死柄木弔は存在しない 作:パム太郎
「転弧君、今から一緒に遊ぼ!」
「え、あ、で、でも」
「ねーねーねーねー!いいでしょー?駄目?」
「あ、遊び、たい」
「やった!じゃあ、外は暑いから私の家に行こ!ごーごー!」
問答無用で転弧君の手を引っ張り家に向かって駆け出した。迷子というていで話しかけてはいたけど転弧君の家族は全員死んでいる。とりあえず家に連れて行って、今後についてはまた後で考えればいい話だ。何度も言うが今日は暑い。このまま外にいたら熱中症で倒れてしまう。
と、その前に一応祖母に連絡を入れておく。流石に何の連絡もなく連れて行くと迷惑になってしまうのだ。友達1人連れていってもいい?と電話すると祖母は快く了承してくれた。
「ただいまー!」
「おかえりなさい。いらっしゃい、貴方が転弧君?あら、靴はどうしたの?」
「あのね、裸足で遊んでたら野良犬に持ってかれちゃったの!」
「そうだったの、大変ねぇ。タオル持ってくるからちょっと待っててね」
家に帰り扉を開けると玄関で祖母が出迎えてくれた。転弧君の足元を見て一瞬怪訝な顔をされたが、野良犬に持っていかれたと嘘をつく。
祖母が持ってきた濡れタオルで転弧君の足を拭いてリビングに向かった。転弧君は借りてきた猫のように大人しく黙って下を向いていたが、祖母が気を利かせて私の部屋に誘導すると少しだけリラックスしたようだ。
「わあ・・・!凛子ちゃんの部屋、ヒーローグッズいっぱいある・・・!」
「お父さんお母さんとね、おばあちゃんが買ってくれたんだー!」
私の部屋をぐるりと見渡し、数多くあるヒーローグッズを見て転弧君は興奮しているようだった。オールマイトを筆頭にいろんなヒーローのグッズがある。私自身はそんなにヒーローに興味はないのだが、なぜか両親と祖母は沢山買い与えてくれているのだ。
一通り眺めて落ち着いた転弧君は、先程までのハイテンションはどうしたのかと言いたくなるほど落ち込み始めた。なんだなんだ、情緒不安定か?ああ、そういえばこの子は両親も祖父母も姉もペットも殺してしまっているんだった。一瞬忘れていた。
「凛子ちゃん、あの、僕、僕ね」
「うん、どうしたの?」
「ぼ、僕、みんな、みんな、ヒュ、こ、ころし」
「落ち着いて、大丈夫。ゆっくり深呼吸して。ちゃんと聞いてるから、ね?」
「・・・僕、僕昨日、みんな殺しちゃったんだ・・・!モンちゃんもお父さんもお母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも・・・華ちゃんも」
「・・・」
「どうしよう、どうしよう、助けて、助けて凛子ちゃん、僕どうすればいいの・・・!?助けて・・・!」
「大丈夫、私が助けてあげるからね!」
虚空を見ながらパニックを起こし始めた転弧君の頬を両手で挟み、目を合わせた。助けて?当たり前だ、助ける為に話し掛けて家にまで連れて来ているのだから助けない訳が無い。ヒーローも警察も助けてあげないなら、私が助けてあげるのだ。
「ほ、ほんと・・・?」
「本当だよ!私、嘘はつかないの!あのね、1つ聞きたいんだけど転弧君の個性が出てきたのっていつ?」
「き、昨日」
「分かった!大丈夫、私が何とかしてあげるから安心してね」
「う、うん・・・!」
真っ青な顔で涙目になっている転弧君を抱き締めて背中をトントンと叩いた。転弧君の場合、人を殺してはいるがそれは犯罪と言うよりも個性事故だ。詳しい事を調べるためにノートパソコンを取り出し、検索バーに【個性事故 殺人】と打ち込む。というか5歳児にパソコンを買い与える両親は何を考えているんだ・・・?いやまあ助かるんだけど。
「なに調べてるの?」
「あのね、個性事故による加害者の扱いについてだよ」
「こせいじこ?かがいしゃ?あつかい?」
「転弧君の個性が出たのが昨日。殺しちゃったのも昨日。わざと殺した訳じゃないならそれは事故なんだよ。あ、ほら見て」
「んっと・・・なんて書いてあるの?」
「えーっとね、簡単に言うと個性事故で人を殺しちゃった子どもについて書いてあるの」
「僕の他にもいるの・・・?」
「多くはないけど、1年に2,3件はあるみたい」
個性が発現したばかりの乳幼児が、その個性によって他人に害を与えてしまった例が幾つもある。そのほとんどが故意ではない個性の暴走で、殺してしまっている件も少なくない。また発現したての幼児に法的責任はなく、被害者および遺族が加害者の保護者に対して慰謝料の請求をしている場合が多い。
でも今回は加害者も被害者も身内だ。訴える人間もいなければ訴えられる人間もいない。加害者の保護者である被害者は死亡しているのだから。
「えっと、個性事故で危害を加えてしまった、あるいは個性のコントロールが効かない者は個性支援施設にてコントロールを学ぶ事が出来る・・・だって」
「個性支援施設?」
「うん。うっかり誰かを傷つけないように練習?出来る所みたい。そこに住み込む人も家から通う人もいるんだって」
「そうなんだ・・・」
「転弧君、転弧君も転弧君の家族みんなも行方不明者・・・えっと、どこに行ったのか分からないことになってるみたいだから、お巡りさんの所に行ってみよ?大丈夫、私も一緒に行くから、ね?」
「・・・うん」
パタン、とノートパソコンを閉じて立ち上がった。転弧君と手を繋いで部屋を出る。もう一度外に出ると祖母に伝えるためリビングに向かうと、祖母が固定電話の受話器を持って固まっているのが見えた。
「おばあちゃん・・・?どうしたの?」
「・・・ああ、凛子、凛子、おばあちゃんが居るからね、大丈夫、大丈夫だから・・・!」
「大丈夫って・・・何があったの?おばあちゃん」
「あのね、あのね、凛子。落ち着いて聞いてね、あなたの・・・」
お父さんとお母さんが、お空に行っちゃったって連絡が来たの。今から病院に行きましょう。
祖母は小さな声でそういった。両親が空に行ってしまったと。それはつまり、死んだということだ。この世界は軽率に人が死ぬ世界であると理解はしていたがなぜ両親なのか?両親は普通の一般人ではなかったのか?何かに巻き込まれたのか?グルグルと回る思考の中でも冷静さは残っていたようで、祖母について家を出る準備をした。とはいえ特に持ち物は無かったから何もしていないが。そんな中でも私は転弧君の手を決して離さず、転弧君の分の靴を用意して病院まで共に行こうとしたのだ。祖母は何も言わなかった。いや、他人にまで気が回せなかったのかもしれない。
前世でも今世でも初めて入室した霊安室。黒いスーツを着た男性と、並べられた2つのベッドに横たわる男女の遺体。遺体は何故かヒーローコスチュームのような服を身に付けている。祖母は2人の顔にかかっている白い布を外して顔を確認した後に泣き崩れた。
スーツを着た男性は辛そうな顔をして説明を始めた。曰く、ヴィランとの戦闘中に人質に取られた民間人を助けようと動いたが、その民間人もヴィランの仲間で助け出されて密着した状態の時に母親を殺したと。それを見た父親は他のヒーローが来ない孤立無援の状態で善戦したが、数の暴力に負けて殺されてしまったと。
そもそも両親はヒーローだったのか。それすら知らなかった。なにも、知らないのだ。前世のように当たり前に家族全員で幸せに暮らせると思っていたが、それは間違いだった。当たり前など存在しない。それに気づかないまま両親は死んでしまったのだ。無意識に転弧君と繋ぐ手に力が入るが、直ぐに気づいて力を弱めた。しかし転弧君によってまた強く握られる。
「だ、大丈夫・・・!僕が、居るから。凛子ちゃんは僕を助けてくれるんだから、僕は凛子ちゃんを助ける・・・!」
「転弧君・・・。ありがとう、ありがとうねえ、本当、に、ありがとう・・・!」
転弧君は繋いでいた手を離して私に抱きつく。どうやら知らぬ間に私は泣いていたようだ。部屋にいた時と反対で、今度は私が慰められてしまった。
この子は、私が守らないと。優しいこの子をヴィランになんて絶対にさせない。
解釈によっては共依存の始まり