刀使ノ短編   作:まさ(GPB)

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夜見、誕生日おめでとう。
最後は心の荒魂が暴れてしまった結果なんです許してください(


特別なプレゼント

 12月24日。世間はクリスマス・イヴ。

 大きなクリスマスツリーの下では待ち合わせをする恋人達の姿がある。元よりここは人通りの多い場所だ。しかしこの時期、イルミネーションで彩られた夜の街にはより多くの人で溢れている。

「……」

 その中に一人、皐月夜見は周りと同じようにツリーの下で待ち合わせをしていた。

 ――無事に辿り着けるでしょうか……。

 彼女が思い浮かべるのは待ち合わせの相手――今日のこの予定(デート)を誘ってきた張本人だ。

 ほう、と一つ息を吐いた夜見がふと周囲に目を向けると、人々の隙間を縫って見知った少女――燕結芽が走ってくるのが見えた。彼女の方も夜見の姿を見つけたようで、目が合った瞬間に結芽の表情が明るくなる。

「ごめん、夜見おねーさん! 遅くなっちゃった!」

「いえ、問題ありません。私としては、燕さんがちゃんとここに着けるかどうかの方が心配でした」

「ひどーい! 子供扱いしないでよっ!」

 結芽とのやり取りに、思わず表情が柔らかくなる夜見。

「それより、行かないのですか?」

「それよりって……まぁいいけど。うん、行こっか!」

 歩き出そうとした結芽は「あ!」と声を上げる。

「何か忘れ物ですか」

「えへへ、そんなとこっ!」

 結芽はニッと笑いながら振り向く。

「改めて誕生日おめでとう、夜見おねーさんっ!」

「……ありがとうございます」

 それに夜見も微笑みながら答える。

 12月24日。この日は彼女――皐月夜見の誕生日でもあった。

 

 × × ×

 

「美味しかったね!」

「そうですね」

 結芽が最初に夜見を連れて行ったのは、お洒落なレストランであった。

 店の前に到着した時には、夜見は驚いて思わず隣でニコニコしている彼女に目を向けてしまった程だ。その視線気付いた結芽が、してやったりと言うような表情で「にひひっ」と笑ったのは夜見にとって印象的だった。

「燕さんがああいったお店を予約していたのは驚きでした」

「お店自体は寿々花おねーさんに教えてもらったけどね」

 ――あぁ、此花さんの紹介でしたか。

 夜見は彼女がこうした大人の雰囲気がある場所を知っているとは思っていなかった為、此花寿々花の名を聞いて納得する。

 

 と、夜見はふと結芽の手に視線を向けた。

「そう言えば」

「どうしたの?」

「燕さん、手袋はどうしたのですか?」

 すっかり寒くなってから結芽はいつも出かける時に手袋をしていたはずだが、今日はそれがない事が気になった。

「あー、ちょっと遅れちゃったでしょ? それで急げーって思ったら忘れちゃった」

 彼女はそう言って(わず)かに舌を出す。

「寒くはありませんか?」

「ん、ちょっとだけだから大丈夫!」

「そうですか……」

 そうは言いながらも、結芽が手を擦り合わせているのを夜見は見逃さない。自身の手袋を片方外して、それを彼女に差し出す。

「これを付けてください」

「え、いいの?」

「はい」

 受け取った結芽は戸惑いながらも言われた通りに手袋を片手に着ける。

「でもなんで片っぽだけ? 片手はどうするの?」

「もう片方はこうします」

 夜見は手袋を付けていない方の手で、同じく手袋を付けていない方の結芽の手を握った。

「わわっ」

「では、行きましょう」

「う、うん……私の手、冷たくない?」

「すっかり冷えてますね」

 平然とした表情で言う夜見。

「ですが、こうしていれば温かくなります」

 夜見の言葉に、結芽は少しだけ手を握る力を強めた。

「……ちょっとだけ恥ずかしいけど、このまま行こっか!」

「ええ」

 

 普段よりも光輝く街を歩く二人。

 初めは手を繋いでいただけだったが、いつの間にか結芽は夜見の腕を抱いてニコニコと楽しげであった。

「寒くありませんか?」

「うん! 夜見おねーさんで温かいよっ!」

 その様子に夜見も優しい表情を見せている。

「それで、次はどこに連れて行ってくれるのですか?」

 夜見の問いに結芽は考える仕草を見せた。

「うーん……そろそろいい時間だし……」

「燕さん?」

「……よしっ! じゃあ夜見おねーさん、今から行く所は真希おねーさんや寿々花おねーさんには内緒だからね!」

 ――まさか……。

 そう言って腕を引いて歩く結芽の言葉に、夜見は言い知れぬ不安を覚える。

 

 × × ×

 

 結芽に連れられ着いた場所を見た夜見は思わず言葉を失った。

 彼女達がいる通りは先程までとは違い(ひと)()が少ない。と言っても、普段よりはあるが。

「燕さん……その、ここは……そういう……」

 珍しく彼女が動揺を見せる。

 それもそのはずで、二人の目の前にある建物はホテル――所謂(いわゆる)ラブホテルであった。

「いやー……その、ね?」

 頬を赤く染めながら結芽は言葉を続ける。

「私も今年で()()()()()()()()()()()()()()()()から……」

「っ……!」

 彼女の言葉に夜見は息を飲む。

「夜見おねーさんへの誕生日プレゼントは今日のデート。そして――」

 二つの時計の針が頂点を指す。

「――クリスマスプレゼントは……結芽()、だよ」

 ぎゅっと夜見の腕を強く抱く結芽。

「受け取って、くれるよね?」

「――はい」

 




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