目が覚めると、ギョロッとした目がこちらを覗き込んでいた。
思わず、ヒッと声が漏れ、ギョロ目が勢いよく身を起こす。
色素の薄い長髪に、どこを見ているのかよくわからない目の、詰襟を着た男性だった。
「意識が戻ったようだな!誰か呼んでこよう!」
男性はハキハキとそう言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。
「なにあれ…」と呟いて、喉がひどく痛むことに気が付いた。
すると、次々に記憶が蘇る。
視界いっぱいに広がる赤。転がる兄の首。恐ろしい化け物。
込み上げる吐き気をなんとか抑え、寝かされていた布団から廊下に這い出る。
体は重かったが、気にする余裕はなかった。
誰か助けて、とガラガラの声で叫ぶ。体が震える。嫌だ、死にたくない。息が苦しくなって、視界が歪む。
背中にそっと何かが触れて、ハッとして振り返ると、長い黒髪が美しい女性がいた。
「助けて!」
思わずしがみつくと、女性は大丈夫よ、と穏やかに言い、私の背中をさすった。
「もう鬼はいないわ。大丈夫よ。ゆっくり、深く息を吸って」
女性の言う通りにして、しばらくすると気分は落ち着いた。
女性は私が落ち着くまで、ずっと背中をさすってくれていて、失礼かもしれないが、兄に撫でられているようだと安心した。
「この人があなたを助けたのよ」
女性の目線の先を見ると、先程のギョロ目の男性がいて、ぐっと眉根を寄せていた。
「いや、俺は……すまない。君の家族を、俺は救えなかった」
救えなかった。生きているのは、私だけ。
ありがとうございましたと頭を下げると、涙がこぼれた。
生きていることにひどく安堵して、同時に、ひどく悲しくなった。父は、兄は間に合わなかったのだ。
夢であったなら良かったのに。もう父は弱音を吐く私を叱ってはくれないし、もう兄は鍛錬のあとの散歩に連れ出してくれない。
思い出が次々に溢れて、私はわんわん泣いた。
泣き止むまでの間、女性はまた私の背中をさすってくれていた。
泣き疲れて眠っていたらしい。気が付けば夕方だった。
女性は胡蝶カナエ、男性は煉獄杏寿郎と名乗った。二人は鬼殺隊という組織に所属しており、鬼と呼ばれる人を喰らう化け物を狩っているそうだ。
ここはカナエの家で、蝶屋敷と呼ばれており、鬼殺隊員が怪我などを療養するための屋敷らしい。
カナエは、私の怪我が治り、気分が落ち着くまでここに居ていいと言ってくれた。
私はカナエの言葉に甘えることにし、怪我が治ってからは屋敷の仕事の手伝いをして、ときどき竹刀を借りて鍛錬をした。
あの日、兄から聞いた自分の名前の由来を思い出し、父から教わったことを繰り返した。
煉獄は、任務の合間に私の様子を見に来ては、鍛錬に付き合ってくれた。
その日も、煉獄は私の鍛錬に付き合ってくれていた。
煉獄は、おそらく父より強かった。まだ若いのになぜそんなに強いのかと尋ねると、煉獄は少し悩むそぶりを見せ、真剣な表情で言った。
「鶴久。鬼殺隊に入らないか」
私は強さの秘訣を訪ねたはずなのだが。
煉獄の話によると、鬼殺隊の人間はほとんどが全集中の呼吸というものを扱えるらしい。これを使うと、身体が強化され、人間のまま鬼のように強くなれるそうだ。
それでは鬼殺隊員はみんな父より強いのだろうかと考えていると、煉獄は凛々しい微笑みを浮かべる。
「鶴久には才能がある。これからどんどん強くなるだろう!その力を、鬼殺隊で使う気はないか?」
「私が、鬼殺隊に…」
私は家族を亡くしたあの夜のことを思い出した。
あんな恐ろしい化け物がこの世には沢山いて、私のように被害に遭った人もたくさんいるという。鬼がこの世からいなくなるまで、それはずっと続くのだろう。そう思うと、腹の奥からぐつぐつと激しい感情が沸き立った。
また来る時までに考えておいてくれ、と言って、煉獄は帰った。
できることなら、私は鬼を倒したい。もう仇をとることはできないが、鬼に傷つけられる人を増やしたくない。しかし、私にできるのだろうか。あの夜のことを思うと、どうしても体が震えた。
布団に横になって、ふと、脳裏に父の言葉が過ぎった。
『やりたいことをやりなさい』
私がまだ幼い頃、剣術を習いたいと言って、近所の女の子たちにからかわれたときに言われたことだった。
『一度やってみて、やめたいと思ったらやめれば良い。やる前から諦めるより、やって後悔するほうがずっと良い』
そうだ。できるかどうかなんて、やってみなくちゃわからないんだから。
拳をつくって、よし、と声を張り気合を入れる。
煉獄に手紙を出してもらうため、私はカナエのもとへ向かった。
なかなか思うように話が進まない。勢いで書いているので近いうちにネタが尽きそうな気がします。
※8月11日
煉獄さんの名前の表記(?)を杏寿郎から煉獄に変えました。