「うわ、なんだよこれ…」
時刻は朝5時。昨日のサボりが完全に鬼という名の相澤先生にバレていた私は、こんな早朝から小学生と間違われるような反省文を書かされる羽目となっていた。
ただでさえ、慣れない早起きで機嫌が悪いというのに門に、群がるこのマスコミは一体何だ。一歩、足を踏み出せば、耳ざといマスコミ達は一斉に私の方を向く。グリンと一斉に顔を此方に向けてくるのは一種のホラーに見える。
「あれは!! 敵系戦闘狂ヒーロー、アテリア!!
「アテリア! 私のことを覚えていますか!? あの文化祭終了後、会いに行った私です!! 今でもあの文化祭は噂として受け継がれていますが、どう思いますか!?」
「言動、行動全てがヴィランと似通っていると言われていますが、御本人はどう思っていらっしゃるのでしょう!?」
グイグイとワラワラと私に群がってくる報道陣は凄くウザったくて、めんどくさい。そして暑苦しかった。
「だあああ!! うるせぇ!! いっぺん、まとめて死ねや!!」
掌を思いっきり爆発させようとしたが、個性が上手く発動出来なかった。視線を感じ、咄嗟に後ろを向けば、眠たそうに頭を掻いている相澤先生の姿が見える。
「ヒーローが何を言ってる」
相澤先生の目は私を思いっきり映していて、個性が使えないのは相澤先生のせいだと気づいた。私はちっと思いっきり舌打ちをすると「退けや! 邪魔だボケ!!」と吠えるように言った。それにびびった報道陣はサササと私の目の前から退く。鼠色のコンクリートがこれ程恋しく思ったことはきっと無いだろう。
さっきまで撮られていたカメラを器用に壊しながら雄英に入る。
「次、業務妨害なんかしてみろ。カメラだけじゃ済まねぇぞ?」
ニヤリ笑えば女性陣から少しの歓声があがる。ガッと相澤先生に頭を殴られ、引き摺る形でこの場を去った。
「朝からお前は元気だね」
「そうでもないっス。この朝が苦痛でしかないっス。布団が恋しいんで帰っていいっスか」
「帰っていいならこんな朝早くから呼び出さない。ほら、早くやれ」
そう言って相澤先生は寝袋に包まって寝る体勢へと入る。ずるいあの親父。私も暖かい布団で寝たい。今日は食べられなかった転弧の美味しい朝ごはんが食べたい。ケッと悪態をつきながら、コンビニで買ってきたメロンパンを人齧りする。
机の上に束ねられた原稿用紙はそう簡単に消えそうにない。
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「あれ? 相澤せんせー、今日は志村先生居ないんですかー?」
辺りを見渡しても、志村の姿は見えないので代表して芦戸が挙手をして相澤に聞いた。相澤は鋭い眼光で明後日の方を見て言った。
「デスクで爆睡してたからな。少し罰を与えている」
「「(一体なんの罰を与えたんだ相澤先生)」」
クラスの皆が心を通わせていると、爆豪が小さな声で呟いた。
「ざまぁねぇな」
それはとっても嬉しそうな声で、怒ってばっかりの爆豪のイメージを覆すにはちょうどいいものだった。爆豪の隣の席の耳郎がチラッと横を見れば、案の定爆豪は嬉しそうに微笑んでいた。
しかし、その微笑みは嬉しいと言うよりもどちらかといえば──。
「すっごい人相悪いけどどうかした?」
ヴィランが悪巧みしているような顔だ。黙って何もしていなければ、いい顔な筈なのに何とも損な男だなあと耳郎は思う。
「トイレ我慢してんのか?」
茶化すように瀬呂も入ってきた。爆豪は顔に血管を浮かばせ「ンなわけあるか」と言った。
「そこ、話す余裕があるなんて凄いな」
ギロッと相澤に睨まれ三人はまるで、おもちゃの電池が抜かれたようにぴたっと止まった。三人が喋るのをやめたのを確認し、相澤は言った。
「急ではあるが、君らに今日は学級委員長を決めてもらう」
「「(学校ぽいの来た!!)」」
またもやクラスの皆が心を通わせた瞬間だった。
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学級委員長かあ、と思う。私達の代は転弧が学級委員長をしていた。何気に優男だったところが気に入ったところだったらしい。
相澤先生が学級委員長を決めると言っていたので、少し過去に思いを馳せていた。なんとも懐かしい。たった5年前のことの筈なのに、こんなにも懐かしく思ってしまう私は相当精神的に歳をとったらしい。
気がつけばお昼の時間になっていた。いつもなら転弧が作ってくれたお弁当があるのだが、今日は転弧が起きる前に家を出てきたから何も無い。食堂に行くしかないな、あばよくば愚弟にでも奢らせるか、そう考えをまとめて職員室を出ればなんか凄いことになっていた。
チリリリと警報がなり、セキュリティがなんだとかアナウンスが流れる。そのせいでパニクった生徒達が波のように押し寄せて来たのだ。
ゴンゴンと肘で押され、ガッと思いっきり足を踏まれる。やられっぱなしは性にあわない。イライラメーターが頂点に達し、噴火した私は叫んだ。
「てめぇらそれでも雄英の生徒か!! いい加減にしろや!! 少しはその少ない頭で考えろ!!」
波となって押し寄せてきた生徒達が止まった。私はめいいっぱい、腕を伸ばし、少量の爆破を手で起こした。
「誰も侵入はしてねぇ! マスコミだ! マスコミの何が怖い? 何を恐れる? 状況判断もまともに出来ねぇ奴らがヒーローだなんだと語ってんじゃねぇよ!!」
窓から外を見てみればマスコミの対応におわれていたマイク先生と相澤先生の姿が見えた。どうやら、朝のマスコミが無理やり門を突破して入ってきたらしい。
職員室周辺の生徒達は止まったが、食堂辺りの生徒達には聞こえていなかったらしく、そっちの方からグイグイと押されているようだ。食堂の方に行こうにも生徒達が邪魔で身動きが出来ねぇ。「暑苦しくて仕方ねぇな」とこの状況を面倒に思いながら呟いた。
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「おい爆豪」
「相澤先生。今は『爆豪』じゃなくて『志村』っス」
昔の癖が抜けていないのか未だに爆豪呼びしてくる相澤先生に訂正をいれば綺麗に無視をされた。おい、少しは直す努力しろよ。いや、別に良いんだけどさ。
ずいっと手提げを見せられ、なんだと思っていれば「志村からだ」とぶっきらぼうに相澤先生は言った。
「マスコミに紛れてどさくさに渡してきた。飯食ってなかったら渡してくださいだとよ。どうせ食べてないだろ」
「た、助かった…!!」
相澤先生が私に渡してきたのは、転弧お手製のお弁当だった。弁当箱を開けてみれば、色鮮やかな食材が綺麗に並べられている。腹が減りすぎて思わずヨダレが出てきてしまいそうだ。流石に出さないけど。
あの後に食堂に行く気がしなくて昼を抜こうかどうか考えていたところに、真逆の救世主が現れた。アイツは、ホントに出来た夫だよ。転弧と結婚して良かった。ガチめに。
転弧の作る料理はやはり、美味しかった。
何時もの3倍以上、美味しく感じた。
「4時間かけてまだ半分しか終わってないのか。残業してでも終わらせろよ」
私の小学生並みの反省文(やる気無し)を見て相澤先生はサラッと言った。千枚を超える反省文をそう簡単にかけるはずがないだろう。途中から何かの物語を書き始めているのだが、ちょろっとしか見ていない相澤先生はどうやら気づかなかったらしい。
つーか上げて落とすなよな。マジキツいって。