【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】 作:天城黒猫
聖杯の中で、
ソレは死だ。ソレは恐怖だ。ソレは災厄だ。ソレは忌むべきものだ。ソレは人が生み出した呪いだ。ソレは――
「善きかな善きかな……」
柳洞寺の境内にて、間桐臓硯はこれから行われるであろう戦い、そしてその結末を想像し、怪しく嗤っていた。
そも、間桐臓硯としては今回の第4次聖杯戦争に参加するつもりはなく、戦いの最中でもだえ苦しむ間桐雁夜を嘲笑しつつ、様子を見るつもりであったことは読者の皆様もご存じであろう。
しかし、それでも彼が途中参加を決意したのは、偏に勝ち目があるからに他ならない。例え敵が大英雄ヘラクレスだとしても。こちらのサーヴァントが歯が立たなくとも。勝ち目はある。勝利する方法はいくらでもあるのだ。
一見無謀な行為にも見えるが、間桐臓硯には確かな勝ち目があった。故に――間桐臓硯はその時を待つのだ。
最後の戦いを乗り越え、聖杯が降臨するその時を。そして、その先に何が発生するのかを見届けるのだ。仮に聖杯が正常な状態でなくとも、願いを叶える機能が稼働していれば、どのような犠牲が伴おうと間桐臓硯にとってはどうでも良いことだ。
もしも今回、聖杯を使用することができなくとも、それもまた良しとしよう。次回への聖杯戦争へと繋げればよいのだ。
間桐臓硯は空を見上げ、嗤う。己が願い、永遠の肉体を手にする時が来るその時の訪れを心待ちにして――
「ああ、ユスティーアよ。待っているが良い。儂の願いが実現するその時を――」
間桐臓硯は待ち続ける。敵がやって来るのを。聖杯が降臨する時を。己が願いを叶える時を。その時を夢想しながら、嗤い、狂い、気たるべき時を待っていた。
イアソンと衛宮切嗣とは、柳洞寺へと続く階段を登っていた。衛宮切嗣は周囲に警戒を向けながら、階段を両断するように出来上がった巨大なクレーターをよけつつ、イアソンにポツリと問いかけた。
「セイバー、お前は何で僕に協力してくれるんだ?」
衛宮切嗣にとって、それは大きな疑問であった。これまでの様子を顧みるに、衛宮切嗣に対するイアソンの好感度はかなり低く、衛宮切嗣自身もまたそれを自覚していたため、こうして衛宮切嗣をマスターとして扱い、彼の願いに答えてくれる理由が分からなかったのだ。
その問いかけに、イアソンは眉をひそめ、鼻を鳴らし、空を見上げた。時刻はすでに深夜であり、満点の星空が広がっていた。
「さてな……強いていうならば、気まぐれだ。ちょっとした気持ちの変化だ。お前のことは嫌いだった。私を聖杯戦争などという下らない儀式に呼んだことも気に入らないし、私のことを道具と思いながらも、一言も言葉を交わさずに嫌っているその態度も気に喰わなかった。後者に関しては本当に苛ついたな! それに、抱えている願いもそうだ。世界平和の実現などという願望、それもまた私を酷く苛つかせた!
――確信したとも。お前とは相成れないとな。お前に従っていても、待っているのは破滅だと確信したとも」
イアソンは衛宮切嗣という人間がどのような存在なのかを見抜いていた。目的のためならば、どのような外道な手段であろうとも躊躇いを覚えることもなく実行するであろう。それは、いざという時イアソンを裏切るべき状況へと陥ったのならば、迷いなくイアソンを切り捨てるであろう。
そして抱えて居る願望――恒久的な世界平和。それは一つの平和な国を作ろうとして、失敗した経験を持つイアソンからすれば、酷く神経を逆なでするものであった。世界総ての永遠の平和など、叶いっこないのだ。実現不可能なのだ。それを知っているイアソンからすれば、衛宮切嗣という人物は、手にすることもできないモノを手にするために、あらゆるものを捨て去り、足掻く下らない人間であった。
「だが――」とイアソンは相変わらず鼻を鳴らし、言葉を続けた。「今ならばマシだ。今のお前ならば、幾分
マシ――今の衛宮切嗣は、言うならば全てを失っているのだ。世界平和という願いを捨て去り、あるのはただ、己の妻を、家族を救いたいという想いのみ。
……かつて全てを失ったイアソンだからこそ、今の衛宮切嗣の状態を好ましく思っているのであろうか。成程、それもあるだろう。しかし、イアソンが衛宮切嗣に手を貸す理由は他にもある。それがどのようなものなのかは、もうしばらく彼らの会話に耳を傾けていれば、分かるであろう。
「それに、この状況は最初から想定していた」
イアソンは自信ありげな笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「ああ、勘違いするなよ? マスター、お前と共に戦うということではない。私が想定していたのは、
……この聖杯戦争という戦いで、真正面から戦闘を仕掛けるのは得策ではない。特に私のような弱い奴が戦いに出るなど愚の骨頂だ! 故に、私は自ら戦いに出ることは無く、守りを固めることにした」
こうしたイアソンの策は、実際正しく機能したと言っても良いだろう。
メディアの魔術によって守られたアインツベルンの城は、シャルロット・コルデーの気配遮断を暴き、アサシンによる不意打ちを不可能とした。そのうえ、武力という意味ではヘラクレスという最強の英霊がイアソンにはついているのだ。
イアソンはこの聖杯戦争において、ヘラクレスと直接戦って勝利するサーヴァントは居ないと踏んでいたし、それは正解であった。唯一ヘラクレスを打倒しうる可能性があったのは、パリスと、彼と共に召喚されたアポロンであったが、メディアの補助もあり、サーヴァントとなり神格が低下していたとはいえども、アポロンという神霊をヘラクレスは何度か殺されながらも、打倒してみせた。
懸念は放置、即ち準備期間を与えると厄介なキャスターだが――城を破壊されたのは、想定外だったし、業腹ではあったが――これもまたイアソンからすれば、メディアを超える魔術師などそうそう居ないと判断しているため、とりわけ脅威とは思っていなかった。
メディアの魔術で守り、ヘラクレスの腕力で迎撃を行い、イアソン本人は拠点の中に引きこもり続ける――そして、他のサーヴァント同士が潰し合い、数が少なくなったところを一気に叩くつもりであった。
陳宮によって最初の拠点であるアインツベルンの城が破壊されたのは、想定外ではあったものの、徹底的なまでに自ら交戦を行うことを拒み続けた結果、こうしてガレスとイアソンのみが生き残り、他のサーヴァントは皆戦いによって消滅したのだ。
サロメはガレスの宝具によって敗北し、間桐雁夜の首をヨカナーンと思い込み、首を抱えて絶頂のままに消滅した。
バーソロミュー・ロバーツはシャルロット・コルデーによる、芸術的な暗殺によってその霊格を貫かれるも、笑いながら海賊として突然の死を受け入れた。
シャルロット・コルデーは、バーソロミュー・ロバーツの反撃によって肉体を撃ちぬかれ、己のマスターとパリスのマスターを攫った犯人がバーソロミュー・ロバーツではないということを知り、己の無力を味わいながら死んだ。
パリスは、己のマスターである遠坂時臣を弾丸とする陳宮の卑劣なる策と共に発動された宝具により、陳宮と何もできない自分とを呪いながら消滅した。
陳宮は魂喰いによって聖杯戦争とは無関係の市民が、間桐臓硯とガレスとによって死にゆくのを見逃せず、ガレスと戦ったが彼女を打ち倒すことは叶わず、死亡した。
――そして残ったのは、ガレスとイアソンのみである。
ガレスは間桐臓硯によって望まぬ魂喰いを行い、令呪によって狂気に染まっているため、その能力は平常時よりも多少上昇してはいるであろうが、それでも尚ヘラクレスに勝利することは叶わない。
それは実際、1回、2回とヘラクレスと交戦し、どちらも文字通り歯が立たなかったという事実から証明できるであろう。
故に、単純に考えるのならば、イアソンとガレスとの両名が戦えば、勝利するのはイアソンであろう。
最後に残ったサーヴァントは誰でも良い。ともかく、一騎のみでイアソン達と戦って勝利できるサーヴァントは、この聖杯戦争において存在しないが故に。
「それじゃあ、お前は――」
衛宮切嗣は驚きを隠せずに口を開いた。イアソンは、得意げに笑みを浮かべながら、衛宮切嗣に返答した。
「何度も言わせるなよ? 私は始めからこうなる事を想定していた」
だが――とイアソンは己の内心で言葉を続けた。
――私が勝利するのは揺るがない。だが、胸騒ぎがする。ああ、この胸騒ぎは、航海中に何度も経験してきた! 具体的にいうならば、何か良くないことが起こる前兆だ!
イアソンは星空を見上げた。彼の視線の先には、広大な星空が広がっていた。空に輝く星々は地上を見下ろしながら煌々と光り輝いていた。イアソンは眩しくもないのに、その輝きに目を細めた。
「…………」
イアソンが思い出すのは、かつての同胞たち。そして、大海へと出で、いくつもの英雄譚を築いてきたあの時の冒険であった。
そこには苦難があった。そこには困難があった。そこには試練があった。そこには幸運があった。そこには幸福があった。そこには祝福があった。いくつもの海を踏破し、無数の島を渡り歩いた。
その冒険の結末は不幸なれども、冒険は確かに輝かしいものであった。そこには、イアソンを長とした、アルゴノーツの英雄譚があった。
『あなたは、善き人物だ。だからこそ――私は懇願するのです』
……陳宮は、もしも己たちが敗北した場合、無辜の住人を殺すガレス達を止めてくれとたのみこんだ。それは陳宮があの短い会話の中で、イアソンの性質が善性なる者だと見抜き、一人の正当なる英雄だと見抜いたからに他ならない。
それをイアソン自身も理解していた。それ故に彼は何とも言えないむず痒さを覚えていた。
『──あなたは、聖杯に何を願うつもりなのですか?』『おかしな話ですね。聖杯に捧げる願いがあるのですから、こうして聖杯戦争に呼び出されたというのに』
「――聖杯、か」
イアソンは呟いた。
足を進み続ければ目的地にたどり着くのは当然の話であり、衛宮切嗣とイアソンとの両名は、長い階段を上り柳洞寺の山門の前へとたどり着いた。
門は閉じられていたが、鍵や閂が掛けられているという様子は一切なく、手で簡単に押し開けることが可能であった。一応というべきか、この山でいくら暴れても一般人にはそのことが認識できなくなるような結界が張られてはいる。しかし、イアソンと衛宮切嗣とにとっては、そうしたことはどうでもよかった。
重要なのは、この門一枚隔たられた先に、間桐臓硯とガレスという強敵がおり、これから彼らと戦うということのみである。
しかし、二人は一切緊張することはなく、その門を開き、敷居を潜り抜けた。
「――間桐臓硯」
衛宮切嗣は、柳洞寺の境内にある常香炉の前に立つ間桐臓硯の姿を認めると、叫んだ。
「アイリをどこにやった。今すぐ彼女を返せ。さもなければ――殺す」
間桐臓硯は笑いながら答えた。この500の年数を生きた老人は、己の勝利を確信しているが故に、余裕綽々でありつつ、かといって油断することはなく答えた。
「アインツベルンの娘か。そうさのぅ……この寺のどこかに隠されているやもしれん。だが、安心せい。聖杯の器を壊す訳にもいかんからなぁ、一先ずは問題なかろうよ。――貴様らを殺し、聖杯降臨の儀を行うまで、あの娘の出番はなかろう。さあ、ランサーよ。殺せ。
間桐臓硯の言葉と共に、霊体化していたガレスが、間桐臓硯を庇うかのように、彼の真正面にその姿を現した。
そのガレスは、間桐臓硯の手によって狂気に堕ちていた。
何人もの無辜の民を殺し、手にこびり付いた血を落とそうとし、何度も手を、腕を掻き毟ったのだろう。腕には無数の引っ掻き傷が刻まれ、そこからガレスの血がとめどめなく流れ、他者と彼女自身との血が混ざり、その腕は黒く染まっていたし、爪は粉々にひび割れていた。
目に理性の光は無く、絶望と狂気の闇を宿していた。口から漏れ出るのは、鬨の声ではなく悪魔の如き呻き声であった。顔は死人か、あるいは悪魔か、獣のようであった。槍もまた、手と同じように返り血に染まり、赤黒く、禍々しい光を放っていた。
――そこに騎士としての誇りはなく、そこに人としての理性はなく、そこに英雄としての輝きはなかった。在るのは、狂気と血とに身を沈めた一匹の狂獣であった。
「AAAAAAAAAaaaaaaaaa――!!!!」
ガレスは咆哮し、間桐臓硯の命によって敵を屠るべく疾走を開始した。
イアソンはそうしたガレスの姿を見ると、一度目を閉じ、再び開いた。彼の目が開かれるのと同時に、イアソンの正面にヘラクレスがその姿を現した。そして、イアソンの横にはメディアが実体化し、杖を力強く握りしめた。
ヘラクレスは石斧を握り、ただただイアソンの言葉を待っていた。
イアソンは一度歯を食いしばり、怒りの限り叫んだ。それは、彼の誇りが傷つけられたからこその叫びであった。
「……ランサー、私はお前の真名も知らん。その正体も知らん。どうでも良い! 興味ないからな。だが――
だが――その体たらくは何だ? ヘラクレスを侮辱しているのか? そのような様でヘラクレスに勝てるとでも思っているのか!」
イアソンは一呼吸すると、静かに、呟くかのように、厳かにヘラクレスに指示を送った。
「――ヘラクレス、三度目は無い。仕留めろ!」
「――■■■■■■■■■ッ!!!!」
イアソンの言葉によって、ヘラクレスは、鉛色の巨人は、咆哮し、その膂力を、その武力を遺憾なく発揮し、ガレスへと疾走――というよりは、跳躍した。たった一度だけ大地を蹴り、数十歩歩いた先に居るガレスの元へと一瞬で移動したのだ。
「■■■■■■■■■■!」
ヘラクレスは神速で巨大な石斧を振るい、旋風と衝撃波を生み出した。しかし、その斧が振り下ろされた先にガレスの姿は無かった。
「甘いのう、まともにやって勝てるとは思っておらん」
間桐臓硯はヘラクレスの石斧がガレスへと当たる前に、令呪を使用しガレスへと命じていた。それ故に、ガレスは姿を消し――イアソンの元へと転移したのだ。
ガレスは既に槍を振り下ろし、攻撃する態勢を取っていた。だが、イアソンからすれば回避することは容易い距離と速度であったため、すぐさまその槍の射線から離れるべく行動を開始した。
「違う! セイバー!
「――――ッ!」
衛宮切嗣の叫びを耳にしたイアソンは、すぐさま彼の言わんとしていることを察知した。ガレスの狙いはイアソンではなく、メディアであった。事実、ガレスはイアソンを攻撃するのではなく、その傍に立っているメディアを狙っていた。
そして、メディアはガレスの不意打ちともいえるような、この攻撃を回避するような身体能力は持ち合わせておらず、ただ己の脳天へと振り下ろされる槍を茫然と見つめることしかできなかった。
「メディア――ッ!」
イアソンはメディアを庇うべく、ガレスの槍をその身に受けることを選択した。槍はイアソンの体へと振り下ろされることとなった。
――イアソンが庇うべく掲げた右腕は根本から切断され、槍の切っ先がイアソンの脇腹のをかすめたのか、肉は抉り取られていた。この二か所の傷からイアソンは鮮血を噴水の如く舞い散らせた。
「イアソン様……ッ!」
メディアは悲痛な叫び声を上げた。
次回こそ最終話です(震え声)
まさかイアソンの部分でこんなに長くなるとは……!
次回話は、なるはやで投稿します。