ワンピース~俺の推しが女体化してるんだが?~   作:ジャミトフの狗

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もうちょっと色々書きたかったけれど、力尽きた。
プロローグはこれで終了です。


プロローグ5

 「私の勝ちね」

 

 ローが我が家、もとい山小屋に住み着いてから三年。立派に実ってしまった彼女は色々な意味で大きくなっていた。だがそれ以上に逞しく成長していた。心技体、それぞれが高い水準に彼女は至っていると言えよう。最近だと良く分からんけど強いらしい海賊の船長に勝利していたし。

 

 特訓で俺がローを圧倒していたのは最初の数か月のみ。それ以降、彼女は驚異的な速度で実力を伸ばし、気づけばツバメの能力を全力で使用しても、虎の子の短刀を使用しても勝ち目がなくなり始めていた。それでも意地でローの反則的な成長速度に食らいつき、今日まで師匠ポジションを守っていた。

 

 しかし、それも終わりのようだ。何戦目になるかは流石に覚えていないが、彼女はついに俺をコテンパンに打ちのめしてくれた。

 

 「ああ、そして俺の敗北だ」

 

 刀の切っ先を喉元に向けられている。それに対し、俺は両手を上げて降参の意を示す。文句なしに負けた。

 

 「ありがとう、貴方のおかげで私はここまで強くなれた」

 

 「何を馬鹿なことを。お前は元から強かったよ」

 

 ローの表情が綻ぶ。負けたっていうのに、なぜか俺の気分も悪くない。

 

 「いいえ、それは違う。貴方がいてくれたから、今日、こうして貴方という目標を超えることが出来た」

 

 女性になってしまったとはいえ、好きな(キャラクター)に目標だったと告げられるのは良いもんだ。大したことは何にも教えてやれてないが、それでもだ。

 

 「じゃあ、そろそろ船出か?」

 

 「そうね。今日中にでも出航するつもり」

 

 彼女は言っていた。俺に勝つまではこの島から出るつもりはない、と。だからその戒めも今日で最後である。

 

 ちょっと寂しくも感じるが、これから彼女はドフラミンゴ打倒のために偉大なる航路(グランドライン)を目指すだろう。ならその事情を知る俺が、彼女の旅立ちを邪魔するわけにはいかない。

 

 「ああ、そうかい。風邪引くなよ」

 

 随分と疲れてしまったから、大の字になって倒れる。するとローは声を出して笑い始めた。そして思いついたように俺の隣に胡坐をかいて座った。

 

 「なんだよ」

 

 「いえ、なんでも。それよりも風邪ですって? お生憎様、私は医者ですので気を遣わなくて結構よ」

 

 「お前海を舐め過ぎだぜ? 気が付いたら遭難してるからよ」

 

 「あなたと一緒にしないでよ。大体私の船は潜水艦ですし? そんじょそこらの船とは違うわ」

 

 「むしろ潜水艦の方が海流に呑まれそうで怖いな」

 

 「大丈夫よ、ヴォルフさんが作ったポーラータング号は絶対に沈まない」

 

 「はは、その自信はどこから来るのやら」

 

 まぁでも原作でも新世界まで行けるんだから相当頑丈でしっかりした潜水艦なのだろう。とはいえ、潜水艦って四人で動かせるものなのだろうか。べポが何故か一端の航海術を持ってるから、その点では問題ないのだろうがそれでもやはり不安だ。

 

 「……三年か」

 

 長いようで短かった。じいさんが亡くなってからというもの、海賊として海に出て名乗りを上げる勇気もなく、かといって海軍に入って彼らの掲げる正義に殉じるつもりもなく、とにかくただ惰性で一人生きていた。きっと、怖かったのだろう。狩猟して、皮を売って、採集して、丸太を割るというローテンションを延々と繰り返す日々。

 

 それに比べ、この三年間は何と楽しかったことか。打てば打つほど強くなる餓鬼どもを相手にして、特訓が終われば飯を作ってやって、狩猟の仕方や薬草の見分け方も教えた。大体誰かが何かしらトラブルを起こすから、一日一日が退屈することのない素敵な日々であったことを覚えている。

 

 それが終わってしまうことに、一抹の悲しさがある。また元の生活に戻ることが怖いとも言える。しかし、いつまでもうだうだ言うほど俺はお子様じゃあない。

 

 「まぁ、元気でな」

 

 別れの言葉は簡潔に、後腐れなく。俺は立ち上がってローから背を向けようとする。

 

 「はぁ?」

 

 すると俺はいつの間に地面にぶっ倒れていた。この奇妙な感覚は彼女の技、シャンブルズだ。苦言を呈そうとする俺に、彼女は馬乗りになって手首を押さえつける。あっと言う間に無力化された。いや、その気になれば振りほどけない訳でもないのだが。そうするとたぶん堂々巡りになる。

 

 「え?」

 

 「え、じゃないわよ。何勝手に話を締めようとしてるわけ?」

 

 勝手も何も、もう行くんでしょ?

 

 「お前さっき今日中に出発するって」

 

 「ええそうよ」

 

 「じゃあ早くいけよ」

 

 「ええ、早く行きましょう」

 

 「は?」

 

 「え?」

 

 なんか全く話がかみ合わないのですが。つまりどういうことだ?

 

 「なんだ、出発できない理由でもあるのか?」

 

 「だって船員が足りてないもの」

 

 「誰が足りてないんだ」

 

 原作的にはべポ、シャチ、ペンギンの三人がハートの海賊団の初期面子である。となるとこのうちの誰かが海に出たくないってことなのか? いや、あれだけ海賊になることを楽しみしてたやつらが今更怖気づくなんてことはないと思うのだが。

 

 「あなたよ」

 

 「は? 俺のこと?」

 

 「そう、貴方」

 

 心底不思議そうな顔でこちらを見つめるロー。どちらかと言うと一番混乱してるのは俺の方だと思う。

 

 「なんで俺……いやそもそも俺は海に出るつもりはない」

 

 これ以上原作に干渉したらどうなるか俺にも予想がつかない。原作には登場してないローの過去だからこそ、完全なイレギュラーたる俺の存在が許されているというだけの話なのかもしれないのだ。だから俺は―――

 

 「五月蠅いわね。私が勝負に勝ったんだから、黙って私についてきなさい」

 

 「それを言ったらお前、俺の方が何百とお前に勝ってる」

 

 「残念ながら私は一度も敗北を認めたことは無いわ」

 

 「お前それは———」

 

 確かに、彼女の口から降参の言葉が出てきた事はなかった。しかしそれはただの強がりに他ならないわけで、決して胸を張れるようなことではない。

 

 「いいこと? 何が貴方をそんなに臆病にさせるのかは知らないけれど、もう大丈夫。私は貴方より強くなった。貴方を守る事が出来る」

 

 手首を更に強く押さえつけたまま、彼女は鼻先があたりそうになるくらい顔をこちらに近づける。

 

 「違うわね。それだけじゃない。私は貴方と航海をしたい。だってもう貴方だけなのよ」

 

 それは酷い殺し文句だ。そんな事言われたら誰だって頷いてしまう。でも、ダメだ。

 

 「それでも、俺はいけない」

 

 俺はこの世界における不穏因子だ。俺の行動が本来死ぬはずではなかった人を殺してしまうかもしれないし、その逆だってあり得る。ソレが巡り巡って原作の世界を壊してしまうかもしれない。それがたまらなく怖い。もしそれが誇大妄想だったとしても、いや、むしろ妄想であった方がいい。そうだったら、少しは気が楽になる。

 

 「私は貴方の本心を聞きたかった。でもダメみたい。前々から思ってたけれど、海に出ることは極端に嫌ってたものね」

 

 俺を拘束する力を弱め、心底残念そうにローは肩を竦めた。あきらめてくれるだろうか? それならそれでいいのだ。俺にとっても、ローにとっても。

 

 「ああ、俺の事は気にしなくていい」

 

 彼女は馬乗りになったまま、ゆっくり俺の胸に手をおく。心なしか、その仕草には躊躇いと寂しさが垣間見えたような気がした。

 

 「許さなくていいわ。ただの荒治療よ」

 

 その次の瞬間、全身の力が抜けた。生体を構成する上で最も大事なモノを今、抜き捕られた(・・・・・)。それは真っ赤に色づいた大きな柿のようだった。

 

 「綺麗ね」

 

 ローは俺から奪ったソレを眺めて独白する。まるで大切な宝物を扱うかのような丁寧な手つきで、しかし矛盾するようだが彼女はさながら新しい玩具を与えられた子供のようにソレを弄ぶ。

 

 「お、まえ。それ、は」

 

 「ご名答。貴方の心臓(・・)よ」

 

 ローはぺろりと俺の心臓を一舐めする。確かに今、ローの手にあるアレから滑りとした、身の毛もよだつような感触がした。その行為が否応なく、俺の心臓であることを教えてくれたのだ。

 

 「ロー、お前それをどうするつもりだ」

 

 「大事に持ってる。だから代わりにこれをあげる」

 

 そういって彼女はぽいと、いともたやすく真紅の物体を俺に投げ渡した。しかしそれは俺のモノ(・・・・)ではない。俺のは彼女が持っている。だからコレは―――

 

 「何考えてんだっ!」

 

 彼女はワイシャツを捲って己の左胸部を見せる。そこには何かでくり抜かれた穴があった。ちょうど、俺と同じように。

 

 そして彼女はあろうことかその穴に、俺の心臓を埋め込んだ。

 

 「これで貴方と私は一心同体。私が死ねば貴方も死ぬし、貴方が死ねば私も死ぬ。素敵でしょ?」

 

 「だから何考えてんだって言ってんだよ!!」

 

 俺の怒鳴り声にも彼女は微動だにしない。むしろ口元を三日月に歪ませ、狂気を孕んだ笑みを浮かべる。それは奇しくも、彼女が忌み嫌う『彼』と同じ表情だった。

 

 「私はこれ以上大事な人を失いたくない。貴方が傍に居ないなんて、そんなの今にも気が狂ってしまいそう。だからこうするしかないじゃない」

 

 「だからって」

 

 「だって貴方は教えてくれないじゃない。どうして仲間になってくれないのかも、どうして人も海も何もかも避けようとするのかも。なのに私だけ励まされて、与えるだけ与えて、そんなの、ズルい」

 

 理屈なんてない。子供のようなわがままに見えて、その実彼女の言葉は俺の心を的確に抉った。

 

 結局、俺はトラファルガー・ローが好きだったのだ。それに尽きる。だからこそ、俺は本当はこんなにも密接に関わるべきではなかった。

 

 だってそうだろう。現に俺という自我が確立してしまったことで、俺の身の回りの人はすぐに死んでしまったのだ。あの気のいい海賊たちも、お山のじいさんも。俺が人と関わると、その人は早死にしてしまう。なら、誰とも関わるべきではない。そう考えてしまうのは、自然ではないか。

 

 それなのに好きなキャラが女体化したとはいえ、文字通り目の前に、偶然現れてしまったがために、俺は卑しくもこの物語に参加したいと思ってしまった。しかし彼女と過ごすにつれて、ローという人物を知った。本当は依存気質で、梅干しが苦手なサディズムの趣向を持つ小娘。ああ、彼女は俺の目の前で実在するのだ。

 

 だから俺はまた思い出してしまったのだ。俺の近くにいた人間は皆死んでしまった事を。

 

 でもそんな事、誰に言えるか。俺は前世の知識を持つ転生者(イレギュラー)で、だから俺の周りの人たちは皆死んでしまったかもしれないなどと。ましてやその前世でこの世界は漫画だったなどと。狂人と思われるに決まっている。

 

 しかし、告白できなかったのは俺の勇気のなさが原因だ。ローは、彼女は俺に必死こいて過去を打ち明けたのにも関わらず、対する俺は俺の異質性を告げる事はなかった。できなかった。

 

 嫌われたくなかった。過去を晒したことで、俺の前からローもべポもシャチもペンギンも、仲良くなったみんながいなくなることがこの上なくいやだったのだ。どうしようもない、俺のわがままだった。

 

 でもそのわがままで、彼女を傷つけてしまったのなら、それはもう話が別だ。

 

 「そうだな。手前にだけ話させといて、俺からは何もなしじゃああんまりだもんな」

 

 少しだけ、勇気を出そう。たぶん、その時が来たのだ。

 

 

 

 ★

 

 

 

 「要するに、貴方は前世の知識を持ち合わせていて、しかもこの世界は前世で創作された物語そのものだって事? で、だから周りの人も死ぬかもしれないって?」

 

 「……ああ」

 

 神妙な面持ちの俺に対して、彼女は心底呆れたようにため息をついた。因みに彼女は未だに馬乗りになったままだ。ついで言うと心臓も返してもらってない。

 

 「バカバカしい。どんな話が飛び出てくるのかと思えば、全くもってアホらしかった」

 

 「一応これでも嫌われる覚悟で話したんだ。そこまで言われると、傷つく。というか、信じるのか?」

 

 「ほんっとに筋金入りの馬鹿ね。もちろん信じる。それに言ったでしょう。私にとって貴方はもう大事な人の一人なの。いまさら何を言われたところで嫌いになれるわけないでしょうが」

 

 こつんと、刀の鞘底をぶつけてくる。地味に痛い。

 

 「でもね、貴方のせいで周りの皆が死ぬだなんて、それは思い込みも甚だしいわ。貴方の周りの人たちはちょっと不幸だっただけ。そして貴方はその人たちよりほんのちょっと幸運だっただけ。これはそれだけの話。大丈夫、私たちは死なないわ」

 

 「それは分からない。でも―――」

 

 「ああもう! ちょっと今までのイメージが崩れるくらい軟弱になってんじゃないわよ!」

 

 ごつんと、今度は強めに鞘底をぶつけてきた。いや、というよりも殴ってきた。

 

 

 

 「いいから、行きましょう!!」

 

 

 

 

 後に『死の外科医』の右腕と呼ばれる男はこう嘯いた。あの時の船長はマジかっこよかった、と。

 

 

 




・主人公(名前はまだない)
 転生者であることを密かにコンプレックスに思っていた。幼少の頃に周囲の人が自分を残して皆死んでしまった事がトラウマになり、それがやがてとんでもない被害妄想を生んだ。具体的に言うと、転生者である事と周囲が不幸な目に遭う事に因果関係を見出してしまったのである。またクソ雑魚コミュ力も災いして、他人とは積極的にかかわらないようになった。ただ今回の一件で、いろいろ吹っ切れた。

・ロー子
 クソ強メンタルの申し子。自分の住む世界が創作されたものだと聞いても、何ら揺らぐことは無い。たぶんコラさんの『自由』という言葉が大きかったんじゃあないかな。
 ただサド兼独占欲の兆しあり。この一件が終わっても、しばらくの間主人公の心臓は保有した。実際、主人公の心臓を手にした時は得も言われぬ興奮を感じていた。

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