ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:ジャミトフの狗
「そういえばロー、お前何で墨入れたんだ」
まだ私たちが
「特にこれと言った理由はないけれど、どうして?」
「いや別に、ただ何となく気になっただけだ」
そう告げると彼は呆気なく話を終えて、また作業に戻ろうとする。何故かそれが面白くないと、そんな風に感じたのだ。
「そうね、強いて言えば身体に何かを刻むって行為に憧れてたからかしら」
私が口を開くと彼はこちらに向き直り、「へぇ」と気のない返事をする。そして「じゃあ指の『DEATH』の意味は?」と聞いてきた。
「目を背けちゃいけない事でしょ? 医者としても、海賊としても」
「なるほどな」
彼は納得したのか「ふむ」と頷く。お互いぼんやりと海を眺めていた。するとふと、彼は思いついたように口を開いた。
「でもどうしてハートを模したタトゥーなんだ?」
「それは……」
聞かれても少し困る。結局のところ全ては『かっこいいと思ったから』という、本当に何でもない答えになる。でも数ある絵柄からコレを選んだのにも、確かに理由があると思う。
「信念、かしら」
思いついた言葉をつぶやいてみる。
「信念?」
「そう、信念。私がこう在りたいっていう」
いざ言葉にするとしっくりくる。体に刻んだハートは色々な人たちから受けた愛、そして私からの彼らに対する愛と信頼を表しているものであると。だからこれは彼らに向けた私の意思表明。
「そういう意味で言ったら、このタトゥーは貴方にも向けられたメッセージって事にもなるのかしら」
「なんだそりゃあ」
「秘密。でもそうね、
直接言葉にして伝えると、どうしてか陳腐になってしまうような気がした。何より私自身も彼に向ける親愛が一体どういうものなのか分からないのだ。
「ふむ。なんだか要領を得ないが、ひとまずそのタトゥーは似合ってるよ」
「でしょう?」
「さて。そんじゃあまあ、そろそろ作業に戻るとしますかね」
「ええ」
いつの日かの、何でもない思い出。何故こんな懐かしい夢を見ているのだろう。
★
「……ここは」
目が覚める。体を起こすとそこが小さな酒場であることが分かった。カウンターで女性が食器を洗う中、こちらに背を向けて座る老人の男性はグラスを傾けていた。
「起きたかね」
後ろを向いたまま老人は声をかけてくる。声と風格ですぐに分かった。
「……あなたは、シルバーズ・レイリー」
「可愛いお嬢さんに名を呼ばれるのは何時ぶりかな」
「ここはどこ」
「13番
彼がそのように言うと、奥の女性が呆れた顔をする。恐らく彼女が店主なのだろう。
「ツバメは」
「一人で黄猿に挑んだよ」
「そう」
知っている。彼は最後に私を殴って黙らせ、その挙句一人で死にいった。おかげで私はここにいる。
「……世話になったわ」
鬼哭を持ち、店を出ようとする。私がすべきことは決まっている。
「まぁ待ちたまえ」
「……何?」
「外にはまだ海軍がいる。黄猿は既にこの島から発ってはいるだろうがね」
「なら急がないと」
か細く、今にも止まりそうな鼓動が胸を鳴らしている。彼はここから遠く離れたところにいる。方向は何となくわかる。なら後は向かうだけだ。
「だから待ちたまえ」
男の声音に険しさが入る。しかしなぜだろう、まるで恐ろしく感じない。
「……何かしら? 急いでいるのだけれど」
「君が何をしようとしているのかは私にもわかる。大方、護送されたツバメ君を救い出すという算段だろう?」
分かっているのなら早く行かせてほしい。こうしている間にも彼は、本当に取り返しのつかない場所に行ってしまう。
「ツバメ君は黄猿により直接インペルダウンに引き渡される」
そんな事、言われるまでもなく分かっている。だから私はその前に彼を救出する。
「彼の事がそんなに大事かね」
大事か、大事でないか。そんな領域の話ではない。少しうるさい。
「君ではどう足掻いても黄猿には勝てない」
うるさい。
「彼一人の命で君は助かったのだ。幸運だったな」
うるさい。
「どの道ここで敗北するような男では、新世界の猛者たちと張り合う事など、とてもとても」
「うるさい!!」
鞘を抜いて切りかかる。しかし刃は途中で止まってしまった。他でもない、この目の前の老体に二本の指で止められたのだ。
「離しなさいっ!!」
「彼は君を救うために命を差し出したのだ。その覚悟を君が踏みにじるのかね」
「覚悟? 覚悟ですって?」
そんなの覚悟でも何でもない。私が自分が死ぬ事よりも恐れていることを彼はやった。私の全てを知っているうえで、それでも私を残していくというのなら。
それは許されることではない。私に対する最大の冒涜だ、最悪の裏切りだ。一人で死なせるくらいなら一緒に死んでくたばった方が良かった。勝手に死ぬのなら私がこの手で殺してやる。
「彼は、私の
「……君は化生の類だったか」
「化け物で構わない。それで彼をどうにか出来るのなら」
死なせたくない。だから助ける。でも死んでしまうのなら、いっそ
過去に、私に人生を与えてくれた人がいた。その人は死んでしまったけれど、私に生きることを教えてくれた大恩人だ。そしてその生まれたばかりの人生に、いつの日か陽だまりを差し込んでくれたのは彼だった。
いつも私の隣にいてくれた。それでいて半歩引いたところから見守って、背中を守ってくれる人だった。間違った事をしそうになれば、忠言してくれる人だった。だから私は海賊でも、畜生に身を落としたことは無い。しかし今はもう、畜生になろうが、化け物になろうが、その事を正してくれる人はいない。
「依存してる事なんて百も承知よ。でも彼は許してくれた。間違いではないと、言ってくれた」
人は一人で生きていけない。依存できる相手がいるだけでも上等だと。彼はこの醜い感情を余すことなく笑って受け入れてくれたのだ。
「私は行く。私のモノを取り返すために」
世間から見れば私は間違っているのだろう。でも彼が許してくれるのなら、私は私に素直になる。助けたいから助ける。殺したいから殺すのだ。なぜなら、彼は私のモノなのだから。
「ここに、君の命があったとしてもか」
男はキューブ状の枠に包まれた心臓を見せる。その鼓動からすぐに私のモノであることが分かった。しかしそれが何の意味があろうか。
「それは彼にあげた私の心臓よ。だから彼がそれをどう扱おうが、私の知ったことではない。あくまでも私はツバメという、彼そのものを取り返したいだけ」
私が彼を好きにしていいように、彼も私を好きにしていい。でなければこの関係はなり立たない。一方的な想いなど、そんなものは刹那的にしか在り得ないのだ。
心の底から出た言葉に冥王は久しく固唾を飲み、目を閉じた。
「……そうか。もはや情愛などでは済まないのだな、君たちの関係は。ならばこれは君に渡すべきなのだろう」
「どうして? ツバメはあなたに預けたのでしょう」
「彼から君に渡せと言付かっている。君の言う通り、これが
そう言って、彼は心臓を差し出してくる。
「……そう」
約十年ぶりの己の心臓を見ても、何の感慨も抱くことがない。どうせなら彼の心音を聞いてた方が安心する。
それを異常とするのなら、それは間違っていないのだろう。否定はしないし、するつもりもない。しかしそうさせたのは彼だ。
「責任は、きっちりとってもらうから」
・主人公
ロー子を甘やかしすぎた結果、滅茶苦茶依存されてしまった罪深き三十路。ただし本人も彼女に色々な意味で依存しているため、ウルトラ共依存状態。
・ロー子
原作も潜在的な病み要素がある気がしないでもないですが、それを差し引いてもキャラ改変が激しい子(なんなら女体化させてるし)。全力で主人公を助ける所存だが、それが叶わないのなら己の手で引導を渡したいというサイ子。
次回、インペルダウン編。