通りすがりによる突発短編 作:ノマド
……現在、この大和帝国はまさに混迷の時代と言える。その禍根は何かと市井に問いただせば、六波羅幕府だと言葉を濁して答えるだろう。2度目の世界大戦で負けたことにより国際連盟軍から大和の統治を委任された機関とは言うものの、そもそも六波羅の大本は大戦期の一軍事組織でしかなかった。
今ではこの国の事実的統治をしているが、大戦中に突如として前政権を裏切り、連盟軍に大和を売り渡した……言わばクーデターによって手に入れた立場なのである。しかし、その実態はGHQによって後ろ盾を得た臨時軍政権。六波羅をまとめ上げる六衛大将領、足利護氏はそれを良しとせず強行な手段で軍備を拡大し、進駐軍として駐在するGHQを排除する動きがあるという噂だ。
もちろん政府としての統治は力による支配の一言に尽きる。軍事力を高めることしか考えていないことから、それ以外のことは本当にお粗末だ。統治がほとんど手付かずの地方では軍隊崩れである野盗、そして横暴な代官が活動しているという話をよく聞く。
敗戦国としての貧困と混乱、六波羅の圧政、そして紛争の可能性これが大和の先行きを暗雲とさせている。しかし、それに加えてより市井を恐怖と不安に掛からせているものの噂がまことしやかに囁かれたのはいつの頃からであったのだろうか?
……その最たるものは関東一帯で死者を多発させている銀星号事件だ。銀星号と呼称されたその武者は、市町村に襲来しその住民を皆殺しにするという。その有様はまさしく地獄であるが、それを生み出す武者は一向に捕まらない。ついには六波羅、GHQ共に懸賞金を掛けられるほどなのだが、今日に至っても解決されないことからこの大和で最も恐れられていることだろう。
……そして、その暗い噂並んで現在この鎌倉一帯で奇妙な話が出回り始めた。その内容とは夜な夜な現れ空を舞う蝶の
…………今日は近所の夏祭りがあり、子夏、忠保、リツ……いつものメンバーで思い向くまま楽しんだ。特に印象深かったのは金魚すくい・射撃・型抜き、こういったことが得意で悪知恵が働く忠保やリツによる蹂躪劇(屋台のおっさん達が白目むいて、最終的に出禁を食らう)。子夏にいたっては屋台の食べ物をありったけ買い漁り、頬張っていた(関取にでもなるのか? といったら半殺しに)。
そんな祭りの帰り道。幼馴染であり同居人の子夏はリツから借りた浴衣を返すとのことで先帰っててーと突然言われ、1人寂しく友人達と別れて歩いていたときだったのだ。そんな変質者がいるから気をつけろよーと別れ際に悪友である稲城忠保から冗談目かして話していた怪人が、
「どんな時であれこの国は伝統の祭事は続ける……それこそが正しいと考えているのか、はたまた単に続けるだけで思考を停止しているだけか……君はどう思う?」
目の前には突然話しかけてきた男、その顔には確かに蝶を模した仮面を着けている。しかし、話に聞いた服装ではなく、先ほどの夏祭りで多くの人が身につけていたような浴衣だ(悪友の話ではとんでもなく派手な姿で、舞踏会に駆けつけられるとかなんとか)。
「な……なんなんだあんた、突然……」
その手には先ほどの縁日で買ったのであろう林檎飴。月明かりに照らされ鈍く赤い輝きを放つ……それを舐めている雰囲気と蝶の仮面の姿が相まって、間違いなく不審者と言える。
「ふん、言い方を変えよう。今この国の状態は文字通り仮初の平和だ……そんな中でも変わらず民衆は祭で踊り、花火を見上げる。その姿を見てどう思う?」
「どうって、それは……」
その言葉で、さきほどまで楽しんでいた夏祭りを思い出す。……本来、六波羅は配給品や嗜好品、資源の観点から祭りはおろか、花火や屋台を統治地域では認めることはない。しかし、自治体の長きに渡る強い要望によって数年ぶりに特例で開催されたのだ(実際は地元ヤクザとの裏取引があったらしい)。
「……みんな、色々つらいこともあるけど伸び伸びとしていた」
そういった背景のある夏祭りだったため、屋台に並ぶものは六波羅の制限で少々みすぼらしさも見えた。しかし、祭りに訪れた人達はそんなものは気にせず久々の祭りを心赴くまま楽しんだ。友人達とも騒ぎながら色々なものを食べ、踊り、そして最後の大締めとして花火を見上げた。
……本当に楽しかった、たしかに厳しいこのご時勢、暗いことしかないかもしれないが、あの場にいた大勢の人達の笑顔によって祭りはきらびやかに輝いていたのだ。
「……あんたの言うとおり、単に考えるのを止めているのかもしれないし、一時の楽しさを紛らわせているのかもしれない。 でもそれが
「……ほう」
正直今すぐにでも逃げ出したほうが良いのかもしれないが、なぜかすんなりと言葉が出てきた。
「どんな時であれ、つらいことがあっても楽しむことができる。それを忘れずにいられるからあの祭りができたんだ」
「それは偽善、自分が本当の絶望に直面したことがないからだ。それを経験した者に面を張って言えるのか? 大切なものがなにもかも失われたら? もしも
たしかにそうだ。このご時勢ひもじい経験をしたことはあるが、もっとつらいことを体験した人は山ほどいるだろう。戦後間もない頃はどこもかしこもひどいものだったとよく聞くし、今の俺の担任も六波羅のせいで妻子を失ったという話は有名だ。
しかし、今の鎌倉は関東内でもそれなりに平和で、直接そういった悲劇に直面したことはない。
──とはいえ偽善と言われようが俺の考えは揺るがない。
「ああでもそれができることが生きるってことなんだと思う。どんな絶望があっても、そうやって楽しむことを示すんだよ……できなくなってしまった人達に、誰もがそれができなくならないために、……それが人間だ」
きっといつか俺もそんな場面に出くわすかもしれない、自分の身に振りかかるかもしれない、それでも俺はその気持ちだけは忘れない。なによりも輝いていたあの夏祭りが、俺にこの答えを与えてくれた。
「そうか、それが
「っ、なんで俺の名前を!? ──あれ」
────唐突に視界が大きくぼやける──なんだと思った時にはすでに遅かった。
今頃になって気がついたが、いつのまにか俺の体は全く力が入らず地面に伏していた。これまでの会話はそんな間抜けな姿勢で、この男の質問に答えていたのだ。
「く……そ」
急速に意識が遠く中思い浮かべたのは、俺の大切な人達。
(どうして俺を知ってる? それにさっきコイツは友人ってまさか!? ……忠保、リツ……子夏……ッ)
──────これを最後に俺の視界は真っ暗になった。
「──花房良くやった」
横たわった少年近くの雑木林から、女と男の2人組が現れる。
「鷲尾、見つからないように屋敷に運べ……明朝に大鳥香奈枝との交渉だ」
「諒解しました、我が主……」
…
……
………
…………
……………
………………
…………………………………………………………
────────────────
「お前は……攻爵!? 生きていたのか!」
「景明、俺の所へ来い。お前が今探しているものを教えてやろう」
────────────────
「おい変態野郎、あんたの名前教えろ」
「パピヨン♡だ、よく覚えておけ綾弥一条。……この格好のどこが変態だ? そのまま舞踏会に駆けつけられる素敵な一張羅ではないか?」
────────────────
「ずいぶんとまあ、様変わりしましたね蝶野攻爵」
「その名を呼ぶな大鳥香奈枝。もはや捨てた名だ」
────────────────
「まて、その顔つき見覚えがあるぞ……そうか蝶野家! 忌々しい売国奴め」
「それはまさしくお前のことだろう足利護氏。みごとなブーメラン芸だ、道化師にでも転職したらどうだ? さぞ儲かる仕事になるぞ」
────────────────
「なあ……パピヨン、あんたは一体何が目的なんだ……いや何をしようとしてるんだ?」
「新田雄飛、それはお前が見定めろ。これから俺が行うことが悪だと判断するならば、後ろから切れば良い」
────────────────
「へへ、あんたには敵わないぜ。未来でも見えてるんですかい? この間のアレは戦慄しましたぜ」
「さっさと失せろドブネズミ。全く、貴様は相変わらず品の欠片もないな」
────────────────
「ふん、ようはファザコン拗らせた単なるガキか……ずいぶんとまあ歪んだ反抗期だ。そんなことせずに『パパちゅっちゅしてー』と正直に言え」
「蝶野攻爵……貴様死にたいようだな」
「チッ☆チッ☆ パピ♡ヨン♡、それが今の私の名……お前に愛の叫び方を教えてやろう」
──この物語の主人公は悪鬼でも英雄でもない。破滅の運命に抗い、戦場を飛翔し愛を叫ぶ蝶人である。
装甲悪鬼の世界に武装錬金の蝶野家が存在し、なぜか蝶野攻爵として転生してしまった男の物語。原作知識を持ってる故に基本的にどのルートでも最終的に世界規模でやばいことになることを知ってるので、パピヨンムーブをしながら生き残り幸せになることを目標にする的な話。