【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】   作:天城黒猫

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第4話

 ──初めに発生したのは、小さな銃弾が結界を通り抜けるときに生じた僅かな音だった。けれども、その音はサーヴァントの戦いによって発生する轟音に掻き消され、ついぞその銃弾の存在に、ただ一人を除き気が付くものはいなかった。

 

 時臣は、己の結界を何かが通り抜けたということを察知した。しかし、その時はすでに手遅れだった。音速で飛来する銃弾は、時臣がその存在を認識し、回避なり防御を行うよりも早く、彼の脳天へと吸い込まれるかのように着弾した。

 

 時臣の頭の内部に弾丸が突き刺さり、その衝撃によって彼は頭の弾痕から血液を噴出しながら倒れた。

 彼が倒れたことによって、その場にいた全員の時が止まったかのように凍り付いた。

 

「マスターッ!?」

 

 始めに動き出したのは、パリスだった。

 彼は倒れた時臣のもとへと駆け寄り、その安否を確認した。

 

「そんな、マスター! これは……」

 

 時臣は意識を完全に失っていた。息こそはまだあるが、脳からの出血を考えるに、このままではじきに息絶えることは確かだった。

 パリスは先ほどまでサロメと戦っていたことすらも忘れ、突如攻撃を受けて意識を失った己のマスターの容態を確認し、涙を流しながら寄り添った。

 

 雁夜は蟲を通じてその様子を見ていた。

 時臣が突如倒れた時はあっけにとられたが、彼が何者かの攻撃を受けて倒れたということを認識すると、まるで狂った機械のように大笑いした。

 

「……ハハッ! ア、アハハハハッハ! 時臣ィ! まさかこうもあっけなく死ぬとはな! バーサーカー、もういい! 戻れ……!」

 

 雁夜の命を受けたサロメは、霊体化をしてその場から立ち去った。

 ケイネスは、サロメがその場からいなくなったのを確認すると、時臣のもとへと移動し地面に横たわる彼に手を伸ばした。

 パリスは、己のマスターを守ろうとケイネスを睨みつけ、立ち塞がろうとした。ケイネスは時臣に害を成す気がないことを伝えると、時臣に治癒効果のある魔術を施した。

 

「どうして、ですか?」

 

 パリスは、敵であるはずのマスターを助けたケイネスに、問いかけた。

 

「アーチャーよ、貴様のマスターとの決着はまだついていない。我がランサーとの決着もだ。何者かは知らないが、どことも知れない不埒者の介入で、私が勝利したとしてもそれは私の名誉にもならん。今宵はここで切り上げるとしよう。彼に施した魔術はあくまでも応急処置だ。手当をしなければ、死ぬだろう」

 

 ケイネスは踵を返し、その場から立ち去った。

 パリスは、遠ざかるケイネスに礼を言った。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 ガレスはパリスに一礼すると、霊体化してケイネスの後ろについていった。

 ケイネスは、ガレスに小さな声で言った。彼の言葉には、怒りが込められていた。

 

「ランサー。あの攻撃がどこから行われたものかはわかるか?」

 

「申し訳ありませんが──」

 

「そうか。まあ良い。どうやらこの聖杯戦争、分を弁えない輩が紛れているようだ。神聖なる決闘に横入りした挙句、バーサーカーを囮として不意打ちとは」

 

「バーサーカーのマスターの仕業だと?」

 

「状況を考えるにその可能性が高いだろう。バーサーカー曰く、彼女のマスターは遠坂時臣に執着しているという」

 

 ──ランサーはケイネスの顔をチラリと見た。

 己のマスターは貴族らしく、いつでも冷静でありながら、堂々とした振る舞いをしていた。しかし、この時ばかりは歯をきつく食いしばり、拳を強く握りしめ、顔を歪めていた。その漏れ出る怒りの感情は、彼の内部で静かに燃えていた。

 

「……アレは恐らく銃による攻撃だ。傷跡を見れば明確だ。神聖なる決闘を邪魔しただけではなく、銃などという魔術の埒外にある道具で攻撃するなど、魔術師の鏡にも置けない人物だ。──決めたぞ。ランサー。貴様も騎士としての決闘を邪魔されて、さぞかし不愉快であろう?」

 

 ケイネスはガレスに問いかけた。

 ガレスは少しばかり考えた。というのも、彼女はこれは正式な決闘ではなく、戦場──人と人がお互いを殺しあう戦いだと認識していたからだ。それ故に、ケイネスの言ったことが本当のことであろうとも、たいして怒りは抱かなかった。しかし、それでも彼女の中にある騎士としての矜持は、この行動は邪道であると主張していた。

 

「──そうですね。確かに、正々堂々と戦わずに不意打ちというのは、卑怯と言えるでしょう。何より、私もアーチャーとの決着が付いてないですし、あのまま終わりだというのは少しばかり心残りが生じますね」

 

「ならば、今回の下手人に誅伐を。ランサー、協力してくれるな?」

 

「はい。マスターの意のままに。マスターは騎士でいらっしゃいますね!」

 

「いいや、私は魔術師であり、貴族だ。だが、騎士道も持ち合わせている」

 

 ケイネスとランサーは、闇夜の中に消えていった。

 

 

 

 さて、少しばかり時間を巻き戻し、遠坂時臣を狙撃した真犯人である衛宮切嗣の様子を見てみるとしよう。

 

「──よし」

 

 切嗣は、銃口から立ち上る硝煙と、火薬の匂いを感じ取りながらもスコープ越しに、己が撃った銃弾は時臣の頭に着弾したのを確認すると、そう呟いた。

 狙撃したのならば、すぐさまその場から移動しなければ居場所を特定され、攻撃を受ける危険があるため、その場から立ち去ろうとした。

 久宇舞弥に、その場から撤退するという旨をインカムを通じて伝えた。しかし、いつもならばすぐさま帰ってくるはずの返答は、数秒経っても帰ってこなかった。

 

(何があった?)

 

 切嗣はすぐさま舞弥の身に何かが起こったということを察知した。

 彼女がすぐさま答えるのは当然のことだし、インカムが故障したのならばその予備も用意してある。そんな彼女が返答しないということは、その身に何かがあたっということだ。

 

 切嗣は自分の指をチラリと見つめた。そこには、舞弥の毛髪が埋め込んであり彼女の生命が危機に陥った場合、そのことを知らせるための、魔術的な仕掛けが施してあった。

 しかし、それが発動していないということは舞弥の体そのものは無事だということだ。

 

(戦闘に入ったため、僕の返答に答える余裕がない……という可能性はあり得ない。あの時は不意打ちを受けても、いつでもそのことを僕に返答できる状況だった。──ならば)

 

 切嗣は状況を整理し、舞弥の身に何が起こったのかを予想していった。

 

(不意打ち、かつ一撃で舞弥の意識を刈り取る攻撃が行われた可能性が高い。彼女には訓練を施してある。不意打ちといえどもそう反応できないということはあり得ない。……相手が常人ならば。

 サーヴァントの仕業か? アサシンならば、気配を消して一撃で意識を刈り取ることが可能だろう。だが、なぜ舞弥を狙った? マスターである僕は無事だ。なぜ彼女を狙った? そこが分からない)

 

 相手の狙いが一切見えないことから、切嗣は不気味さを覚えていた。

 しばらくの間考えた彼は、その場から立ち去る──つまり、舞弥を見捨てることにした。もちろん、苦渋の決断だったのか、少しばかり歯を食いしばっていた。

 しかし、彼女を助けようにも敵の正体が見えないし、サーヴァントであった場合、常人である切嗣が戦闘を行ってもあっさりと敗北し、殺されるのがオチというものだろう。故に、彼は舞弥のことを見捨て、己の保証に走った。

 

 さて、舞弥の身に何があったのか、彼女の居る方を見てみるとしよう。

 結果から言えば、舞弥は切嗣が予想した通り、不意を打たれ、一撃で気絶していた。そして、彼女の意識を刈り取った下手人は、彼女の襟を掴んで引きずるようにその体を運んでいた。

 

「あちらの方は逃げましたか」

 

 と、下手人はつぶやいた。その下手人の正体は、キャスター、陳宮であった。

 彼は今まで使い魔を街中に放ち、遠坂邸での戦いはもちろん、切嗣と舞弥が時臣たちを狙撃しようとしていることも把握していた。

 陳宮は口の端を吊り上げて、言った。

 

「いけませんねぇ。こんな夜中に一人でうろつくなど。こうして攻撃してくださいと言っているようではありませんか。……あちらの男は、どうやらマスターである様子。

 襲撃してもよいのですが、令呪を使ってサーヴァントを呼ばれたらひとたまりもありませんね。なんせ、この身はか弱い軍師なのですから」

 

「ですが──」陳宮は、切嗣の狙撃を受けて横たわる時臣と、パリスをチラリと見た。

 

「ふむふむ。どうしましょうかね。いやはや、仕える主はおらず、指揮するべき軍は存在しない。この身一つでは少しばかり辛いですからね。ああ、ですがやりようはいくらでもありますとも」

 

 彼は舞弥の体を引きずりながら、闇夜の中へと消えていった。

 彼が何を企んでいるのか、それを知っているのは本人である陳宮自身のみしかいない。

 

 

「ひ、ひぐっ、マスター。ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 ──切嗣の狙撃により、脳に弾丸を受けた時臣は、意識を失ってはいるものの、その生命は消えていなかった。

 ケイネスの手当が功を奏し、死に至ることはなかったのだ。しかし、その後言峰が手当を行い、診断の結果によると、脳へのダメージが大きく、時臣がこの先目覚める可能性は非常に低いとのことだった。

 

 パリスは、ベッドの上で眠り続ける時臣に寄り添いながら、涙を流し続けていた。

 彼は、マスターを守ることができなかった後悔の念に満ちており、こうしてずっと泣き続けていたのだ。

 

「ボクが弱かったから。ボクが未熟ものだったからっ。マスターを守ることができなかったんんですっ。うう、ダメダメなサーヴァントですね……」

 

「──入りますね」

 

 彼らがいる部屋の扉がノックされると、その声と共にシャルロット・コルデーが、扉を開いて部屋に入った。

 彼女はパリスの様子を案じて、この場に来たのだ。

 

「酷い顔ね。そんなに泣かないで。せっかくの男が台無しよ?」

 

「でもっ……ボクは、マスターを守れませんでした……召喚されてから、付き合いは短いですし、マスターのことは、何も分かりませんけどっ、それでも、マスターなんです。戦って、敵に勝ち、マスターを守るのがサーヴァントの役目なのに、ボクはそんなこともできなかったんです……!」

 

「……」

 

 シャルロットは、幼い子供をあやすときの、優しい目線、柔らかい声を投げかけた。

 

「アレは仕方がなかったと思うわ。貴方は、バーサーカーと戦っていたんだから」

 

「それでもっ。ボクは守れなかったんです」

 

「そうね……後悔している?」

 

 パリスは静かに頷いた。

 

「……後悔ばかりです。もし、ボクが女神たちの願いを断ったのなら、トロイア戦争なんて起こらなかったのかもしれません。沢山の人が死ぬようなことはなかったのかもしれません。兄さんも死んで……アキレウスも、ボクが殺しました。……後悔ばかりです。生前も、今も」

 

「ええ。そうね──私もそうなのよ。後悔しているわ」

 

「え?」

 

 パリスは、初めてシャルロットの顔を見た。彼女は一体どのような表情をしているのだろうか。影になっていて、顔を見ることは叶わなかった。

 彼女は言葉をつづけた。

 

「少しでも平和になれば、と私はジャン=ポール・マラーを殺しました。恐怖はありませんでした。私の身がどうなろうとも構わなかった。そして、殺しました。……これで、皆が幸せに暮らせるのだと、そう信じていました。

 けれども、その結果ジャン=ポール・マラーの死はマクシミリアン・ロベスピエールに利用され、火種となりました。……結局のところ、私は何も成せなかったんです。ただの町娘でしかなかったんでしょうね。世界を動かすことはできなかった。もし、ジャン=ポール・マラーではなく、別の人を殺していたのなら。そう思わずにはいられません」

 

「……」

 

 パリスは彼女の言葉を黙って、ただただ聞き続けた。

 

「後悔、しているんですよ。私も」

 

 シャルロットは微笑んだ。

 

「私の死後もフランスは騒乱が続きました。けれども、革命は終わりました。もう、今のフランスは平穏そのものだと聞いています。……それを聞いたとき、私、ほっとしたんですよ。ああ、終わったんだ、って。

 でも、私が別の人を殺していれば、もう少し早く終わったのかもしれない。そんなことも考えてしまいます。後悔こそしています。けれども、私は自分のやったことが間違っているとは思っていないんですよ」

 

 シャルロットはパリスを見つめて、問いかけた。

 

「……ごめんなさい。長かったですね。アーチャー、貴方はどうですか?」

 

「……ボクは」

 

 パリスはポツリ、ポツリと語りだした。

 

「ボクは国を滅ぼす災厄の子として生まれました。そして、その結果、ボクがアフロディーテさまを選ばなければ。そも、女神さまたちの問いかけを断っていれば……あの時、どうすればよかったのか。分かりません。どうすればトロイアが戦争に勝てたのか。どうすればよかったのか……考えちゃいますね」

 

 パリスは己のマスターである時臣の顔を見つめた。

 彼は依然と眠ったままであり、かすかに胸が上下するだけの動きしか見せなかった。

 

「……やり直せるのなら。そう考えずにはいられないんです。でも、でも。それはダメな気がするんです。確かに、戦争の中でたくさんの人が死にました。けれども、幸せなこともあったんです。うれしいこともあったんです。終わったことは、もうどうにもできないんですよね。ましてや、ボクたちが生きた時代は、遥か昔。神話の時代ですからね。

 ……でも、今は。今ならっ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()! ──聖杯に何を願おうか、ずっと迷っていました。けれども、決めました。聖杯の力で、マスターを助けます! それが、サーヴァントとしてできる、ボクの仕事ですよねっ!」

 

 パリスは、ふんす、と鼻息を鳴らし、両こぶしを強く握りしめて叫んだ。

 それに、シャルロットは微笑んだ。

 

「そうですね。私は、聖杯に願うことはこれといってないんですよね。私のような存在に、ああいうモノは手に余りますから。ですから、アーチャー。貴方の手伝いをさせてください」

 

「えっと、いいんですか……?」

 

 パリスはきょとんとした顔でアサシンを眺めた。

 聖杯に呼ばれたからには、彼女にも何かしらの願いがあるのだと思っていた。けれども、頷くその顔をみると、嘘は言っていないようだった。故に、パリスは頷いた。

 

「はいっ! 宜しくお願い致しますね。アサシン!」

 

 パリスとシャルロットはて手を握り合った。

 

 ──そんなサーヴァントたちをよそに、言峰綺礼は別室で椅子に座っていた。

 彼は時臣の手当を終えてから、ずっとこの椅子に座り、一つのことを考え続けていた。彼の額には汗が浮かび、心の中には迷いと謎によって暗雲が発生していた。

 

「……なんだ、これは?」

 

 言峰はポツリと呟いた。

 

「我が師が撃たれ、倒れた──衛宮切嗣の仕業だろう。だが、私は師を攻撃した彼を憎しみもしなかった。彼に対して何も思わなかった。だが、これはなんだ? 我が師が倒れたとき──それだけではない。これまでにも似たモノが私の中に発生した。

 何なのだ? コレは……この感情は……」

 

 言峰は、自らの中に生じた感情の正体について、一晩じゅう悶々としながら考え続けた。しかし、ついぞ答えが出ることはなく、夜は終わり、太陽が昇りはじめた。

 

 聖杯戦争、その一回目の戦いはこれにて終了した。

 

 





 パリス、トロイア戦争のことどう思っているんだろうなぁ……
 どうすれば勝てたのか、考えることはあるみたいですけど、もしかしたら成長したパリスは、結構ギリシャバーサクみたいな性格なのかもしれない。
 ですが、幼い少年なのでこんな感じで。作者のパリスきゅんはこんな感じなんですよ!!

 しかし、パリスの羊(アポロン)もそうですけど、シャルロットの天使もなんだ。アレ。アレの方がより分からない……フォーリナー的なやつじゃないよね? ねえ?

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