青春は恒星のように輝いて 作:orchid
こんなところまで読んで頂き、ありがとうございます。
来夢さんとの、いつもより印象的だった休み時間は今でも鮮明に覚えている。それ程、誰かのいる休み時間というのは、楽しい物でした。
あれから幾日の時間が流れ、5月も終わりに差し掛かろうとしています。それでも私は変わり映えなく、決められたルーチンワークの一環として、学校へと登校しようとしています。
ちなみに、あれから来夢さんと会話する事は有りませんでした。何と言いますか、とても話しかけにくいのです。休み時間も大体1人で過ごしているみたいですが、本を読んだり、机に突っ伏していたりしていて、性根が陰キャコミュ障である私には手が出せないのです。邪魔出来ない、とでも言えば正確でしょうか。
自らと外界を境界線で分断しているような。
自分以外の世界を拒絶しているような。
私には、どうもそんな風に見えるのです。
……あまりこういう事を考えるのは失礼に値しますかね。気遣いも度が過ぎると余計なお節介とも言いますし。私からは、関わる必要が無い場合は行動しないのが適切な行動と呼べるでしょう。
ですから、あれからコンタクトはとっていません。まぁ、別に休み時間に1人というのは慣れっこですし、それがいつも通りですから、問題はないです。家に帰れば、私には琥珀さんがいますしね。
「ありゃ、そろそろ行かなくちゃ……」
前の時ほどではありませんが、それでも残された余裕は殆どありませんね。身支度をしてしまいましょう。
私は、もう着慣れた制服に身を包んで、教科書やノート、お昼ご飯の包みを入れた鞄を持ちました。私の部屋は二階に有るので、階段を下ります。
ぎしぎし。ぎしぎし。
私の住む家は確か何十年も前に建てられたそうです。正確な時期は忘れてしまいましたが、階段から軋む音が聞こえるくらいには古いと考えます。今度、気が向いたら琥珀さんに聞いてみましょうかね。あの人は博識ですから、こんな家の建築時期如きなんて、すぐに答えられるでしょうから。
ぎしっ。
という音と共に最後の一段を降り、床を踏みしめます。その音に反応したのでしょうか。琥珀さんがこちらへと来ました。目こそ見えませんが、その優しい出で立ちに、私は思わず、口を緩めてしまいます。こう、言葉では表現出来ないんですけどね。そうですね、滲み出る、
あぁもう、存在が癒やし(語彙力)。
「行ってらっしゃい、スピカ」
いつ聞いても安心する声。
昔から聞いてきた、全部包み込んでくれるような声。
私はそんな声に背中を押されるように、家を出ます。
「行ってきます!」
今日も、空は晴れたり。
──
今日はまだ登校時間に余裕があります。別人格が出てこないように(気のせいだっけ?)、普通に歩いて行きましょう。
てくてく。
昔のゴルフ漫画で足音がプニプニしてるキャラクターがいたんですけどね。やっぱり知名度は低いのかな……。ライジングなインパクトしてるような漫画でした。
「私はゴルフについてはあまり知りませんが、体幹良ければかっ飛ばせるのなら、私もちょっとだけ自信有るんですよね。」
そう言いながら、私は
やったことないけど。
「道が悪いと愚痴ったって、山奥じゃ仕方ないですから……」
私の通学路は、5割が獣道だ。家の場所が場所だからね。仕方ないよね。山を下りれば、普通にアスファルトで舗装された道だし、大して苦痛には思わない。
「ふぅ……しかしこの時期になってくると蒸し暑いですね……」
水筒は必須ですね。飲み物無しでこれは少々辛いです。まぁ最悪、川の水を飲めば良いんですけど。そこまで汚い訳じゃないらしいし。
トッ、という軽快な音を私の靴が鳴らし、アスファルトの地面に降り立つ。土とは違って、良い音が鳴りますね。
さて、運動がてら、ここからは走るとしますか。
──
『キーンコーンカーンコーン』
今日は以前とは違って、余裕を持って家を出る事が出来ましたし、呼吸も整っています。時期も時期ですし、汗はそこそこに掻いてしまいますけども。
最近の学生の間ではシーブリ○ズとやらが流行りなんでしたっけ?ん?流行が遅いって?こちとら山奥生活ですよ。情報が速い訳無いじゃないですか。私にとって、貴重な情報源はラジオです。文明の利器とは便利な物ですね。山奥ですら、割とタイムリーな情報をゲット出来ますから。
電波はギリッギリですけど。
それでもまぁ、今のところは不自由してませんからOKです。青林高校の生徒達も、流行に敏感過ぎるということも無いみたいですし。
あ、ホームルーム始まるみたい。担任の教師が教壇に立つ。
「えー、皆さん。突然ですが、教室の空気のリフレッシュも兼ねて、席替えを行います」
教室の所々で湧き上がる歓声。
出た出た、席替え。やっぱり生徒にとって席替えは1大イベントなのかな?私は別にどこでも良いんだけどね。正直なところ、気分としては何処だろうと大して変わらないし。おぉ、担任が黒板に席順の印刷された紙を貼りだしましたね。んーと、どこかな……。私は窓際の最後尾か。隅っこって、何となく落ち着くよね。すみっ○ぐらしの気持ちは分かる気がする。
「……あれっ」
私は呟いた。小さな声で。
「隣、来夢さんだ」
そして、担任が喋った。
「はい、それでは皆さん。席を動かして下さい」
席を動かすのか……てっきり、荷物だけ移動するのかと思ってた。
途中、席同士がぶつかる事も有ったが、3分程して、席替えは終わった。何となしに隣を見る。すると、頬杖を突いている来夢さんがいた。死んでいる目で。その暗い表情といったら、私を怖じ気づかせる程です(私がチキンなのではない)。
(どうしよう……話しかけてみようかな……)
しかし、残念ながら私は、その思いを実行出来る能力を持ち合わせてはいません。コミュ障は早急に改善すべき課題です。
(せめて……何かぬいぐるみとかが有れば……)
……あ。そうだ。
私は閃きました。
「来夢さん、来夢さん」
首を捻って、こっちを見る来夢さん。
すると、彼女の表情が若干、柔らかくなった気がしました。
「あっ、この前の猫ちゃん……?」
「そうだよ!これからよろしくね!」
秘技。ぬいぐるみ作戦。
私は猫のキーホルダーからぬいぐるみだけ外して、操りながら話しています。ふふん。ぬいぐるみに喋ってもらってると思えば、多少ながら羞恥心は消えますね。
高校生でこれはちょっととは思うけど。
そんな事は気にしない。流石にゃんにゃんだと思おう。
「うん、よろしく!これで友達だね!」
「……ともだ……ち?」
私は驚きのあまり、固まってしまった。
茫然自失。未来の私が今の私を見たら、きっと笑われちゃうんだろうな。
初めての感覚だった。
私にとって、一人目の友達が出来た。
世界に、色が付いたような。
私の目の前に、新世界が広がったような。
真っ白のアルバムに、写真が貼られたような。
そんな、そんな感覚。
「えへへ」
私は、笑った。
留まる所を知らない、噴水みたいに溢れでる喜びを、抑えられなかったから。