ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~   作:ジャミトフの狗

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次回はインペルダウン編だと言ったな、あれは嘘だ。


シャボンディ諸島編8

 

 ―――どうしてまだ立ち上がろうとするんだろう。

 

 無様に地面に這い蹲る俺は、両足に力を込めながらそう思う。左肘から下の感覚は既に失っており、右目は潰れてしまったからかその機能を果たしていない。立っているだけで億劫なのに、それでもそうすることには理由があるはずだ。

 

 残った目で見据えるのは海軍大将。残念ながらぼやけた視界ではそいつの表情は読めない。だが、きっと面白くは感じてないだろう。なんとなくわかる。俺だったらそう思う。

 

 ひゅん。

 

 痛覚は十分に働いていないが、それでも今自分が蹴り飛ばされた事くらいは分かった。痛みを感じる暇もなく追撃が来る。なんとなく己が焼き鳥になる未来が見えて、致命傷を避けるべく両翼を無理やり動かした。お陰でまた情けない格好でぶっ倒れる。

 

「———」

 

 男がまた何かを言っている。だが悲しいかな。今の俺に雑音を聞いてられるほど余裕はないんだ。

 

 未だに動いてくれる足を使って、もう一度大地に立つ。いい加減、倒れた方がいいのに。十分に時間は稼いだろうさ。誰も責めやしない。

 

 奴が背後に回り俺の脳天を砕く気がした。急いで頭を下げると、顔面に拳が飛んできた。僅かに顔を逸らす事ができたのか、思ったよりも吹き飛ばされる事はなかった。その代わりに元から潰れてた顔が更に醜いことになった。たぶん。

 

 「……み、える」

 

 少しづつ、少しづつ。敵の動きが見える、否()()()。視界が朧気であろうとも、鼓膜が破れて音が聞こえなかろうと。むしろだからこそ、分かるのだ。

 

 第六感が研ぎ澄まされる。この世界において、練り上げられたソレを覇気、特に見聞色の覇気と言う。そして己より数段格上の覇気使いと相対すると、人は覇気をより深める事が出来る。

 

 今、まさに俺はその状況にあった。

 

 右手に持つ短刀を構える。俺はなぜここにいるのか。時間稼ぎのためにこの場にいるのか?

 

 「……ちガ、う」

 

 勝つ気でいる。これっぽっちも負けるつもりはない。

 

 相手が何であろうと、この先の海を生きていくには強く有らねばならない。新世界に跋扈する海賊どもは強力で無慈悲だ。だから、こんな海軍の兵士一人に敗北するようではこの先思いやられる。あいつの命を預かるには、無敵でなければならない。

 

 ―――俺はこの戦いを経て強くなる。

 

 要するに俺の反応が光を超えればいいだけの話だ。相手は光の速度で移動してくる。ならばこちらはそのことを弁えた上で動けばいい。理屈はシンプル。動きは最小限。相手は光。攻撃の手段の殆どが点か線だ。

 

 レーザーによる下半身への攻撃。僅かに足をずらすことで回避する。

 

 光の速度で移動した後に上段蹴り。姿勢を低くすることで回避する。

 

 高熱の剣による光速の連撃。武装色を込めた短刀で受け流し、また身を捩って回避する。

 

 何をしてくるのか感覚的に、しかし明瞭に理解できるのに体がついていかない。何をどうすれば相手の攻めを完璧に凌げるのか分かるのに、体が思考に追いついていないのだ。だから致命傷を避けることは出来ても、決して小さくはないダメージをもらってしまう。

 

 かなり追い付いている。しかしまだ足りない。もっと研ぎ澄ませ。光よりも速い()()を見ろ。

 

 「———っ!!」

 

 黄猿が動く。視認さえ許さぬ拳が眼前に迫るのが()()()。間に合わない事を承知の上で首を傾け、そして同時に右足を薙いだ。

 

 頬骨が砕ける音を聞き届ける。しかし全く同時に足先から確かな感触を得た。その証拠に俺はまたも不細工に地面に叩きつけられたが、そこから黄猿の追撃が来ることも無かった。

 

 ―――光を捉えた。

 

 この戦闘になって初めて、俺は黄猿に触れる事が出来た。大局的に見ればそれは取るに足らない小さな一歩。しかし、今、確実に、俺は一つ上のステージに立った事を自覚する。

 

 見聞色の昇華、未来予知。その片鱗を今、体得せん。

 

 片目を閉じる。浮かんでくるのは光速の軌道。その線をなぞるように、俺は短刀をふるう。すると手ごたえを感じた。無論、俺も蹴り飛ばされて瓦礫の山に突っ込んだ訳だが。

 

 ―――血だ。

 

 俺のではない。俺の所持する刃物に血液が付着していたのなら、それは俺と相対する敵のモノであって然るべきである。故に間違いなく、俺は黄猿を斬りつけた。ようやく見えてきた成果に、喜びで口角が上がりそうになる。すると、

 

 「ゴ、っが」

 

 口からびっくりするほど血がこぼれた。

 

 「……あ、れ?」

 

 意識は朦朧としていた。あまり考えないようにしていたが、左腕は消し飛んでいた。右の眼球も完全につぶれている。とっくのとうに、死に体だった。

 

 「っぶ、ず」

 

 今更のように視界が赤く染まっていく。気づくと膝をついていた。その間にも黄猿に斬りつけられる未来が脳裏に浮かんだ。一刀両断される。しかしだというのに、体は全く動いてくれそうにない。

 

 ああ、まずい。これはどうしようもない。

 

 

 

 『———』

 

 

 とても大切な、とある女の姿を幻視した。

 

 

 

 

 「ガああああアアアアァァァァッッ!!!」

 

 短刀を後方に投げつける。眩い光を放つ刀剣を今にも振り下ろさんとしていた黄猿の胴体に、その短刀が刺さることはない。ただ無情にも通り抜けるのみだった。

 

 「いい加減、くたばりなよォ」

 

 それで、ぷつりと。電源を切ったテレビのように。終わった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 海軍大将、黄猿ことボルサリーノは眼前の血だまりに倒れる男を凝視していた。

 

 戦闘は約30分にも及んだ。正確には戦闘とも呼べぬ蹂躙だったわけだが、この男はボルサリーノの熾烈な猛攻に見事に食らいついたのだ。決して、ボルサリーノは全力を出してはいない。しかし油断も慢心も、ましてや手を抜いたつもりもなかった。

 

 『鳴無』は確かに、この戦闘を通して劇的な進化を遂げていた。

 

 「恐ろしいねぇ、この若さ」

 

 頬に浅く刻まれた刀傷。そこから幾分か流れる血液が、男の成長を物語っている。しかし―――

 

 「それでも弱くっちゃあ、しょうがないねぇ」

 

 海軍大将の肩書は伊達ではない。未だ前半の海で燻るルーキーが挑むのも烏滸がましいほどに、ボルサリーノと彼の間には圧倒的な差があった。それをいくらか詰めたところで、勝てる見込みが生まれる訳でもなかった。

 

 だがある意味、『鳴無』はこの戦いに勝利していた。ボルサリーノ自身もそのことを自覚している。

 

 「トラファルガー・ローは完全に見失ったみたいだねぇ」

 

 あくまでも『鳴無』は囮。本命の船長の方は姿を消している。ハートの海賊団に危険性を見出していただけに、此度の結果は芳しいとは言えない。そのことに態度こそ示さないが、一抹の苛立ちを感じる。してやられたと。

 

 とはいえ、海兵が海賊を仕留めたのならするべきことは決まっている。

 

 「海賊『鳴無』のツバメ、お前をインペルダウンに護送するよォ」

 

 海賊にとって、あるいは死刑よりも重たい宣告だった。

 




戦闘描写の練習をしたかったのです。
許してください、何でもはしないけど連投できるよう努力するから。
次回から本当にインペルダウン編です。

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