1.5世代戦車(複数)vs第3世代戦車(現地改修型) 作:おおきなかぎは すぐわかりそう
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鉄の巨体は地を踏みしめる。くっきりと残る無限起動の跡。低く唸るエンジン。ただ一つ疑問点をあげるならば、車体の四隅に取って付けたような、不細工な飾り物か。地面と水平に、にょっきり飛び出た鉄骨の行方は、直角に地面に向かって頭を垂れる。車幅を無意味に押し広げるこの物体こそ、戦車の最先端をゆく帝国*1が開発した、姿勢制御装置*2である。この、第3世代戦車の最終試験には、選りすぐりのエースが召集され、実戦さながらの実地訓練を終了した後で、評価が下される予定であった。歴戦の猛者を取り仕切る車長は、言い知れぬ不穏な空気を嗅ぎ付け、ハッチより双眼鏡を覗き込んでいた。
「戦車、数3。帝国の第一世代じゃない、連合*3のクソどもだ」
「俺達の支配地域じゃなかったのか?*4」
「ここはもともとヤツラの土地、戦車三台も一体どこに隠してたのか知らないが、戦闘よりも隠れんぼの方が得意らしい」
車内からの声に、車長は双眼鏡を覗き込んだまま応える。その顔には言い知れぬ不快感が滲み出ていた。
「ヤツラまだこちらに気付いてません、やっちゃいましょう!!」
「慌てるな、帝国の将来を左右するかもしれない大事な機体だ、万が一もあり得る」
ハッチを閉じ、食って掛かる操縦手をなだめる。敵戦車とは距離があり、高所有利を押さえたこの状態。各々、自信と実績をかねそなえるドリームチームが、帝国最新鋭の兵器で力を振るいたいのは当然と言えた。
「隊長、本部より通信です」
通信手がトランシーバーを伸ばすと、不吉な予感が一同を駆け抜ける。口元まで持ってきて、とぐろ*5を目一杯引っ張ると落ち着き払った口調で語りかける。
「こちらアウトリガー*6試験戦車、本部応答せよ」
「こちら本部。貴官の試験地域に敵戦車小隊が侵入したのを確認した。機密が漏洩している可能性がある、予定された全試験項目を一時中断し、一刻も早く目標を殲滅せよ*7」
「それについてはもちろん賛成です。しかし、一対三では分が悪いのも確か、支援要請は期待できないのでしょうか」
「残念ながら早急に支援へと回れる部隊は周辺に確認できない*8。先ほども言ったように情報が敵の手に渡った危険性がある、即刻排除せよ、これは遵守命令である」
トランシーバーを叩き潰してやりたい衝動に駆られるが、帝国軍において命令は絶対である*9。目標達成に向けて、現場指揮権が認められていることがせめてもの救いであった。
「....了解。帝国に勝利と栄光を*10」
「勝利と栄光を。通信終了」
ブチッ
通信が切れたのを確認するや否や、トランシーバーを振りかぶり、あるべき場所に力強く突っ込む。
ガチャーン
静まり返る車内で、誰もが車長に同情していた。いくら歴戦の猛者達といえど、戦場に絶対はない。帝国の利益と、この戦車を預るトップとしてしての責任を果たすべく、最低限の安全策を提案するが却下。自国領内で、友軍の支援が受けられないなど、一体どこの末期国家だ。それが戦略規模での劣勢であるならば無理矢理にでも納得しなければならないが、情勢はその逆、破竹の侵攻が続いていた。ここからそう遠くない場所に陣取っている本部、そこを護衛する優秀な防衛部隊、それらを少しでも有効活用する脳ミソが無線の向こう側には無かった。
「‥‥‥‥‥諸君、命令は下った、軍人は粛々とただ実行するのみ」
軍紀の一文を朗読するように、冷たく、しかしハッキリと反響する言葉。そこには先ほどまで激情に囚われていた男の姿はない。しっかりと見据えた瞳は前方、まだ気付けぬ者達へ。血に飢えた狼を想像させる、純粋な殺意は数々の戦場を乗り越えてきたベテランである証拠だ。その熱伝道は、ゆっくりと、周囲に波及していった。緩慢に上がってゆく拳を頂点で握り込み、一匹の狼は吠える。
「帝国に勝利と栄光を!! 」
「「「「勝利と栄光を!! 」」」」
リーダーに当てられるように、一丸となった群狼にスイッチが入る。車体が蠢き、砲塔は、一台の敵を正確に捉え始めた。
○ ○ ○
「情報通りなら奴らは必ず仕掛けてくる、各員警戒を怠るなよ」
無線の向こう側では、なんとも騒がしい応答で返事をする、付き合いの長いバカどものしゃしゃった声で埋め尽くされていた。それを口では注意するも、祖国が滅んでもバカ丸出しの兄弟共に安堵している自分がいる。ろくに戦いの機会を得られぬまま敗戦、温存された秘匿部隊は、ついぞ日の目を浴びることはなかった。戦車の先祖である第一世代戦車を改造した本機は、戦車技術の乏しい連合において、最高戦力を自称出来る完成度を誇っていた。それを操る塔乗員も、帝国の兵器と頭ごなしに否定し遠ざける連合軍にしては珍しい、対戦車戦の造詣深い非常に質の高い異質な部隊であった。
「小隊長!! 敵を射程外に発見しました! 方位78 小高い山の上を占拠しています!!」
どうやら周辺警戒していた二号車が敵を発見したらしく、ハッチを開けて確認する。双眼鏡を手渡され、より多くの詳細な情報を集めるのに努める。
「こちら一号車、確認した。見た事の無いタイプだ、あの車体についてるのはなんだ? 精密射撃をサポートする固定棒か何かか?‥‥‥囲み込んで仕留めぞ。この距離なら早々当たるものではないだろうが、各機止まるんじゃねぇぞ*11、対戦車砲に警か....」
ズドカァーン
「誰がやられた!!」
「二号車履帯破損!! 2名負傷、その他計器に異常あり、走行出来ません!! 乗機を捨て脱出し....」*12
ズドカァーン
耳をつんざく激烈な音が無線を伝い、ズズズジジジと電子音を残すトランシーバーに怒鳴る。損害を告げ、迅速に離脱しようとした隊員の声は、二度と聞こえなくなった。"この距離で当ててくるのか" 驚愕に打ちひしがれるのも本の一瞬。悲しみにその身を浸すことなく、自分が戦っている相手が只者じゃ無いと確信する時には、既に次の指示を飛ばしていた。
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「次弾命中を確認、まずは1。全アウトリガー解除、装填完了しだい牽制射撃、訓練予定地まで移動するぞ」
「了解」
カラコンと排莢される、熱を帯びた薬莢を気にも留めず、淡々と獲物達の行方を見定める。ヤツラに取っては敵陣のど真ん中であるが、ここで逃がして再び捕捉出来る保証はどこにもない。決して無視できない量の情報が敵に渡っているので、一度撤退を許せばこの戦いでの敗北は必至である。是が非でも敵をこちらに釘付けとし、ギリギリの戦いを演出しなければならないそんな場面で、あろうことか安全策を選択した。それなりの処罰は覚悟の上、命あっての軍人であると責任を取る覚悟を決める。
────それにしても気がかりなのは....
敵陣突破を目的に製造された第一世代戦車。対戦車戦を念頭に置かれた第二世代戦車。対戦車能力+αを目指す第三世代戦車。一撃で容易くあの世へと送る対戦車砲が、連合の時代遅れの戦車相手に、二撃を要した。小回りがよく効く小型の車体をゴツクして、それでも快速な足回りと切り詰めた砲塔は、遠距離攻撃を主眼に据える本機にとって脅威でしかない。
パァーン
放たれた砲弾の振動を全身で感じ、バックする装填口から空薬莢がこぼれると、すぐさま次の砲弾がセットされる。蜘蛛の子を散らすように、それぞれ別方向から回避行動をとりながら接近してくる敵方を見て、改めて覚悟を決めた。
○ ○
「移動するのか....奴が次に行きそうな場所は、遠距離から一方的に攻撃を加えられ、なおかつ敵の接近をいち早く察知出来る地形。この辺りだと......あそこか! 旧演習場跡地。あそこならひらけていて最低限身を隠せる窪みがある、いいだろう、そこを奴らの墓場にしてやる」
長期戦はこちらに不利だ、次で決着がつくだろう。彼らの遺体を回収する事も叶わず、寝食を共にした仲間逹はあっけなくやられてしまった。俺達は祖国を取り戻せるのか? そんな疑問を飲み込んで、作戦行動中の仲間を想って。戦い続ける戦士がいる限り、俺達の犠牲は決して無駄にならない。どちらかは生きて帰れないだろう。それが果たして乗機なのか、それとも三号車かはわからないが。震える手に手を重ね、俺がやられたとしても、あいつらなら必ず討ち取ってくれる。ニヒルと無理矢理に笑顔を浮かべ、そんなことを考えると、何故だか不思議と勇気が湧いてくるのだ。手の震えは止まっていた。
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所々に砲弾の着弾した跡が残る開けた平地で、黒い炸裂の跡が放射状に広がる爆心地の中心で、ひょっこり戦車の頭だけ覗かせて彼らはその時を待っていた。周囲360度を双眼鏡を使い索敵するが、木々が視界を邪魔してそれ以上先の様子はわからない。最も攻撃を遅らせる方法、仕掛けるとすれば挟み撃ち以外に考えられないが、そうなると、本機の取れる選択肢も自然と絞られる。どちらか片方を早急に片付け、接近を許す前に残りを撃破する。そのためにはいかに早く発見するかが勝利の鍵であり、仕切りに接近の兆候を探しているわけだが。
「隊長、三時の方向に反応があります」
「三時方向?」
アウトリガーを突き刺して、聴音機で周囲の警戒を行っていた通信手がそんなことを言った*13。その場所へ注意を向けると、僅かにだが、ゆっくりと動く大きな影が見えた。木々のざわめきに紛れているため、非常にわかりづらい。
「敵を発見した、三時方向に1。そうなると九時方向にも居るだろう。各員準備しろ! 二両の敵が平野に飛び出た時点で砲門を向ける! 三時方向の敵から仕留めるぞ!!」
その言葉を聞いて最終確認を開始する搭乗員逹。コンマ一秒の遅れも死に直結してしまうので、各員自分なりの精神統一を施すものもいた。車内は湿度が高まり、むさ苦しさで汗が伝っていった。
ふと風がやんだ静寂、さもそれを合図にしたように2両の戦車は飛び出した、酷使されたエンジンの悲鳴が目標地点に迫る。砲塔が回った先は荒狂う猟犬が一匹、砲門が向いても怯む事なく一直線に吠えていた。空を切る砲弾に構う事なく、敵に向いた一瞬の静止で撃鉄は爆ぜた。
パァーン
ズカァーン
追加装甲が弾け宙を舞う、本体を貫通するまでには至らず、すぐさま第二射が用意される。砲弾によって左右に揺さぶられた車内は絶叫に包まれるが、軌道修正を二度三度で終わらせ最短ルートを再び直走った。対する砲手はやけに長く感じる装填手の言葉を静かに待っていた。
"装填完了!!"
パァーン
ドゥン
装甲の剥げたところに吸い込まれた鉛は砲塔内部へ、血と肉で汚れた砲弾に引火、今度こそ明後日の方向へ逸れていった。まだ、終わってない。最後の奴の距離が近い、このまま突っ込んで来るぞ。迎撃し切れないと判断した車長の判断は早かった。
"アウトリガー全解除!! その後全速発進!! 距離を取るぞ!! 砲塔はそのまま三時方向だ!!"
撃破炎上する三号車に歯を食いしばりながら、やたらめった攻撃を加えながら、敵の砲塔に恐怖する。この距離なら追加装甲も糞もない、文字通り戦車は弾け飛ぶだろう、だがそれはこちらも同じだ。窪地から車体を持ち上げて這い出るあの戦車の懐に、先に潜り込めれば俺達の勝利だ。仲間が作り出したチャンスを無下にはしない。
「振り切れ────!!」「突っ込め────!!」
見る見る距離が詰められていく、このままでは速度が乗るまでもなく追い付かれる。後部に撃ち込まれる弾がだんだんと酷くなる車内で、運命は定まった。
「四番アウトリガー出力全開!! まーわーせー!!」
大地に打ち込んだ楔は、速度を持っていきながら、溝を深くしていきながら支点足り得る存在となる。それによって、突っ込む筈だった戦車は視界から逸れていき、ただ自分達が辿るべきキャタピラの跡を描くだけだった。グググギギギと異音を発するアウトリガーが役目を終え壊れた時、討つべき敵は砲門の向こう側に、勝負は決した。
パァーン
ある森の中、化け物でも棲んでいるのかと思ってしまいそうな大穴がポッカリ口を開けていた。その周囲には物資の山が、軍隊の列が、そして殴り掛かる人物がいた。
「お前らがもっと早く来ていれば!!」
「少尉! 抑えて下さい! 我々、連合とマンティス*14は同盟関係にあるのですよ!? どうかお気を確かに!!」
「ルノー少尉、その辺にしておけ」
「エルメス将軍! こ、これは、これは!!」
「貴官の気持ちも痛い程わかる、だが現実は逆立ちしても変わらん。なればこそ、我々が今すべきことは過去を顧みることではなく、最善を尽くすことである。事実、これだけの物資があれば我々はまだまだ戦える」
「はは!! 申し訳ありませんエルメス将軍」
「次の作戦も近い、その時まで英気を養うのだ少尉」
「はは!! 失礼致します」
ルノー少尉と呼ばれた人物はそう言って、殴り掛かろうとした人に謝った後、部下を引き連れてこの場を去った。
「すまないなお若いの、あまり休息できていない日々が続いているのだ、どうか許して欲しい」
「いえ! 頭を下げないで頂きたいですエルメス中将、彼がいったことは事実なのですから」
「いや、マンティスにも事情があっての事だろう、それを責めるのは酷と言うものだ。しかし、まさか実物を見るができるとはな」
エルメス中将の視線の先には、砲塔のない戦車の車体に巨大なドリルをくっつけたような、異様な乗り物の姿だった。地底戦車*15。連合の第一世代戦車と、マンティスの掘削会社、ペンドリル社が融合する事で生まれたマンティス希望の星である。
「連合の協力なくして、完成はあり得ませんでした、この機体は両国友好の証です」
「戦闘力が乏しいのがネックだがな。戦略物資提供、亡命受け入れ、共に感謝する」
「......やはり行かれてしまうのですか? 」
「馬鹿げていると考えているのか、それとも戦力拡大が出来なくて残念か? いやいや、歳を取ってしまうとどうしても疑い深くなってしまうのでね、歳はとりたくないものだなハハハハハ......。さっきの、貴官に殴り掛かろうとしてきたルノー少尉、その教官だった人物が今もまだどこかで戦ってるんだよ。少々荒っぽいところはあるがね、腕の立ついい奴でな、ハッハッハ。戦いの趨勢は開戦前から薄々気付いていた、私の部下だった彼の部隊を、後方の辺鄙な場所に配備したんだ。戦闘が始まって敗色濃厚、亡命準備は出来ていた、だが彼は行ってしまった。本当に殴られるべきは私なんだよ、子飼いの部下とその家族だけを救う事を考えて、私はその他の全部を売ってしまったんだ。これは私の責任だ、彼は私が連れ戻す、彼はこれからの連合になくてはならない存在なんだ。私が亡命するのはその後で良い。ああ、話が長くなってしまったな、ともかく亡命者をよろしく頼む。それと生きて帰って来れたら、何か一杯奢ってくれ、老いぼれの願いはそんな所だ」
「ええ、エルメス中将。とびきり上等なのを用意してお待ちしております」
爆薬セット完了のランプが灯ると、一斉に輸送トラックが大穴に殺到し、辺りを砂埃で塗れさせる。お別れだ。敬礼をして、敬礼を返されて所属の部隊まで走ろうかとしたその背中に、エルメス将軍は大声で引き止めた。
「父上によろしくと、伝えといてくれ!!」
それに再び敬礼をすると、今度こそ離れるのだった。
「発破!!」
ドドドーン
最後尾でダイナマイトが正常に作動し、大穴がすっかり埋まった事を確認すると、車両は動き出す。戦争の炎が燃え盛る大陸に、更に壮絶で過酷な戦乱の火種がくすぶり始めていた。
続きません。