ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:ジャミトフの狗
話も全く進まないし……
ここは数多の海王類が住まう
入獄した囚人らは当然の如く手枷と足枷をはめられ、手始めと言わんばかりに摂氏100度の拷問、『地獄のぬるま湯』にぶち込まれる。俺と同じく海軍に捕縛された同業者たちは壮絶な悲鳴を上げ、中には溺死しかける者もいた。無論俺である。能力者だからな。
次に防寒具として何の機能を果たさないであろう薄い囚人服を着せられ、痛覚が悲鳴を上げるほどの極寒に放り出された。左腕は失ったからか、足枷のみかけられた状態で。火傷したばかりの皮膚は冷やすのが適切と言えど、限度と言うものはある。つまるところ凄まじく寒い。死ぬ。
前述したとおり、インペルダウンは世界政府が保有する世界一の監獄である。また場所の都合上、凶悪な犯罪者ほど下の階に幽閉される。そんでもって俺がいるのは地下五階の『LEVEL5』、通称”極寒地獄”。一時期雪山で過ごしていた俺でさえ厳しいと感じるのだから、数か月もしたらたぶん死ぬだろう。
さて、そんなわけで割と絶体絶命の窮地に立たされた俺だが、実は意外と余裕である。いや、正確にはつい先ほどまで気が気でなかったりしたのだが。
「おい、生きてるか。麦わら」
「ハァ……ハァ、いでぇ……」
看守に汚物を扱うように連れてこられたのは麦わら帽子を被った青年、モンキー・D・ルフィだった。彼は全身を毒々しい紫色で彩られており、実際毒に塗れている。どうやら彼は立ち上がることすらできないようで、翼をもがれた鳥のように喧しく呻いては転んでいた。
「なんだ、お前こいつと知り合いなのか?」
「まぁね。俺がここにいる原因」
同じ房仲間である大男の質問に答える。口ではこう言ったが、恨み自体はあまりない。むしろ少し感謝すらしている。
「が、ぐ、うあああああああぁぁぁぁ!!!」
体を大きく痙攣させながら麦わらは叫喚する。このまま放置したら、医者でなくとも数時間後には命を落とすだろう事は分かる。ハートの海賊団に所属する俺としては、今すぐにでもローに診せてやりたいところだ。しかし、この様子だと仮に彼女がこの場にいたとしても意味はないのかもしれない。
「死ぬな、こいつは」
栗頭の男はただ単にそう告げた。同感である。
「まだだ!! 俺はまだ死なん!!」
今にも力尽きそうな体を起こそうとする姿はあまりにも痛ましい。いっそ死んでしまった方が楽になるだろうに、それでも彼の目は死んでおらず闘志に燃えている。
「エースを助けるまでは……俺は、死な゛ねぇ!!」
「友達か何かが捕まったのか? なんにせよ、それでテメェが死にかけてるんだから世話ねぇな」
囚人の一人が言う。悲しいが彼の言う通りだ。麦わらの気持ちはわかるが、それで自分が死ぬんだったら意味がない。ああ、まったくもって耳が痛い話だ。
「はぁ、ホントに」
囚人服を脱ぐ。どうせ防寒具としてなんら効力を示さないんだったら、この布で目の前の重症者に付着した毒を少しでも拭ってやった方がよっぽど有意義な使い方だろう。まぁ、脱いだらやっぱり寒かったが。
「新入り、お前何してるんだ」
「応急処置」
「死にかけのそいつに、テメェの服をくれてやる理由がどこにある」
「ただの親切心だよ」
理由は特にない。もっとも、この応急処置が実を結ぶ可能性は限りなく薄いが。
「オ、まえ」
「あんまり喋らない方がいい。あと動くな」
皮膚についていた毒は粗方拭き終えたが、体内に及んだ毒素まではどうしようもない。死ぬその瞬間まで安静にしていることが彼の残り少ない寿命を縮めない唯一の方法だ。できればそうしていてほしいが、体に纏わりついていた神経毒がなくなったおかげで少しだけ元気になったのか、麦わらはまた立ち上がろうとする。
「ほら言わんこっちゃねぇ。そいつに何したって無駄だ。ただのアホなんだよ、そいつは」
栗頭の囚人がそう指摘する。何も否定できない。
「……まぁ、確かに阿呆だな」
しかし、ただのアホなら今日まで生きていられる筈がない。俺は知っているのだ。
「麦ちゃん……!!! 助けに来たっ!!!」
彼が、少なくとも一つの物語の主人公に足り得る事を。
海楼石の檻の向こうで、こんな極寒の中で何故か半裸の変態が血まみれで立っていた。俺も人の事は言えないが、それはそれ。
「お前は、なんだ」
「
ボロボロの身体を引きずりながら、その変態は牢屋のカギを開けた。彼はそのまま持っていた鍵を投げ捨て、麦わらを持参してきたソリに乗せる。無論、俺はすぐさま鍵を拾って自身にかせられた足枷を外した。
「おい新入り、まさかテメェ」
「脱獄する」
食い気味に返答すると、先輩方は口を閉ざした。変態さんの方を向くと、警戒しているのか独特の構えをしていた。実力的にはそこまで低くないのだろうが、覇気の感触から右目と左腕を失った俺でも難なく打倒できるのが分かる。
「……アンタは、何?」
「そいつとは少し縁があってね。義理はないが助けてやりたい」
こいつが死んだらローの本懐を遂げることが出来ないかもしれないし。理由なんてそんなもんだ。物分かりがいいようで、変態さんは小さく「ありがとう」と声を漏らしていた。
「で、助けに来たって事は、何かしら救う算段があるんだろう?」
「え、ええそうよっ!! アナタ、エンポリオ・イワンコフという人知らないかしら!?」
原作知識でも知っているが、それ以上にこの世界における有名人だ。もちろん知っている。
「ああ、確かここに幽閉されてるって聞いたな」
「そう!! その人なら麦ちゃんを助けることが出来る!! 奇跡の人よ!!」
「そ、そうか。ただ生憎、俺はどこにいるか知らないな。アンタたちは知らないか?」
手枷足枷だけは外したらしい房仲間たちにも問いかけてみたが、彼らも知らないとのこと。まぁそれもその筈だろう。
娯楽も何も許されないインペルダウンだが、実は一つ怪談がある。それは『鬼の袖引き』という、囚人が何の前触れもなく消える現象だ。そしてイワンコフはその現象によって忽然と姿を消した、という事になっている。
「となると地道に探すしかないな」
俺の言葉に、変態さんは「分かったわよーん!!」と独特な口調で返す。
★
「キャプテーン!! 本当に一人で行くのか~!」
「ええ、船は任せたわ」
「俺達も副キャプテン助けに行きたいぞー!」
「気持ちはわかるけれど、そしたらこの
「う~ん、でも~」
「任せなさい。私がしっかり連れ帰るわ」