自分でもわからねぇ。きっと、Twitterで繰り広げられたHK416を褒めるだののツイートを見て影響されたんだろう。気づいたら……こんなのが上がっていた。しかもコイツ、この話で終わらすつもりもないらしい。
と、とにかく、コイツを見てやってくれ……
HK416は完璧だ。
完璧という言葉を体現するが如く生まれたと言っても過言じゃないほどに、彼女は完璧だった。
その容姿においても、その戦闘成績においても、他の追随を許さんとでも言うほどに完璧であった。
そう、完璧だ。恐ろしいくらいに完璧であった。
時としてその完璧な彼女の有様には、思わずため息がこぼれるほどに……。それと同時に、気づかぬうちに言葉を取りこぼしてしまっていたらしい。
なかば業務報告すら終わり、ほとほと人が来ないだろうと執務室で一人感慨深そうに目を瞑り唸っていたのが行けなかったのかもしれない。
いつの間にか目の前にいた件の彼女の存在すら忘れて、俺は独り言を呟いていた。
「なんなんだ、あの完璧超人は……」
「…………」
そう、気づいていなかった。人前で、それこそ本人を前にすれば言葉にすることもなかったであろう言葉が、一人だと思っていたがゆえに口にしていた事実など。
「HK416が可愛すぎて困る……」
「っ――!?」
なおも彼の独り言は続いた。
「なんなんだよアイツは……、可愛すぎる」
「あっ……」
「戦闘成績も軒並み平均を軽く超える完璧具合。まさに完璧と自負するに値する成績だ」
「うっ……」
無論、彼女だけが平均を超えているわけではない。彼女の組みする404小隊の面々も同じように優秀な子達が多い。いや、そもそもがそういった仕事がら優秀でなくては困るというのもあるかもしれないが、それにしたってあそこまで完璧だと、ついつい粗探しをしてしまいたくなるものだ。まぁ、どれも完璧という結果以外残らなかったが。
「粗探しをする自分の人間性に苛立ち以外が湧いて出てこなかったが、それに見合う成果もあった……」
「……?」
「アイツはまず容姿が完璧だ」
「あぅ……」
彼女についてまず触れるところと言えばその点だろうか。
その容姿に触れずしてどこに触れるべきか。どこから手に取っても完璧なHK416について語るのに難しいものはない。むしろ、難しくないことが難しすぎる。
「あの淡くライトブルーを思わせる長髪など、自然と視線が釘付けになってしまう。あの腰まで伸びきったあの髪に触れられるのであれば是非とも触れてみたいところだ。きっと、間違いなく最高の触り心地が俺を天にまで運ぶことだろう」
「ッ、ッ……!!」
間違いなく、俺は死ぬ。これは確定事項である。
「普段、どことなくキツめな性格もまたいい塩梅だ。あの上昇志向にはこちらとしても見習う点だろう。あの姿には私も負けていられない。少なくとも彼女を指揮する身である私が、彼女の足を引っ張ることなどあってはならない」
そのためにも、少しでも自分の行動に目を通し明日へと繋げるべくして努力を続けてきた。それはなにも彼女のためだけでもない。この指揮部に所属する人形の生存如何にも関わってくることだと理解していたからだ。その努力を続けられてきたのは彼女のその姿勢のお陰と言っていいものであったのは間違いない。
「そして、あのエメラルド色に輝く瞳の色。あそこまで意志の強い輝きを私は見たことがなかった。と同時に、私は魅入られていた。なんと綺麗な瞳なのだろうと、目を逸らさずに見ていられた自分を褒めたい」
あまりにも眩しすぎる輝きに、視線を逸らしてしまいそうになったことなど多々ある。あの子の輝きは、俺には毒だ。人を苦しめてやまないだけの毒であればまだ良かったのに、喰らえば喰らうほどにさらにその輝きに魅入られている。
「そして、仕事もまた完璧だったな。副官に置いた時の手際の良さには舌を巻いたものだ。是非とも暇があれば次もやってほしいところではあるが……。彼女の仕事を見るにそれは難しいか……」
「あっ……、っ……」
それも致し方なし。彼女はその優秀さがゆえにあの部隊にいるのだ。こんなところで副官業務などしている暇はないだろう。
「そういえば、副官業務を任せた時に料理を作ってもらったな……。あれは今も思い起こしてみても実に美味だった」
「ぅ……!!」
「できることならばもう一度口にしたいと思える程に、出された料理も、その味付けも、いったいいつ私の好みを知ったのか知りたいほどに、私の胃袋を掴んで離さないあの料理……くぅ、もう一度食べたい。せめてもう一度……」
「あっ、あぅ……」
まぁ、それも難しかろう。確か今も彼女は任務に従事していたはずだ。
わざわざ料理して欲しいから帰ってきて~など言った時には、体中に風穴が出来上がっていても可笑しくない。だいたいそんな私用で呼び戻すなど心が引けるどころの話じゃない。
「そして言わずもがなあのプロポーションだ。下世話な話になってしまう自分が憎いが、認めざるを得ない。あの子のHK416の肉体美には体が反応してしまう事実を……」
「ッ、あぁ……うっ……」
「このことを言ったら嫌われてしまうだろうか……、でも、あぁ……好きだなぁ……」
「んっ――!?」
言わずもがなこの思いがなんなのか分かってしまう。これは間違いようもないほどに恋だ。
最初は憧れを抱いていたのだろう。そこに間違いはないにしても、いったいいつからこの気持ちになったのか。考えるだけ無駄な気がしてきた。
「気付けば、その姿を目で追っていたと言ったら、気持ち悪がられるかな」
「…………」
まぁ、暫くそっと胸にしまっておく内容なのは確かだ。
いつ話すかと問われれば、永遠に未定のまま終わるだろうことは想像に難くない。
「あの真面目さも、そしてキツイ言動ながらも面倒見のいい性格も、ホントアイツは完璧だな」
「っぁ……」
ふぅ、と一息ついて。少しばかり冷静さを取り戻した俺はやっとこさ瞼を開けたのであった。
「…………」
「…………」
二人の視線が交差した。
目を何度も瞬かせる俺に対し、彼女はどこか居心地の悪さから視線が彷徨い続けていた。
その手には書類がいくつか。多分、きっと、恐らくそれは任務の終了報告あるいは重要書類に関したものであることはすぐに想像が付いた。その書類を握る手が赤い。それはもう紅い。それに加えて僅かに震えているときた。おやおやと、その顔を覗いてみれば頬がこれまた赤い。いったい全体どうしたもんだと、遅まきに気付き始める心臓が早音を打ち始める。
「あ、あの、指揮官……これ、を……」
「あ、あぁ……」
「あっ……」
「あ、すまない……」
書類を受け取るときに触れ合った手に驚いたように、離れゆく手の感触。バサリと執務机に散らばる書類が、今の心境の焦りぐらいを表しているようでもあった。
気恥ずかしさすら遠のく思いだった。喉が渇く。手に思うように力が入らない。それでいて彼女へと向ける視線だけはいっちょまえに彼女を捉えて離さなかった。
「あっ、ごめんなさい……」
「こ、こちらこそ……」
あせあせと机の上に広がる書類に手を伸ばし始める。
その間もちらほらと彼女へと視線を伺うように向ければ、時折視線が交差するたびに目を逸らしていた。
努めて冷静に振舞おうとしていても、机の上を泳ぐ手が何度も同じところを泳いでいる様を見てしまえば、まったくもって冷静でいられていないことなどすぐに分かっただろう。
「では、これで……」
「あ、あぁ……すまない。確かに、書類は預かった……」
漸くして、やっとのこさ集まった書類を手にすると、彼女はそれを見やった後に全てを終えたとでも言うように、くるりと身を翻し執務室を駆けていくのであった。
そして、数分。いやもしかしたらもっと時間がかかっていたかもしれない。
彼女がこの部屋からいなくなって、加速度的に心臓の鼓動のBPMが上がった。
「あっ……えぇ、……聞かれてた?」
それはもう隠しようのない事実であり、現実であり、結果だった。
まず間違いなくあの場にいた事から、そしてあの様子から結構前からその場にいたのは間違いないだろう。何よりも、あのように顔を赤くしていたのだ。俺の独り言が聞かれていないなんていうことは、悲しいことにどう見繕っても間違いなくありえないことだった。
「次、どんな顔をして会えばいいんだよ……」
誰もいなくなった執務室で一人、彼は誰に言うでもなくこれまた独り言を零していったのであった。
~続く~