1.5世代戦車(複数)vs第3世代戦車(現地改修型) 作:おおきなかぎは すぐわかりそう
一挙に火柱を上げる艦船。轟々とした炎は、ただタンクから吹き荒れる燃料を餌に延々と燃え続ける。物資も乗員も海面も、森羅万象、有名無名問わず焼き焦がす。この世の物とは思えない光景に、さながら地獄を連想するが、ふと周囲を見渡し現状を確認する。似た光景が
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「圧勝だな」
艦橋より、望遠鏡を視線上から外した艦隊司令官は率直な感想を口にした。大陸軍、グランダルメ海軍及び上陸軍はここに壊滅。なんとか上陸を果たした敵第一波も、作戦どうりなら今頃制圧済みであろう。全ては我ら連邦*1軍の手の平の上での出来事、特に今次大戦で多大なる戦果を上げた連邦海軍は、神聖なる本国を敵の魔の手から振り払った英雄として末代まで語り継がれるであろう*2。
「敵勢力の講和条約打診を確認しました! 連邦政府はこれを受諾し、大戦は終結、我々の勝利です!!*3」
その言葉を聞いて、本土で待つかわいい孫娘との休暇をよぎらせた司令官は、緩んだ顔を副官に見せまいと外方を向いて短く返事した。戦争は終わった。しかし、それは大陸連合軍の力が急速に失われた結果だ。時が経ち、再び力を振るう機会が訪れれば、いっときの平和など簡単に砕け散るだろう。願わくば、再びの戦乱が本国に及ばぬように。連邦艦隊が本土を護る最後の盾として君臨しつづけるのを、今は祈ることしかできなかった。
後に、征服戦争*4と呼ばれる戦いはここに終結した。講和会議の場で、大陸同盟は広大な大陸領土を手放すこととなる。これは、大陸同盟の盟主である王国*5の力が急速に衰えたことによる支配力の低下、それによって起こりうる大陸諸国の独立戦争を恐れた結果である。それでも力を失いすぎた王国のダメージは深刻で、大陸陣営内での内戦の勃発・王国内部での軍事クーデターをへて、ようやく安息の日々を迎えるにいたった。国名を共和国に改め、新たな一歩を踏み出した大陸の盟主は、来るべき日に備え軍備増強に邁進する。対する連邦も、特に陸上戦力・戦略・戦術の即時構築が叫ばれ、敵の強大な陸軍に対抗する道を画策しはじめるのだった。征服戦争で得た圧倒的な勝利の代償は、大陸同盟からの反撃の恐怖と世界征服への欲望を呼び起こし、戦争に勝ったはずのその首を真綿でゆるりと締め上げていくのだった。連邦内部にも不穏な空気が漂いつつあった。
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報復戦争*6。そう後の歴史は名付ける再びの大戦争は、今まさに転換点を迎えていた。征服戦争に勝利し、大陸に進出した連邦の遠征軍。対するは、かつて最強の陸軍で大陸を平らげた、共和国を主軸とする同盟軍。最前線では連日の猛攻でに次ぐ猛攻で、一進一退の攻防が続いていた。海で陸で空で、人を殺すためだけに進歩した兵器・装備が暴発する。凄まじく飛び交う無線の嵐の中で、最終的に主導権を握ったのは、陸戦に一日の長があった同盟側であった。一つの戦線を食い破ったその瞬間、雪崩のように瓦解してゆく遠征軍を必要に追い立てる。吉報は同盟側、最高司令本部にも直ちに伝播し、指示を飛ばすその語尾にも嬉しさが滲み出る。
「攻撃の手を緩めるな!! 敵に再起の時間を与えるな!! 限界まで追い詰めるのだ! 大陸艦隊に前進命令を出せ! 全航空隊にもだ!」
次々に飛び込む戦線突破の報に、忙しなく白地図に情報の更新を行う。激情的に言い放つ彼に、作戦本部から提案がもたらされた。
「元帥殿、敵方の戦闘能力はすでに皆無です。連邦領内に存在する大陸最大の航空基地に空軍を結集させ、今こそ奴らに復讐を果たすべきです!! どうか元帥閣下ご決断を!」
言われて地図を覗き込む。連邦最大の航空基地であるそれは、規模もさることながら、地下に貯蔵された無尽蔵とも言える燃料を蓄えている。順当に行けば今日中にも制圧、この慌てふためきの状況では施設のほとんどが無傷で手に入るだろう。その場所で航空兵力の翼を休ませることができれば、再び大空を羽ばたき、遠征軍を追い立てることもできる。とはいえ、全く問題がないわけではない。各地で連戦連勝が叫ばれる中、それでも彼は冷静だった。
「我々の艦隊が大陸を完全封鎖、長距離偵察機による安全確認、基地内の安全確保が済み次第着陸を許可する。燃料はなんとかなるだろうが、問題は武器弾薬だ。戦線離脱次第、前線基地で各種補給を実施。完了したもものから、その足で目的地に向かってもらう。合わせて各部隊に通告だ! 周辺警戒は厳となせ!!」
「「「は!!」」」
勢いに満ち足りた返答に満足したのか、しきりに頷いて今一度地図を眺める。安全策を取りながらも、決してチャンスを見逃さないその姿勢に誤りはなかった。そう、間違いはなかったはずなのだ。
全てが崩れるその時までは....。
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高度5,000m*7
こ気味良く空気を取り込みエンジン震わすコックピット、疲れた体にむち打ちながら、操縦桿を握る。一人乗りのプロペラ機。周辺警戒、現在位置の把握と、眼下に広がる大自然に気を休める時間などありはしない。
────この方向であってるのだろうか。
膝上に乗せた地図に目を移したり、周囲をキョロキョロ見渡していると、ブォーーンと進路上に突如現れた攻撃機に目を見開く。左から飛び出て右端に陣取った機体は友軍機であったため、慌てて機銃の発射ボタンから親指を離した。一体どこのどいつだ、と沸いた怒りで注意を向けると、前を飛ぶ友軍機は機体を左右に傾けて、バンク*8し始めてた。僚機を示すそのサインに、ふっと怒りが引いていくのがわかった。
────なんだ、あいつか。
操縦の腕はピカイチだが、なにぶん人をおちょくるのが大好きな奴で困ったものだ。空軍士官学校からの付き合いだが、わざわざ無線があるのに下らないことをするなと昔の俺なら怒鳴っていたな。何言っても聞かないから、怒るのにも疲れたのはつい数年前のこと。自分の腕前を過信して命を落とす間抜けは毎年いるが、自分の実力以上の無理はしないその態度には好感が持てる。そんなことを考えていると無線に通信が入る。
"あーあーあー、聞こえるかG8-2。今のが敵機だったら、今頃お前は地面とあっついキッスをかましてる所だったぞ"
"バーカ。常識的に考えてて航空隊がウヨウヨしてるこの空域に敵機が突っ込んで来るわけないだろうが。第一、陸軍が大きく前進しているんだ、航空機を降ろす基地がなくなるんじゃないかと奴ら今頃必死だぞ"
"それもそうだな。どうだ疲れただろう、先導変わってやろうか?"
"何言ってんだ、お前だって疲れてるんじゃないのか?"
"低空からこっそり後をつけてたから疲れてないぞ"
呆れて深いため息を吐き出すと、頭を振って返答する。
"んじゃよろしく頼むよ"
"OKルーキー、ぴったし付いて来いよ"
特に言うこともなく地図を懐にしまい、操縦桿を握りなおす。目的地までの優雅な旅が約束された。
"見えてきたぞ、あれが大陸最大の空軍基地だ"
夕焼けも地平線に着地する時間。目的の基地には燃料補給を待つ長蛇の列が上空まで続く。急ピッチで行われる補給作業、次々飛び立つ鉄の群れ。管制塔は、あまりの収容力を持て余しているようだった。しかし、それでも大陸最大は伊達でも狂酔でもなく、気の早いパイロットが、指示も待たずに着陸脚を地面に接着させるものが続出しても、広大な発着場は彼らを優しく迎え入れた。
管制塔の喚き散らす声に苦笑いを浮かべていると、無線機に通信だ。
"東側の滑走路が空いてるぞ"
"命令を無視して降りるのか!?"
"撃墜王になれば文句はないだろう"
その言葉にあきれ返るが、もう管制塔はまともな指示を飛ばせる状態じゃないだろう。それならば、多少危険たりともパイロット自身の判断で降りるしか道はない。燃料も心許ないし、何よりアイツに撃墜スコアで上に行かれるのは無性に腹がたつ。個人的な感情も混じっているが、大陸から連邦の人間を追い出せればこの国は安泰だ。国を命がけで守った英雄達に最悪銃殺刑はないだろう。リスクとリターンの計算が終わる頃には、大回りした僚機が着陸態勢に入っているのが見えた。
────俺もウカウカしちゃいられない。
右旋回で、魚群に集る海鳥達の漁場を飛び抜ける。大空を旋回する彼らを夕日が眩しく照らし出し、反対側は真っ黒に塗りつぶす。眩しく輝く太陽に暫し手をかざし、着陸装置の起動ボタンに手を伸ばそうとして....? 唐突に耳に届いたその音、その音には聞き覚えがあった。大陸外縁部に艦砲射撃を加えにきた連邦の艦船。攻撃を阻止し、あわよくば撃沈しようと出撃した航空隊。対空砲火の主だったものが沈黙する射程外で、それだけはここまで届いてきた。なんでだ、ありえない、海岸線まで何キロあると思ってるんだ。ここは内陸、とても攻撃が届く距離じゃない。大陸艦隊は? 偵察機は? 陸軍はどうした? そのどれもが正しい疑問だった。ただそのどれもが正しい問題ではなかった。風を切り裂き、花火の上昇音を彷彿とさせる恐怖の序曲。その現象は、しばし遅れて加速度的に増殖した。キャノピーを見上げ、黒い雨の存在を確認した時には、全てが遅かった。
燃料を溜め込んだ地下空間と燃料を満載にした航空機の大地に、着弾する。
一瞬の出来事だった。視界が真っ白に染まった直後*9、爆音と爆風が機体を吹き飛ばした。機体はきりもみ状態で制御を失い、衝撃で分離した片翼が今にも本体を離れそうだ。コックピットに充満する絶叫は冷静な判断を欠いて、制御を失った筈の操縦桿をでたらめに操作する。もともと着陸のために高度を下げていたのが運の尽き、パニック状態から抜け出す頃には、ガラス越し一杯に煉獄の大地が広がっていた。
大陸より150km海上
海上に鎮座するは船、しかしただの船ではない。巨大な船体もさることながら、ひときわ目を引くのは、その特徴的な砲塔。鉄の樹木を連想する、長大な筒には無数の枝が規則正しく生えていた。"V2"*10二度目の勝利の名称が与えられたこの兵器は、連邦海軍が対大陸戦略を突き詰めた結論である。コンセプトは敵の意識外からの攻撃。砲塔にこびりついた、無数の薬室を順次破裂させ、砲弾にエネルギーを加え続けて飛距離を限界まで引き伸ばそうとするのが目的だった。外見の気持ち悪さからムカデ砲*11との愛称がつけられたものが無数、無数、無数。機関銃の弾薬ベルトのように数珠つなぎで連なっていた。使命を果たし空になったムカデ砲は、ガララララと大きな音を立ててスライドし海に投棄される*12。すぐそばで控えていた専用の補給船が接岸し、一杯に詰め込まれた不恰好な砲台をベルトから供給すると、おかわりを果たした砲門は再び大きく持ち上げられた。一連の流れは辺りを見渡せば焼き回しのように何度も見ることができる。次々と敵に向かってそり立つその情景はまさしく鉄の森。どこかで鳴り出したジリリリリと鳴り響くベルに回りも連れ立って音を鳴らすと、計算し尽くされた爆発が砲弾を遥か彼方に飛び立たせ、残された場所には黒煙が棚引いていた。
「我らの力を思い知ったか!!」
興奮冷め止まぬ様子の艦長は、艦橋から外の景色を見渡し一人愉悦に浸る。いや一人だけではないのかもしれない、連邦海軍の復活。閑職に追いやられていた海軍が再びその雄姿を示したのだ。
遡ること三年前
かつて国を救った大艦隊は、主戦場が大陸に移ったことで、その威信を陰らせていた。海軍予算は大きく削られ、新たに獲得した大陸領土の開発予算・陸軍強化に否応無く投じる。それでもめげることなく、本島と大陸間のシーレーンの重要性と本国を護る最後の盾である事を説き、国民の支持を受けて超大型戦艦の量産計画を勝ち取った。これには冷遇されていた海軍面々も喜色を浮かべ、あの当時最盛期を迎えていた連邦艦隊が、再び君臨する瞬間を心待ちにするのであった。開発・試作・建造と問題なく進み、雄大さと象徴を兼ね備えた船体が出来上がるだろう、そんな時期に事件は起こった。陸軍の介入である。特に大陸遠征軍からは猛烈な反対意見が噴出した。『我々が目を向けるべきなのは眼前の敵であって、決して愚図る子供のご機嫌取りをする時ではない』『現行の艦隊戦力でも十分に任務を果たすことが出来る。金食い虫の量産など正気の沙汰じゃない』『大陸に大部隊が展開する中で、大規模な本島上陸作戦を行うとは考え難い』『第一に、費用対効果が薄すぎる。大陸外縁部のみの攻勢支援、敵艦隊の撃破。シーレーン防衛、本国防衛。それらを、わざわざ維持費もかかる超大型戦艦でやる意味が見出せない』突如としてイチャモンをつけ始めた陸軍。いや、今までが静かすぎたのだ。だが何故このタイミングで? 口を挟む瞬間なら幾らでもあっただろうに、何で今になって? その答えは会議の場で明らかとなった。まず超大型戦艦建造計画中止を進言、そして再利用案を提案してきた。大陸での全面戦争の際に消費される物資を試算し、それに船体だけ完成している超大型艦船を輸送船に改造しようと言ってきたのだ。当然、海軍は激怒する。しかしながら、増長し巨大化した陸軍を止める力は海軍にはなく、指をくわえて見ることしかできなかった。しかし、潔く諦めることもできなかった。様々な文献をひっくり返し、海上からでも大陸の主導権を握れるドクトリンの構築に日夜没頭した。難航に難航を重ねたが、唯一の救いが時間が有り余っていることだった。そして発見する、かなり早い段階から理論は構築されているも、技術的な問題から今まで実用化にまで至らなかった珍兵器*13を。今でも技術的な問題は多いかったが、対大陸戦略として連邦政府のゴーサインが下り、陸軍に渡る筈だった船体を奪い返して試作を開始するのだった。
連邦陸軍・大陸遠征軍の戦略が崩壊した今、主導権は連邦海軍に移行する。かねてより戦略のうちにあった大陸最大規模の飛行場爆破。それを最大戦果で成し遂げるために、戦線突破された早期の段階から海軍は大陸への物資供給を絶っていた。それが何処からか外部に漏れてだし、いまだに敵をはねのけていた戦線も共鳴して、大規模な敗走にいたったのである。とは言え、備蓄は充分すぎるほどにあったらしいので、この大混乱で同盟軍との泥沼の戦闘を続けてもらえれば御の字だ。大陸艦隊とは無理に戦う必要もない。船団護衛された連邦の切り札が、気まぐれに敵の軍港を潰すだけで艦隊は疲弊していく。後は弱った艦隊を捻り潰し、敵の重要地点に砲弾の雨を降らせ続ければ長期的に勝利を収めることができる。
艦長の瞳にはメラメラと、欲望の炎が渦巻く。誇りと伝統と雄姿に酔いしれる甘美な束の間の勝利に、三度祝砲が大空を翔けた。連邦艦隊の最後を願う、様々な思惑が成就するその日まで。
続かない。