ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~ 作:ジャミトフの狗
ある日の昼下がり、いつもの山小屋にて。
「戦い方を教えてほしいだって?」
「ええ、貴方熊を素手で倒せるんでしょう?」
唐突になんか難しそうな本を読みながら「戦い方を教えてほしい」と乞うてきたロー子。因みに診療所のバイトは今日は非番らしい。
後に億越えの海賊となり、コラソンの敵討ちをしたい彼女。だから
「なぜ俺がそんな事をしなければならない」
あくまでもロー子にとって俺は、住む場所を提供しているだけの男、である。当然ながら彼女の過去を俺は聞いてないし、そもそも武術を教えてやる義理もない。大体、ドフラミンゴの一味だった時に、それこそ散々『戦い方』とやらを教えてもらったんじゃあないのか、とも思う。今更俺が教えてやれることもないだろう。そして何より、本当に情けない話だが、ここで更に俺が手を加えることで原作に影響を与える事が一番怖い。
「強くなりたいから、じゃあ納得してくれない?」
「それはお前、悪いとは言わないが。ただ強くなりたいのなら何も俺じゃなくともいいだろう」
一応、この町にも武術館や剣道場がないわけじゃあない。なんなら自警団の修練場もある。どれだけ熱心に取り組んでるのかは分からないが、もし俺が転生してなければ原作のローはそこに通っていたかもしれない。
「誰とも知らない人に教えを乞うよりも、身近にいる強い人に頼む方がよっぽど効率的でしょう?」
「なるほどな。だが」
「随分とごねるわね。何か隠してる事でもあるの?」
さすがは原作きっての知能犯、鋭いな。じゃあ、ちょっとお兄さんズルするぞ~。
「そうだな、あるにはある。ところでロー子よ」
「何よ」
「それはお前が寝言でいうコラソンという名前と何か関係があるのか?」
「っ!!?」
目に見えて分かる程度には狼狽えるロー子。よかった、ここで反応してくれなかったらちょっと恥ずかしかった。
「悪いが、何の事情も知らないまま殺しの技術を教える訳にはいかない。将来の大罪人をこの手で育てることになったら笑い話にもならない」
俺の言葉に俯き始めたロー子を見ると少々心苦しくなるが、これでも一応は筋の通った話だろう。誰だって犯罪に手を染めたくはないのだから。色々と複雑な気持ちになるし自嘲もしたくなるが、それはそれ。ひと先ずは置いておく。
「そうね、確かに虫のいい話だった」
俯きながら、ロー子はポツリと呟く。拳をグッと強く握りしめ、体は小刻みに震えている。
ちょっと言い過ぎたかなと思いつつも、しょうがないとも考える自分がいる。とはいえ、このまま居続けるとより空気が悪くなるだろう。そっと席を立とうとすると、ロー子に服を掴まれた。なんだと声を出す前に、俺は彼女の顔を見て絶句してしまった。
「いいわ、全部、全部話してあげるわ。私の過去を」
笑顔、と言えば聞こえはいいのだろう。しかし俺はどうにも、その笑顔が無理をしている様に見えてならなかった。
★
ローから聞いた話は、おおよそ俺が知るワンピースの知識と相違なかった。ただ話すたびに吐きそうな顔になる彼女を見ては、俺は自分が地雷を踏みぬいたことを実感してしまった。知っているからこそ、自分のしでかした事がどれだけ残酷であったのかを認識してしまった。
「……悪かったな、そんな話をさせて」
「謝らないで。あなたが焚きつけたんだから。それに、私にとってもちょうどよかった」
「そう、か」
何がどう丁度よかったのか、そんなのは俺でも分かる。彼女はこの頃から復讐心であふれていた。故にソレを再確認できたのはローにとっては僥倖に他ならないのだろう。
×
×
ようやく日常を謳歌し始めたローに、俺は「コラソンの死」を再認識させてしまった。それがどれだけ残酷なことかは計り知れない。半端な気持ちでこの話題を持ち込んだのは間違いだったのだ。しかし、だからこそ、俺も腹を括るべきなのだろう。
「お前の境遇は分かった。なら猶更分からねぇな」
原作介入、それで将来どうなるかは分からない。だが俺はこうして当事者になって、ローの傷口を掘り返したのだから筋は通すべきだ。
「話を聞いてた限りじゃあ、そのコラソンって奴はお前に平穏に生きてほしかったように思える。そういう願いが少なからずあったはずだ。ならその願いに殉じてやるのがソイツにとって最大の手向けになるって考え方は、お前の中にはないのか?」
原作を読んだ時から不思議だったことだ。トラファルガー・ローという人間はかけがえのない犠牲を払って平和な日常を生きることが出来たはずだ。それなのに、どうして自らそれを投げ捨てたのか。それを直接聞かなければならない。これはケジメなのだ。
「それは違う」
ローはハッキリと断じた。何を馬鹿なと、涙を湛えながら不敵に笑う。
「あの人は私は自由だと言ってくれた。なら、あの人が望もうが望むまいが私の人生は私が決める。それが復讐であろうと、誰にも文句は言わせないっ!」
彼女の声は震えていたし、実際泣いていた。無理をしているのは明白なのに、どうしてか彼女の表情は真っすぐだった。真っすぐこちらを見据えて、強く言葉を叩きつける。
きっと仇討ちはコラソンの望むところでないと分かっていても、それだけ好いていたコラソンを殺めたドフラミンゴが許せないのだろう。己の主張が詭弁だと分かっていても復讐を願わずにはいられないのだろう。
ああ、知識で知っていることがこんなにも憎らしい。もし俺が自然にこの世界の住民なら、後腐れなく彼女に師事されてやるのに。まったく、本当に。
「———分かった。俺の武術はほぼ我流だ。教えてやれることは少ない。実践が主になるが、いいな?」
「望むところよ」
でも、覚悟は決まった。
★
「あれ、でも待てよ? お前の話が本当なら、お前はその海賊のところでよほど戦い方とやらを叩きこまれたんじゃあないのか」
「ええ、でも『これ』の扱い方は別よ」
そう言うと、ローは手のひらに球体の空間を作った。まだ命名はしてないのだろうが、これは原作で言う所の『ROOM』で間違いないだろう。
「悪魔の実か。確かにお前、こそこそと練習してたもんな」
「あら、知ってたの? じゃあ話は早いわね。いかにも私はオペオペの実を食べた悪魔の実の能力者。ただ私は私の能力を十全に把握しきれてない」
え? そうなの? てっきり医学を修めてたから出来ることは感覚的に全部わかってるもんだとばっかり思ってたが。
「そうか、じゃあ使ってる内に出来ることは分かるようになるだろうさ。表出るぞ」
「え? もうやるの?」
「悪魔の実の能力は実際に扱うことで初めて出来ることが分かる。それで戦うってんなら、特にな」
ソースは俺。ツバメと格闘術を組み合わせるのはめちゃくちゃ難しかったぜ。
「それじゃあ。まずはどれだけ戦えるのか見せてくれ」
と、かっこつけたのは良いが、ローは能力を使いこなせなくとも割と普通に強かったという事を最後に記載する。あと筋力と体力はちょっと足りてないとは感じた。
書いてて思った、主人公クッソめんどくせぇ奴だと。