(ありふれた肉体では世界最強になれず苦悶の表情を浮かべる肉おじゃ)   作:ほろろぎ

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お待たせして申し訳ナイス!
これにて終わり!閉廷!




「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

「や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛も゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!」

 

 憎しみの暗黒面に身を堕とした肉体派おじゃる丸。

 憎体派となった彼は、自身に苦痛を与えていたひでの群れを一方的に虐待していた。

 拳で、足で──殴り、蹴り、時にはビンタを食らわせる。

 ひでが武器として持っていた鞭や竹刀を奪い取り、それらを振るいひでの体に制裁を与えていく。

 今の憎体派おじゃる丸は、暴力という名の小さな嵐であった。

 

 憎おじゃの鍛え上げた肉体プラス、憎しみの力によってもたらされる苛烈な責めに対しては、魔獣の中でも段違いの耐久力を持つひでとあっても抵抗は無意味である。

 これまで数の多さを利用して一方的な虐殺を繰り返していたひで族だったが、遂にその身に罰を受ける時が来たのだ。

 

駆鬼鬼鬼鬼(クキキキキ)……」

 

 鬼だ。今の虐げられる存在へと落ちぶれたひでにとって、おじゃる丸はまさに地獄の鬼と同等の脅威の存在である。

 

「鬼いさん許して!」

 

 思わず許しを請うひで。だがあれだけ(なぶ)っておいて、今更許してもらえる訳がな~い♪

 結局ひでたちは辞世の句を残すことすらなく、憎おじゃの手によって一族そろって皆殺しの憂き目にあったのだった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 数10頭いたひでの一族を根絶やしにした憎おじゃは、力を使い果たし地面の上で大の字になっていた。

 未だハアハアと肩で息をするくらい暴れまわっていたのだから当然だろう。

 しばらくして体が休まると共に、呼吸も安定してくる。同時に、怒りで忘れていた空腹感が再び押し寄せてきた。

 

「(今のお腹の空き加減は)120(パーセント)ぐらいじゃないすか」

 

 とはいえ今回の迷宮探索は日帰りの予定だったため、憎おじゃも食料品などは一切持ってきていない。

 そんな現実など知ったこっちゃないとばかりに、彼のお腹は容赦なく空腹を訴えてくる。

 そういえば、と憎おじゃはあることを思いだした。確かひでたちが、自分を材料にするためにカレーを作っていたはずだ。

 ダルそうに起き上がり辺りを見回すと、大きな寸胴鍋が火にかけられたまま放置されているのが目に入る。

 

「(カレーなら食べられ)そうですね」

 

 魔物の作ったものとはいえ、カレーなら人間の口にも合うはずだ。

 鍋の元へ近づき匂いを嗅ぐと、香辛料のスパイシーな香りがより一層空腹を掻き立てる。

 おたまを使い鍋の中身をかき混ぜてみると、ふとおかしな点に気付いた。

 

「うわーっこれ(具が)抜けてるんだねハァッ」

 

 そう、カレーはスープのみで構成され、具が一切入っていないのだ。

 煮込まれてスープに溶け込んでしまったという訳でもない。肉も野菜も、ひとかけらの痕跡も無いのである。

 どうやらひでたちは、具材は憎おじゃの肉だけで賄おうとしていたようだ。

 

「ハララララァ……(溜息)」

 

 ガッカリと肩を落とす。スープだけではこの空腹も、一時は満たされるだろうがまたすぐに空になってしまうだろう。

 なにか具材になりそうなものはないかとひでの住処を漁ってみるが、生憎食料品の類はなにも見つから無かった。

 そうこうしている間にも、憎おじゃの飢餓感はどんどん強くなってくる。

 なんでもいい、なにか食べたい。なにかないか、なにか……。

 周囲を見回す憎おじゃ。ふと、辺りに散乱しているひでの死体に意識が向く。

 魔物とはいえこれも動物の肉。牛や豚と変わらない。ならば、これも食べることができるのではないか……?

 憎おじゃは死体の山の中からひでが所持していたナイフを見つけると、それを手に死骸の1つを解体していき、一口サイズにまで裁断すると鍋に投入した。

 煮込むこと数10分。ひで肉にしっかり火が通ったことを確認すると、憎おじゃは待ちきれないといった風に勢いよくそれにかぶりついた。

 

「物凄い……(笑) なんか、筋肉(すじにく)? なの?」

 

 きちんと煮込まれているというのに、ひでの肉はとても筋張っており固かった。まるで凝縮されたゴムみたいだぁ……。

 おそらくひで族特有の超耐久性が影響して、筋肉が頑丈にできているせいだろう。

 食べづらいことこの上ないが、空腹には勝てず憎おじゃは次々と肉を飲み込んでいった。

 やがて満腹になり食事の手を止める。凄いねぇ、満足感はどのくらいあるかな?

 

「まぁ120パーセントぐらいじゃないすか」

 

 その時、突如憎おじゃの全身を激しい痛みが襲った。それは体の内側から生じて、時間と共に耐えがたい激痛へと増大していく。

 

「なんすかこれ……!?」

 

 訳も分からないまま憎おじゃは地面を這いずり、ひでが持っていた神水が入った瓶の元へ行きそれを飲んだ。

 だが、どういう訳か痛みは一向に引かないではないか。

 神水の影響で気絶もできないまま、激しい痛みに苦しめられ続けるる憎おじゃ。

 

「グギギギギ……!!」

 

 のたうち回るその脳裏で、これまでの憎おじゃの人生がまるで走馬灯のように思い起こされていた。

 激痛と生涯のフラッシュバックにどれほどの時間苦しめられただろう。

 ぐったりと地面の上に横たわる憎おじゃの姿は、以前とわずかに差異が見られた。

 宮家の子息のような雅な黒髪は真っ白に退色し、表皮には赤黒い線が何本か走っている。

 そして、自慢の筋肉はよりしなやかに、鋼をも超える頑強さを持つものへと生まれ変わった。

 痛みが引いた憎おじゃは、親友の南雲ハジメが言っていたことを思い出していた。

 

『魔物は同じ魔物の肉を食べることで、相手の特性を自分の中に取り込んでより強くなるんだ』

 

 通常、魔物を食べた人間は体が耐えられず死亡してしまうのだが、幸いにも憎おじゃはひでによって奇跡の回復薬、神水を飲まされていた。これが彼の命を救ったのだ。

 そして、ひでの特性を自らに取り入れた結果、憎おじゃの筋肉はあらゆる攻撃を無効化する超耐性を手にしたのだった。これまで1桁だったレベルも、一気に120くらいに上がっている。

 そんな憎おじゃの前に、突然複数の魔物が姿を現した。

 

「(こんな所にいたとか)うっそだろお前!(大草原)」

「(まだ生きてたとか)馬鹿じゃねーの(笑)」

「あっ、こいつかぁ!」

 

 上の階層で彼を取り合っていたKBTIT、TNOK、ヒゲクマの3体だ。どうやら憎おじゃを食べることを諦めておらず、ずっと探していたようだ。

 

「お前を芸術品に仕立てや……仕立てあげてやんだよ。お前をげいじゅつし……品にしたんだよ! お前を芸術品にしてやるよ(妥協)」

 

 舌なめずりをし、憎おじゃを料理してやると告げるKBTIT。他の2体も牙を向ける。

 そんな魔物たちに対して、憎おじゃは堂々とこう言った。

 

「(つべこべ言わずにかかって)来いすか?」

「……ひじょ~~~~~に反抗的な態度すばらしいですね」

 

 挑発的な言葉にヒゲクマたちは額に青筋を浮かべ、憎おじゃに飛びかかっていった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 迷宮を下へ下へとくだっていく憎おじゃ。今のレベルは290だ。

 憎おじゃへと牙をむいたKBTIT、TNOK、そしてヒゲクマの3体の魔物は、レベル120くらいの彼の手によってあっさりと返り討ちにあったのだった。

 そこからレベルがさらに上がったのも、葬った3体の肉を新たに食べた影響である。

 今の彼はもはや、役立たずと陰口をたたかれていた肉体派おじゃる丸ではない。

 魔物の魔力を行使でき、あらゆる攻撃を無効化する無敵の体を持った、肉体覇王じゃる丸である。

 

 そして、今の肉おじゃはひでに襲われた時のように、再び憎しみに身をゆだねていた。

 それは激痛で垣間見た走馬灯で、レシートリザードと対峙した時のことを思い出したからだ。

 あの時肉おじゃとハジメの前に降ってきた攻撃魔法は、偶然の事故などではなかった。故意に放たれたものだったのだ。

 その攻撃を行ったものこそ、かつてハジメを虐めていた檜山 大介なのを思い出した。

 自分が地下に落とされ、魔物に襲われ、死ぬほどの苦しみを味わう羽目になったのも、すべては檜山の行いが原因。

 

「(必ず生きて地上に戻って、檜山の野郎を)殺すか?」

 

 肉おじゃの中に、人に対する初めての殺意が宿った瞬間だった。

 

 地上への脱出ルートを探し求め、地下迷宮の探索を始めて幾日か経過した。

 ついに到達した50階層で、肉おじゃは他とは異質な雰囲気を放つ扉のようなものを発見する。

 一応他の道も探ってみたのだが、どうやらこの階層にはこれ以上下に降りるルートは発見できなかった。扉を開けて先に進むしかないようだ。

 扉には解読不能の魔法術式が施されており、魔力を通そうとするとなんらかの罠が作動する仕掛けの様だ。

 

「(それなら)こうすか?」

 

 肉おじゃは魔力を使わない、ただの拳によるパンチだけで重厚な扉を破壊してしまったではないか。これも日々の鍛錬プラス、取り込んだ魔物の力による賜物だ。

 破壊された扉の中を確認する。

 暗闇の中目を凝らすと、部屋の中心にオブジェのように鎮座している物体が目に入った。

 

「……あら、誰かしら?」

 

 オブジェだと思われたのは、石に埋め込まれるように体を拘束された女性だった。

 

 デデドン!

 

 女性の顔を直視してしまった肉おじゃは、そのあまりの醜さに心停止を起こして倒れてしまう。

 しかしひで肉を食べることで身に着けた耐久性により、完全に死に至る前にどうにか自己蘇生することができた。

 

「人の顔を見て意識を失うなんて、ずいぶん失礼な坊やじゃない。それとも、あまりの美しさに気絶したって訳かしら?」

「凄いねぇ。自惚れはどのくらいあるかな?」

 

 よろめきながらも肉おじゃはゆっくりと立ち上がると、女はマイペースにこんなことを言い出してきた。

 

「ねえ、ここで会ったのも何かの縁だし、私を助けてくれないかしら」

「えっ、なん(でそんなこと)す(る必要があるんです)かそれ」

 

 こんな地の底で封印されている魔物顔負けの醜悪な女なんて、助けてもロクなことにならない。肉おじゃは踵を返し部屋から出ようとする。

 

「しょうがないじゃん。仲間に裏切られたんだし」

 

 何か訳がありそうな雰囲気を匂わせる女。

 自分を騙そうとしているかもしれない、と無視しようとする肉おじゃだが、ふいに自身の親友のことが頭をよぎった。

 多分、ハジメなら見捨てるようなことはせず女を助けてやるんだろうな……。

 足を止め、困ったように頭をかき、やがて肉おじゃはもう一度女の元へ戻っていった。

 

「まずは理由を、話して、下さい」

 

 そう言って続きを促す。

 

「別に難しい話じゃないわ。私は超優秀な獣人族の王の娘で、彼氏と結婚して次期王女になる予定だった。式の直前、私の力を恐れた仲間──KBSトリオの手によって彼はレイプされ、私はここに閉じ込められた……」

 

 

 まるで映画のような内容に、肉おじゃはハハァ……とため息のような相槌を打つ。

 

「ねえ、お願い。私を助けてちょうだい。助けてくれたら……」

 

 くれたら……?

 

「一万円くれたらしゃぶってあげるよ?」

「(いっぺん死んで)こいすか?」

 

 うわーっこれイラつくんだねハァッ。やっぱり見捨てようかなと額に青筋を浮かべる。

 

「冗談よ。助けてくれたら貴方に協力してあげる。貴方、この地下迷宮から脱出したいんでしょ?」

「そっすね」

「このオルクス大迷宮を造った主の部屋がある場所を知ってるわ。そこへ案内してあげる」

 

 女の口ぶりから嘘をついている様子は見られない。肉おじゃは彼女の言葉を信じることにした。

 まずは女の拘束を解くため彼女が埋め込まれている石を、これまた肉体の力のみで破壊する。

 拘束を解かれた女は、久方ぶりに手にした自由を噛み締めながら伸びをした。

 あっ、そうだ。と女は肉おじゃの方を向き言葉を発した。

 

「貴方の名前、教えてくれない?」

 

 肉おじゃは自分の名を伝え、次いで女の名を問い返した。

 

「アマチ……いえ、この名はもう捨てるわ。よかったら、貴方が新しい名前を付けてくれる?」

 

 女の無茶ぶりにしばし考えを巡らせる。そういえば昔ハジメと見た動画で、女に似た昭和の歌手がいたことを思い出す。

 肉おじゃはその歌手名からとって、女に『ピンキー』という名を与えた。

 

「……ありがとう。私の名はピンキー。よろしくね、肉おじゃ」

 

 ピンキーは満足気にほほ笑んだ。

 

「ところで、そろそろ来るわよ」

 

 突然意味不明なことを口走るピンキー。その直後、2人の前に大きな黒い影がふってきた。

 最初、それは岩石かなにかかと思われたが、影はゆっくりとした速度で動き始めたのだ。

 それは体長5メートルはある、巨大な猿状の魔物だった。地球で言うスローロリスに似た姿をしている。

 

「なんすかそれ?」

「私を逃がさないための罠ってところね」

 

 スローロリス型の魔物──淫夢くん──は、ヴォー……と汚い雄たけびを上げ2人を威嚇する。

 淫夢くんはおもむろに腕を上げると、腋から毒液を噴射する。2人は寸での所でこれを回避した。

 

「気を付けて、こいつは厄介な相手よ。一緒に倒しましょう」

 

 協力を申し出るピンキーだったが、肉おじゃはこれを断った。訝しむピンキーに対して肉おじゃは余裕の表情を崩さない。

 

「ちょっと軽く魔力発動するから」

 

 肉おじゃの右拳に強烈な光が宿る。以前葬った狼型の魔物、TNOKの特技である雷を使う魔法──纏雷(てんらい)──の応用技だ。

 

「こうすか?」

 

 肉おじゃが放った右ストレートは、まさに雷と同等の超スピード!? で淫夢くんに直撃し、その上半身を跡形もなく吹き飛ばした。

 これぞ肉体覇王じゃる丸が得た、拳に雷を収束させて放つ魔法『纏雷天激(てんらいてんげき)』である。

 

「……淫夢くんのレベルは107だったのに、貴方すごいわね……」

 

 ピンキーは呆気にとられたように一言漏らすのみだった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 その後、肉おじゃは淫夢くんの肉を摂取しさらにステータスを上げ、2人は地下へと潜っていった。

 道中襲い来るさらなる魔物たちと対峙するたびにこれらを排除し、肉おじゃは魔物を食しパワーアップしていき、レベルはいよいよ測定不能と表示される域に達した。

 ついにたどり着いた最下層で、迷宮の創造主である男の遺言を聞き世界の真実などを知らされたりもしたが、もともとこの世界に無理やり連れてこられた肉おじゃは特に興味を示さなかった。

 

「句喜喜喜喜……」

 

 迷宮の主によって神代魔法を与えられた肉おじゃは、ようやく目的であった地上への脱出を果たせる段階にこれたことに喜びを隠せない。

 半面、ピンキーはどこか寂しげな表情浮かべていた。

 

「(理由を聞いても)いいすか?」

 

 ピンキーの表情の理由を尋ねる肉おじゃ。

 

「だって、ここから出たら貴方は仲間の所に戻っちゃうんでしょ。私とはお別れじゃないの」

 

 ピンキーも自分の部族に帰ればいいんじゃないか、と肉おじゃは言うが

 

「私の一族はとっくに滅びちゃったわ。もう私には、行くところなんてないのよ……」

 

 ハハァ……、と得心がいった肉おじゃ。なら、と言葉を続ける。

 

「(俺と一緒に)来いすか?」

 

 その言葉に驚きの表情を浮かべるピンキー。

 

「……いいの?」

「イーヨー……」

 

 悩むそぶりも見せず即答する肉おじゃに、ピンキーは思わず抱き着いてしまった。

 

「肉おじゃ、貴方はいい男ね」

「(照れ隠しで)笑っちゃうんすよね」

 

 2人は転送用の魔方陣に乗ると、瞬時にオルクス大迷宮の入り口付近にまで転送された。

 これまでの苦労が嘘のように感じられる解放感に身をゆだねる肉おじゃ。

 親友のハジメに再会できることに、これまで自分を疎んじてきたクラスメイトたちにすら会える嬉しさが凝縮されてるんだ。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「イッキーマウス……」

 

 2人は暗闇の迷宮から足を踏み出し、地上の暖かな陽の光の中に包まれるのだった。




ちなみにピンキーはずっと裸です(絶句)
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