長くて読み難い文章になってしまったかと個人としては思いますが、何卒読み進めて下さったらと……
それでは物語のスタートです!
帝国歴1179年
僕がフォドラの地に本拠地を移して20年になる。そして……ジェラルド達と行動する事になって20年か……いやはや時代の流れは速いものだな。
ん? 発言がおじさんみたいだ……と? それは仕方ない事だ。何せセイロスとネメシスが争い事したのが約1000年前で、それを僕が止めているからな。だから普通に数えて年は1000歳を超えているぞ? あの真っ暗闇の空間は時間の流れがあやふやだから正直自分がそんなに歳をとっているかどうか分からないが……ともかくとして僕がここに来てそんな月日が経った訳だ。
それと余談だが、こちらに来たアンドロイド隊の面々にも表面上の名前が必要だと思ったために名前を付けておいた。
A2→エリシア
2B→シルヴィア
9S→ナインズ
6O→ポーラ
21O→セシル
デボル、ポポルはそのまま
これが今の彼女達の名前だ。決めた時にも異論はなかった様だからな。これで決定している。ん? ナインズはそのままだと? そのままの何が悪い? 分かりやすくて良いじゃあないか。確かに「ナインズだけ捻りがない!」 と9Sが言っていたが、そこは2Bであるシルヴィアが、「私はナインズと言いたいな……」と言ったら覆ってOKになっている事を記しておく。
そしてここ10年……前までうんともすんともしなかった白紙の手記が記し始めた。といってもエルやマリアンヌからだが。後、一節毎に僕が生み出した遣いで薬をリシテアに届けているのだが、その遣い経由でリシテアからも手紙を受け取っている。確か彼女達からしたらこの年代に出会ったのだったか……
エルからは……まぁ、毎日日記のように送られてきた。あれから全く会っていなかったから、彼女としては物凄く寂しい思いをしていると思う。だからこそこの日記を通して、僕との繋がりを確かめているのだと勝手ながら思った。しかしながらそれも約5年前から一節に1、2回になり、僕としては……かなり心配している。文面からはいつもと同じ様な感じで捉えられるが……何かあったのだろう。それを僕はポーラとセシルに随時情報を集める様にと頼んでおいた。
マリアンヌについては、2、3日に1回のペースで手記に記される。
(あぁ、そういえばこの時に初めて彼女に会ったな)
理由としては、マリアンヌが両親がどうしているかと聞いてきたからだ。だから僕は試しに、『会ってみるか?』と返した。すると彼女から是非という事で会う日などを決めた。そしてマリアンヌの両親については当初違う大陸などで住居などを決める予定ではあったが……2人とも僕の仕事を手伝いたいと申し出たこともあって、今の本拠地で生活してもらっている。2人とも簡単な医療行為はできるからな。それ以外は僕に知らせる様にと言ってある。
その事を彼女の両親に伝えると、当然ながら最初は迷っていたさ。だがそこを僕が説得した。「置き去りにしてしまったと後悔しているのなら会うべきだ」と。それを子供から恨まれるのは仕方ない。だが何もしないままそのままというのが……どちらともにとっても辛い事だと思っている。その時は会うべきだと感じたんだ。
そこまではいいが……まさか彼女が僕にも一目会いたいと言ってくるとは想像したなかった。どの姿で会えというのか……
ま、そこは腹を括ろう。いつも垂らしている髪をポニーテールにすれば、もしまたどこかで会った時に誤魔化せるだろう。
そして当日、僕はマリアンヌの両親を伴って現在マリアンヌが暮らしている貴族の元を訪れた。僕達を迎え入れてくれたのはマリアンヌを引き取っているエドマンド氏本人で、予想外に快く迎えてくれた。どうやら僕がマリアンヌに白い蛇経由で手記を渡したからというもの、関係は良好な様だ。未だに他の人と話すのは苦手な様だが……それも日に日に改善されると願いたい。
それからいよいよマリアンヌと両親は数年越しに対面した。どちらともに泣きながら抱きしめあっていたよ……
(僕も前世で両親が生きていたら……こんな風に抱き締めて貰えただろうか?)
……いかんな。ここで物思いにふけってしまうのは。そう思った僕は静かにその部屋から退室した。そこからはエドマンド氏の部屋で雑談に興じていたのだが……そこにマリアンヌの両親が来て、娘と話して欲しいと僕に言ってきた。
僕は最初親子水入らずなのだから存分に話し合うと良いと言ったのだが、どうやらそれもマリアンヌ本人から僕と話したいと言ってきた様で……それも僕と2人きりで……
(何を考えているか分からんが……)
まぁ良い。本人が希望するのなら、僕とそう無碍には断らんさ。僕はマリアンヌが待っている部屋へと向かった。
「お待ちしておりました」
部屋に入ると、マリアンヌが綺麗なお辞儀をしていた。それに対して僕は、貴族の作法など聞きかじった程度にしか知らない為ぎこちなく返していたと思う。それが済んでからは、椅子に向かいあった状態で話をした。手記をいきなり渡されたあの日からどうだったかを主に……それを重ねる毎に僕に興味を持って会ってみたかったと。
それだけだったら良かったのだが……全く今日は本当に予想外な事ばかりだった。
「あの……貴方の名前は、なんと呼べば良いのでしょうか?」
「名前か……僕はこういう時、通りすがりの医者と名乗っているのだがな」
「私は……貴方に救われました。あの日、白くて可愛い蛇が私に手記を渡さなかったら……今も塞ぎ込んでいたと思います。でも、この手記を通した貴方との会話は今の……私の楽しみの1つになりました。それからなんです。もう少し自分の周りを見てみようって思ったのは……だから貴方は私の恩人なんです。そんな恩人の名前を知らないなんて……私は嫌です! 貴方の……名前を教えて欲しいです!」
と、言われてしまった。まさかここまで彼女が前向きにくるとは……
(だがここまで言われて名乗らなかったのも、彼女に失礼だな)
そう感じた僕は、彼女に自らの名前を教えた。まぁ偽名だが? ネーミングセンスが足りない脳をフル活用してこう名乗った。
「僕の名前はクレイだ。所謂農家の出身だからな。その名前しかない」
「クレイ……先生」
「ん? 何故後に先生を付ける?」
「だって……私を救ってくれた人ですから。それに手記でも自分は医者だって言ったましたから。だから先生ってつけました」
「そ、そうか……」
「そ、それと……」
彼女は少し言うか言うまいか迷ってソワソワしていたが、意を決してこう言ってきた。
「せ、先生の事を抱きしめても良いですか⁉︎」
「……は?」
「さ、さっき両親と抱き合っていた時につい見えてしまったんです。何故か先生が……微笑ましそうにしていながらもどこか寂しそうな顔をしていたのを」
どうやらあの時物思いにふけっていたところを見られていた様だ。あぁ……穴があったら入りたい。
「その……良いですか?」
彼女は……どこで覚えたのかどこか上目遣いで僕を見つめていた。
『……な、なら……抱き締めてもらっても良いかしら?』
エルと別れたあの日……彼女を見たらそれを思い出してしまった。勇気を振り絞って、恥じらいがありながらも僕にお願いしてきたその言葉……マリアンヌの今の姿勢が彼女とどこか似通っている様に見えた。これは僕の錯覚かもしれない。しれないが……
「君が後悔しないのであれば……な」
「っ! で、では……」
マリアンヌが椅子から立ち上がって、座っている僕に近付いてき……そして……
「っ⁉︎」
今日何度目の驚きだろう……僕はいきなり視界が黒く染まった。僕の頭を彼女が抱き締めているのは分かるが……僕の顔に伝わるこの温かさと柔らかい感触はなんだ⁉︎ 今まで味わった事がないぞ⁉︎
心の中でテンパる僕を他所に、彼女は何故か僕の頭を撫でてくる。
「これは私の勝手な思い込みですけど……貴方も私と同じ様に、両親と、大切な人と離れ離れになったんだと思います。でも貴方は私と違って……弱音を吐かないで、後ろを振り返らないでずっと前を見て生きてきたんだと思います。でも私が両親と涙を流しながら抱きしめ合っていた時の貴方は……これも自分勝手ですけど、家族の温かさを求めていたんじゃないかって……だから」
「だから……私では力不足だって分かっています。それでも……少しでも貴方に……温かさを与えたい」
「……」
あぁ……なんなんだろうなこの気持ちは。これまで生きてきて初めての感情だ。こんなの……1度も経験した事ないし未知だ。未知だけど……
(なんでだろうな……まだこのままでいたい)
あの時のエルも……こんな想いで僕に抱き締められていただろうか? 今となっては本人に聞かなければ分からない。分からないが今は……まだこうしていたいという気持ちがある。
それからは両者ともに無言のままだったが、ソーマはマリアンヌに頭を中心に抱きしめられたまま撫で撫でされていた。
「ご、ごめんなさい! ま、まさか私もあんなに長くしていたなんて……」
「い、いや……君が謝る事など何もない。僕も……その何というかだな……これをどう表現すれば良いのか分からないのだが、心が和らいだと……そう感じた。だから……謝らないで欲しい。寧ろ僕は……君に感謝している。こんな気持ちを与えてくれた君に」
「先生……」
「君といつ会えるかなんて分からないが……また機会があるのならば会えるだろう」
「もう……先生とは会えないんですか?」
「僕にもやらなければならない事がある。この世界での医術の進歩……病気で困っているもの、マリアンヌの様な紋章で困っている人々を僕は救いたい。それが僕だけではなく、多くの志を持ってくれる医者や治療師がいてくれれば……皆何も恐怖することなく平穏に生きていけると、そう思っているから」
「……分かりました」
マリアンヌは少し顔を俯かせていた。会えない事は……無いはずだ。だが、それにかまけていると僕は……自分の志を果たせそうにない。前まではこんな事は感じなかったはずなのに……
(彼女を……悲しませてしまったな)
そう思って……この時もポンコツな僕は何と声をかけて良いか分からなかった。頭の中で考えて考えて……なんとか彼女に言葉をかけようとした時……
「私も……貴方の夢を追いかけます」
「……ん?」
「今回の様な特別な事がないと会えない……とても悲しいです。私は……貴方との時間を、この手記だけじゃなくてもっと一緒に過ごしたい。でもクレイ先生にも目指すべき道がある」
「なら私は……貴方と同じ様な道を進んで、貴方の力になりたい。そして……貴方の側に居たいです」
「……どうしてそこまで僕のそばにいたいと?」
「……クレイ先生の事が……好きだからです」
「僕と君は……今日初めて会ったはずだが……」
「確かに今日初めて貴方に会いました。でもそれよりも前からこの手記を通して貴方のことを知っています」
「その手記についてだが……本当は僕が書いているんじゃなくて別の人が書いているかもしれない」
「さっき話してみて分かります。クレイ先生が私に返事を返してくれているって。手記の中だったら医療の事ばかり書いてくれて、所々ぶっきらぼうで……でも貴方は表面上ではそう表現してるだけで、心のうちは物凄く優しい人だって……今日会ってみて改めて感じたんです。だから手記の返事を書いてくれているのはクレイ先生です」
「そして私は……手記の中での会話じゃなくて、貴方の側に一緒にいて色々話したいんです。これまでの事も……これからの事も……」
「……僕は、医療にしか興味がない。人を救う事。痛みを和らげる事。いつかは……死の苦しみさえも無くしてしまえる様な、そんな医術を残したいと。それにしか興味がなかった。僕の生きる意味は、与えられた役目はそれしかないのだと考えて生きてきた」
「だが僕は……それだけが意味ではないと。医療にかける情熱や時間も大事だが……君の様に、何故か僕には一緒にいようとしてくれる人が多くてな。その人達と関わり合っていると……僕もいつかは……この人達と、勿論君とも笑いながらこの世界を過ごせるのではないかと思っている」
「しかしながら……医療の事しか考えてこれなかった今の僕には……今の本気の気持ちに本気で答える事が出来ないと思っている。今答えてしまうと……君の答えを軽々しく踏みにじってしまいそうでな。だから……マリアンヌには悲しい思いをさせて申し訳ないと思っているが、今すぐに答えれそうにない」
「……いいえ、謝らないで下さい。貴方の答えが出るまで……私は待てますから」
「すまない……」
「でも、これからもこの手記を通して貴方との会話をしていっても良いですか?」
「あぁ、勿論だとも」
「それと……君の進む道は、君が思うほど甘くはない。辛い事が沢山ある。今の生活の方がずっと楽だったと……後悔する事があるかもしれない。それでも……僕の夢を追いかける覚悟はあるか?」
「あります。何年かかったとしても……貴方の側に居たいから……」
「……そうか。なら僕は、君の夢を応援する事にしよう。僕は、君の本気の気持ちに応えれない臆病者だが……君の夢を馬鹿にはしない」
「それだけでも今は嬉しいです。ありがとうございます。では先生、外までお送り致します」
「良いのか?」
「はい。先生は私の客人でもあるんです。だから最後まで私に貴方のことをお見送りさせて下さい」
「分かった」
そして僕達は、エドマンド氏の所にいるマリアンヌの両親を迎えに行き、そこからはエドマンド氏も含めて僕とマリアンヌの両親を送り出してくれた。別れ際にマリアンヌの両親がマリアンヌに何か耳打ちしていたが、そうされた瞬間にマリアンヌは物凄く赤面していた。何を言われたか分からないが……僕は知らない方が良いだろう。僕の勘がそう告げている……
(それにしても……彼女が僕と同じ道を進みたい、か。……初めてそんな事言われたな)
しかしながらこれからはそう簡単に会う事はできないだろう。彼女の夢を応援するのならば……本当は僕が彼女に付いて色々教えるべきなんだろうが、何故かここ数年やる事が多いからな。ただ手記でも連絡は取り合える。その時にまた最低限の事は教えれるだろう。
と、本人は思っていますが……意外にも早くマリアンヌさんと対面する事をソーマさんは知りません……
それでリシテアについてだが、結果は良好で、手紙を見る限り体調は良好な様だ。それでも数節に1度は検診するが……そしてその度にお菓子を色々振る舞ってくる。うむ、悪くない。
だがこんな話も聞く。数年前に起こったフリュムの乱……帝国側の政策に反発した貴族が起こしたもので、フリュム家はコーデリア家、リシテアの家と結託して今の同盟に鞍替えしようとした事件だ。だがそれもあえなく失敗し、コーデリア家も帝国の介入を受けて……リシテアも被害に遭った。そしてフリュムが治めていた土地は帝国側で統治をされているが……それは物凄く酷い内容で人々が苦しめられている。それで度々コーデリアの領地にも辛うじて逃げ出した人々がいて、それを保護している。との話を聞いた。
(……ポーラとセシルにそこの所を調べさせるか)
その話を聞いたソーマは情報をポーラとセシルに調べさせ、その後統治している貴族の元へ闇夜に紛れて鉄拳制裁……次こんな事を起こしたら(精神的に)血祭りに上げると釘を刺した。
それからと言うもの……徐々にその土地の統治は改善され、今では普通に暮らしやすい街になっている。
また、急に統治していた貴族がそこでの法令を良い方向へ改善した事から、そこにいる人々はこう口にしていた。『アスクレイ教に奉る神、ソーマ・アスクレイが自分達を助けてくれた。大昔に起こった大戦と同じく、人々の苦しみと流血を止めてくれた。神は自分達の苦しみを理解して助けてくれた本当の神である』と。それを機にその街ではセイロス教よりもアスクレイ教の信者が殆どを占めたという……
リシテアからの話を聞いた僕はすぐ行動を起こした訳だが、その後の街は平和そのもので誰もが暮らしやすいと言っていたと聞いた。それで、医療行為についてだが……これまで通り筒がなく行い、各地で紋章で悩んでいる子供達をケアしてきた。だがそもそも僕はカウンセリングは苦手だというのに……
(だがそれも……子供達からすれば関係ない事だろう)
何はともあれ、僕が相談に乗って、子供が僕の元を去る時は皆一様にいい顔をしながら帰って行った。
そもそも僕がどこで子供達の相談にのっているのかって? そうだな……僕はジェラルドと行動する様になり、本拠を構えている村周辺とは別にフォドラ中を巡った。その中には……やはり小さな教会や修道院もある。そのため時たま僕は、ジェラルド達が野宿になりそうな時はジェラルドの妻であるしとりーと娘のベレスを伴って近くの教会や修道院を訪れて、各地を巡る旅人として寝床を提供してもらったりしている。紋章で悩まされている者、特に子供が多かったが、そんな時に話を聞くことが多かった。
確か最初は……ファーガスとアドラステアの境目にある小さな教会だった事を覚えている。日も暮れて夜の帳が深くなろうとしていた時、興味本位で僕が教会の中を見学していた時だ。本来なら人が来ないその時間にその子供は現れた。
容姿は金髪の長い髪を持ち、肌は綺麗な白い色をしていた。子供ながらにも唇はぷっくらととしていて艶もあった。普通に見て綺麗な女の子だと感じたし、このまま成長したらべっぴんになる事は間違いない。着ていた服も……貧しさを感じない。どこぞの裕福な家系の子供なんだろうと思った。そう思ったと同時に、僕の直感が感じたんだ。あぁ……この子も何か紋章の事で悩んでいるのでは、と。
その勘が外れたのなら、僕は心の中で物凄く恥ずかしい思いをした事だろう。だが実際には僕の勘通りになったが……
話を聞くと……ジェラルド達と一緒に行動する様になってよく聞く話だった。どこの土地に行こうが……貴族どもは紋章の有無を重視する。僕の目の前で泣きながら話している子供だってそうだ。
父親とは生まれる前に死に別れ、再婚したはいい者の、再婚者も所詮紋章の有無を重視してこの子にはいい思いなどさせていなかった様だ。最初は再婚者との仲もそれなりに良かった様だが……やがて母親と再婚者の間に子供が生まれ、その子に紋章がある事が分かると、母親揃って腫れ物の様に扱われて、それに耐えかねてしまったこの子は今日教会に足を運んだと。
この子としても、この時間に誰かがいる事は考えておらず、この協会が祀っているソーマ像の目の前で今回の事を言って、少しでも自らの中にある重みも軽くしようとしたのだろう。だが予想外な事に僕がいた事で、僕からしたらカウンセリングみたくなってしまった。最後に僕が「辛かったな。よく1人で頑張った」と声をかけたら、さらに泣き出して僕に抱きついてくる始末……僕はこんな時、ベレスと接しているからこんな事にも慣れたと思っていたのだが……やはり苦手なのは苦手な様で……僕はただただ力を入れすぎない程度に抱き締めてその子の背中と頭を撫でてやる事しか出来なかった。
それも数分くらい経って泣き止むと、目元は赤くなっていたが、それでも僕の見立て通り子供とは思えない綺麗な笑みを浮かべていた。まだうっすらと涙が残っていたので、僕は指の腹でそれを拭った。そうすると目の前の少女は途端に頬を赤く染めながら、先程とは違ったぎこちない様な笑みを浮かべていた。
熱でもあるのかと思い僕がおでこに手をやると、今度は驚いていた。ふむ、熱はない様だ。
どこか体調が悪いのかと聞いても、未だに頬を赤くして何でもないと言う。そう言って頬を赤くしたまま少女は僕にお礼を言って教会を後にした。
しかしながら……僕は夜道に子供が1人でいるなどとは危ないと判断し、バレない様に空からコッソリとついて行った。そこ、僕はストーカーではない。言いがかりはやめる様に……
ともかくとして何事もなく少女は自分の家に辿り着いた。着いた家は、僕が予想した通り貴族の家の様だが、少女が帰った途端男の怒鳴り声が聞こえた。確か……役立たずの穀潰し……だったか?
「……」
鉄拳制裁決定
自分勝手など知ったものか。僕は……あの少女の想いを聞いたからには見て見ぬ振りなどできぬさ。
「こちらソーマ、応答せよ」
『はい、こちらポーラです! どうかしましたかソーマさん?』
「大体いつもの様な案件だ。とある貴族の情報が欲しい」
『分かりました! では取り急ぎ情報を精査した物を纏めて送りますね! にしてもソーマさんってば、いつも医療の事ばかりしか考えていないって言ってるのに、子供とかが絡むといつも何かしら助けたりしてますよね?』
「偶々だ」
『偶々じゃないですよぅ〜。こっちだっていつもソーマさんが何の用件でかけてるかちゃんと記録に残しているんですからね? あっ、何でしたら子供達が絡んだ時に情報とか欲しいって言った記録数えましょうか?』
「それは勘弁願いたい。正直恥ずかしい」
『ふふっ♡ 私は恥ずかしくて悶絶しているソーマさんも可愛いと思いますし……何だったら優しく慰めたいなぁ〜って思いますよ?』
『ポーラ何を遊んでいるんですか?』
『せ、セシル⁉︎ あっ、いやこれはねっ⁉︎』
『ソーマが困っています。余り困らせてはいけません。分かったら情報を集めて送って下さい』
『は、は〜い……』
そこでポーラからの通信は一旦切れた。
『またポーラが迷惑をかけました』
「いや、あの子はあれが自然だからな……悪気があってやってる訳でないことだけは分かっている」
『そう言ってくれるとこちらも助かります。それと……』
「ん? どうした?」
『もしソーマが恥ずかしがって悶絶していたら……私も貴方の事を優しく慰めてあげます。では、私も仕事に戻ります』
そう言ってセシルからも通信が切れた……
「……果たしてセシルのはわざとなのか? それとも本当の気遣いからか?」
そこのところを未だ分かっていないソーマだが、今は鉄拳制裁の事だけ考え、情報が来るや否や直ぐに行動に移し……その再婚相手とやらを鉄拳制裁した事は想像にたやすい事だろう。
また、ここ数十年紋章絡みで被害に遭う貴族が急増した。その内容としては……部屋が急に暗くなったかと思えば目の前に黒いフードを被った男が目の前に立っており、自身が今まで何をして来たかを精神的に問い詰められていくというもの……やられた本人としてはたまったものではなく、翌日には悔い改めて自身の行なって来たこととは真逆な事をする様になったと……その貴族に仕えていた使用人や家族が語っていた。
と言っても大体被害にあっていたのは、自身の子供に紋章の有無があるかどうかで子供を、はたまた子供と妻を蔑ろにしていた者達である。言うなれば自業自得であった。
そんな事も分かっているため、紋章の有無で身内を蔑ろにした貴族を精神的に制裁したその謎の人物は、当の本人の知らぬ間に噂となった。
『紋章の有無で身内や誰かを傷つけた者共は気を付けよ。傷つけた物事は回り回って自身に返ってくるぞ。その足音は聞こえず、どこまで煌びやかな光を纏う者であれ一瞬にして暗闇に叩き落とされる。その者、黑き羽衣を纏いてその者の目の前に現れ、一瞬にして絶望の淵に叩き込む。人呼んで
その様な噂が飛び交い、身に覚えのある者共は顔を青ざめさせ、しばらくの間震えが止まらなかったという。特にアドラステアの宰相を務めるエーギルという人物だが……彼はソーマに2回に渡って被害を受けていた。
1つ目はエーデルガルトに紋章を埋め込む実験に1枚噛んでいた事件について、もう1つは……つい先日、フリュム家が治めていた土地に無理難題な政策をしていた事である。
その為彼は……膺懲の神と聞くと震えが数時間止まらなかったという……
その逆として、それまで紋章の有無によって虐げられていた者達はこれに対して希望を見出し、黑神の事を別にこう呼んだ。『薄汚い侮蔑さえも取っ払い、全ての者に希望を与えんとする
まぁそれさえも本人は知らないのだが……いや、本人からしたら知りたくもないし勝手に捏造するのはやめてくれと発狂するだろう。
因みにソーマによって制裁を受けた貴族は、翌日には焦燥しており、今までの事を蔑ろにしていた再婚者である妻と娘に詫びていた。しかしながら妻と娘はそれを受けたとしても想いは変わらなかったのか、その日のうちにその貴族の家を出奔。妻子ともに、娘が行ったとされる教会に赴いた。
しかしその時には娘の話を聞いてくれた者はおらず、そこに勤めるシスターに話を聞いてもその様な人物は存在しないという。ただしその日は、娘の話す特徴と合致する人物がこの協会を利用したとシスターは述べていた。
それを聞いた娘は、お礼を言おうとした人物がいない事に残念に思ったが……同時にこうも呟いていたという。
「あぁ……貴方様自ら私の事を助けてくれたのですね。アスクレイ様……」
それを機にまた1人、アスクレイ教の信者がまた増えた。
と、そんな話もあって何故か教会などを訪れると紋章絡みの悩みを持った者と接する機会が増えた。また最近の話となると、ファーガスと蛮族の国の国境近くで構えている貴族の下を仕事目的で行った事があった。そこにはとある兄弟がいた。兄は文証を持たずして生まれ、弟は逆に紋章を持って生まれた様だ。だがこの兄弟も紋章絡みで悩んでいるらしい。
兄の方は今までと同じく紋章がない事で弟よりも扱いが酷く、弟は逆に紋章を持つが故に小さい時から周りの女性にチヤホヤされていると。兄の方はこれまでと同じ様な感じであるし、弟の方は逆に恵まれている様に見えるだろう。だが弟の方はいつもこんな事を思っている様だ。紋章だけが目当てで自分の事など誰も見向きしてくれないと……
(これはまた珍しい悩みだな……)
そう思った僕は、仕事で何日か滞在する予定もあってその兄弟の話を個別に、本人達の気が済むまで聞いた。そして結論……それぞれに治療と称してこれらのことを施した。
兄に対して:この世界は紋章の有無だけで全ての物事が決まるとは思っていないし、紋章にかまけて何もしないよりも、日々努力を疎かにする事なく何かを極めた者こそ真の人だ。それは紋章を持つ者も同じ事……だからこそ君はその者達よりも己を磨け。そうすれば……例え誰かから紋章の有無を馬鹿にされたとしても、実力で見返す事ができる。それに、そんな事を言う奴はただの阿呆だからな。一々耳を貸す事はない。その一歩として……僕が稽古を付けてやる。近くに何も武器がない時に有効な事だ。僕がいる間に死に物狂いで基礎は習得してもらうぞ?
弟に対して:最初は表面的な付き合いだけで良いだろう。そこから自分の事を、心の底から見てくれる人はいつか絶対に現れる。今君が感じている重荷さえも全て包み込んで溶かしてくれる人が……それまで君は、多くの苦悩を抱えるだろう。だが決して諦めるな。君が君である事を……周りに踊らされる事なく、自分の信念を持って生き抜け。
と、弟に対しては正直初めての悩みだったから具体案は出なかったが、少しは気が晴れていたと思いたい。そして2人に共通して言ったことは……
君達の中には同じ血が流れている。この世に数少ない血縁だ。それを大事にしろ。紋章で仲が悪い事は予め知っていたが、これを機に2人で話す機会を増やせ。そして時には殴り合いなどの喧嘩をしてスッキリしろ。そうすれば幾分か悩みは晴れるだろうよ。
なんとも医者らしからぬ発言だと思っているが、子供のうちは喧嘩して互いの事を分かり合って認めた方が良い。少なからず僕はそう思っている。
そんな助言らしからぬ事を言って、近くで仕事がある時に寄ったりすると兄弟で殴り合いとかの喧嘩を多く見た。見る限り紋章を持たない兄が大体優勢であるが、紋章を持つ弟も何度倒されても喰ってかかるなど……前みたいな陰湿な空気は無くなっていた。そして最後にはどっちとも倒れ、後は笑い合って語らい合う。まぁ僕の助言で仲が良くなったのなら良いのだがな。
だがここ最近の10年は物騒な事が多かったな。特筆すべきは主に2つ。
1つはダグザ・ブリギット戦役未遂と呼ばれるものだ。それより前にもいくらかあり、どうにか介入しようとしたのだが、殆どが政治の関わるもので容易には干渉が出来なかった。それこそが原因で、エルやリシテアの様な被害者を招いてしまった。僕がもう少し外の事に興味を持っていれば……対処できたかもしれない。だがそうすれば今の時代の流れも変えかねない。僕はエルとリシテアに会い、治療などを施している。介入しようものならばその事実もなくなり、歪みが生じていただろう。そう考えたのなら……安易に介入できなくてもしかたなかったかもな。
さて話を戻そう。そのダグザ・ブリギット戦役未遂とやらは、今から5年前に起きた事だ。ダグザ、ブリギットの両国が同盟を結び、フォドラ南部のアドラステアに侵攻しようと企んだものだ。フォドラの南西……海洋を挟んだ国々がこの地に侵攻してきたのだ。本来ならば多くの血が流れていたと思う。
だが……僕はそんな下らない事で血を流す必要は無いと思っている。
だからこそ……上陸してくる日を見計らって、予測として彼奴らが上陸してくる地域周辺にとある生物を生み出した。そのおかげもあって、戦闘などほぼ無く彼らは去って行ったと聞いている。ん? 何を生み出したかと? それは……まぁリヴァイアサンをだな……生み出してしまったんだ。そんな大それたものを生み出す気はさらさら無かったんだがな……何故だろうな?
だが生み出した数分……多分あれは雌だと思うんだが……じゃれつかれた。といっても頭をこっちに押し付けてくる程度だが……大きさ故にはたからみたら大変驚かれるだろう。それに対して僕は……あぁ、ベレスが時たまねだるあれかと思い頭を撫でる。すると目を細めて凄く嬉しそうにしていた。それが何故か、僕でも何故この感情が湧いたのか分からないが、可愛いと思って数十分程は撫で続けたと思う。
それが終えてから、リヴァイアサンにとある事を指示した。敵意を持ってこの地に踏み入れようとする輩は即座に無効化する様にと。しかしながら人を殺める事は許さない。彼らが諦めて帰るように仕向けて欲しいと。
そしたら彼女は、見た目によらず可愛い泣き声を発して頷き、海の中へと戻って行った。
(まっ、侵略しようとする輩どもには容赦していなかったが……)
あれは僕でも一言では言い表せないな。僕とは明らかに態度が違うし、それに目も赤く光ってるし……そもそも海の上を口から火を吐いて文字通り火の海にするのとか凄いなと正直に驚いた。それでも僕が言ったように、誰も殺めず彼らを退散させていた事は……それも良くやったと同時に凄いと思ったな。
これは余談でありますが、一仕事した彼女の頭をソーマさんが優しく撫でており、それを受けた彼女は目をトロンとさせていたと言います……
ダグザ・ブリギット戦役未遂は一旦それで終わりだ。後にブリギットから国王の使者という事で、国王の娘が来日……いや、日本ではないから来訪というのか? ともかく、ダグザ・ブリギット戦役未遂の事を謝罪と同時に、これからはアドラステア帝国と良好な関係を結びたいとの事で、確か2、3年前からガルグ=マク大修道院に併設されている士官学校にその使者が通っていると聞いた。うむ、まぁ友好関係が構築されるのならば、僕としては文句などないな。
後もう1つ……これが凄く厄介だった。ダスカーの反乱未遂……これもどうにか平和的に解決させて貰った。
内容としては、ファーガスの国王であるランベールや要人、それを守護する兵士達がダスカーで会談を行う予定であったのだが、突如として何者かがが国王達を急襲……その場にいるもの達を皆殺しにしようとしていたのだ。
この事件の背景には政治的な要因が絡んでいて、正直僕が1番苦手にする部類だ。ただこれは、僕が自ら動いて事前に情報を集める前にある人物から知らされた。
『ソーマ、助けて‼︎』
それは……エルからの一言だった。ここ最近は一節に1、2回程しか連絡を取り合っていなかった彼女だが……その一言だけでどれほど緊急な事なのかが分かった。
「アンドロイド隊全てに告げる。現時刻より行なっている作業を中断! 本拠地作戦司令室に集まれ!」
そこから僕は皆を召集し、エルが何か危険な事に巻き込まれている事を説明。真っ暗闇の空間で指揮を任せている司令官にもこの事を伝え、何かが起こる前に未然に防ぐ様にアンドロイド隊情報部総出で情報を集めさせた。そこから分かったことと言えば……
(闇に蠢く者……か)
どうやら彼らは、僕がセイロスとネメシスの戦いに介入した時からある組織の様で……これまでに起こった内乱などもどうやら彼らが裏で主導していた様だ。
その集めた情報を元に、僕はエルにその組織が関わっているのかを問う。すると彼女は驚いていた様だったが、それなら好都合という事で今回の事を全て教えてくれた。
それを元に僕は直ぐ様対応策等を司令官と共同で打ち出し、それに対してアンドロイド隊を配置。僕はランベール達主要人にバレない様にその時を待つ。
そこからは簡単だ。急襲しようとしたダスカー人を全て捕縛、そこにいた全てのダスカー人に事情聴取をした。といっても僕ではなくアンドロイド隊が全てやって纏めていたが。
纏めたものを見て、それをランベール達に僕から伝えた。
どう伝えたか? 彼らは利用されたに過ぎず、とある組織の口車に乗せられたと。まぁだからと言って罪を許すの事は出来ない。
その為に僕は交換条件を出した。今回の事に加担した者達は王国側で処罰をする。ただし死刑などの極刑はしない。そして他のダスカー人は今の土地を追放……しかしながらダスカーの民はこちらで受け入れる。
僕もこれはご都合的展開だとは思っているが……最近僕が本拠を置いた近くの村々で人手が足りなくなってきている。十数年前まで餓死する者がいた村が、今では誰もが無事に冬を越せる。それに伴い人口増加、農耕面積も大きくなり、僕が今派遣しているアンドロイド隊の農耕課では対処できないところまで来ている。その為に今回の話は僕にもメリットがあると考えた。
しかしながら、未遂とはいえ虐殺の一歩手前まできた今回の事は、流石にこの条件では駄目だろうと感じた。だが予想外な事にランベールがそれで良いと言ってくれたのだ。理由を問うと、今回は誰も被害に合わなかったし、実行したのはダスカー人であれ、影から糸を引く者達が本当の悪であると理解したからだそうだ。僕も今持っている情報を彼らに託し、ダスカー人を受け入れる体制を整える為に帰還した。
それからしばらくして近くの村にダスカー人が越してきて、今では村人達と円滑に交流している様だ。これでダスカーの悲劇未遂はある意味平和的に終わったと言える。
にしても……
(最近の僕は動き過ぎじゃあないか? この世界でもただ医療行為が出来ればそれで良かったと思っていたんだが……)
何が原因かなんて分からないが……僕は医療行為の道から度々逸れていると感じている。何故なんだ?
(だが……全てが全て悪いとは感じない)
これも……僕が幾度と医療行為とは関係なく人と接してきたからだろう。しかしながら負の感情はない。
「この生き方も……あまり悪くはないのかもな」
そんな独り言を呟いてソーマは今日も行く。
いやぁ〜ここまで長かった。次から漸く本章に進む事が出来ます!
これもこれまで皆様の応援ご意見ご感想あってのものです!
本当にありがとうございます‼︎
それではまた本章でお会いしましょう‼︎