「……さあ、やるぞ」
部長の声に、ゴクリと喉を鳴らす音が聞こえた。それは怖がっていた晋助先輩かも知れないし、今、不思議と緊張している私かも知れない。もし、今の私と同じ気持ちなら、他の皆も。
ちなみに、こっくりさんは肝試しをするグループ毎にすることになっている。まず第1グループの私、利恵、千恵、部長。第2グループの沙苗先輩、晋助先輩、優樹で別れている。
部長が静かに息を吸う。
「こっくりさん、こっくりさん。どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進み下さい」
始まった。そして、私たちが人差し指をのせた十円玉が動─────
「いよーーーっす!元気してるか、生徒共!」
バァンッ!と大きな音をたてて部室の扉が開かれた。
張り詰めた空気であったために、千恵が驚いて十円玉から指を離してしまった。
制止する間も無かった。なんせ私も驚いていたのだから。
「おっ。こっくりさんかぁ!懐かしいなー!先生の世代はうちのじいちゃんの影響で友達から広がってな。結構人気だったんだぞ?あっ、こらこら千恵!指離しちゃダメだろ?」
「うぅー!先生のせいだもんっ!」
千恵は頬を膨らませて不満そうであるのに対して、私や古宮姉妹のクラスの担任の女教師、
確信犯だ、この人。
ケラケラと笑っていた久美先生だったが、ふぅーっと一息ついた。
「はぁー。笑った笑った。学生諸君!許可貰ってるとはいえ、あまり遅くまでいるなよ?帰りに補導されるからな。じゃあな〜。」
久美先生はチラリと千恵に目を向けると、わざとらしく、ぶふっ!と吹き出して出ていった。
「もぉー!」
またもや怒っている千恵を宥めて、こっくりさんを再開することにした。しかし。
「……ねえ。何か変な音が聞こえなかった?」
不意に沙苗先輩がそんなことを言い出した。少し顔を青くした晋助先輩が慌てて茶化した。
「ちょ、おいおい沙苗!いくらなんでもそりゃねぇって!怖がってんの認めるからマジでやめてくれよ!」
「いや、違うのよ。声が聞こえたとかじゃないの。何かが弾けたような音よ。例えば水風船みたいな」
しかし、私達の予想とは反して沙苗先輩が聞いたのは冗談じみた霊的なあれこれではないようだった。
「はぁ。まったくあの先生は姿を見せなくても驚かせようとするなんて。困ったもんだよ。沙苗が言ったようにまさしく水風船の音だろう」
呆れたような様子でため息をついて部長が言った。しかし、次いで聞こえてきた音は私達の耳にも届いた。誰かが走って来る音だ。
そして、またしても勢いよく扉が開かれた。やはりそこに居たのは久美先生だった。しかし、少し前の彼女と違っている点をあげるとすれば、左腕がないというところだ。付け根からはおびただしい量の血が噴き出ている。
言葉を無くした私達に、先生は必死の形相で言葉を発した。
「お前ら!今すぐここから」
逃げろ、と。その言葉を言い切ることは出来なかった。
黒が。影が。夜が。久美先生の胸を後ろから刺し貫いたから。
久美先生は口と胸から血を噴き出して目から光を失い、黒い何かが久美先生の身体を宙吊りにした。
ビクリビクリと久美先生の
訪れる静寂。あるのは液体が噴出して床に落ちる音だけ。誰も話せない。誰も動けない。
夜が、夜だけが、
直感だった。衝動的だった。でも、動けた。命を救えた。
私は、利恵に飛びついた。利恵の頭があった位置を通って夜が部室の壁に突き刺さった。そして、沙苗先輩の悲鳴を合図に、私達は校舎の外へ出るべく、部室のもうひとつの扉から出て、蛍光灯の消えた廊下を走った。
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「……っはぁ、っはぁ!……んなんだよ!なんなんだよアレぇ!?」
「わからないっ!でも、……っはぁ……とりあえず走れ!話はそれからだっ!」
私は走りながらチラリと後ろの部室を見た。
見た。
それを。
肉を貪り、血を
ゆっくりと此方を振り返り、ニタリと
私は見た。わざわざ、ご丁寧にも私に見えるように先生を久美先生の遺体を持ち上げ、ぶら下がった腸を麺類よろしく啜り、グチャグチャと口を開閉して
ゆったりと歩く構えをとった姿を見て、姿勢を見て、わかったことがある。アレは、狐だ。
「こっくりさん」
ここに地獄の鬼ごっこが始まった。
先程まで綺麗に輝いていた月は、雲に覆われて全く見えない。