【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】 作:天城黒猫
終わらない詐欺ってどうかと思う。引き延ばしと思われてしまう……
いやしかし、本当に何で中々終わらないんだろうネ! もう最終局面なのに! いやぁ、実に不思議!!
アイリスフィールは、間桐臓硯に攫われて以降、常に微睡みの中にあった。今、何が起こっているのか、衛宮切嗣は無事なのか――あらゆることを微かな意識の中で思考していた。だが、それらは彼女にとっては無意味なことでしかなかった。
なぜならば、聖杯を取るのは己の夫である衛宮切嗣であり、恒久的な世界平和を実現するのだから。アイリスフィールにとってそれは当然のことであり、己を喪っても、衛宮切嗣は願望を叶えるための、殺戮装置となりあらゆる障害となる者達をことごとく破壊し、聖杯を得る――そう信じて疑わなかった。
故に、アイリスフィールは間桐臓硯に誘拐され、己がどのような状況に置かれているのか分からずとも、衛宮切嗣の勝利を確信し、彼の願いを叶えるため、聖杯の器たる己の役割を果たそうとしているのだ。
そして――微睡みの最中、死して魔力へと変換されたサーヴァントが満たされる感覚を覚えた。そして、己が聖杯へと変貌していくのを自覚した。
達成したのだ! 衛宮切嗣が勝利したのだ! ああ、恒久的な世界平和はそこにあり!
アイリスフィールは我が身へと降り注ぐ漆黒へと身を任せ、願望器への変質を開始した。
総ては衛宮切嗣の願いを叶えるために。妻として彼を支えるために。聖杯として衛宮切嗣の願望を実現するために。
「――――ここは」
衛宮切嗣は周囲を見回した。そこは、先ほどまで彼が居た柳洞寺ではなかった。だが、衛宮切嗣にとっては見知った光景がそこにあった。
アインツベルン城――その一室。アイリスフィールとイリヤスフィールとの親子たちで、何度も語り合った部屋。そこに衛宮切嗣は立っていた。
「ここは聖杯の内部。あなたなら、ここに辿り着けると信じていた――」
その声を聞いた衛宮切嗣は、振り返った。そこには、黒衣を纏ったアイリスフィールが立っていた。彼女は微笑み、窓の外を指した。
衛宮切嗣は窓の外を見て、ここがアインツベルン城ではないということを理解した。窓から見える筈の白銀の雪に包まれた森は、黒い泥と炎とで満たされており、天には黒い月かと見違えるほどに巨大な、孔が開いていた。さながら地獄といった表現がそのまま当てはまるかのような光景であった。
「あれは――」
「あれは聖杯よ。ねぇ、切嗣。聖杯は外に出たがっているわ。さぁ、聖杯にあるべき姿を。あるべき形を与えて。それがあなたの役割なのだから」
「……馬鹿な、アレが聖杯だと? それに、お前は誰だ? アイリスフィールではないだろう!」
衛宮切嗣は狼狽を隠せずに、叫んだ。彼の言葉に、アイリスフィールは頷いて答えた。
「ええ、私は聖杯の意思。この姿は偽り。アイリスフィールは願った。彼女は願った。あなたに願いを叶えて欲しいと。だから、私はそれを実現するためにここにいるの。――世界の救済を。恒久的な世界平和を」
「っ、それは――」
衛宮切嗣は彼女の言葉を耳にすると、息を飲んだ。
今や彼の願いは永遠の世界平和ではない。アイリスフィールと、イリヤスフィール。愛すべき妻と娘。この二人と共に、平和に過ごせればよいのだ。
恒久的な世界平和という願望を叶えるために歩んだ殺戮の道は、アイリスフィールとイリヤスフィールという存在によって歪み、そしてこの聖杯戦争の最中完全に閉じられたのだから。
「違う、違うんだ。僕は、もはや世界平和なんざ望んでいない。アイリ、そしてイリヤ。この二人とずっと、平和に家族として暮らせればそれでいいんだ――」
まるで口にするのが苦しいと言わんばかりに、その声は非常にかすれていた。
「切嗣、酷い顔をしているわ」
「な、に――?」
その言葉によって、衛宮切嗣は己の顔が苦痛と迷いによって酷く歪んでいることを自覚した。
……衛宮切嗣の願望は、家族と共に過ごすこと。だが――アイリスフィールは変質した衛宮切嗣の願望を知らないのだ。
故に、妻として、衛宮切嗣が必死になって実現しようとしていた恒久的な世界平和を願い、共に協力していたのだ。それは間桐臓硯に攫われ、聖杯になる直前であっても、アイリスフィールは衛宮切嗣を想い続けていたのだ。
だからこそ。妻を愛するからこそ。衛宮切嗣は顔を酷く歪めていたのだ。そんな健気に己を想い、支え続けてきた妻を否定することになるのだから。
「まあ、いいわ――切嗣。あなたは既に願いを口にした。なら、私はその願望を実現しましょう」
アイリスフィールの姿をした聖杯の意思は、口の端を歪めながらそう言った。
「
「な、に――待て! どうするつもりだ……!」
「簡単なことよ」
アイリスフィールのカタチをしたソレは微笑んだ。そして、世界が変貌した。聖杯の中にある『泥』は、現世へと降誕し、願望を実現するべく行動を開始した。
「キリツグ! ようやく一緒に過ごせるのね!」
そんな声が聞こえた。その幼く無邪気な声を衛宮切嗣が聞き間違える筈がなかった。なぜならば、それは己が愛娘であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの声だったのだから。
「イリヤ?」
呆気にとられる衛宮切嗣を見て、イリヤスフィールは笑った。
「なにおかしな顔をしているの、キリツグ?」
「ええ、本当に。大丈夫? 切嗣」
「アイリ?」
「さぁ、一緒に行きましょう!」
衛宮切嗣の前には、己の愛すべき家族――アイリスフィールとイリヤスフィールがいた。彼女たちは笑い、衛宮切嗣の手を取って走り出した。家族と共に、平和に過ごせる地を目指して。
――その背後を追うものがいた。
アイリスフィールとイリヤスフィールを取り返すべく、アインツベルンのホムンクルスたちが武器を携えて襲い掛かってきた。衛宮切嗣は彼らを返り討ちにした。
強盗が、通り魔が、彼女たちに恋愛感情を抱く者が、道端ですれ違った者が、何でもない者が。アイリスフィールとイリヤスフィールへと危害を加える可能性のある人物たちが。即ち、全ての人類がいた。衛宮切嗣は愛すべき家族を守るために、武器を手に取り、彼らを皆殺しにした。
「違う……! そんなことは、望んじゃあいない!」
衛宮切嗣は死体の山を前に、叫んだ。そんな彼を呼ぶイリヤスフィールの声がした。衛宮切嗣は振り返り、そこにいるイリヤスフィールの姿を見た。
「キリツグ、一緒に遊びましょう!」
彼女は無邪気に笑っていた。無数の人々の血を浴びても尚、それを何とも思わずに、いつもと同じように、何も知らない幼い子供のように、ただただ無邪気に嗤っていた。衛宮切嗣へと差し出したその手もやはり、どす黒い血で染まっていた。何も知らずに、無邪気で無垢であるイリヤスフィールは、血を浴びながら嗤っていた。
「違う、違う! こんなモノ、こんな世界、僕は望んじゃいない!」
衛宮切嗣は叫んだ。こんな世界、望んではいない! 愛すべきイリヤスフィールが、血に染まり、汚れても尚笑うような世界など、望んではいないと。
聖杯は口にする。
“何が違う? 衛宮切嗣。コレはお前の願いだ。ならば、お前のやり方で叶えるのは当然だろう。願いが変わろうが、人間の本質はそう変わりはしない。アイリスフィールとイリヤスフィールを害する者がいたのならば、こうするだろう”
――聖杯は泥に染まってもなお、願いを叶える願望器として機能する。だが、その願いの方向性は、泥によって歪められている。即ち、破滅へと。破壊へと。殺戮へと。絶望へと。『
「切嗣? どうしたの? 顔色が悪いわ。風邪でも引いたのかしら? 大丈夫?」
アイリスフィールは不安げな顔を浮かべ、衛宮切嗣へと近づいた。彼女もまた血を浴び、血に染まっていた。そして、血まみれの手を差し出し、衛宮切嗣の体調を慮っていた。
「ち、違う……! お前は、聖杯は! コレを実現しようというのか!」
“然り――それが聖杯だ。それが願いを叶える装置の機能であるが故に”
「なっ……」
衛宮切嗣は息を飲み、戦慄した。こんなことがあってはならない。こんな恐ろしいこと、実現させてはならない。だが、聖杯は本気でコレをやろうと思っているのだ。全ての人類を皆殺しにしようとしているのだ。
「やめろ……違う、違う! 違う! こんな世界、僕は望んではいない――」
だが、衛宮切嗣は心のどこかで思考していた。妻と子を害する者がいたのならば。彼女たちを守るためならば。確かに、己ならばこうするだろう、と。そも、衛宮切嗣は殺戮という方法でしか平和を見いだせなかったのだ。だが、それは間違った答えである。故に、衛宮切嗣は聖杯という奇跡に、己の方法では実現できない、完全無欠の平和を願っていたのだから。
だからこそ、衛宮切嗣は否定する。聖杯が行おうとしていることを否定するのだ。それでは、己がやってきた殺戮の道から逃れることはできないのだから。
「ああ、アイリ、イリヤ――」
衛宮切嗣は絶望し、脱力した目で彼女たちを見つめた。そして、銃の引き金へと指をかけ、彼女たちの額へと銃口を定めた。
彼の目からは涙が流れ、その声は震え、その顔は酷く歪んでいた。
「愛しているよ。君たちと一緒に過ごせたらどんなに幸せなことだろうか。だけど、違うんだ――」
聖杯を否定するために。世界を救うために。衛宮切嗣は彼女たちを見捨てるのだ。かつての己の願望を否定するために銃口の引き金を引くのだ――
アスクレピオスはイアソンの指示によって円蔵山へと向かっていた。その最中、街中にて、聖杯から溢れ出た泥が円蔵山を覆いつくすのを目にした。そして、彼はその泥がどのようなものなのかを、瞬時に理解した。
「呪いか。さながらパンドラの災厄……いいや、アレはパンドラよりタチが悪いな。希望が存在しない。破滅の呪詛か」
そして、アスクレピオスは溢れ出る泥への対処法、即ちその泥に溺れ、侵された患者の治療法を思考し始めた。イアソンやヘラクレスならば、あの泥に飲み込まれてもまぁ、とりあえず最低でも生存はしているだろうと考えてのことである。
「だが、どうしたものか。アレは僕たちサーヴァントの天敵もいいところのようだ。触れれば、霊基――性質そのものに影響をきたすと見た……まぁ、ヘラクレスなら五体満足だろう。あの男がいるのならば猶更か」
「もう少し思いやってやったらどうだ?」
とアタランテはアスクレピオスへと言った。彼女もまたイアソンの指示によって、円蔵山の森の中にて、緊急時にすぐさま動くことが出来るように待機していたのだ。だが、聖杯から泥から逃げ回り、こうしてアスクレピオスの元へと移動してきたのである。
アスクレピオスは彼女の言葉に鼻を鳴らして答えた。
「心配するだけ時間の無駄だ。それよりサンプルが欲しい。あの泥に触れて来い」
「断る! 決してロクなことにならないだろう! それは。魔術に疎い私でもわかるぞ!」
「……ッチ。まぁいい。だが、このままではあの泥は街を飲み込むな。僕としてはサンプルも増えるし、別に構わないが――」
アタランテはアスクレピオスを鋭い目で睨み付け、彼の言葉を阻止した。そしておもむろに弓矢を手に取った。
「私としては許容できないな。この街には子供もたくさんいるのだから。力無き者は死ぬのが定めといえども、流石にこれは見逃すことはできないな」
彼女は続けて矢を弓に番え、天空へと放った。この一矢こそが彼女の宝具なのである。
「我が弓と矢を以って――……
天空へと放たれた一つの矢は、空を埋め尽くす綺羅星の如く無数の矢となり、地上へと次々降り注いだ。たかが矢と侮るなかれ。宝具として放たれた矢は流星群の如き速度と破壊力を以て、地上へと落下した。
そして、落下した矢は円蔵山の大地をめくりあげ、その地形を瞬時にして変貌させてみせた。即ち、大地は矢によって隆起し、聖杯の泥を防ぐダムのような役割を果たすようになったのだ。これによって、泥が街へと流れ、家や人々を飲み込むことがなくなる――という訳ではない。
これはほんの些細な足止めであり、泥はいずれ作り上げられたダムを乗り越え街へと流れ出るであろう。
「――悔しいが、私にできるのはこれぐらいだな。矢で泥を蹴散らそうにも、あの量は手に余る。あとは……あの男次第か」
「そうなるだろう。それと、アタランテ。その宝具の口上は変えろ。聞いていて不愉快だ。特に
「いや、それは……まぁ、汝の事情も分からんでもないが……うん。しかし、羊、羊とはなぁ……本体ではないことは分かっているのだが……」
とアタランテはどこか複雑な表情を浮かべて呟いた。
「しかし、この聖杯戦争にあの男が召喚されていたと聞いたときは、怒りを覚えたが、ヘラクレスによって殺されたと聞いたときは、大笑いしたな! ざまぁみろ馬鹿め!」
アタランテは爽快な笑顔を浮かべながら、高笑いをするアスクレピオスと、己の中に浮かぶ、神への信仰の想いから逃れるかのように、円蔵山を眺めた。
そして――泥に覆われた地表の中から、僅かな黄金の光が一瞬だけ輝いた。
次ッ! 次こそ終ります! 多分!
あともう少しで終わりますので!! もうちょっとお付き合いいただけると幸いです!!