【一発ネタ】FGO4周年で実装された英霊たちで聖杯戦争【最後までやるよ】 作:天城黒猫
イアソンについてですが、彼がいまだに戦っていないのは、彼ならば戦おうとしないだろうなあ、という作者の考えもあるのですが、それよりも彼の宝具を使ったら、イアソンがどんな状態であろうととりあえず来ちゃう戦友さんが強すぎるから、むやみに動かせないっていうね……
ホームズを動かし辛いのと同じよ。
パリスは瓦礫をひっくり返しながら、己のマスターである時臣を探し続けた。
しかし、一向に己のマスターの姿は見つからなかった。魔力のパスが切れていないのだから、時臣が生きていることは確実なのだ。しかし、昏睡状態となっている彼の姿はどこにも見つからなかった。
「マスター! どこですかぁっ!」
涙を流しながら瓦礫をひっくり返す最中、アポロンは体をビクリと震わせ、とある方向を向いた。その表情には、少しばかりの驚愕と、怒りと戸惑いがあった。
アポロンは瓦礫をどかすのをやめ、穴を掘り始めたパリスの腕を引っ張った。
「わわっ! あ、アポロンさま、どうしたんですか?」
少しばかり、アサシンというクラスについて説明するとしよう。
アサシンというのはその名の通り暗殺者の英霊に当て嵌められるクラスではあるが、通常の聖杯戦争にて召喚されるアサシンといえば、その語源となった歴代
いくつもの人格を持つ百貌のハサン、魔神の腕で敵の心臓を握りつぶす呪腕のハサン、肉体そのものが毒である静謐のハサン──そういった特別な能力を持つハサンたちが召喚されるのだ。
ところが詠唱を変化させたり、召喚の儀式に特殊な細工などを行ったりすれば、意図的にハサン以外のアサシンを呼ぶことも可能ではある。
さて、そこで今回の聖杯戦争で召喚されたアサシン、シャルロット・コルデーは意図的に召喚されたのかどうか、と問われれば否と答えるしかないだろう。
……言峰綺礼は、遠坂時臣が聖杯戦争を有利に勝ち進めるように、アサシンを召喚しようとした。
歴代山の翁が召喚されると、言峰も、時臣もそう思っていたのだが、実際に召喚されたのはシャルロット・コルデーだった。彼女に関連する触媒などはその場には存在していなかったし、言峰が召喚を失敗したのかと言われれば、それも否だ。彼の詠唱や召喚を行うための準備は完璧なものだったからだ。
何故彼女が召喚されたのかは、いまだに不明だし、時臣たちもその理由を突き止めようにも、原因といえるようなものは一切見当たらなかったし、もとよりアサシンは情報収集やマスターか、サーヴァントの暗殺を行うための、捨て駒として呼ばれたのだ。
故に、彼らにとっては、シャルロット・コルデーがアサシンとして、情報を集めることができればそれで充分だった。そのため、とりわけ気にするようなことはなかったし、シャルロット自身も、情報収集のような仕事は不得手ではあったものの、クラススキルとして与えられた気配遮断と、彼女の持ち前の度胸によって仕事をこなすことは可能だった。
……アサシンについて説明しているつもりが、少々脱線したため話を元に戻すとしよう。
アサシンという英霊は、セイバーやアーチャー、ランサーのような三騎士とは違って直接的な戦闘には不向きである。彼らの得意とする戦法は、クラススキルである気配遮断を用いての、情報収集及びマスターやサーヴァントの暗殺である。
闇討ちによる一撃必殺さえできれば、アサシンというサーヴァントは聖杯戦争にてかなりの脅威となるだろう。それこそ、三騎士よりも警戒しなければならない相手なのだ。
実際、こことは違う別の世界では、召喚されたハサン達の能力を存分に活用したことによって、『暗殺者の春』が舞い降りたほどである。
しかし、不意打ちに失敗したり、気配遮断が見破られ、直接的な戦闘が発生すればアサシンたちは一気に不利な状況となるだろう。
アサシンというクラスは、その特性をうまく使えば、優勝候補にもなりえるほどの力を持っているのだ。
……さて、色々とアサシンについて語ったが、現在注目してほしいのは、アサシンが直接的な戦闘を不得手とするという部分だ。
「──ハァ、ハァッ……」
シャルロット・コルデーは息を切らしながら全力疾走していた。片腕は変な方向へと折れ曲がり、そこから大量の血液が流れ出ているし、心臓は緊張と恐怖、過度な運動によって限界を迎えようとしていた。しかし、それでも彼女は走り続けていた。
例え己の肉体の限界が来ようとも、彼女は走り続けなければならないのだ。でなければ、待っているのは死しかないのだから。そう、あの怪物から逃げなければ、死んでしまうのだから!
彼女と一緒に召喚された、卵のような形状をした天使は足止めをするために、あの怪物の前に立ちはだかった。しかし、1分にも満たない短い時間──それこそほんの数十秒でやられてしまった。
……逃げ出してからどのくらいの時間が経過したのだろうか? 10分? 1分? 30秒? あるいは1時間? そんなことは分からなかった。長いようにも思えるし、短いようにも思える。
アインツベルンの城から、この住宅街──近くには学校や間桐の屋敷、遠坂邸がある──まで移動できたのは、サーヴァントとなったことによる身体能力の向上と、彼女自身が持つ運によるものだろう。
彼女はなぜこんなことになったのか、走馬灯のように今回の経緯を振り返り始めた。
始まりは己のマスターである言峰綺礼の指示だった。
彼はシャルロットに、アインツベルン陣営の情報を探ってほしいという旨を伝えた。昨晩時臣を狙撃したのは、十中八九アインツベルンが雇った魔術使い、衛宮切嗣の仕業だったし、アインツベルンがどのような英霊を召喚したのかも不明だったため、確かに情報を得るのは不自然ではなかった。
始め彼女は、マスタ-の傍から離れるのに抵抗感があり、その命令に渋ったが、時臣と綺礼は、アーチャーが守るため安全だろう、という綺礼の言葉と、それに続いてパリスもその言葉に同意しため、彼女は首を縦に振った。
そして、彼女はアインツベルンの城へと向かった。
森に仕掛けられたトラップや結界などの細工を見破るような経験や知識は、彼女にはなかったがその幸運によって、そういったものは全て通り抜けることができた。
そして城の中へと入り、ホムンクルスたちの目をかいくぐり──アインツベルンが召喚したサーヴァント、つまりイアソンが居る部屋にまでたどり着けたのだ。
イアソンは眠っていた。彼女はイアソンの様子を見ようと、部屋へと立ち入った。その瞬間、彼女の気配遮断はこの部屋に貼られた結界の力によって解かれ、侵入者の気配を察知したイアソンは飛び起きた。
「うおおっ!? な、なんだなんだ!?」
「──どうやら、可愛らしい動物が転がりこんだようです。イアソン様」
と、メディアは実体化し、シャルロットを指した。
シャルロットの存在を感知し、気配遮断を無効化するほどの、強力な結界を貼った張本人こそが、メディアである。
「ふ、フン! アサシンか? まあいい。とっととあの刺客を片付けてしまえ! ──
「────ッ!?」
シャルロット・コルデーは目を見開いた。
突然自分の気配遮断を解除された瞬間、彼女は撤退を選択し、すぐさまイアソン達が居る部屋から離れた。そして、背後から迫り来る一撃目を回避することはただの幸運によるものだった。しかし、直撃を回避したとしても、その衝撃波によって彼女の腕はへし折られた。
それからのことは簡単だ。彼女はただただ、迫り来る脅威から逃げ続けた。
背後から迫り来る存在の姿は未だに良く見てはいない。少しでも足の動きを緩めたその瞬間が、彼女自身の死へとつながるのだから、振り向いたりするような余裕は一切存在しなかった。
……この状況で、逃げることしかできない彼女を臆病者、あるいは弱者としてなじることなどできまい。むしろ、今の今まで逃げ続けてきたことを称賛すべきなのだ。
シャルロット・コルデーの逃亡劇の冒頭へと戻るとしよう。
アインツベルンの城から、森を潜り抜け、郊外から商店街へと移動した彼女だったが、とうとうその足を止めることとなった。というのも、彼女の目の前には雁夜とサロメとの戦いを終え、他のターゲットを仕留めるべくサーヴァントの気配を探り、移動していたケイネスとガレスが現れたからだ。
「──くっ」
シャルロット・コルデーは、この思わず出会ってしまった新たなる敵を前に歯噛みした。後方と前方の両方の方角に敵がいるのだ。
気配遮断は、凄まじい速度で迫り来る追跡者の前には役に立たず、逃げるだけでも精一杯だったため、発動させる暇すらもなかった。
「ほう、サーヴァントか。それも手負いの」
ケイネスはシャルロット・コルデーを前に呟いた。
「戦闘を仕掛けたはいいものの、敗れてここまで逃げてきたといったところか?」
「──そのようですね、マスター。下がっていてください!」
ガレスはすでに臨戦態勢へと入っていた。しかし、彼女の警戒はシャルロット・コルデーではなく、その後方へと向けられていた。ガレスは、その脅威を確かに感じ取っていたのだ。
「逃げているということは、追われているということ! ──その追跡者が来ますよ!」
かくして、ヘラクレスはシャルロット・コルデー、そしてガレスの前にその姿を現した。
「■■■■■■■■──ッ!」
鉛色の巨人が咆哮し、住宅街へと舞い降りた。
理性を無くした状態で召喚された彼は、元々の獲物であるシャルロット・コルデーと、新たに現れた敵、ガレスを前にその肉体を震わせて襲い掛かった。
まずはガレスがヘラクレスの前に立ちはだかり、振るわれる石斧をその槍で迎え撃った。
しかし、その一撃をヘラクレスは容易く弾き、続いて二撃目をガレスへと振るった。彼女は盾でその攻撃を受け止めたが、彼女の体はいとも簡単に吹き飛ばされた。
「うぁ──ッ!?」
このやり取りを合図に、ヘラクレスという一種の暴力装置による蹂躙が開始された。
ガレスは勇気と逞しさを以て、何度も槍を振るったり、ありとあらゆる種類の攻撃を加えた。しかし、それでも尚ヘラクレスに決定打を与えることはできないばかりか、逆に何度も攻撃を受け、吹き飛ばされたり殴られたりという状態だった。
ケイネスは、ガレスへと回復魔術を行使し、彼女が傷を負う度に癒してはいるが、それもただの延命装置のような状況でしかなかった。
シャルロット・コルデーはただ、何もできずにガレスとヘラクレスとの戦いに巻き込まれないようにするのが精いっぱいだった。
ガレスは仮にも円卓の席に名を連ねる者であり、決して弱くはない。むしろ、ヘラクレスを前に数度の攻防を行い、幾度かの攻撃を受けても尚未だに生きているという点を褒めるべきであろうか。
シャルロット・コルデーもまた、英霊として認められてはいるものの、その本質はただの町娘なのだ。直接的な戦闘などできるはずもないため、何もできないのは当然のことだった。
──地震、津波、竜巻、噴火、雷といった自然災害の前に、人間がどうやって対抗できようか! 彼女たちはただただ、ヘラクレスという暴風雨を前に生き延びるということしかできなかった。
「■■■■■■■■■■!」
「う、まだまだ……ッ!」
ガレスは不屈の意思をもって何度やられても立ち上がるが、目の前に立つ鉛色の巨人に勝利できるイメージが湧かなかった。
「■■■■!」
ヘラクレスはガレスの脳天へとその斧を振り下ろそうとしたが、突如その動きを停止させた。
彼はガレスやシャルロット・コルデー、そしてケイネスたちに目もくれずに、別の方向を向いていた。彼の視線の先にはパリスが立っていた。
彼はアポロンの先導によって、ここまで移動してきたのだ。
「あ、な、なんなんですか、アレ──ッ!?」
パリスはヘラクレスの存在にただただ驚くばかりだった。それに対してアポロンは、ヘラクレスに敵意をむき出しにしていた。
ヘラクレスもまた、アポロンの存在を感知した瞬間、彼に対して殺意を抱いて咆哮した。また、敵のアーチャーの真名がパリスであるということを、瞬時にして見破ると、更に獰猛に咆哮した。
「■■■■■■■■■■──!」
その咆哮は大地と空気を揺らすほどに凄まじい迫力を持っていた。
ケイネスが隠蔽の魔術をこの一帯にかけていなければ、住宅街の人々は目を覚ましてしまっただろう。
ヘラクレスは歯をむき出しにし、己の狂気をより一層加速させ、その剛腕、俊敏、耐久、戦略、技量を最大限に発揮し始めた。
「う、うわぁ……あ、アポロンさまぁッ!? ヘラクレス、さんって! なんでそんなのがいるんですかぁ!?」
パリスはアポロンからヘラクレスのことを知らされると、驚愕のあまり叫んだ。
さて、ここにいるはギリシャ最大の英雄、ヘラクレス。
そして対峙するは円卓第七席、ガレスにアキレウスを仕留めた災厄の子、パリス。そして暗殺の天使として称えられたシャルロット・コルデー。
これまでの戦いはほんの前哨戦であり、戦いはより一層激しいものとなっていくであろう──
ヘラクレス上げしすぎたかなぁ……? あんまりやりすぎないように……程々のバランスをだね……コイツ本当に取り扱い難しい。
ちなみに、ヘラクレスとアポロンのやり取りには、こんなものがあるそうな。
ヘラクレス「神託よこせ」
アポロン「だが断る」
ヘラクレス「よっしゃ神殿ぶっ壊すわ」
アポロン「やめろテメェコノヤロウぶっ殺すぞコノヤロウ!」
アポロンはヘラクレスの名付け親ではるが、仲悪かったりするんですかね?
そして、パリスの幼名→アレクサンドロス。これはヘラの異名だったり。
これは色々な意味でマズイ。マズイ!
真名の看破? 同郷なら何となく分かるんじゃないのかなぁ……? パリスはわかってなかったけど。
次回の投稿は来週の日曜日。9月1日までに行います。
切嗣とか、言峰とかウェイバーとかの様子も書きたいのに、展開の進みが遅い! ヘラクレス登場だけで終わってしまうとか!!