【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】   作:天城黒猫

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第7話

 ──夢を見た。

 

 間桐雁夜は昨夜の戦いによる疲労で、今まで眠りこけていた。今まで見る夢と言えば、体内を這いまわる蟲、臓硯の不気味な顔、そして蟲に蹂躙される桜の様子とか、そのぐらいだった。けれども、今見ている夢はそれらとは全く違ったものだった。

 

 彼がいつも見るような悪夢ではなく、どこか冷めた──例えば、興味のない映画をぼうっと見るような感覚だった。

 

 何かから逃げてきたのか、一人の女性が息を荒くして走っている。場所はどこかの地下なのだろうか、あたりはしめじめとしていて、暗くてその姿はよく分からなかった。分かることといえば、その人物が女性であることと、彼女は酷く怯えている様子だった。

 

 ──あの視線には耐えられない! あのあたしの体を舐めるかのような、いやらしい視線には耐えられない! 

 

 そんな思考が雁夜の中に流れ込んできた。これは彼女のものなのだろうか? ……雁夜はどうでもよかった。結局のところ夢なのだし、悪夢でもなければどうでもよいのだ。そう思うほどに、雁夜の心はすり減っていた。

 

 ──だから、あの声に助けを求めるわ。

 

 あの声とはいったい何なのだろうか? これもまた雁夜にとってはどうでもよかった。

 

 女性は目の前にある古井戸の前に立った。その井戸の蓋は一枚の板で封印されていたが、彼女はその蓋を無理やり破壊した。するとどうしたことか。その井戸の中から一人の男性が飛び出すように現れたのだ。

 それに女性は驚いたように、その場から飛び退いた。

 雁夜は知る由もないが、この男性こそがヨカナーンと呼ばれた男である。女はこの男に一目惚れしたのだ。女性は口づけを要求したが、男性は断った。

 

 

 映像にノイズが走り、場面が切り替わる──

 古代の華美な装飾がなされた部屋で、一人の女性が踊っていた。その踊りといったら、踊っている女性が美しいのもあって、非常に艶やかで見る者を魅了するような踊りだった。

 この場でその踊りを見ているものは、雁夜を除けばもう一人。玉座に座りながら女性の踊りを食い入るように見つめている男がいた。

 

 女性が踊り終わると、玉座に座っている人物が、女性のことを褒め称え何かしらの褒美を取らせようと言った。

 それに彼女がなんと答えたのだろうか──気が付けば、斧を持つ人物が雁夜の方へと近づくと、その斧が振り下ろされていた。視界が揺れ、最期に目に入ったのは銀色の鈍い光だった──

 

「……うっ」

 

 雁夜はうめき声を上げながら、意識を夢の中から現実へと戻していった。

 

「いつまで寝ているつもりだ。雁夜」

 

 臓硯はまんじりとしない雁夜を咎めるような声で言った。その声を聞いた雁夜の意識は一気に覚醒した。

 

「なんだよ」

 

「もう聖杯戦争の頃合いじゃて。一つ知らせじゃ。遠坂の小僧じゃが、あやつは死んでおらんぞ」

 

「何だと!?」臓硯の言葉により、雁夜の意識は一気に覚醒した。

 

「まだあやつは生きておる。サーヴァントも健在じゃ……まあ、それがどうしたという話じゃがのう」

 

 臓硯はいやらしそうに、顔を歪めて見せた。しかし、雁夜はとっくに目の前の老人など目に入っていなかった。少しばかりよろめきながらも、その場から立ち去った。恐らく、時臣の元へと向かったのだろう。

 それを見送った臓硯は己の体を蟲へと変化させ、その場から立ち去った。この老人は、前話のようにケイネスの元へと向かったのだ。

 

 さて、ケイネスとガレスは警戒を巌にしながら臓硯が指し示した道を進んでいった。

 途中で何かしらの罠がないか警戒していたが、あっけにとられるほどに何もなかった。

 

「……何も無いですねぇ」

 

 ガレスは今まで警戒していたのが馬鹿らしくなったかのように、周りをキョロキョロと見まわした。それにケイネスは鼻を鳴らして答えた。

 

「気を抜くな、ランサー。あの老人は狡猾さでは、時計塔の貴族どもを上回る怪物と言えるだろう。少し顔を合わせただけで、それが分かってしまうほどにな。常に罠を警戒せよ」

 

「了解ですっ……マスター! 下がってください! 近くにサーヴァントの気配が!」

 

 ケイネスたちは素早く切り替え、戦闘態勢へと入った。

 曲がり角の向こうから、雁夜が体をふらつかせながら現れた。雁夜は、ケイネスたちの姿を認めると、目を見開いて驚いた。それと同時に、サロメが雁夜の前に現れ、姿を実体化させた。

 

 ケイネスはそれを見ると、サロメの後ろに立っている男がカリヤという人物であり、バーサーカーのマスターであることを認めた。

 怒りに顔を歪め、強烈な敵意を雁夜に叩きつけて名乗った。

 

「貴様がバーサーカーのマスターか! 我が名はケイネス・エルメロイ・アーチボルト! ──昨日、貴様が行った卑怯な行為の贖い、ここで受けてもらおうか!」

 

 その名乗りを受けた雁夜は、ケイネスのことを思い出した。彼は昨夜、時臣のアーチャーと、彼のランサーが戦っているところに乱入した。それ故に怒っているのだと理解し、慌てたように口を開いた。

 

「ま、待ってくれ! 俺はお前と戦う気はない──」

 

「ほう? では何だね、逃げる気か? よろしい。卑怯者はつくづく魂まで醜いというわけか。よろしい! ──では、一人の魔術師として貴様に誅伐を行う」

 

「な────!」

 

 戦いは最早避けられないといった調子だった。ガレスは槍を構え、サロメも同じく水晶の髑髏から魔術による攻撃を放つ体制へと入った。

 

「ランサー、まずはあのバーサーカーを屠れ。宝具の使用も許可しよう」

 

「はい、マスター!」

 

 先に仕掛けたのはガレスだった。彼女はサロメ目掛けて走り、槍による刺突攻撃を行った。彼女はそれを回避すると、魔術による攻撃を放った。雷や炎、氷といった様々な種類の魔術がガレスへと襲い掛かったが、ガレスは槍を一振りした。たったのそれだけの行為で魔術は粉々に砕かれた。

 サロメが行う魔術による攻撃では、ガレスの対魔力を貫通してダメージを与えることはできなかった。それは、サロメ自身も昨日の戦い、そして先ほどの攻撃で十分に理解していた。

 

「これは──ダメね。あたしの攻撃が通じないわ!」

 

「……ッ」

 

 サロメの声に雁夜は歯噛みした。

 正直に言ってしまえば、雁夜は己のサーヴァントはあまり強くないと思っていた。それは己が魔術師として未熟者なのと、バーサーカーは本来言語や理性を失い、その代償としてステータスを強化させるクラスなのに、このサロメは言葉を流暢に話しているし、理性もしっかりしているように見えた。

 つまり、狂化もあまりしていないため、その恩恵も少ないのだ。

 

 このままでは、サロメは敗北するだろう。逃げようにも、ランサーとケイネスの気迫がそれを許しそうにはなかった。

 故に、雁夜は一つの決断をした。

 

「バーサーカーッ! 宝具を使え!」

 

「──はぁい。うふふ……! わかったわ。ねえ、口づけをしましょう? ──『あなたにくちづけしたわ』(ファム・ファタル・ベゼ)!」

 

 ──サロメがその宝具の真名を開放した瞬間、彼女の持つ髑髏、すなわちヨカナーンの首が巨大化した。

 そのヨカナーンの首は魔術による攻撃を行いつつ、ガレスの動きを足止めした。

 

「なんて面妖なっ!」

 

 ガレスは突然巨大化した髑髏を見て、叫んだ。その大きさといったら、彼女の身長を遥かに凌ぐほどの巨大さだった。

 髑髏はまるで笑うように歯をカタカタと鳴らしながら、魔術による足止めを受けているガレスへと突進していった。

 

「ランサー!」

 

 ケイネスは思わず叫んだ。宝具──すなわち、サーヴァントが所有する切り札を使われたのだ。どのような効果、どのような攻撃があるのかはさっぱり分からないが、それでも正面から喰らうのは非常にまずいと言えるだろう。

 しかし、ガレスはその髑髏を睨みつけ、盾と槍を構えた。回避は最早間に合わないと言った調子だった。故に、彼女は相手の宝具を正面から受け止めようとしていたのだ。

 

「参ります!」

 

 ──巨大な髑髏はその顎を大きく開き、ガレスを飲み込んだ。あとはその内部で噛み砕くなりすればどうにでもなるのだろう。……しかし、そうはならなかった。

 ガレスは噛み砕かれることはおろか、飲み込まれすらもしなかった。

 

「う、ぐぐぐうッ!」

 

 なんとたまげたことに、ガレスは盾で上顎を受け止め、そして足で下顎を踏みしめ、つっかえ棒のようにして踏ん張り、髑髏の顎を閉じることを許さなかったのだ。

 

「馬鹿なッ!?」

 

 雁夜は驚愕に包まれた。宝具というとっておきですらも、この目の前のランサーには通じないのか? 己の体内を蝕む蟲たちに悶え苦しみ、全身から汗が噴き出たり、呻き声を漏らしていた。そのような痛みなど、今は最早どうでもよかった。この目の前の難敵を何とかしなければ、己は敗北するだろう。

 

「バーサーカーッ! 令呪を以て命じる──」

 

 故に、雁夜は令呪を用いてサロメを強化しようとした。しかし、その様子を見たガレスが、彼が令呪を発動するよりも早く、宝具の真名を口にした。

 

「さ、させません! やられる前にやるまで! 猛り狂う乙女狼(『イーラ・ルプス』)! うおおおおおッ!」

 

 ガレスは全身に力を入れ、槍を全力で振るい、髑髏の歯や顎など己の槍が届く部分へと次々に攻撃を放った。

 見るがいい! これこそが、円卓の席を飾った騎士、ガレスの宝具である。その槍の技の冴えを宝具の域にまで昇華させた、凄まじいまでの連続攻撃を前に、髑髏の歯は砕け、とうとう耐えきれずにガレスをその顎から解放させていた。

 

 しかし、なおもガレスの連撃は止まらず、次々と浴びせられる一撃一撃が必殺の威力を持った連撃を何度も喰らった髑髏は、とうとう罅が入り、その次に粉々に砕け散った。

 

「そんな──ヨカナーン!」

 

 サロメは砕け散った己の愛する人の首を見ると、砕け散り、地面へと落ちる髑髏へと駆け付けた。その様子は全くの無防備だった。

 

「貰ったッ! 止めですッ! やぁあッ!」

 

「バーサーカーッ!?」

 

 ガレスの槍は、バーサーカーの腹部を貫いた。

 その傷の大きさでは、最早回復の効果を持つ魔術を使っても、助かることはないだろう。

 

「これでサーヴァント同士の勝負は終了した。では、誅伐を行うとしよう」

 

 ケイネスは月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を起動し、先を尖らせた水銀で瞬く間に雁夜の腹部を貫いた。それこそ、雁夜が蟲を使って攻撃したりすることはおろか、認識する間もないほどの素早く、見事な一撃だった。

 

「銃などという卑怯な道具を使ってまで勝利を得ようなど、魔術師の面汚しだ。そうして這いつくばって死に絶えるのがお似合いだろう」

 

「な……」

 

 地面に倒れ伏す雁夜を見たケイネスは、目的は果たしたと言わんばかりに、ランサーを連れてその場から立ち去った。

 

 雁夜は地面を這いつくばりながら、呻き声をあげた。この調子だと、自分は最早助からないだろう。少しずつ遠のいていく意識の中で思い浮かぶは、一人の少女の姿だった。

 

「さ、くらちゃ……」

 

 雁夜の意識は闇へと沈み、二度と目覚めることはなかった。

 腹部を貫かれ、マスターが死亡しても、サロメは未だに消滅することはなかった。しかし、彼女もまた同じく死に体であり、いまだにその姿を保っていられるのは、偏に意思の力によるものだった。

 

 彼女は下手糞な匍匐前進のようにして、雁夜の元へと移動するとその頭を撫でた。愛おしそうに──

 

「マスター……マスター……カリヤ……ああ、眠いわ、カリヤ……」

 

 彼女が雁夜の頭を一撫でしていくたびに、彼女の目から正気は消失し、その頬には赤みが指していった。

 

「カリヤ、カリヤ……いえ、カリヤって誰だったかしら? ……そう、そうね! あなたの名前はヨカナーン。愛しい愛しい、あたしの恋人よね!」

 

 サロメは雁夜の頬に手を当て、その顔をまじまじと見つめた。そして、その両手で雁夜の首を胴体から引きちぎり、持ち上げると口づけをした。

 

「ふふふ……あたしの愛しい、ひと……」

 

 サロメは恍惚とした表情で、雁夜の頭部を何度も撫でた。そうしているうちに、彼女の体は完全に消滅した。

 その場に残ったのは、頭部を無くした雁夜の死体のみだった。

 

 

 間桐雁夜は死亡し、そのバーサーカーであるサロメもまた同じように消滅した。

 戦いが始まり、二日目の夜となった。しかし、夜はまだ終わらない。この夜、別の場所でも戦いが行われていた。その様子を見るとしよう──

 

 パリスは遠坂邸の屋根の上に陣取り、周りを警戒していた。こちらに攻撃してくる相手がいないのか見張っていたのだ。

 

 ひゅるるる、というような何かが空を切る音がした。その音に気が付いたパリスは、上空を見上げた。すると、何発もの砲弾が遠坂の屋敷目掛けて降り注いでいた。

 

「う、うわぁッ!?」

 

 まるで雨のように降り注ぐ砲丸に、パリスは矢を番えて迎え撃った。しかし、それでもパリスの連射力よりも、砲弾の数が上回っているため、すべての砲弾を打ち落とすことはできなかった。何発かは、屋敷や庭へと命中し、いくつもの場所で爆発が生じた。

 

「な、何で今まで気が付かなかった──!?」

 

 パリスはもちろんのこと、上空も警戒していた。

 しかし、この不意打ちに対処できなかった彼を攻めることはできないだろう。というのも、この攻撃の主であるバーソロミューは、雲の上よりも上空へと船を飛ばし、大砲を放ったのだから。そして、砲弾の後に続いてバーソロミューの船、ロイヤル・フォーチュン号が大砲を放ちながら急降下してきた。

 

「ははははは! では、略奪の時間といきましょう!」

 

「うわぁぁぁぁああッ!?」

 

 舵を操作しながら笑うバーソロミューをよそに、ウェイバーは体を浮き上がらせながらも、船から落ちないようにバーソロミューの腰にしがみついていた。

 

「マスター! 私の船から出ないように! ここにいればまずは安全ですからね!」

 

「む、迎え撃ちますっ!」

 

 パリスは突如降り注いだ砲弾と、船に驚きながらも矢を番えて迎え撃った。

 

 その様を、隠蔽の結界を通しながらも遠坂邸の外から、陳宮は見つめていた。彼はほくそ笑んだ。

 

「ふふふ、私の他にも襲撃する者がいたとはね。しかし、これは好都合。どうせならば、彼らになすりつけてしまいますか。では、行きなさい」

 

 陳宮が合図を送ると同時に、彼の背後にあった自動車が、遠坂邸へと目掛けてまっすぐに、凄まじい速度で爆走していった。その車は無人であり、ハンドルとペダルに細工がなされ、自動で移動するようになっていた。

 その自動車は遠坂邸の塀にぶつかると、大きな爆発を起こし、塀を破壊した。

 

「中々に良き絡繰りです。自動車と言いましたか、このような恐ろしいモノが大量にあるのなら、使わない手はありませんね」

 

 その後も、何台もの自動車が遠坂邸へと目掛けて疾走を開始した。

 

 バーソロミューの不意打ちと、陳宮の不意打ちを以て、遠坂邸における第二の戦いが開幕した──





 ガレスちゃんパナイ。彼女の宝具って、マテリアルを見るに、技量を宝具に昇華させた類のものですから、沖田さんとか佐々木小次郎とか、りゅうたんとかの魔剣みたいなものなのかもしれませんね。

 陳宮はどうやら昼間や道中で、いくつもの車をパチって細工をした模様。

 次回はガレス陣営VSバーソロミュー陣営VS陳宮となります。

 次回は8月17日に投稿したいと思います。明日は少し投稿できるかどうか怪しいですが、頑張ります!

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