HK416ちゃんは聞きたい   作:屋根上猫

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HK416はちゃんと聞きたい。

 あくる日のことだった。

 俺個人としては、それはもう恥ずかしさから穴掘って埋まりたい気分で仕方がない事件から数日。

 次の日にはなんら変わった様子のないHK416に、一人勝手に内心で悶え続ける悲しい人間になっていた日もあれば、またぞろ書類を渡されたときに手が触れ合ってしまい、思わず手を離してしまった俺とは対局に、彼女はどこか余裕の笑みで『落としましたよ?』と言ってのけるくらいには回復したらしい完璧具合を見せられ、またも心臓(ハート)を壊されブロークンされる日もあった。何言ってんだこいつ……。

 まぁ、なんだ。相も変わらずアイツの破壊力は成長を続けていると言っていいだろう。

 あの日から今日にかけての彼女の変化を言うのであれば、何故かは知らないが戦闘成績がさらに上がったように見受けられる。

 実にありがたいことだが、いったい彼女の身にナニが起きたのだろう。彼女らの編成拡大の有無に関して言えば俺がどうこう言える立場ではないが、明らかにひと皮向けたと行ってもいいレベルにまで成長している。いつの日かダミー含め五人編成となったHK416を見てみたいものだ。

 そういえば、ダミーで思い出したが、整備室にでも行けば彼女のダミーを一目見ることは出来たりしないだろうか。……いや、流石にそれはちょっと以上に気が引ける。そもそも彼女達戦術人形に詳しくもない人間が行くような場所でもないのだ。オリジナルである彼女を見て今日も目の保養に務めるとしよう。

 と、思っていたわけだが――。

 

「はい……、オムライスで良かったかしら?」

「…………お、おぅ……」

 

 目の前にはそれはもう美味しそうなオムライスがあった。

 相変わらずにそこは執務室で、なんやかんやと俺にとっての第二の自室でもあり、それでいて恥ずかしさの宿る場所に、今日も彼女と二人であった。今日もというか、前回のは事故に等しいものであってカウントするかは悩ましいところだが、まぁ……うん。何故か、二人であった。それに加えて、目の前には料理があった。

 その現実だけを見れば、大変幸福であることは言うまでもない。感慨無量(かんがいむりょう)欣喜雀躍(きんきじゃくやく)。サティスファクション。恍惚に至れり。少なくとも俺の数少ないボキャブラリーが底をすぐにつくことは確定である。なんだったら、一片の悔いなしって感じ。いや死ねないけども。

 それはそれとして、なにゆえこうなったのかと問うてみると。

 

「暇が出来たのよ」

 

 と、簡潔な答えが返ってきた。

 暇であればもっと自分のために自由時間を満喫してもいいのにとは思うが、まぁ、俺からしたら満面の笑み案件である。

 ――そうか。とだけ返して、俺はスプーンへと手を伸ばした。

 せっかく作ってくれたのだからと、一口サイズに切り分けたソレを口に運んだ。

 程よく温かく、そして口の中を蕩けるような卵の焼き加減にケチャップのほんのりとした辛味が口に溶けていく。あぁ……天国とはここにあったのか。そうか、ここが……。といかんいかん、危うくマジで天寿を全うしかけた。お礼の言葉すら吐き出せずに勝手に他界するなど言語道断の悪逆非道である。そんなことは俺がとてもじゃないが許せそうにない。ゆえに、最大の感謝を捧げるとしよう。

 

「HK416……流石だ。実に美味しい。この卵の焼き加減を取っても、この舌触りのいい感触を取っても、ご飯の味付けをとっても、全くもって非の打ち所のない美味しさだ。二度も同じ言葉を言ってしまう私の語彙力の無さには申し訳なさしかないが……言わせて欲しい。流石の一言に尽きる」

「と、当然じゃない。私は完璧よ!」

 

 可愛い――。

 ほんのりと僅かに頬を紅潮させて、彼女は実に気持ちがいい笑みを浮かべていた。

 もしかしなくても間違いなく笑顔だけでご飯を何杯か平らげれそうだ。むしろ笑顔で差し出されるのであればもれなく全部完食する所存である。

 それにしても、まさかこうしてオムライスなる料理が並べられるとは思わなんだ。自分自身の好物を口にした覚え自体はなかったはずだが、どうせ俺のことだ。独り言のようにどこかで呟いたのを聞いていたのだろう。ぶっちゃけてしまえば、出処なんぞに興味はない。これが偶然によるものであろうとなかろうと美味しいという事実に俺は舌の上を踊る美味に喜び勤しんでいればいい。食を楽しむとはそういうものだ。

 

「ごちそうさま。ありがとう……」

「お粗末さまでした。と言えばいいのかしら……いい食いっぷりだったわね、指揮官」

「あぁ、先程も言ったが実に美味しくてな。毎日にでも食べたいと思えるものだった。改めて礼を言おう。ありがとう、HK416」

「副官として当然のことをしただけよ」

 

 可愛い――。

 あれ、でも副官って別に料理作る必要性はなかったと思うんだけどもなぁ……。美味しかったからいっか。

 

「ところで、指揮官」

「なんだいHK416」

「そ、その……この前みたいに、褒めては、くれないかしら……」

 

 ワッツァ? なんだって? この前みたいな? 

 目の前でもじもじと人差し指を付き合わせるHK416は実に可愛い。いやそうじゃなくて、なんだって? 褒める?

 彼女の顔を見やった。ほのかに赤く彩られる頬が、チラリとこちらを伺うようなエメラルド色の瞳が小さく揺れ動いていた。

 いやいや、HK416さんや。私ってば先ほど料理について色々と褒めたのだけれど、それとは別案件なのかい? そうなのかい? 私の羞恥心を弄ぶためにしてるとか、あぁうん。その顔を見るにそんなことはないよね。分かる分かる。ただ褒めて欲しいって感じの顔だ。可愛いなお前。

 

「あぁ……コホン――」

 

 わざとらしく、一つ咳払いをした。

 チラリとこちらを見据える瞳が期待に膨らんでいるように見えた。

 

「……これ以上どう褒めればいいのか正直に言えば分からないほどだが、お前はすごいよ。よくやっている」

 

 まさにワクワクとでも言うほどに瞳がらんらんと輝いている。

 可愛いなぁ本当に。でもね。でもでもだ。君のその期待を超えるような言葉をお待ちになっている姿勢というのは些か私を困らせているということ理解して……、うん、俺ってば頑張る。

 

「君は素晴らしいよ、うん。少なくとも私が今まで会ってきた人形の中で群を抜いて君は素晴らしい人形だと私の言を持って保証しよう。それこそ何度だって君は素晴らしい人形だと言いふらしてやろう」

「っ……!! ッ!!」

「このごろになっても未だに上昇傾向にある君の戦闘成績には舌をまかざるを得ない。君ほど私が信頼を寄せれる人形はいないとここで断言しよう」

「ぅぁ……」

「HK416、君は完璧だ。何度だってそう言おう。君は完璧な人形だと」

「あぅぁ……」

「その容姿に至る全てが、私にとって心に居座り続ける君が、この世に置いて他の追随を許さない不変の存在だと、声を大にして言おう。パーフェクトだ。HK416」

「んっ!!」

 

 とてもじゃないが彼女へと視線を向けることが出来なかった。主に恥ずかしさで。

 ただ、それでも時折聞こえる興奮冷めやらぬと言ったような可愛い声が聞こえてきた時には、耳が溶け落ちるかと思ったぞ。可愛い。

 なかば言い切ったと、恥ずかしさから逃げたくなる体を押さえ付けて視線をあげれば、彼女がガッツポーズを取っている姿そこにはあった。

 これが天使か……。地上に舞い降りた天使とはこのことか。なんだコイツ人形じゃなく天使だったか……。可愛い。いや可愛いなどという言葉では言い表せれない存在だった。

 HK416ちゃん。マジHK416ちゃん! とでも言うべきか。ダメだ俺の脳内ボキャブラリーが機能してない。計測不能の可愛さに目がくらむ。

 

「よし! それじゃ、指揮官。私はこの辺で、任務があるから席を外すわね」

「…………」

「また次副官になる時があったら、また一段と完璧な姿でもって帰ってくるわ! 待ってなさい指揮官!!」

 

 そう言い残して彼女はまた去っていった。

 取り残された俺に残されたのは、ただ驚愕に身を震わすしかなかったのであった。

 

「なん……だと……!?」

 

 まだあれ以上になるのか? まだ完璧に磨きをかけ戻ってくるだと!?

 パーフェクトスーパーHK416にでもなって帰ってくる気か? 俺を殺すつもりかあの人形は!!? 生き残れるのか、俺は……? あの輝きに耐えれるほどに俺も成長しなくてはいけなくなったではないかちくしょうめ!

 

「流石、HK416だ……俺の想像すら超えてくるその上昇志向は惚れ惚れする思いでいっぱいだ」

 

 ゆえに、私もそれを耐えれるほどの男となって見せよう。お前の輝きを見るがために

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