僕は医療行為をしたいだけなのだが……   作:橆諳髃

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これまでに新しく評価を付けてくださった読者の方々

☆10 烏丸駅の唐揚げ 様
☆9 豆助 様 架空摂理 様 コレクトマン 様
☆8 桐月ダイ 様
☆3 不知ん様

ありがとうございます!

この作品を書いて約1週間程しか経っていないのにもかかわらず、ここまで評価されたのは初めての経験で凄く嬉しいです‼︎ もう感謝感激といったところでしょうか!

そして今回は……ちょっと無理な構成でやってしまったので、「おや?」と思う方々が多少なりとも出てくるかと思います。まさか僕も最終的にこうなるとは思っていなかったものですから……

面白く無かったら申し訳ありませんが……どうぞ前回までの続きをご覧下さい。


第4話 君はこんな所で死ぬべきではない……だから戻って来い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まりあんとの交換日記を通じた治療は良好だ。文章からも生への活力を感じる。また喜怒哀楽も感じて、最初にこれと同じ物を渡したのは僕だが……何故か僕も最近楽しいと感じるようになった。

 

だが問題も発生してしまった。それは……ついつい夢中になり過ぎて周りを疎かにしてしまい、彼女とのやり取りをエーデルガルトに見られた事だ。それを境にエーデルガルトは僕と会う度に不機嫌になってしまい……これでは経過観察も出来ない。

 

そこで僕は彼女に、どうしたら機嫌をよくするのかを聞いた。そしたら……

 

「私もその本が欲しいわ。そしたら……貴方が近くにいなくてもやり取りできるから」

 

ふむ、なるほどそういう事か。エーデルガルトは僕とのやり取りが楽しみで、それで偶々僕が誰かと楽しそうにやり取りしているのを見ていて怒っていたのか……と、僕は簡単にそう思いエーデルガルトにも同じ物を渡した。

 

彼女は嬉々としてそれを受け取り、それからというもの事あるごとにそれでやり取りをした。

 

僕はこれで漸くエーデルガルトも癇癪を起こさずに経過観察をさせてくれるだろう……そんな事を偶々近くにいた6Oに言ったのだが……

 

「はぁ〜……やっぱりソーマさんは女心を分かっていないですね! そんな事しちゃうとエーデルちゃんに嫌われちゃいますよ⁉︎ そうなれば経過観察どころじゃないの分かっていますか⁉︎」

 

と、何故か怒られてしまった。僕が一体何をしたというのか……解せぬ。その後に6Oからデートをしましょうと言われたのだが、どこから聞いていたのか他のアンドロイド隊が6Oに対して猛抗議していた。これにはあたふたするしかない6O。

 

おいおいA2、こんな所で武器を出すんじゃあない。そんな事をしたら……あっ、9Sがボロボロになって吹っ飛んで行った。治療しに行くか……

 

そう思いながらデボル・ポポルの急患治療室へ赴こうとしていると21Oから……

 

「ソーマ、少し気になる情報が……」

 

「ふむ、聞こう」

 

僕は9Sの治療の為に、21Oは9Sの回収の為にほぼほぼ同じ方向に向かいながら気になる情報とやらを聞いた。

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

帝国歴1159年

 

 

 

 

今俺の目の前で子供が生まれた。髪は俺の嫁さん譲りの深い緑色をしていて、瞳の色も嫁さん譲りの女の子だった。俺に似ている要素なんてどこにも無かったが、それでも嬉しかった。こんな俺にも子供が生まれたんだってな……

 

「ジェラルド……生まれてきてくれたわ」

 

「あぁ……よく頑張ったなシトリー」

 

俺たちはその時……とても幸せだった。幸せの絶頂にいると思うくらい……俺の目にも熱い何かが込み上げてくるのを感じた。

 

だが……

 

「じぇ、ジェラルドさん! この子生まれてもう10秒以上は経つのに鳴き声1つあげません! それに意識はあるはずなのに呼吸も!」

 

「なんだって⁉︎」

 

「どうしたのですか?」

 

そこにセイロス聖教会の最高指導者であるレア様が来た。

 

「レア様……さっき生まれた俺の娘が……」

 

「私が見ます。その子をこちらへ」

 

産婆からレア様へとその子が移る。

 

「成る程……分かりました。この子に問題はどこにもありません。ともかくこの件は私に任せて下さい。ジェラルドは心配せずシトリーの様子を見てあげて下さい」

 

そう言ってレア様は部屋を出ていかれた。あぁは言ってもらえたものの……俺には不安しか残らない。

 

「大丈夫よジェラルド……レア様ならきっとあの子を助けてくれるから」

 

「シトリー……」

 

「だから私達もっ⁉︎ うっ⁉︎ くぅっ……」

 

「お、おい……どうしたらシトリー? おい……シトリー! シトリー‼︎」

 

急に苦しみ出すシトリー、それに対して嫁の名前しか呼ぶ事が出来ない俺と……冷静さを失ってあたふたする産婆しかここにはいない。

 

(やっと……やっと俺達にも幸せが訪れたというのに……)

 

俺達の出会いからここに至るまで様々な苦難があった。だがそれをどうにか跳ね除けて……それで漸くここまで来た。ここまで来たっていうのに……

 

(誰か……助けてくれ。誰か俺の嫁さんを……助けてくれ‼︎)

 

藁にもすがる思いで……シトリーの名前を叫びながら頭の中で助けを呼んだ。だが俺は良く知っている。どれだけ祈った所で天上の神々は助けてくれない。

 

(今まで……仕方がないとはいえ俺も人を殺してきた。その天罰が俺に来ずに……嫁さんに降りかかるなんて事……)

 

「誰か……俺への罰は俺が背負う……だから嫁さんの事を誰か……」

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……これは確かに重症だな」

 

俺は、あまりにも必死になり過ぎて気付かなかっただけかもしれないが……嫁さんの傍にいつのまにか全身黒色の衣装を着た男が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

「お、お前一体どこから……」

 

「僕がどこから来たかなんてどうでも良い。今はこの患者の容態が大事だ。スキャン」

 

ジェラルドはソーマがいきなり現れた事に驚くも、ソーマはソーマで患者優先の態度を取っていた。そしてスキャンが終わる。

 

「なるほど……大体分かった」

 

「お、俺の嫁はどこか悪いのか⁉︎」

 

「悪いからこの症状が出ている。しかしこれは病気ではない……どちらかと言えば呪詛の類だ」

 

「呪詛……い、一体……」

 

「それは今から彼女の体の中を見ればわかる事だ」

 

そう言ってソーマは懐からトランシーバーを出し……

 

「皆今執り行っている作業を一時中断せよ! 急患だ。対応1分以内、即時動け!」

 

『『『了解‼︎』』』

 

「さて、僕も準備をしよう。Place defined by evaluation(ここは僕の神聖な場所)

 

唱えた瞬間……部屋が変わった。ジェラルドとシトリーの寝ているベットは透明な何かで隔絶され、先程までの壁も純白な物に変わる。

 

そしてソーマの姿は……全身黒フードで纏っていたものが、どこか動きやすい格好に変わっていた。例えるなら手術ガウンを全体的に黒の装いにし、所々に青く発光するラインが描かれたものだ。そして雑菌が入らない為か黒いガスマスクの様なものも口につけていた。

 

それと同時に空間に穴が空き、そこから手術するための装いを施したアンドロイド隊と治療器具諸々が運び込まれた。

 

「よし、では患者を医療ベットに載せ換えるぞ」

 

「「「1,2,3‼︎」」」

 

シトリーがベットから医療ベットに移される。

 

「次に患者の衣服を割く。胸の部分以外はシートを被せろ。後人工呼吸器を装着させて麻酔の準備だ」

 

「はい!」

 

その準備も数秒かからず終わった。

 

「さぁ……今から君に巣食う病魔を祓おう。だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はゆっくりおやすみ」

 

「うっ……んっ……」

 

シトリーはソーマの語りかけで、まるで子供が子守唄で眠るかのようにゆっくり意識を無くした。

 

「さぁ、それでは胸部を開いて治療をする。また今回はいつものような手術ではない。予想外な事にも対応できるように」

 

「「「はい‼︎」」」

 

「では始めよう。メス」

 

「はい!」

 

それからソーマの手術が始まった。シトリーの胸にメスが入る。そして皮膚が斬り裂かれた。しかし血はそこまで出ていない。そしていとも簡単にシトリーの心臓が見えた。しかし……

 

「こ、これはっ⁉︎」

 

その場にいたアンドロイド隊の1人が驚きのあまり声をあげる。

 

「ふむ……見た時から心臓にタンコブのような腫瘍がある事は分かっていたが……ほぅ、まさかこれ程までに珍しい症状だとはな。僕もこれは初めてかもしれん」

 

ソーマの言う通り、シトリーの心臓には丸い、直径10cm程の腫瘍がくっ付いていた。しかしそれだけに留まらず、その腫瘍はシトリーの心臓に糸のような管を何重にも巻き付いていた。まるで絞め殺しの木みたく、宿主の命を吸い取る様に……

 

「だがまぁ……

 

 

 

 

 

 

そこまで大したことでもない

 

それを見てもソーマは顔色を少しも変えず、手に持っていたメスでシトリーの心臓に巻き付いている管をいとも簡単に切り離した。それも僅か数秒の事である。

 

そして切り離された管はウヨウヨと動き、またシトリーの心臓に巻き付こうとしていた。

 

「往生際が悪い」

 

それもソーマによっていとも簡単に阻止され、シトリーの心臓からその腫瘍も切り離された。そして切り離された腫瘍は宙に浮かぶと、鼓動し始める。それが徐々に強くなっていくと、腫瘍の周りが光を帯び、そして室内を一瞬のうちに光で埋め尽くした。

 

その光量にはアンドロイド隊と透明な窓で仕切られていたジェラルドでさえも手で覆った。

 

光が収まるのを感じると目を覆っていた手を退けた。だが手を退けた先には……

 

 

 

 

 

 

『オ、オォォォォォッ!』

 

先程まで腫瘍が浮かんでいた場所に白い何かが蠢いていた。その白い何かは動き出す。まず前面を何かで覆っていたものが開いていく。それはどうやら羽のようなものだった。前面が露わになっていくと、次に現れたのは頭部らしきもの……全体的に角ばり、目にあたる部分は鋭い。やがて羽が全て開くと、そこにいたのは紛れもなくドラゴンの姿をしたものだった。それは上半身だけしかないものではあったが、体全体から白い霊気の様なものを放出し、まるで自分は神だと言わんばかりの存在感……それを見たソーマは……

 

「……クックッ」

 

俯いて身体を震わせていた。その様子を見たドラゴンも、目の前の存在はパンドラの箱を開けた絶望感故に笑っているのだと感じ、口元をニヤつかせて勝ち誇っt「クッハッハッハッハッハッハッハッ‼︎」……た顔をしていたが、目の前の相手の様子がおかしい事に気付くと怪訝な表情をした。

 

「いやぁ……これは予想していなかった。まさかこんな……こんなにも良い素材が転がっているとはなぁ!久々に胸踊ったぞ‼︎」

 

その顔は絶望でも何でもない。ただ歓喜に満ち溢れた顔をしていた。その表情に段々と何が起こっているのか分からないドラゴンが1匹……

 

「クックックックッ……全く、生きていると何が起こるか分からないものだ。それにしても僕は今日ここに来て本当に良かった! これで今まで以上に医学の進歩に繋がる‼︎」

 

目の前のこの人間は一体何を言っているのか? ドラゴンには全く分からなかった。分からないが……それと同時に身体の中から警告が出されていた。この場からすぐに逃げた方が良いと。

 

その直感に従い、先程勝ち誇ったかの様な顔から一転して焦りの表情で目の前の人間から離れようとすると……

 

 

 

 

 

 

待て、どこへ行こうとする?

 

『っ⁉︎』

 

身体全体にまるで自分と同程度の重りを付けられたと錯覚する様な威圧感がドラゴンを襲う。そしてその威圧を放っている者は……目の前にいる人間だ。この威圧は自分と同じ……いや、それ以上の神格を感じた。

 

「お前という存在は僕にとっては医学の進歩に通じるものだ。易々と逃がす訳がないだろう? だから大人しくしていろ。ホーリーランス」

 

ソーマが唱えると、床から光り輝く鎖が現れる。鎖の先は杭みたいになっていて、杭はドラゴンの両手両腕、羽の両方を貫き、鎖部分はドラゴンが身動きできない様に絡まる。

 

『グ、グォォォッ⁉︎』

 

「そして新鮮な素材は……新鮮なまま素早く運ばないとなぁ? ネガティブゲイト」

 

そして白い上半身だけのドラゴンは……ソーマの唱えた呪文によって白い鎖に繋がれたまま暗闇へと移送された。

 

「た、大変です! 患者の心肺が停止しました‼︎ 呼吸していません‼︎」

 

だが一難去ってまた一難(ソーマにとっては一難でも何でもなかったが)、あの白いドラゴンが完全にシトリーから離れたためであろう。少なくともあのドラゴンは、宿主の命を吸い取りながらも延命させていた様だ。

 

それをソーマが無理矢理引き離した事でシトリーの心臓は止まり、心肺停止になっていた。

 

「……」

 

その光景を見たソーマも、先程までの表情は消えて黙り込んでいt「この事態も想定済みだ」……どうやら考えがあるらしい。

 

「僕は元々この患者を助けに来たんだ。狼狽える必要などない。それに……」

 

 

 

 

 

 

「君達は僕の事を何年何十年と支えてきてくれた。僕はそんな君達がいるからこそ冷静に患者の治療に向き合うことができる。だから君達も……僕を信じてくれ」

 

「っ‼︎ はい‼︎」

 

(そう……あの時とは違う。患者を治療中に……一瞬のうちにして裏切られたあの時とは)

 

昔……僕がこの身体でなかったころだ。とある患者の治療中、主治医がミスをした。当時助手として付いていた僕は、これほどのものだったら直ぐに治せると進言した。しかし……

 

『いや、このまま閉じよう。何、これは大したものではない』

 

一瞬何を言っているか分からなかった。僕がどう言おうと主治医は閉じてこのまま手術を終えようの一点張り。そして僕が余りにもしつこかった為か最終的には僕に責任を取れと言って、他のスタッフも強引に連れ去られ、手術室は僕1人となった。

 

あの時は何とかなり、患者も無事助かった。その患者も無事退院した。結構患者の家族からもお礼を言われたことは覚えている。

 

後から聞いた話によると、あの件についてはいくらか裏があったようで、主治医が何故途中で手術を止めようとしたかについては……僕がその時所属していた病院の院長が過去にその患者の手術をしており、その際にミスがあったからだ。そのミスというのは……患者の患部を手術し終え、開いたところを縫合して元に戻した時だ。

 

院長は患者の患部に、血を止めるためのガーゼと鑷子をそのままの状態で閉じた様だ。だが気付いた時は後の祭りで、患者の体力はもう限界だった。だから院長はそのままにして患者を戻してしまったのだ。

 

それから数年後……その患者が来て、今度は時期院長候補が手術をしたといった感じだな。院長候補は前々から院長を落として自分が院長になる算段を考えついていた様だ。それで今回の事は棚からぼた餅みたく、自分の考えている方向に進みそうだったからこそ、手術を中断した様だ。

 

だが僕にとっては言語道断だ。その時院長候補がその思惑を抱いていたかどうか関わらず、僕は手術を続けた。勿論院長のミスの尻拭いもした様な結果になったが、僕としては患者が助かればそれで構わなかった。

 

結果的にその院長候補はその時の責任を全て負って辞職、院長候補の指示に従ったものは数ヶ月の謹慎、逆に僕は院長候補の代わりとして働かないかと院長に誘われたが……そんな面倒な事をしては患者との時間が無くなってしまうと言って断った。院長はそれを聞いて笑っていたが……

 

まぁそんな昔話はおいておいて……

 

(あんな屑な考えを持った人はここにはいない。だから僕は‼︎)

 

ソーマがシトリーの心臓を優しく掴むと、ゆっくりと……血流を身体全体に行き渡らせるかの様にマッサージをし始める。

 

「僕は……確かに先程のドラゴンを見た時、君の事を忘れて歓喜に陥った。それは深く反省しよう。やはりと言うべきか……僕の頭の中では医術の進歩が最優先で行われるらしい」

 

「だが僕は……ここに来る前に助けを求める声を聞いたんだ。君の旦那さんが……あんな厳つくて泣きそうにない男が、泣きながら助けを求めていたんだ」

 

「それと同時に……君の声も聞こえたんだ」

 

ソーマはシトリーに向けてそう語りながら心臓マッサージを優しく続ける。

 

「君は確かに口にしていないかもしれないが……それでも君の心の声を聞いたよ。『私はまだこんな所で死ねない』と。僕は確かに聞こえた。だから……」

 

「僕もこう言おう。君は……こんな所で死ぬべきではないと」

 

「君は自分の子を産んだだけで満足では無いはずだ。自分の子を優しく抱きしめたいはずだ。君の夫と、子供と、幸を望みたいはずだ」

 

「だから……戻って来い‼︎」

 

そのソーマの呼びかけは……幸を奏したのだろう。シトリーの心臓は自ら鼓動を開始した。それはソーマの手が離れても自ら動いていた。

 

「脈拍の安定を確認……これより開いた箇所は縫合して戻す」

 

そしてソーマの治療は無事に終わり、1人の人間の命が救われた。

 

 

 

 

 

side ジェラルド

 

 

 

 

 

 

 

俺は正直、目の前で何が起こったのか分からなかった。ただいつのまにか黒尽くめの怪しい奴がシトリーの側にいて、そしてそいつがシトリーを助けた。自分でも何を言っているのか分からないが……

 

確かに奴が、何か白い物を見た途端笑い出して俺の嫁さんをほっぽった時は流石に剣の持ち手を持っていた。それでも奴はシトリーを助けてくれたんだ。ちゃんとしたお礼をしたい。

 

「お前の妻……シトリーと言ったか? 彼女ならば僕の薬を投与して数時間は眠ったままだ。それもじきに目を覚ますが……。それとこれは処方箋……彼女の薬だ。用法もしっかりと説明書付きで載せてある。間違いのない様に使え。間違えて使った場合は治りが遅くなるからな」

 

その薬袋が入った物を俺に渡すと、そいつは何事もなかったかの様にその場を後にしようとした。

 

「ま、待ってくれ⁉︎」

 

「……何だ? こう見えて僕は忙しい。次の患者の元に行かなければならないのでな。要件があるならさっさと済ませろ」

 

「……その、何だ。もしあんたが来てくれなかったら……シトリーはきっと助からずに死んでいた。だから……礼を言いたいんだ。それと、助けた分に見合ったもんは今出せないが、今回助けてくれた報酬の分を……」

 

「報酬などいらん。そもそも報酬は既にシトリーから受け取っているし、僕は患者が助かっただけで満足でもあるんだ。だから礼なども本来いらない」

 

そいつは……とても変わった奴だった。他の医者ならば高値の金銭を要求する筈なのに……こいつは礼すらも受け取ろうとしない。

 

(だがそれでは俺も引き下がれん!)

 

「な、なら俺があんたに出来ることはないか⁉︎」

 

何も考えずにそう言った。

 

「……くどい様だが、僕は何かが欲しくて助けた訳じゃあない。患者の求める声を聞いてここに来たまでだ」

 

それでも奴は拒否をする。

 

「……だが、お前はそれでは引かないという事は少なからず理解した」

 

そう言うと、奴は懐から何かを取り出して俺に投げつけてくる。粗雑な投げ方ではなかったから片手でもキャッチできた。

 

「それは僕を呼ぶための合図を出してくれるものだ。1日1回だけ使うことができる。使い方はその1箇所だけ出っ張っている部分を押せば僕が来るようになっている。ただし……強い想いで押さなければ押せないものだ。だから何かにぶつけたとしても壊れないしその反動で押されることもない」

 

「どうして……こんな物を俺に?」

 

「僕に対して何かお礼がしたい様だったからな。いつまでも煩く言われるのは嫌いなんだ。だから渡したまでだ。それともう1つ理由をつけるなら……僕はあまりにも自分の研究に没頭し過ぎて引き籠りがちなんだ。だからそれを変えるための処置だ。あぁ、後もう1つ理由をつけるのなら……」

 

 

 

 

「お前が僕のパトロンになりそうだったからな。そうしたならば、また珍しい症状を僕に見せてくれると思った。これは僕の直感だな。長居し過ぎた。では僕は行くぞ」

 

そう言って奴は部屋から出て行った。

 

「……たく。言いたい事だけ言って行きやがった。だが……」

 

(奴とはまた会えそうな気がする)

 

それと……俺は奴が……いや、俺の嫁さんを救ってくれた相手に対して奴と言うのは失礼だな。あの通りがかりの医者が、とある文献に出てくるあの神に思えた。

 

「ソーマ・アスクレイ……その神に似ている気がするな」

 

まぁ何故そう思ったかは自分でも分からんが、俺の直感がそう言っている。

 

 

 

 

「そういえばもう1人患者がいるはずだが……今どこにいる?」

 

「うぉっ⁉︎ お、驚かせるな……。患者というと……」

 

「僕が感じ取ったのは赤子ぐらいの大きさだが」

 

「そ、それならさっきレア様が連れて行ったな」

 

「そうか。情報提供感謝する」

 

そう言って医者は部屋を出て行った。

 

(たくっ……驚かせてくれる)

 

そして嫁さんの方を見ると、さっきまでの苦しみが嘘だったかの様に安らかな寝息を立てていた。本当にあの医者には感謝しなくてもしきれない。

 

(そういえばアスクレイ教の騎士団長の席が空いていたな……レア様に頼んでそっちに移してもらうことにしようか)

 

ふとこう思ったジェラルドは、レアに自分をアスクレイ騎士団の団長にさせて欲しいと頼むも却下された。しかしながら兼任するのであればという条件の元、ジェラルドはセイロス騎士団とアクスレイ騎士団の団長を兼任したという……

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

side レア

 

 

 

 

 

 

(さっきの神格は一体?)

 

突然感じ取った威圧……自分に向けてのものでは無かったのだろうが、それでも感じ取った。

 

(どこかであの威圧を……っ⁉︎)

 

思い出そうとすると震えが止まらない……こんな感覚に陥ったのは、1000年前のあの時以来だ。

 

「い、いや……まさかそんな……彼が生きていると言うのですか?」

 

そんな訳がない……彼はネメシスと同じ人間の筈だ。そのネメシスも寿命で死んだ。ならば彼も……ネメシスよりも若かったとはいえ同じ人間であるならば死んでいなければおかしい。

 

 

 

 

 

 

 

「そこの女性、少し待ってもらいたい」

 

「っ⁉︎」

 

呼びかけられて後ろを振り向くと、そこには黒尽くめで顔もフードを被り、そして口元も鋭い嘴の様なもので覆っていた者がいた。

 

「あなたがその手に持つ赤子……息をしていないな。早急に手を打たねば死んでしまう。僕に診させて貰えないか?」

 

「あ、あなたがどこのどなたかは知りませんが、この子は私が治します!」

 

「いきなり現れた僕を信じることはできないのかもしれないが、僕は医者だ。さっき命の危機に瀕していた患者を治してきたところでもある。それにその子は既に数分も息をしていない。非常に危険な状態だ。このままでは目の前の命が無くなってしまう。そうなる前に……僕に治療をさせてくれ」

 

「で、ですから! この子は私がt「くどい」っ⁉︎」

 

「ほんの少しで終わる。スキャン」

 

その者の目が青く灯る。どういう原理か分からないが、それを考える間も無く彼の目は元の色に戻り、それと同時に懐から何かを取り出した。あれは……何か赤い液体が入った小瓶?

 

その小瓶の蓋を開けると、それを目の前で小瓶の口を下に向けて赤い液体をこぼし始めた。

 

(な、何をするつもりなのですか⁉︎)

 

そのままでは液体が地面に溢れてしまう。

 

そう思ったのですが、なんとその液体は宙に漂ったまま地面に溢れる事はありませんでした。そして漂っていた液体がいつのまにか突き出していた彼の手元に集まり、球体の様になりました。

 

「動き出せ……生命よ」

 

そう言いながら彼は私が抱いている赤子に球体を入れました。それから1秒と経たずに、赤子は息をし始めて泣き出しました。

 

「よし、これで正常だな。用は済んだ。僕は帰るとしよう」

 

そう言い残してそのものは去って行きました。

 

(あの者は一体?)

 

「しかし……懐かしい感じがしました。1000年前の……あの日々が」

 

私はいつのまにかそう口にしていました。

 

(ですが……いくら考えても答えなど出ませんね)

 

レアはその時考えるのをやめたが……まさか自分の予想が当たっているかなど、数十年後には思いもしなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side out




ほんと前回よりも無茶振りになってしまいました。

そもそも自分でも「アスクレイ騎士団って何だよ⁉︎」って思いました。しかしながら書いたものは仕方ないのでこれからもこの設定は続けていこうと思います。

それと今回ジェラルドのお嫁さんの名前をリアと名付けましたが……作中でも名前が謎だったので勝手に付けました。私がただ単にそのルートへ行ってないからこそ、もしかしたら本当の名前が出ているのかもしれませんが……

また、セイロスとレアが同一人物であるという様な設定も、私が1週目しかしてないからな事でこうなっています。何週もしていて本当の事を理解している読者の方々には申し訳ありませんが、どうかこの設定でやらせていただきたいと思います……

〜追加〜

今回オリ主のお母さんとジェラルドを救う物語展開をしましたが、とある読者様の感想に答えたように、この作品自体本作前は時間軸がバラバラの設定で書かせてもらっています。理由としては、1週目では出来なかった支援値会話を2週目でどんどん開けているからです。ですので時間軸バラバラで書いています。ややこしくて申し訳ありませんが、どうかお付き合いお願い致します。


解説

・ホーリーランス

・ネガティブゲイト

どちらともテイルズ作品の呪文。しかし、やはりソーマが使うと効果が物凄く違ってくる。

ホーリーランスは光属性、ネガティブゲイトは闇属性の呪文。しかしホーリーランスには鎖などなく、ネガティブゲイトもどこかにものを移送する呪文ではない。







とまぁここまであとがきも書かせていただきましたが、明日は休みということもあって今から風化雪月してきます!

それではまた次回‼︎

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