遅れてごめんなさいぃ!
「……うっ。……つぅ……!」
痛い。……痛い?私、死んだはずじゃあ……。
まだ痛む腹部の傷は跡は残っているがほとんど
「……あの白い狐、かな」
私が意識を失う前に見た白い狐。この現象はあの狐が起こした可能性が高い。ぼんやりとしていた意識の中で傷を舐めていたのを覚えている。
しかし、身体を起こして周囲を見渡しても、もうどこにもいない。
あるのは、私の親友だった利恵の頭の無くなった死体。それだけだった。それが私に強烈な吐き気を与え、耐えることが出来ずに倒れていた廊下の
苦しい。頭が痛い。……首を食いちぎられる利恵のほうがきっともっと、もっと、もっと苦しかっただろう。吐き気が増す。頭がもう1つ心臓のようにズキズキと波をもって痛む。苦しい。
誰か……助けて……
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どうしたものでしょうか……。
私が生徒会室の扉を開けるとともに倒れ込んで気絶してしまったオカルト研究部の部員、古宮さん─────こちらはお姉さんでしょうか、妹さんでしょうか─────は全身血
古宮さんの鼻をきゅっと摘む。穏やかな顔を段々と
「────っぷは!」
「おはようございます」
安心して頂こうと穏やかな笑顔で挨拶をすると何故か怯えられました。解せません。これは事情を聞くのに時間がかかりそうですね……。
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「綾!」
……ゆうき?なんでゆうきが……?
「綾!しっかりしてよ、綾!」
私は無意識のうちに優樹にすがりついていた。そして、今はただ何もかも忘れて泣きたいという欲求を満たした。
「……ごめんね。迷惑かけちゃって」
「いや。仕方ないよ。……親友が死んだんだから」
私はなにも答えることが出来ずに、ただ優樹についていった。優樹の背中は、いつもよりも大きく感じた。それに安心感を得た私は、浮かんだ質問を口にした。
「そういえば優樹、なんでここに?晋助先輩と沙苗先輩は?」
「……。綾が心配になってさ」
「ええ?!」
私の心配をして来てくれたと聞いて、こんな時なのに心臓が高鳴って顔が熱くなってしまう。このような不意打ちはずるいと思うのだ。
「あ、で先輩達は?」
照れ隠しに質問をした。しかし、すぐには答えが返って来なかった。しかし、私が再び口を開こうとした時、答えは返ってきた。
「多分、他の場所に行ってるよ。実はさ、昇降口、なんだか毛で覆われてて出れなかったんだ。なんだか動物の毛みたいだったよ」
……毛?こっくりさんが狐だからかな。
「……あれ?こんな所に扉なんてあったっけ」
「え?」
言われて指の指されている方を見ると、そこには見覚えのない扉があった。
「いや、あってたまるもんですか。普通は扉がある場所じゃなくて扉がなかったよねって確認しない?」
この幼馴染は昔からどこかズレているのだ。同じ物を見てても私達とは別のところで驚いていたりするのだ。今はいつもと変わらないそれが安心感を与えてくれる。
突然、近くで液体が叩きつけられたかのような音が鳴った。音のする方を見ると、べっとりと血がついていた。
嫌な予感が心臓を早打たせ、素早く周りを確認するが、こっくりさんは見当たらない。どうやら食べた誰かを吐きつけた訳ではないようだ。
「……これ、文字だ。漢文……だね。僕、漢文苦手なんだよな……」
「私、得意だからそのまま訳して読むね?……えっと。」
『汝、呪われし人。汝、この学舎よりでることは出来ない。もし出たければ、白きに認められし者、白き参を連れてここへ来い』
疑問顔の優樹に、取り敢えず出たければ人を集めればいいんだよ、と伝える。なるほど、と返事が返ってきたところで私は、気絶する前に見た白狐を思い出した。
漢文の『参』は「参る」じゃなくて、漢数字の「
「探さないと……!」
「うわあああああああああああああ!!」
「優樹!?」
優樹が突然大声を出して走り出した。後ろから大音量の鳴き声が聞こえる。こっくりさんだ。
振り返る時間すら惜しく感じて、そのまま駆け出す。恐怖で呼吸が引き
長距離、短距離問わず学年上位という無駄な身体能力の高さでもって優樹に追いついて並走する。幸いにもこっくりさんはゆっくりと歩いて追ってきている。きっと逃げ切れるはず。
「……っはぁ、っはぁ……クソッ!」
不意に優樹が私の胸に
「はは!あははははは!僕のことが好きなんだろう!?だったら僕のために死ねよ綾ぁ!じゃあなァ!」
私は苦しさに喘ぎながら
「……ぅっぐぅ……ケホッ……!」
しかし今は傷ついている時間すらない。とにかく進まないと。こっくりさんがまだ遊んでいるうちに。でなければ、次は私が、私が殺される!這いずってでも、とにかく前に!
ざりっと何かが床の石材を削る音がした。
私の上を風が走った。
視界の先で、回り込まれた優樹がこっくりさんにこちらへ向かって吹き飛ばされるのを見た。吹き飛ばされた優樹は私の近くまで転がって、
私はそれを冷めた目で見ていた。
「……ぐぅっ……がはっ……。はぁ……はぁ……!……れか……すけ、ろよぉ……!僕を助けろよお!ああああっ!クソクソクソクソ!おい綾ぁ!役立たずが!なんで化物の気一つ引けないんだよゴミがぁ!?」
優樹はそんな勝手なことを言ってくれる。この満足に動けないこの状態でどうやって気を引けというのか。
ふぅ、と一息ついた。呼吸はもう整っている。ならこれからとる行動はただ一つ。
私は、立ち上がって優樹を背負った。
「……っはは!そうだよ。それでいいんだよ!早く行けよ!」
「うっさい!」
「……は?」
さっきから本当に勝手なことばかり言ってくれるものである。こいつの器の小ささはわかった。性格の悪さも。今じゃ顔を見るだけでイライラする。でも、そんなやつでも死んでいいなんてことがあるわけない。
「……顔見知りが死んじゃったら、寝覚めが悪いじゃない。だからこれは、私のため。アンタのためじゃないから」
「……」
取り敢えず走り出し、階段を下りるところで振り返ってこっくりさんの様子を伺ったが、追ってきてはいなかった。