志村転弧【死柄木弔】の妻   作:フ瑠ラン

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第1話

チリチリと大きな音をたててアラームがなる。手探りで目覚まし時計を探すけれど中々見つからない。だからといって目を開けるのはなんか癪だし、負けた気がするから目を瞑ったまま探しているとアラームは勝手に止まった。

 

漸く目を開けるとドアップで整った顔が映る。銀色のふわふわとした髪の毛に優しい赤色の瞳。右口元のホクロに右目と左口元には裂けたような傷痕。うん、美しく麗しいな相変わらず!

 

 

「おはよう、相変わらず朝に弱いな」

 

「おはよう!! あんたは相変わらず美しいな!!」

 

 

私の夫、志村(しむら)転弧(てんこ)は先程までなっていた目覚まし時計を持ちながら私に朝の挨拶をして来た。きっとその手に持っているアラームを止めてくれたのは転弧だろう。お礼の意味も兼ねて私は笑顔で返す。

 

転弧と話していると寝起きで機能していなかった鼻が漸く機能し始めた。直ぐにいい匂いを察知してしまう。とてもいい匂いで食欲がそそられる。お腹がだらしもなくなってしまいそうだ。きっと転弧が私の起きる前に作ってくれたのだろう。流石、私の愛する夫、転狐である。転弧はハイスペックで気の利く優しい男だ。朝起きたらご飯は出来てるし、よく周りを見てる。それに頭だっていい。何よりかっこいい。

 

 

「今日から教師なんだろ? こんなに悠長していていいのかよ?」

 

 

リビングに降りてきて、ご飯を食べている途中に転弧が言った。時間は朝の七時三十分。今から慌てて行ったとしても普通に遅刻してしまう。

 

 

「うーん、正式には今日は入試の合格者を決めるだけだからなあ。決定権は私には無いし。だから遅れてもいいと思うよ」

 

「そんなんでいいのか? ヒーロー(・・・・)

 

 

私の職業はヒーローである。ヒーローになった理由は大切な人や家族を護りたいから。力が欲しかったからだ。因みに転弧もヒーロー免許は持っている。活動はしてないけど。

 

 

「まあ、今日は出勤しないかな。面倒だし」

 

「そう言えば弟君受験生だったよな? 何処受験したんだよ?」

 

 

転弧の言葉を聞いて思い出した。そうだ、そう言えばアイツそうじゃん。何処受験するんだろ。正直言って興味ないので何処に受験するかとか全く聞いていない。て言うか、ここ一年は会ってないな。

 

 

「相変わらず仲悪いな。仲良くしろよ」

 

「私は仲良くしてるつもりだよ。アイツの反抗期がウザイだけ。会ったらすぐ個性使ってきやがる」

 

 

少し思い出しただけでイライラとしてくる。思わず舌打ちが出てしまった。

 

 

「その顔、彼とそっくりだ」

 

「あ"ぁん? バカ言ってんじゃないよ!!」

 

 

転弧は「おー、怖い怖い」と苦笑いだ。アイツと似てると言われるのは嫌だ。あんな顔にはなりたくない。切実に。

 

そんなたわいも無い話をしながら朝ごはんを全て食べきった。その後は二人で食器を洗ったりテレビを見たり、ゴロゴロとして時間を潰した。

 

夕方になるとお母さんから電話が掛かってきた。珍しい、お母さんから電話掛けてくるなんて。何時もは仕事中のことも考慮してあっちからは電話は掛けてこないのだ。そんなことを思いながらも電話を取った。

 

 

「もしもし? 母さん、どうしたの?」

 

『もしもし皐己(さつき)? あのね勝己(かつき)雄英(ゆうえい)受かったのよ!!』

 

 

嬉しそうな母さんの声。余っ程嬉しいのだろう。当たり前だ、雄英は名門中の名門校。受かって喜ばない奴はかなりの変わり者だ。

 

しかし、私は母さんのそんな報告を聞いて口をあんぐりと開けた。聞いてないよ母さん。マジかよ、嘘だろ、やめてくれよ。そんな私の姿を見て転弧は声を押し殺しながら腹を抱えて笑っている。おい、押し殺せてないぞこの野郎!!

 

 

「母さん、それは…本当?」

 

『嘘をついてどうするのよッ! もう!!』

 

 

もう私の中では絶望しかなかった。いやね、嬉しい事だよ。雄英って超名門校だし…いや昔私通ってたけど! 首席入学の首席卒業したけど!! まさか、勝己まで雄英に通うとは思わなかったのだ。そもそも雄英受験してたのかよ……。

 

因みに説明させてもらうと、勝己は私の弟だ。爆豪(ばくごう)勝己(かつき)。反抗期真っ盛りの五月蝿い弟。基本、私の顔を見れば個性を顔面にぶっぱしてくるぐらいには頭のイカれた奴だ。通常顔は悪人面、キレた顔は(ヴィラン)顔。顔でヒーローが決まるのならきっと勝己は一生ヒーローには成れないだろうと言うぐらい顔が怖い。その為、浮いた話が一度も出てきたことがない。

 

そんな弟を優しく(叩きのめして)教育指導してあげてる私の名前は爆豪(ばくごう)皐己(さつき)。プロヒーローで、今年から()()()()()()()するのだ。実に嫌だ。きっと私に生徒を選ぶ権利があったのなら問答無用でアイツを落としているに違いない。というか、アイツが雄英受験するって聞いてたら赴任の話は蹴っていた。確実に。

 

 

『よお"イカレババア、元気にくたばってるかァ!? あ"ぁん!?』

 

 

きっと母さんからスマホを取り上げたのだろう。途切れ途切れ母さんの怒声が聞こえてくる。そんな母さんの声も無視して勝己は自信満々に『見事に雄英合格してやったわボケェ!!』と電話なのにお構い無しに叫んでくる。やっぱりアイツの頭はイカれてる。

 

 

「るさいわボケェ!! 少しは黙れねぇのかあ"ぁん!?」

 

『んだとコラァ!!』

 

 

きっと目の前にアイツがいたら掴みかかっていたであろう。スマホに感謝するんだな愚弟よ!!ギリギリとスマホを睨み付けていたらスルッと上から転弧がスマホを取った。

 

 

「あ! 何すんの転弧!!」

 

「勝己合格おめでとう。凄いね」

 

『てめぇに言われても嬉しくないわボケ!! てめぇら二人とも雄英出身だろうがコラ!!』

 

「相変わらず顔は悪人顔だけど悪口のボキャブラリーは少ないんだな」

 

『んだとコラ!! 今すぐこっちに顔見せろや!!』

 

 

『今日こそは勝ってみせるわボケ!!』と叫んでいる愚弟。そんな愚弟の言葉を聞き流し転弧は電話を切ってしまってもいいかとジェスチャーしてくる。大きく頷いてやった。

 

転弧は大きく頷くと勝己がまだ何か言っているにも関わらずブチッと通話を切ってしまう。そして、何事も無かったかのように私にスマホを返した。

 

 

「相変わらず元気が有り余ってるな、勝己は」

 

「風邪引いててもウザイし五月蝿い。きっと一回は死なないと治らないね、アレは」

 

 

にしてもまさかアイツまで雄英に来たかぁ。マジかぁ。やめろよ、諦めろよ!これから毎日アイツに顔を合わせなくちゃならないのかと思うと頭が痛くなる。

 

姉弟仲がいいかと聞かれれば悪いとしか答えられない。顔を見せれば個性を使っての姉弟喧嘩を始める。どっちかが倒れるまでやり続けるから転弧は何時も笑って見てるし母さんは呆れたような目で見てくる。父さんは泣いていた。

 

え? どっちが勝つかって? 私に決まってるだろ。15歳の若僧にプロヒーローが負けるわけないでしょ。何時も瞬殺してやってるわボケ。

 

……というか勝己もそんなに大きくなっていたんだなあ。勝己が雄英かぁ。あの顔でヒーローの卵でしょ? やべ笑えてくる。アイツが目の前にいたら腹抱えて笑ってやるのに。

 

それにしても高校生かぁ。時の流れは早いね。勝己が雄英に行ったなら勝己の友達の出久君は何処に行ったのだろう。あの子、私がヒーローになってからと言うもの自分の事のように嬉しそうにしてくれたからなぁ。正直チェンジして欲しい。勝己よりも出久君の方がいい。あっちの方が愛くるしくて可愛げもあって守りがいもある。

 

勝己なんか守ってみ? 『んだコラ!! 勝手にでしゃばってくるんじゃねぇ!! 自分の身ぐらい自分で守れるわ!! これで借し作ったとか思ってんじゃねぇぞ!!!』とか言ってきそう。即殴り合いだね。全く守りがいのない男だ。呆れた。

 

 

「勝己のヒーロー姿、全く想像出来ないんだけど」

 

 

私がそう呟けば転弧は「何となく分かるよそれ」と言った。

 

 

「ほら愚弟ってさ、自尊心の塊だし顔も(ヴィラン)顔じゃん。それに個性は爆破と来た。敵を倒して行きながら街も壊して行きそうだし本当性格から何まで(ヴィラン)向きだな」

 

「全部、皐己にも言えると思うけどね、俺は」

 

「はあ!? 何処が!!」

 

 

ちょっとムキになってつくえを勢いよく叩いてしまった。けれど転弧は気にすることなく話を進める。…あんた、懐が広いね。つくづくいい男だよ、転弧。

 

 

「体育祭の時なんか凄かったろう。あれは前代未聞だね」

 

「いやあれは…ちょっとキレちゃったというか……」

 

「きっと勝己も同じ末路を辿ると思うよ」

 

 

むぐぐぐ、と言い返せない。確かにあの体育祭はやばかった。めっちゃ怒られたしなぁ。それに、あの時だけ勝己は大人しくて、尚且つ「姉貴、カッコよかった!! 一位だったな!!」と興奮した様子で周りをうろちょろしてた……ような気がする。私は怒り狂ってて覚えてないけど。

 

そう、どれほどあの頃はなんと言うか…荒れてたのだ。うん。人それぞれそういう歴史はあるってもんだよね。いやはや、懐かしいもんだよ。

 

 

「こらこら、現実逃避しないのー」

 

 

転狐の声でハッとした私。勝己が雄英に来ることがあまりにもショックだったもんで、過去に思いを思わず馳せていたよ。

 

顔を見合わせた私と転弧はひとしきり笑いあった。

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