ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~   作:ジャミトフの狗

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主人公の過去回。
地の文ばかりだぁ。



プロローグ2

 転生してから早期の内に、俺はこの世界がワンピースであるということに気づいた。ニュース・クーなんて代物、ワンピにしかないだろうし、その新聞にはセンゴクやガープ、果てにはニコ・ロビンと聞きなじみのある名前ばっかり出てくるものだから特定は容易だった。

 

 誤算と言えば、俺が海賊の子であったという事。生まれた瞬間から自我を確立した俺は男ばかりのむさ苦しい海賊船で育った。まず言葉を覚え、文字を覚えるところから始まった。俺がある程度大きくなると、周囲からはやれ才能があるだの天才だのと持て囃してきたものだ。正直居心地は悪くなかったし、むしろ楽しかった。ワンピの海賊にしては皆気のいい人達ばっかりだったというのもある。

 

 しかしある日、嵐に直撃した俺たちの海賊船は文字通り木っ端みじんなった。そこで何とか木片にしがみつくことが出来た俺はかろうじて生き残れた訳だが、今度は広い海で漂流することになる。皆がどうなったのかは残念ながら分からない。ただ、本当に心細かったことを覚えている。

 

 嵐が去ったばかりなせいか、カンカン照りな上に食料がない。日に焼けながら俺は木片の上で海を漂い、そうして死ぬのだろうと悟り始めた時、俺は今にも沈みかけそうな船を発見した。今思えば、その船も同じ嵐に見舞われてしまったのだと思う。

 

 何かあるかもしれない。だから俺は片っ端から船をあさった。しかし見つかったのは少量の食料とかなりの量の金銀財宝。恐らく商船か何かだったのだろうと、その時思った。ただこの広い海で遭難したら宝物なんて何の価値もないわけで、俺からしたらそれらはゴミ同然だった。

 

 なけなしの食料で二日ほど、その沈みかけの船で過ごした。しかし当然、都合よく誰かが通りかかるという事はなかった。一応その時に木材で火を起こして狼煙を上げてみたり、金の延べ棒を叩いて音を出したり、できる限りの事はした。無論、それらの行為が功を奏することはなかった。

 

 ―――二度目の人生がこんな呆気なく終わる

 

 それがたまらなく怖かった。どうせなら、一度目よりも楽しい人生にしたい。そういう願いがあったのだ。現代日本では味わう事がなかった冒険(・・)に、存分に心が惹かれていたのだ。だから、死にたくないと、切に思った。

 

 どうせ死ぬならと、俺は最後にこの船を燃やそうとした。自暴自棄になったのではない。後に引けない状況にすることで、覚悟を決めようと考えたのである。しかし、その前に俺はもう一度財宝が置かれていた部屋に向かった。その行動には一つだけ、ほんの小さな願いがあった。

 

 部屋にはいくつか鍵のかかった宝箱がある。どうせその中にもお金や黄金しかないのだろうと高をくくって、結局開けないでいた。俺はとにかく力業で宝箱を開けた。というか、南京錠付きだったから木箱そのものを壊すことにした。中身はどれもこれも黄金ばかりで、正直無駄に体力を使ってる気持ちしかしなかった。そして最後の宝箱も壊そうと持ち上げたとき、ソレはやけに軽かった。

 

 もしかしたら、そういう気持ちがあった。他の宝箱と同様に頑丈であったため、かなりの時間を要したがそれでも何とかこじ開けることに成功すると、中身はパイナップルの表面に羽毛が付いたような奇妙な果物があった。

 

 ———ビンゴ!!

 

 その時久しく笑った気がする。すぐさま俺はその果物にかじりついた。すると口の中で化学反応が起こった。有体に言うとクッソ不味かった。吐き出しそうになるのを堪え、一気に飲み込む。本当に、汚泥や嘔吐物を食べたかのような心地だったが、これも食料には間違いないわけでして。だから俺は完食(・・)した。

 

 俺の予想通りなら、何かが起きるはずである。手から何か出ないかなぁと手をぐっと突き出したり、ジャンプしてみたり、とにかく思いつくことはなんでもした。何なら金の延べ棒を頭にぶつけたり、それを投げ飛ばしたりもした。とにかく意味不明を事を続けるうちに、俺は鳥になった。

 

 嘘ではない。本当に俺は鳥になったのだ。体は掌サイズにまで小さくなり、鳴き声は「ちゅん」と可愛い。

 

 勝ったな、と。そう思った。まず変態した鳥がツバメだったのがよかった。飛行能力に優れていたためか、初めて飛ぶのにも関わらず、休まずに長い時間をかけて島に辿りつく事が出来た。あと金の延べ棒が倒れた位置に進んだのも勝因の一つだろう。

 

 そうして俺は何とか生きながらえる事が出来た。幸運のオンパレードばかりで、今でもよく助かったなぁと思う。

 

 ただここでも誤算があった。というのも俺がツバメから人間に戻るところを誰かに見られたみたいなのだ。だからか、島の住民からは化け物扱いされてしまう。ワンピースの世界って色んな意味ですっごい極端だったことをこの時に思い出した。いや、とはいえいきなり鳥が人間になったらさすがに気味悪いか? でも石を投げるのはやりすぎだと存じ上げます。というか極限状態の人間によくそんな事出来るなーとか、極限状態の頭でなんとなしに思った。

 

 そういう人たちの中にも俺を迎え入れてくれる人はいた。その人は老齢の体躯の小さな男性であった。彼はただ一言「くるか?」と、それだけを聞いてきた。断る理由がないため俺は何度もうなずくと、老人は「ついてこい」と告げて山に入っていった。大人しくついていくと、失礼ながら中々に貧相な山小屋があった。彼はその時「勝手に住め」と、やはり不愛想に言葉数少なく言った。

 

 それから、俺はその山小屋に住むようになった。老人はどうやらこの山に住んで久しいようで、食べられる植物やその採集の仕方に詳しかった。驚いたのが、素手で動物を狩猟する術をその老人が持っていたことだ。目の前でクマを絞め殺す様を見た時は、流石にビビった。無論、俺は即師事した。因みに我流の拳法だったらしく、あえて名前を付けるとすると「熊殺拳」らしい。そのまますぎてビビる。

 

 そうやって山に生きること数年。そろそろ山での生き方も慣れた始めた矢先に、老人が床に臥せた。彼は老衰だというが、それを認められるほど俺は達観していない。彼を背負い街の医者に診せた。その時には街の住人からの信頼を勝ち取っていたから(その多くは老人のおかげなのだが)、快く診療してもらった。しかし診断結果は老人の言う通り老衰だった。

 

 これ以上語るのも野暮だろう。俺は山小屋で彼の最期を看取り、彼の望むように山で遺体を燃やした。

 

 それから更に数年、俺が18歳になってから。何となく海の幸を晩飯にしたいと思った俺は、よく貝を採りに訪れる洞窟へと向かった、そういう次第だ。

 

 

 

 ★

 

 

 

 

 予想通りと言うべきか、あの娘はやはりトラファルガー・ローだった。

 

 あれから我が家というには少し恥ずかしいボロい小さい古いの三拍子が揃った山小屋にロー子は住み着くようになった。なんか親近感を覚える。彼女はどういう経緯か、いつの間にか喋る白クマを助け、悪ガキ二人を子分にしていた。また、その一匹と二人のガキ以外にもロー子は街外れに住むじいさんとも仲良くなっていた。あんまり接点がないのでそのじいさんがどんな人柄なのかは計りかねる。ただ、ロー子がなついているんだから悪い人ではないのだろう。

 

 たまにロー子がその白クマと悪ガキたちを我が山小屋に連れてくるので、ご飯を振舞ったりトランプで遊んだりした。この世界に転生(で合ってるのかはどうかは分からないが、便宜上このように呼称する)してから、極力他人と関わらないようにしてきた俺ではあるが、精神的な年齢が離れていたとしてもやはり人とのコミュニケーションは楽しいもので、つい皆を甘やかしてしまった。すると皆めっちゃ懐いてくれて、それがまたクッソ可愛かった。特にシロクマ君は愛でれば愛でるだけかわいい反応をするので好きです。

 

 さて、ロー子が我が家に住み始めて早一年。最近の悪ガキ四人衆は街に出て、しっかりバイトでお金を稼いでいる。おそらくは例のじいさんが手配してくれたのだと思う。やはり親近感を覚える。それに比べて俺はずーっと山にこもっては、丸太に拳を打ち続ける日々である。一応、家事は自分一人で出来るからセーフだと思いたい。

 

 「ただいま」

 

 年相応の幼い声と同時に、ロー子が帰ってきた。したがって、俺も―――

 

 「おかえり」

 

 と、いつものように呼応する。どうやらロー子はこの掛け合いをとても好ましく思っているようで、疎かにするとすごく不機嫌になる。なんとなく、理由は分かるような気もする。

 

 「晩飯は出来てる。風呂も沸いてる。どうする」

 

 「先にすっきりしたいから、お風呂入ってくる」

 

 「あいよ」

 

 これは俺のこだわりであるが、山小屋と言えばドラム缶風呂である。だから不便ではあるが我が家のお風呂はこの山小屋とは別の小屋にある。ロー子はささっと支度して、部屋から出ようとする。

 

 「ほれ、また忘れてるぞ」

 

 タオルを投げ渡す。今月になって二度目だ。女の子なんだからそこらへんしっかりなさい。将来困るわよ! それでなくとも綺麗な顔立ちしてるんだから。

 

 「…ええ、助かるわ。ありがとう」

 

 全く、俺が肉体相応の精神してたら押し倒されてるかもしれないってのに。なんというかロー子は貞操観念的なところで危機感が薄い。それがフラミンゴ野郎のところに長い間いたからだとすれば、それはお前罪深いぞ。というか、年ごろの男と女が同じ屋根の下で暮らしてるって、よくよく考えるとやべぇな。

 

 あれ?

 

 「…え、待って。俺ってもしかして相当不味い事してない?」




・主人公
そこそこハードな人生を送ってる転生児。まだ名前を決めてない。現時点で数種しか確認されてない、世にも珍しい(笑)飛行能力をもった悪魔の実の一つであるトリトリの実を食べたゾ。あとなんか素手でクマを倒せる。頭の中は愉快だが、言葉は拾ってくれた老人のモノを参考にしているため少し突き放した言い方になることが多い。

・ロー子
主人公とはそこそこ仲良くなっている。たぶん距離感を気に入っているんじゃないかな(適当)。

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