を傷つけずに宝具を放て』!」

 

「よろしい。では、今こそ放ちましょう。『掎角一陣』!」

 

 陳宮は冬木大橋にはない。ならば、どこにいるのか──冬木大橋から少し離れた位置に立つビルの上で、彼は矢を番えていた。

 もちろん、その矢は幻覚であり、実際は久宇舞弥を弾丸として放っているのだが、彼女は意識を失っているため、痛みの一切を感じることは死ぬ直前まで無かった。それどころか、己の身に何が起こったのかを認識することもできなかったであろう。

 ともかく──陳宮の宝具はビルの上から、ガレスや間桐臓硯が立つ冬木大橋へと射出された。

 

「小癪なッ! ランサー、キャスターを片付けてこい!」

 

 間桐臓硯は弾丸が着弾するよりも早く、令呪を使用してガレスを陳宮の元へと転移させた。そして、弾丸は橋へと着弾し、間桐臓硯の肉体のみを蹂躙するに至った。言峰綺礼は、宝具の爆心地にいようとも、傷一つ追うことは無かった。それこそが、令呪の持つ強制力なのだ。

 煙が晴れ、そこには肉体が粉々に砕け、地面に横たわる間桐臓硯と、それを見下ろす言峰綺礼のみであった。間桐臓硯は震える、弱い声で、怒りを口にした。

 

「オ、オオォのれ……! 貴様ァ……よくも、よくも……! ア、ガァッ──」

 

「……」

 

 言峰綺礼は間桐臓硯の残骸を無言で踏みしめ、目の前にある暗闇を睨み付けた。

 

「人形芝居はそこまでだ。間桐臓硯」

 

「ほう、見破っておったか」

 

 その暗闇の奥から、五体満足の間桐臓硯が姿を現した。先ほど陳宮の宝具によって粉々となった間桐臓硯は、ただの蟲のみで構成された木偶人形にすぎなかったのだ。

 言峰綺礼は黒鍵を振るい、間桐臓硯へと向かって疾走を始めた。

 

「間桐臓硯──ッ! その命狩らせてもらおう……!」

 

「おお、怖い怖い……少々遊んでやるとしようか」

 

 かたや教会の代行者として、研鑽を積んだ怪物、言峰綺礼。かたや長年の時を生きる怪物、間桐臓硯。二人はぶつかり合った。

 

 

 

 令呪によってビルの屋上へと転移したガレスは、敵である陳宮を見つけるなりその槍を振るった。しかし、その槍に技術といったものは存在せず、ただただ狂気のままに、力任せに振るっただけの杜撰な攻撃であった。それでも、陳宮がその攻撃を受ければひとたまりもないだろう。

 彼はその一撃一撃が致命傷となる攻撃を、回避し、あるいは獲物で逸らしていた。キャスターとして召喚された彼がここまで応戦できるのは、偏に彼が元々持っている戦闘技術と、ガレスが狂気に溺れ、技量を忘れ去っていることとが大きいであろう。しかし、それでも身体能力はガレスの方が勝っていたため、直接的な戦闘において不利なのは陳宮の方であった。

 故に、陳宮は予めビルの屋上に仕掛けてあった罠を作動させた。それは彼がアインツベルンの森へと侵入したときに仕掛けられていた罠を強奪したときのものであった。地雷が、銃弾がガレスへと襲い掛かるが、神秘を持たない現代武器は、サーヴァントにとってはただの目くらましにしかならなかった。

 だが、陳宮からすればそれで充分であったのだ。一時的に足を止めることさえできれば、それで十分であった。

 陳宮は言峰綺礼に合図を送り、それを受け取った綺礼はすぐさま第二の令呪を使用した。

 

「『キャスターよ、すぐさまこちらに来い』!」

 

 陳宮は令呪の力によって、冬木大橋で戦っている間桐臓硯と言峰綺礼の元へ転移した。そして──言峰綺礼と陳宮の二人は、それぞれの武器を振るい、間桐臓硯の肉体をバラバラに切り裂いた。

 これこそが、陳宮の策であった。まず、陳宮はガレスを引き付け、間桐臓硯の仮初の肉体を破壊する。そして、間桐臓硯は言峰綺礼の元へと姿を現し、彼を始末しようとするだろう。そこに、陳宮はガレスを足止めすると、令呪によって転移し、言峰綺礼と共に間桐臓硯を仕留めるという策なのだ。

 

 だが、間桐臓硯は肉体を無数に切り分けられていようが、生存していた。そして、令呪を使用し再びガレスへと命じた。

 

「ランサーァッ! こやつらを潰せ!」

 

「させるか──!」

 

 言峰綺礼はその命令を実行させまいと黒鍵を間桐臓硯の破片へと投げつけた。その攻撃が致命となったのか、間桐臓硯の肉体は崩れ落ちた。しかし、令呪による命令は実行され、ガレスは再び冬木大橋へとその姿を現すこととなった。

 

「AAAAAAAAaaaaaaaaaa──!」

 

「キャスターッ!」

 

 言峰綺礼は己の黒鍵を用いて、令呪が刻まれた手を切断し、それを陳宮へと投げつけた。それを受け取った陳宮は口の端を吊り上げ、呟いた。

 

「感謝を──マスター」

 

 そして、陳宮はガレスを己の元へと誘い込み、橋から飛び降りて川の中へと入った。続いてガレスもまた、その後を追いかけ、川の中へと飛び込んだ。そして──巨大な爆発が生じ、冬木大橋の高さを超える程の水柱が爆音と衝撃と共に発生し、冬木大橋は大きく振動した。

 水しぶきが降り注ぐ中、冬木大橋でただ一人立ち尽くす言峰綺礼は、手首から血が流れるのも構わずに思考していた。

 

 ──果たしてこれで良かったのか? 

 

 間桐臓硯は討ち取った。代行者として、使命の奴隷として。己の肉体が傷つくのも構わなかった。それは良い。だが、己の中にある迷いは消え去ることが無かった。間桐臓硯を殺した時、再び迷いが生じたのだ。それは即ち、陳宮が口にした答えとは違うものなのではないか? 

 

 ──ならば、それは果たしてどのようなものなのか……

 

 言峰綺礼の思考は強制的に中断されることとなる。なぜならば、彼の背後からガレスの槍が、言峰綺礼の胸を貫いていたからだ。

 

 ──ああ、答えはついぞ見つからなかった。

 

 言峰綺礼はその生命活動を終え、地面に倒れ伏した。ガレスのマスターである間桐臓硯は、またもやその姿を現した。初めに陳宮の宝具によって破壊されたものはただの蟲で作られた人形。そして、次に現れたものも同じである。しかし、三度目に現れた老人は違った。腕に無数の令呪を宿している、本体ともいえる存在であった。彼は勝利を確信したからこそ、こうして姿を現したのだ。

 そして、間桐臓硯は既に物言わぬ人形となった言峰綺礼を見下し、嗤った。

 

「カカカカカ──ああ、ああ。実に哀れよのぅ。父と同じで間抜けであったか。これで、残りのサーヴァントは2騎のみ。聖杯がどのような状態になっているのか、傍観しようと思っていたが……やはり動いて正解だったのぅ」

 

 間桐臓硯は嗤う。嗤い続けた。

 

 

 

 ──陳宮という男の願いはいくつかあった。一つは猛将と共に、軍師としての力を遺憾なく発揮すること。しかし、この願いを叶えることはできなかった。此度の聖杯戦争で彼を召喚したマスターは、ただの殺人鬼であり、主としては相応しくなかった。かといって、他のマスター達に相応しい人物がいるかといえば、そうではなかった。

 では、もう一つの願いはどうであろうか? 己にとって理想の国家を作る──それは、この現代社会を一通り見て、それなりに満足していた。

 ……聖杯に捧げる願いがあるとすれば、呂布奉先、そのような人物に仕えるということであろうか? それを叶えるのも、まあ吝かではないし、あるいは一人の軍師として、一人の軍人として好きなように暴れまわるのも一興だと考えていた。だが──陳宮にとって、一つだけ見過ごせないことがあった。それこそが、間桐臓硯の存在であった。

 

 陳宮は軍師として、無辜の人々が戦争の犠牲になるのは、仕方のないことだと理解していた。戦争の中で、戦争とは無関係の人々が犠牲となるのも何度も見てきた。

 戦争に己の意思で参加したのならば、例えその命を散らしても仕方がないだろう。だからこそ、陳宮は外道と呼ばれるような行為であっても、その策を実行し、自らも将を犠牲とする。

 しかし──それでも、間桐臓硯はガレスを従えるために、あるいは己の快楽の為に、必要以上に聖杯戦争とは無関係の人々を殺しすぎた。それが、どうにも無視できなかったのだ。

 

 故に、陳宮は間桐臓硯を倒すことにした。例え、その結果が己の敗北であろうとも──

 

 仮初の夢の中で、陳宮は自笑する。いやはや──これでいいのでしょうか。

 

 

 

 

 




 


 作者なりの陳宮の解釈としては、まあ、こんな感じです。


 ──次回、最終決戦。



 ……一話に収まりきるかなぁ!? 最終話とは別に、マテリアルも同時に投稿する予定です。
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